配信日時 2020/04/20 20:00

【戦略航空偵察(12)】「日本周辺における偵察機の活動と悲劇(その3)」 西山邦夫(元空将補)

こんにちは、エンリケです。

「戦略航空偵察」十二回目です。

偵察機の性能が、偵察活動に影響を及ぼす。
装備武器の性能が軍事行動に及ぼす影響を
これほど生々しく味わったのは初めてです。

情報史は、歴史の闇を照らし、
後世に生きるものが歴史から養分を得る核心になる。
改めてそう感じます。

さっそくどうぞ


エンリケ



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戦略航空偵察(12)

日本周辺における偵察機の活動と悲劇(その3)

西山邦夫(元空将補)

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□ご挨拶

 冷戦期におけるソ連機による米偵察機撃墜事件が
13件ありましたが、そのうち7回が日本周辺で起き
ており、そのすべてが1950年代でした。当時の緊迫
した情勢を反映したものです。

 1953年、ソ連マレンコフ首相は水爆実験に成功し
たと公表し、核兵器技術が進歩していることを誇示
しました。また、1955年にソ連軍のロストミロフ元
帥が発表した論文があります。それは奇襲戦法の重
視でした。元帥はその論文の中で「原水爆使用の状
況のもとにおける奇襲は、場合によっては戦争の初
期ばかりでなく、戦争の全経過中においても勝利の
ための決定的条件になり得る」と述べていました。

 ソ連が、核による奇襲攻撃を考慮しているかも知
れないという状況を知れば、米国の指導者たちは先
に述べました強迫観念に襲われたとしても無理はあ
りません。脅威の実態を知るべく、偵察活動を活発
化させ、それが多くの犠牲を生んだと言えましょう。

▼撃墜事例その8 1956年9月10日 RB-50 日本海

 この撃墜事件はバルト海における初回から数えて
9回目の偵察機撃墜事件で、日本海で起こりました。
米空軍の公式レポートは、RB-50はソ連戦闘機によっ
て撃墜され、これに関するCOMINTによる航跡もこれ
を証明していたとしています。

 三沢の傍受サイト(象のオリ)のレポートは、事
件の2日後、ソ連沿海州ノボロシスコエ所在の第50
独立偵察連隊のIL-28 2機が捜索エリア上空を5時
間半飛行したことを伝えました。さらに三沢サイト
はソ連潜水艦1隻がこのエリアで行動していたと報
告しています。
 この事件に関するその後の情報はなく、乗員の消
息も得られませんでした。

 IL-28はTu-16バジャー爆撃機が出現する1世代前の
最初のジェット・エンジンの爆撃機で、偵察型も存
在していました。北朝鮮は未だにこの爆撃機を現役
で運用しています。

ソ連は米偵察機を撃墜すると必ず現場に捜索の航空
機、艦艇を派遣しています。また今回を含め、何回
か潜水艦を出動させています。捜索・救難活動には
潜水艦は向いていないと思いますが、その目的は分
かりません。

1969年に日本海で米海軍のEC-121が北朝鮮の戦闘機
に撃墜された時には、ソ連駆逐艦DD429とDD580が現
場に急行し、収容した浮遊物を米艦へ引き渡した事
例がありました。このような事例を見ると、ソ連が
周辺の状況をよく掌握しており、何か起これば直ち
に対応する態勢が整っていることが分かります。

▼1959年6月16日の黄海におけるPM-4に対するMiG-17
による攻撃

 北朝鮮西岸沖を飛行中だった米海軍PM-4マーケー
ターが2機のMiG-17に攻撃され、乗員1人が負傷し、
右エンジンが被弾、機能しなくなりましたが、美保
基地へ辛うじて帰投しました。攻撃したMiGの国籍は
明らかにされていませんが、おそらく北朝鮮機です。

▼1960年5月1日、ソ連スベルドルフスクにおけるU-2
撃墜の衝撃と影響

 1958年9月10日の日本海におけるRB-50撃墜事件
以降、日本周辺で米軍の偵察機が撃墜される事件は
1969年4月15日に日本海でEC-121が北朝鮮機によって
撃墜されるまで起きていません。

 その大きな理由は、1960年5月1日にCIAが運用する
U-2がソ連ウラル山脈付近スベルドルフスクでSA-2
ガイドライン対空ミサイルによって撃墜される事件
が起こり、それ以降、米国が偵察活動をきわめて慎
重に行なうようになったからです。

 それまでは、米空軍のRB-47偵察機、U-2、それに
加えて英空軍のキャンベラ偵察機などが国際法を犯
してソ連領内を縦横に飛行し、偵察活動を行なって
いたのです。その状況が転換したのが、ソ連のSA-2
の運用開始でした。

 ソ連戦闘機が到達できない高空を飛行するU-2に
対して、有効な防空手段がなかったソ連防空軍は
SA-2により初めてU-2の撃墜に成功し、米国に衝撃
を与えました。アイゼンハワー大統領は、以後ソ連
領内に侵入する飛行は行なわないと宣言しました。
それからは、米軍偵察機はソ連領空に侵入せず、領
空外側から偵察飛行を行なうようになり、ソ連の戦
闘機も発砲を控えるようになりました。

▼北朝鮮のMiG-17によるRB-47に対する攻撃

 コードネームをボックス・トップと名付けられた
RB-47の偵察飛行が1965年4月28日に横田基地を発進
して開始され、元山沖の日本海で通常の偵察任務に
就きました。この海域は3年後に米海軍の情報収集
艦プエブロ号が拿捕されることになる海域です。さ
らに4年後の1969年、米海軍のEC-121偵察機が北朝
鮮のMiG-21によって撃墜される事件が起きた海域で
もあります。米軍はこの海域における北朝鮮に対す
る情報収集を熱心に行なっていますが、その理由は
ソ連と北朝鮮関間の通信傍受と北朝鮮内部のSIGINT
収集でした。

RB-47が元山沖を飛行中、韓国に所在する米軍サイト
から国籍不明機が数機接近していると通報があり、
乗員は周囲を見渡しましたが何も見えませんでした。
RB-47は飛行を続けていましたが、SIGINT担当の士官
が北朝鮮のレーダーサイトがRB-47を探知している電
波を傍受しました。位置は元山沖35~40マイル
(60~70Km)でした。

突然機首が下がり、副操縦士が「撃ってきている、
被弾、降下中」と大声を上げました。機長のマチス
ン中佐が反撃命令を出し、無線でメイデイ(救難信
号)を発信しました。攻撃してきたのは2機のMiG-17
で、警告もなくいきなり撃ってきたのです。

MiGがあまりに近くまで接近してきたので、RB-47の
射撃管制レーダーはロックオンできませんでした。
RB-47の反撃でMiG 1機が被弾墜落し、もう1機は
元山方向へ戻って行きました。RB-47の損傷は激し
く、油圧系は効かなくなり、尾部メイン燃料タンク
は発火し、エンジン2基が被弾していました。

 機長は高度14,000フィートで機体を水平に維持で
きるようになり、何とか横田基地にたどり着くこと
ができました。しかし。着陸時には30メートル近く
もバウンドし、上空で待機していたヘリコプターに
ぶつかりそうになりました。

▼北朝鮮によるEC-121偵察機撃墜事件

 1969年4月15日に日本海上で米海軍のEC-121偵察機
が北朝鮮のMiG-21によって撃墜される事件が起こり
ました。これについてはのちの機会に書きたいと思
います。日本周辺で発生した偵察機の撃墜事件はこ
れが最後になり、その後は発生していません。



(つづく)


(にしやま・くにお)


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□著者略歴

西山邦夫(にしやま・くにお)
1936年生まれ。防衛大学校卒(4期・空)。
情報関係略歴:航空幕僚監部調査2課収集1班長、航
空総隊司令部情報課長、陸幕調査別室主任調整官、
航空自衛隊幹部学校主任教官。著書に『肥大化する
中国軍(空軍部分を執筆)』(晃洋書房、2012年)、
『中国をめぐる安全保障(空軍部分を執筆)』(ミ
ネルバ書房、2007年)。研究論文に『中国空軍の戦
力構成とドクトリン』『中国空軍のSu-30MKKとイン
ド空軍のSu-30MKI』『韓国空軍の増強と近代化』
『中露合同軍事演習』『中国の主要航空兵器の装備
化実績と将来予測』『中国空軍の戦力とドクトリン』
『チベットにおける中国の軍事態勢整備』など多数。


 
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