配信日時 2020/04/22 09:00

【自衛隊警務官(19)】陸軍憲兵から自衛隊警務官に(19)― 日露戦争の国際人道法― 荒木肇

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自衛隊警務官(19)
陸軍憲兵から自衛隊警務官に(19)

日露戦争の国際人道法

荒木 肇

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□はじめに

 いよいよ国内すべてに「非常事態」が宣言されま
した。とはいえ、罰則がない要請という形式ですか
ら、わたしの身近でも多くの問題が生まれています。

 それは観光地への集中です。わたしの友人は鎌倉、
逗子、葉山といった三浦半島の周辺部に住んでいる
のですが、休日になると道路が渋滞します。海岸に
はパラソルやテントが張られ、住民以外の人が街を
歩き回ります。休日の様子は、まるで以前と変わら
ない・・・そういったことはどうなのでしょう。

 そんな中で、国民に一律10万円が交付されると
か。いろいろな批判があるようですが、わたしの意
見は「事は拙速を尊ぶべし」です。困っている人に
は30万円などといえば、その確認手続きや、支給
のタイミングも遅くなります。富裕層にも10万円
は不公平だといいますが、使う金なら経済の活性化
にもなり、来年の税申告で調整すればいい。

 とにかく困っている人に10万円ずつ。そうして
それを必ず使う。使い道にあれこれ言う必要はあり
ません。とにかく早く、支給をお願いします。


▼日露戦争と戦争の法規

 わが国は国際法順守の優等生といわれた。それは
自己宣伝ばかりではなく、実際に外国からの観戦武
官や報道人などによって証明されている。

 詳しいことは、元陸上自衛隊幹部学校法制教官佐
藤庫八氏の知見から学ぶことができる。氏は『日露
陸戦国際法論を読み解く-武力紛争法の研究』
(2016年・並木書房)を書かれた。これからの
記述は、いちいち断らないが、ほとんどを佐藤氏か
ら学ばせていただいたと言っていい。

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 有賀長雄博士(1860~1921年)は190
4(明治37)年7月に満洲へ渡る船中で、陸軍参
謀たちに次のように語った。

「日露戦争が文明戦争であったことを国際社会に証
明するためには、戦争終了後、帝国陸軍が国際法を
遵守してどのように戦ったかを記録・整理して、海
外で発刊する必要がある」

 大山巌満洲軍総司令官と児玉源太郎参謀総長は、
この提案をすぐに受け入れ、編纂を有賀博士に依頼
した。

「文明戦争」とは、19世紀当時の国際的な法規慣
例を守って行なわれた文明国間の戦争のことをいう。
だからこそ、10年前の日清戦争では、自分たち日
本を「文明国」と欧米諸国に認めさせようと懸命だ
ったのだ。この20世紀が始まって数年でしかない
時期では、欧米諸国の基準に照らして「文明国」と
認められなくては国際法の正当の主体とは見られる
ことはなかったのだ。

 だから、国際的な「陸戦規則」の適用は、当時の
締約国のみに適用された。このことを「総当事国条
項」という。なお、第2次世界大戦以降は、この
「文明戦争」という用語は使われなくなった。

 有賀長雄(あるがとも読む)は大坂の国学者の家
に生まれた。1882(明治15)年に東京大学文
学部哲学科を卒業、翌年から翌々年にかけて『社会
学』を公刊する。84年には元老院書記官になる。
85~86年にかけて自費で欧州に留学し、ベルリ
ン大学、パリ大学で学ぶ。ウィーンでは高名な法学
者シュタインの講義を通訳する。「帝国憲法論」や
「国法学」などを著し、93(明治26)年には特
許局長。国際法を陸軍大学校、海軍大学校、のちの
早稲田大学などで講義する。旅順要塞の開城では通
訳を務めた。

▼明治大帝の指示

 明治天皇は次の5カ条を重要施策とされた。
(1)戦争の法規慣例に関するすべての国際条約へ
の加盟、(2)陸軍大学校及び海軍大学校における
国際法講座の開設、(3)陸海軍省に平素から国際
法専門家を配置、(4)開戦の詔勅に国際法遵守を
明示、(5)満洲軍各軍に2名の国際法専門家の配
置。


については、日露戦争当時にわが国が適用していた
条約は、1899(明治32)年の万国平和会議で
制定された3つの条約・宣言と1868(明治元)
年のサンクト・ペテルブルク宣言であった。

この3つの条約・宣言とは、(1)陸戦ノ法規慣例ニ
関スル条約、(2)人体内ニ入テ容易ニ開展シ又ハ扁
平ト為ルヘキ弾丸ノ使用ヲ各自ニ禁止スル宣言(ダ
ムダム弾禁止宣言)、(3)窒息セシムヘキ瓦斯又
ハ有毒質ノ瓦斯ヲ撒布スルヲ唯一ノ目的トスル投射
物ノ使用ヲ各自ニ禁止スル宣言、のことである。

の陸軍・海軍大学校での国際法講座開設については、
国際法の講義を受けた参謀官たちは300名以上に
及んだ。よく知られているように、陸軍大学校条例
が制定されたのは1882(明治15)年である。
プロシャからクレメンス・メッケル少佐(1842~
1906年)が招かれ、来日したのは85(明治18)
年のことだった。それ以来、陸軍大学校は卒業生を
出し続けた。

▼メッケル来日時期についての寄り道

ついでに、この時代の軍制上の転機にも寄り道して
おこう。日露戦争を理解するのに少しでも助けにな
るからである。メッケルと陸軍大学校ばかりに話題
が集中するが、陸軍幹部養成制度が大きく変わった
のだ。

幹部養成制度がプロシャ式になった。士官学校には、
士官候補生制度が採用された。これはそれまでのフ
ランス式士官学校とは大きく変化した。それまでは
士官学校生徒だったのが、士官候補生となったのだ。
生徒時代は、ひたすら学校で修学し、卒業と同時に
少尉に任官した。陸軍士官学校の期別では士官生徒
一期などという。

これに対して、士官候補生は士官学校に入学を志望
すると選抜試験を受けて、合格すれば、まず各隊に
配属された。そこで下士卒の勤務を経験すると、そ
の所属隊から士官学校へ派遣され、卒業すると部隊
に帰り、見習士官(みならいしかん)となった。そ
の後、各隊の将校団の内部選考を経て少尉に任官す
る。

 また砲兵と工兵のような技術系将校にはさらに学
校が用意された。1889(明治22)年には、陸
軍砲工学校が開かれ、砲兵科と工兵科の少尉は「義
務教育」としてこの学校の普通科課程に入校した。
さらに高等科も設けられた。

 陸軍大学校の課程は3年間だった。当時でいえば、
超エリートである。高等教育の「専門学校」と同格
だった士官学校を卒業してから、部内選抜を受けた
上での3年間である。

▼国際法専門家の配置

 陸海軍の行政事務を法規慣例に従って行なわせる
ために、参事官として国際法の専門家を置いた。陸
軍省には、法学博士秋山参事官、海軍省には法学博
士山川参事官、同遠藤参事官の2名が配された。

 各軍にも専門家が配属された。軍とは数字で表さ
れた、師団を数個以上まとめた組織である。日露戦
争では、第1から第4までの4個軍だった。また、
韓国駐箚軍、樺太軍、遼東守備軍にも専門家を配し
た。これらに配属された専門家は国際法学会の会員
から選ばれた。

 身分としては、予備将校の身分がある者は召集を
受け、将校の身分がない者には陸軍高等文官相当官
として服務した。彼らは、陸戦の法規・慣例に関す
る事件があるごとに、諮詢を受けて回答し、訓令や
規則を立案することをした。

 次回はこれを続けていこう。軍法会議や軍律会議
についても書かねばならない。



(以下次号)


(あらき・はじめ)


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●著者略歴
 
荒木  肇(あらき・はじめ)
1951年東京生まれ。横浜国立大学教育学部卒業、同
大学院修士課程修了。専攻は日本近代教育史。日露
戦後の社会と教育改革、大正期の学校教育と陸海軍
教育、主に陸軍と学校、社会との関係の研究を行な
う。
横浜市の小学校で勤務するかたわら、横浜市情報処
理教育センター研究員、同小学校理科研究会役員、
同研修センター委嘱役員等を歴任。1993年退職。
生涯学習研究センター常任理事、聖ヶ丘教育福祉専
門学校講師(教育原理)などをつとめる。1999年4月
から川崎市立学校に勤務。2000年から横浜市主任児
童委員にも委嘱される。2001年には陸上幕僚長感謝
状を受ける。
年間を通して、自衛隊部隊、機関、学校などで講演、
講話を行なっている。
 
著書に『教育改革Q&A(共著)』(パテント社)、
『静かに語れ歴史教育』『日本人はどのようにして
軍隊をつくったのか―安全保障と技術の近代史』
(出窓社)、『現代(いま)がわかる-学習版現代
用語の基礎知識(共著)』(自由国民社)、『自衛
隊という学校』『続自衛隊という学校』『子どもに
嫌われる先生』『指揮官は語る』『自衛隊就職ガイ
ド』『学校で教えない自衛隊』『学校で教えない日
本陸軍と自衛隊』『あなたの習った日本史はもう古
い!―昭和と平成の教科書読み比べ』『東日本大震
災と自衛隊―自衛隊は、なぜ頑張れたか?』『脚気
と軍隊─陸海軍医団の対立』『日本軍はこんな兵器
で戦った─国産小火器の開発と用兵思想』(並木書
房)がある。
 

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