配信日時 2020/05/11 20:00

【戦略航空偵察(15)】「U-2の誕生(その1)」 西山邦夫(元空将補)

こんにちは、エンリケです。

「戦略航空偵察」十五回目です。

さてきょうから
「U-2の歴史」が始まります。

戦略航空偵察の王者
史上もっともすぐれた偵察機

などなど、
名声をほしいままにしている感を持つU-2。

誕生の背景など、U-2をより分厚くつかめる
内容です。

垣間見られるインテリジェンスの実際の姿も、
実に面白いです。

情報史は、歴史の闇を照らし、
後世に生きるものが歴史から養分を得る核心になる。
改めてそう感じます。


実にありがたいですね。

さっそくどうぞ


エンリケ


追伸
それにしてもU-2は寿命が長いですね!


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戦略航空偵察(15)

U-2の誕生(その1)

西山邦夫(元空将補)

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□ご挨拶

今回から戦略航空偵察の王者ともいえるU-2について
数回書く予定です。U-2は1956年に最初の任務飛行を
行ない、2020年現在も現役です。もちろん何回もの
改修・改良が行なわれて運用生命を維持してきたの
ですが、このように長い間実任務に就き続けた偵察
機はありません。他に代えがたい長所を持った、こ
れまでの歴史で最も有用な偵察機であると言えまし
ょう。


▼高性能偵察機が必要だ

1950年代前半には第2次大戦時の使われたレシプロの
偵察機、たとえばRB-29やP-2Vなどが活躍しました
が、これを要撃する戦闘機がジェット・エンジンを
搭載するようになり、飛行性能にかなりの格差が生
じました。そこでジェット・エンジンを搭載した偵
察機、RB-45、RB-47などが製造され、活躍しました
が、それでも戦闘機の飛行性能が偵察機を上回り、
撃墜される事例が出てきました。

 前回のメルマガで書きましたRB-47による北極圏か
らのソ連領侵入でも、ソ連戦闘機の脅威は大きく、
リスクのある作戦でした。より安全にソ連の情報を
得たい、そのための手段として高性能の航空機が欲
しい、1950年代初期における米国の切実な願望でし
た。

 その期待を担う最初の機体は、英国が製造したキ
ャンベラ爆撃機をライセンス生産し、偵察型に改装
したRB-57でした。この機体は高度60,000フィート
を飛行する能力があり、当時のソ連戦闘機はこの高
度まで上昇できませんでした。また、米情報機関は、
ソ連の対空警戒レーダーは高度65,000フィート以上
の航空機は捕捉できないと推定していました。ソ連
のレーダーは、第2次大戦中に米国から供与された
器材だったからです。しかし、大戦終了後、ソ連の
レーダーや対空ミサイルの開発は進展しており、油
断できる状況ではありませんでした。フルシチョフ
書記は、米国偵察機の侵入を見過ごすのは国辱と考
えており、何としても撃墜せよと防空軍を叱咤して
いたのです。

▼3つの候補機種

 65,000フィート以上の高度を飛行できる航空機を
取得するため、米空軍は検討を開始しました。飛行
高度,速度、航続距離などの基本的な要求はもちろ
んのこと、長焦点カメラを搭載できるか、エンジン
は単発か双発かも議論の的でした。単発論者は、双
発は安全性に優れてはいるが、敵地上空で1基が故
障したら、安全に帰還できる確率は低い、だが単発
機の故障率は低いと主張しました。

 候補に挙がったのが3機種あり、ロッキード社、
フェアチャイルド社、ベル社がそれぞれ提案しまし
た。

 ロッキード社提案のCL-282は、XF-104戦闘機を基
本にしたジェット・エンジン付のグライダーともい
える機体で、背広組の支持を得ていました。目標上
空を73,000フィート以上、遷音速で飛行し、行動半
径は2,500kmという性能を提示しました。その上、
プロトタイプは1年以内に製造でき、運用可能な5機
を2年以内に提供できるとしていました。

 制服組の評価は、違っていました。マーチン社の
B-57改と、ベル社のX-16を支持したのです。提案
3社の優劣はつけがたかったのですが、前々回に書
きましたミサイル・テスト・サイトのカプスチンヤ
ールの偵察が可能かどうか、空軍とCIAの間で議論
されました。その結果、ロッキード社のCL-282が空
軍の要請を入れた設計であると評価され、採用され
る方向となりました。しかし、F-104を設計したケ
リー・ジョンソンの前衛的な手法には懐疑的な評価
もあり、CL-282の採用にはさらに有力な組織・人物
の支援が必要でした。

▼アイゼンハワー大統領の指導

 1953年、ドワイト・アイゼンハワー大統領が誕生
すると、彼は直ちにソ連の戦略的能力の情報が得ら
れていない、収集活動をしっかりやるべきだと表明
しました。ソ連の軍事力、特に核戦力の増強は著し
く、米本土も脅威を受けるような状況が生じている
と考えられていたのです。大統領は3つの偵察機の
候補の中で、空軍とCIAが推薦するCL-282を選択し、
1954年にCL-282をU-2プロジェクトとして資金を拠出
することを認めました。これで、U-2の開発が本格
化することになりました。

▼M-4バイソン爆撃機の出現

 1953年に駐ソ連米武官がラメンスコエ飛行場で
ソ連の新型爆撃機M-4バイソンを視認しました。翌
年のメーデーには、モスクワ上空を飛行するのが観
察され、この爆撃機は米国が生産を開始したB-52爆
撃機に匹敵する能力があると見なされました。M-4
爆撃機は、西側の航空機の模倣ではなくソ連が独自
にデザインした機体であり、西側諸国にとって大き
な脅威となるものと評価されました。西側の新聞、
雑誌はM-4の写真を掲載し、ソ連航空戦力の増強を
報道しました。

▼偵察飛行が必要な地域

 ソ連の内陸で情報が欠けていたのがウラル山脈の
西側、特にボルガ川の西側で、ミサイル・テスト・
サイトのあるカプスチンヤールもこの地域に所在し
ていました。ここは、第2次大戦でドイツが撮影した
古い写真しかなく、最新の写真撮影が切望されまし
た。その手段として、気球にカメラを積んで飛ばす
案も考えられ、さらに現有の偵察機RB-47やRB-52、
超音速飛行が可能なRB-58による偵察、エンジン数
10基のB-36からRF-84Fを発進・回収する案などが検
討されました。このような一見無理筋の案まで考え
たことは、米国がいかに高性能の偵察機を取得する
ことを望んでいたか、理解できましょう。
 
▼英空軍のカプスチンヤール上空飛行

 第13回のメルマガで書きましたように、英空軍は
60,000フィート以上の高々度飛行が可能なキャンベ
ラ偵察機を持っていました。航続距離は7,700Kmあり、
カプスチンヤール往復が可能な高性能機でした。

 1953年の前半期、英空軍はキャンベラを使ってミ
サイル・テスト・サイトのあるカプスチンヤール上
空飛行を試みていました。英国の情報機関からこの
サイトに関する警報が出されていたからです。この
飛行で、キャンベラはソ連戦闘機の攻撃を受けて損
傷し、危うく撃墜されるところでした。上空飛行が
行なわれたという噂がワシントンに届いたのが同年
夏のことですが、公式に米国へ通報されたのは翌19
54年の2月になってからでした。

その後キャンベラは、1954年3月22日と23日にカプ
スチンヤール上空の飛行に成功したと英空軍情報部
は訪英中の米空軍の高官に伝えたとCIAの文書は記し
ています。高官は、帰国後に出席した米空軍内の
RB-57改修のための会議の席では、キャンベラがカ
プスチンヤール上空飛行を成功したことは明らかに
しませんでした。英国との約束で、秘密にしておか
なければならなかったのです。密接な情報交換が行
なわれているはずの米英間でも、このような秘密保
全が行なわれていたことは、センシティブな情報は
米国にさえも明かさないという、英国の厳しさを示
しているものと思います。

本メルマガ第13回に、上空飛行に成功した日付が8月
と推定されるという歴史家の調査を記しましたが、
正確なところは未だに不明のままです。この分野に
詳しいポール・ラシモア氏はその著書『Spy Flight
of Cold War』のなかで数ページにわたり英空軍のソ
連領飛行の飛行状況の調査結果を書いていますが、
その中で、ソ連防空軍の将軍が同年9月にもキャンベ
ラが上空を飛行したと証言した旨を書いています。
英空軍は何をしたか、未だに明らかにしていません。



(つづく)


(にしやま・くにお)


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□著者略歴

西山邦夫(にしやま・くにお)
1936年生まれ。防衛大学校卒(4期・空)。
情報関係略歴:航空幕僚監部調査2課収集1班長、航
空総隊司令部情報課長、陸幕調査別室主任調整官、
航空自衛隊幹部学校主任教官。著書に『肥大化する
中国軍(空軍部分を執筆)』(晃洋書房、2012年)、
『中国をめぐる安全保障(空軍部分を執筆)』(ミ
ネルバ書房、2007年)。研究論文に『中国空軍の戦
力構成とドクトリン』『中国空軍のSu-30MKKとイン
ド空軍のSu-30MKI』『韓国空軍の増強と近代化』
『中露合同軍事演習』『中国の主要航空兵器の装備
化実績と将来予測』『中国空軍の戦力とドクトリン』
『チベットにおける中国の軍事態勢整備』など多数。


 
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