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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応
予備自衛官でもあります。
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防衛予算から読み解く日本の防衛力(32)
第2部 危機的状況にある日本の安全保障体制(11)
自民党安倍政権になっても拡大する大綱と中期防のねじれ現象
市川文一(元武器学校長・陸将補)
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□はじめに
20日(月)の桜林さんのコーナーでご指摘のあっ
た「自衛隊関係者も含め多くの公務員の皆さんの感
性」について、自衛官OBとしてコメントしたいと思
います。筆者の場合、現役時代に仕事の関係で防衛
産業と方々と意見交換することが多く、一般の自衛
官に比べると少しは自衛隊の外の社会の感覚を理解
していたので、この「感性」のギャップはよく理解
できます。
まずは、公務員の場合、その身分が法律的に保証
されているため、理由なく解雇されることがありま
せん。通常、解雇されるのは、懲戒免職くらいです。
給与は、人事院勧告に基づかれているため極端に下
がることもありません。逆に、どんなに実績を上げ
ても給与が極端に上がることもありません。所得面
で見ると非常に安定しています。
公的機関と民間企業の会計も全く逆の仕組みです。
国や地方の機関は年度の初めに予算が割り当てられ、
これを使用して業務や事業を行ない、年度末に予算
がゼロになります。つまり、公的機関の会計はプラ
スから始まり、それを使用して最終的にゼロになり
ます。
ところが、一般的な企業会計の基本は、年度に必
要な経費を確保して(中小の場合、ほとんどが借り
入れ)、それを元に売り上げを上げて経費を償却し、
さらに利益を上げます。つまり、一般企業の会計は
マイナスから始まり、売り上げによりマイナスをゼ
ロに、そしてプラスにしていきます。売り上げがな
ければマイナスだけ残ります。剰余金(企業の利益
の貯金)が多い企業でも、マイナスが重なれば、借
金だけとなります。最終的には倒産です。
公務員の場合(当然、自衛官も含みます)、個人
の所得も組織の会計も一般社会とは全く異なる仕組
みのため、お金に関する「感性」については大きな
ギャップを生じます。これは、やむを得ない現実で
す。自分で学ばない限り、このギャップは埋まりま
せん。この点、マスコミのような官僚批判ではなく、
今回のような桜林さんの指摘は重要だと思われます。
お金が全てではありませんが、生きていくためには
最低限の収入が必要です。その最低限の収入を、毎
年、毎月、なんとかギリギリ得ている人たち、毎月
の借入金で会社を維持している人たちが、日本にも
意外と多く存在していることを、感覚的に理解でき
ない公務員が多いのは事実です。
▼ 25大綱と26中期防、30大綱と31中期防へと矛盾
の拡大(その1)
25大綱、30大綱は「基盤的防衛力構想」から脱却し、
「所要防衛力」を整備する考え方が基本となりまし
た。ところが、大綱の理念を実現する中期防につい
ては、作成年度を基準とする防衛力の規模でも、26
中期防で、前中期防+1兆1,800億円、31中期防で、
前中期防+2兆8,000億円、実際に予算化される経費
にいたっては、26中期防で、前中期防+5,800億円、
31中期防で、前中期防+1兆5,300億円と、着実に増
加してはいるものの、「所要防衛力」を整備するに
は程遠い数字となっています。これでは、自衛隊員
の給与アップと物価増を吸収するのが精一杯です。
16大綱、17中期防までは、「基盤的防衛力構想」
に基づき防衛力が整備されてきました。22大綱では
理念として「基盤的防衛力構想」からの脱却が図ら
れましたが、実体は予算ありきを基本とする「基盤
的防衛力構想」を引きずり、矛盾を内包することと
なります。当然、23中期防は「基盤的防衛力構想」
に基づく計画となっています。
25大綱になって、ようやく「基盤的防衛力構想」
から完全に脱却することとなります。ところが、な
ぜか26中期防は、所要経費を見れば明らかなように
「基盤的防衛力構想」の考え方にとらわれた予算あ
りきの計画となっているのです。「基盤的防衛力構
想」から脱却することは「所要防衛力」を整備する
ことであり、昭和51年の三木政権において「なぜ、
基盤的防衛力構想を打ち出さなければならなかった
のか」という視点が完全に抜け落ちています。
「所要防衛力」を整備するにはお金がかかります。
三木政権での防衛力整備上の問題は、「所要防衛力」
を整備するには国の財政とデタントの国際情勢が許
さず、国の財政が許す範囲での防衛力を整備するた
めの理論が必要だったということです。それが「基
盤的防衛力構想」であり、「基盤的防衛力構想」か
らの脱却は必然的に防衛費の大幅な増額が伴うので
す。
大綱と中期防は日本の安全保障政策の両輪です。
大綱で理念を示し、中期防でその実効を裏付けます。
ところが実際は、大綱は「所要防衛力」の理念、中
期防での裏付けは「基盤的防衛力」と、完全にねじ
れてしまっています。しかも、22大綱から25大綱へ、
25大綱から30大綱へと「所要防衛力」の理念は強化
されますが、中期防は「基盤的防衛力構想」のまま
のため矛盾は拡大します。
この矛盾の拡大は、中期防の二つの所要経費に明
確に現れています。中期防で二つの所要経費が登場
したのが、民主党政権時の23中期防です。
23兆4,900億円と23兆3,900億円の二つの経費です
が、経費の1,000億円の差は「将来における予見し難
い事象への対応、地域及びグローバルな安全保障課
題への対応等特に必要があると認める場合のための
予備費」という本来のあるべき姿でした。
ところが、自民党に政権交代してからの26中期防
では、以下のとおり合理化・効率化を前提として、
当該年度予算を基準とする防衛力の規模と実際に予
算化する経費という完全に二枚舌の計画となってし
まいました。
VI 所要経費
1 この計画の実施に必要な防衛力整備の水準に係る
金額は、平成25年度価格でおおむね24兆6,70
0億円程度を目途とする。
2 本計画期間中、国の他の諸施策との調和を図り
つつ、調達改革等を通じ、一層の効率化・合理化を
徹底した防衛力整備に努め、おおむね7,000億
円程度の実質的な財源の確保を図り、本計画の下で
実施される各年度の予算の編成に伴う防衛関係費は、
おおむね23兆9,700億円程度の枠内とする。
これは、民主党政権下で策定された22大綱の「防衛
費予算の効率化・合理化」の考え方と変わりありま
せん。取らぬ狸の皮算用、机上の空論である合理化・
効率化を前提とする計画です。民主党政権から自民
党安倍政権にかわってから、日本の安全保障体制は
あるべき姿に向かって改善されているというのが国
内の一般的な認識ですが、実は、安全保障の骨格と
なる大綱、中期防を客観的に見ると民主党政権の考
え方を受け継ぎ、さらに改悪しているともいえるの
です。
(つづく)
(いちかわ・ふみかず)
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【著者紹介】
市川文一(いちかわ・ふみかず)
1961年生まれ。長野県出身。防衛大学校27期生。
1983年、陸上自衛隊に入隊。
2002年に1等陸佐に昇任後、第13後方支援隊長、統合
幕僚監部人事室長、装備施設本部武器課長、陸上幕
僚監部武器・化学課長、東北方面後方支援隊長、愛
知地方協力本部長として勤務、
2015年陸将補に昇任後、陸上自衛隊武器学校長の勤
務を最後に2017年8月に退官。退官後の9月には
YouTube「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演。
2019年9月に新刊『不思議で面白い陸戦兵器』を刊
行。
2017/9 YouTube「桜林美佐の国防ニュース最前線」
に出演。
https://youtu.be/6hPY3vgpidw
2017/10/21「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出
演
https://youtu.be/jESYh1lIeSE
2018/2/10「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
https://youtu.be/D_md0ZSJNds
2018/6/9「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
https://youtu.be/eHnT9jvqQjk
2018/10/6「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
https://youtu.be/aEOhNJ3twN0
著書に、
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