配信日時 2020/04/15 20:00

【防衛予算から読み解く日本の防衛力(31)】 第2部 危機的状況にある日本の安全保障体制(10) 「予算ありきの防衛力整備」からの脱却 市川文一(元武器学校長・陸将補)

───────────────────────
ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応
予備自衛官でもあります。
お仕事の依頼など、問い合わせは以下よりお気軽に
どうぞ
 
E-mail hirafuji@mbr.nifty.com
WEB http://wos.cool.coocan.jp
───────────────────────

こんにちは、エンリケです。

市川さんの最新刊
「不思議で面白い陸戦兵器」
https://amzn.to/2mHwynA

は、陸戦兵器や装備に興味ある人にとっては、
知的体力を養う上で欠かせない
「必須サプリメント」のような存在でしょう。
得難い本です。

●月刊『軍事研究』(2020年3月号)で、
「国産製品が割高・低性能の誤解を解く!
『日本が弾薬を国産する理由』」という市川さんの
記事が掲載されました。不良弾や欠品が許されない
国内事情、継戦能力の確保だけではない弾薬を国産
する理由が解説されています。
ご一読をおススメします。

『軍事研究』
2020年3月号
https://amzn.to/38ezqLA


「防衛予算から読み解く日本の防衛力」第二部の
十回目です。

さっそくどうぞ


エンリケ




市川さんの新刊
「不思議で面白い陸戦兵器」
https://amzn.to/2mHwynA
※大反響発売中



ご意見・ご感想はコチラから
 ↓
https://okigunnji.com/url/7/

───────────────────────
防衛予算から読み解く日本の防衛力(31)
第2部 危機的状況にある日本の安全保障体制(10)

「予算ありきの防衛力整備」からの脱却

市川文一(元武器学校長・陸将補)
───────────────────────

□はじめに

 日本では、未だメジャーになっていませんが、世
界的には経済学で主流となりつつあるのは行動経済
学です。今までの経済学は「人間は合理的な行動を
する」ということを前提として成り立っていました。
これに対して、行動経済学では「人間は必ずしも合
理的な行動をしない」というのを前提として、「あ
る特定の条件では多くの人間が同じ非合理的な選択
をする」というのが、理論の柱です。

行動経済学に「フレーミング効果」というのがあり
ます。同じ内容でも表現するフレームを変えること
によって、人の受け取り方が全く異なるというもの
です。電力会社の広告で「電気料金が月に1,000円
安くなります」と「年に12,000円安くなります」で
は、後者が有利に思います。逆に電化製品の広告で
「電気料金は月に100円です」と「年間に1,200円で
す」では前者が有利に思います。

コロナウイルス感染者数を例にします。「日本の感
染者は1万を超えました(1万1千人)」というの
と「日本の感染者数は全国民の0.01%になりました」
というと、同じ内容ですが、前者の方がはるかに危
機感を感じます。

 行動経済学は、人間の感情や心理といったものを
取り入れた、実際の社会現象をより正確に表す経済
学ですが、すでにマーケティングや商品販売で積極
的に応用されています。FNNのニュースで「12日は、
首都圏であわせて300人が新型コロナウイルスに感
染していた」という報道がありました。東京都は166
人で感染者が減っていますが、「首都圏」という別
のフレームを作ることで印象が全く変わります。

▼25大綱、30大綱での「基盤的防衛力構想」からの
完全な脱却

 22大綱策定の3年後、再び自民党政権へと政権が
交代することに伴い、非常に短期間で大綱が改定さ
れ25大綱が策定されることとなります。25大綱では、
「基盤的防衛力構想」から脱却した「動的防衛力」
を引き継ぎ「統合機動防衛力」を防衛力整備の基本
概念としました。

「基本方針」においては、「防衛力は我が国の安全
保障の最終的な担保であり、我が国に直接脅威が及
ぶことを未然に防止し、脅威が及ぶ場合にはこれを
排除するという我が国の意思と能力を表すものであ
る」「防衛力をより強靭なものとするため、各種活
動を下支えする防衛力の『質』及び『量』を必要か
つ十分に確保し、抑止力及び対処力を高めていく」
と「所要防衛力」の考えを明確に打ち出しています。

「我が国に直接脅威が及ぶことを未然に防止し、脅
威が及ぶ場合にはこれを排除する」という防衛力の
あり方を明確に打ち出すことにより、「基盤的防衛
力構想」の考え方である「限定的かつ小規模な侵略
までの事態に有効に対処し得る」を完全に否定して
います。そして、「基盤的防衛力構想」の「独立国
としての必要最小限の基盤的な防衛力」という予算
ありきの防衛力整備の考え方から、「防衛力の『質』
及び『量』を必要かつ十分に確保」と脅威に対抗し
うる防衛力整備の考え方に転換を図りました。

さらに、30大綱においては、「平時から有事までの
あらゆる段階における柔軟かつ戦略的な活動の常時
継続的な実施を可能とする、真に実効的な防衛力と
して、多次元統合防衛力を構築する」との基本方針
中で「真に実効的」なという言葉を使用し、「所要
防衛力」の考えを強化しています。

ただし、「所要防衛力」という観点からは、22大綱
の「各種事態に対し、より実効的な抑止と対処を可
能とする」という表現が、25大綱において「我が国
に対する脅威の未然防止と排除」「防衛力を必要か
つ十分に確保」という具体的表現に進化し、30大綱
では「真に実効的な防衛力として、多次元統合防衛
力を構築する」と「真に」という表現で強化されま
したが、基本的には、22大綱の考え方を踏襲したも
ので、それほど大きな変化は見られません。

25大綱の策定で、「基盤的防衛力構想」からの完全
な脱却を明示したのは、「予算の効率化・合理化」
についての記述です。22大綱においては、「基本方
針」の中で、「自衛隊全体にわたる装備・人員・編
成・配置等の抜本的見直しによる思い切った効率化・
合理化」「人事制度の抜本的な見直しによる人件費
の抑制・効率化」と具体的な改革案を持って防衛費
予算の効率化・合理化が記述されていました。

これが25大綱では、「防衛力整備の一層の効率化・
合理化を図り、経費の抑制に努めるとともに、国の
他の諸施策との調和を図りつつ、防衛力全体として
円滑に十全な機能を果たし得るようにする」と具体
的な効率化・合理化の要領を示さず、記述箇所も
「留意事項」へと格下げとなったのです。

「防衛力整備の一層の効率化・合理化を図り、経費
の抑制に努める」ことは、政府をはじめ防衛力整備
に携わる者の全てに常に求められる当然なことであ
り、全ての国の予算を執行するにあたっての留意事
項です。22大綱のような「現状の防衛予算は大幅な
削減が可能であるため、現状の防衛予算額で防衛力
整備が可能」と認識するものではありません。

つまり、25大綱においては、「現状の防衛予算額を
基準とした防衛力整備」の考えが削除されたことと
なります。これでようやく、大綱が「予算ありきの
防衛力整備」を基本とする「基盤的防衛力構想」か
ら完全に脱却しました。30大綱においても「予算の
効率化・合理化」に関しては25大綱とほぼ同様の表
現で記載場所も留意事項のままとなっています。

 ところが、中期防は以前のまま、というより「基
盤的防衛力構想」の考えが強化されています。細部
は、次回とします。



(つづく)


(いちかわ・ふみかず)


市川さんへのメッセージ、ご意見・ご感想は、
このURLからお知らせください。

https://okigunnji.com/url/7/


 
【著者紹介】
市川文一(いちかわ・ふみかず)
1961年生まれ。長野県出身。防衛大学校27期生。
1983年、陸上自衛隊に入隊。
2002年に1等陸佐に昇任後、第13後方支援隊長、統合
幕僚監部人事室長、装備施設本部武器課長、陸上幕
僚監部武器・化学課長、東北方面後方支援隊長、愛
知地方協力本部長として勤務、
2015年陸将補に昇任後、陸上自衛隊武器学校長の勤
務を最後に2017年8月に退官。退官後の9月には
YouTube「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演。
2019年9月に新刊『不思議で面白い陸戦兵器』を刊
行。

2017/9 YouTube「桜林美佐の国防ニュース最前線」
に出演。
 https://youtu.be/6hPY3vgpidw
2017/10/21「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出

 https://youtu.be/jESYh1lIeSE
2018/2/10「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
  https://youtu.be/D_md0ZSJNds
2018/6/9「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
 https://youtu.be/eHnT9jvqQjk
2018/10/6「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
  https://youtu.be/aEOhNJ3twN0

著書に、
『猫でもわかる防衛論』(大陽出版)
 https://amzn.to/2qBGuNJ
「不思議で面白い陸戦兵器」(並木書房)
https://amzn.to/2mHwynA
がある。


 
PS
弊マガジンへのご意見、投稿は、投稿者氏名等の個
人情報を伏せたうえで、メルマガ誌上及びメールマ
ガジン「軍事情報」が
主催運営するインターネット上のサービス(携帯サ
イトを含む)で紹介させて頂くことがございます。
あらかじめご了承ください。
 
PPS
投稿文の著作権は各投稿者に帰属します。
その他すべての文章・記事の著作権はメールマガジ
ン「軍事情報」発行人に帰属します。


最後まで読んでくださったあなたに、心から感謝し
ています。
マガジン作りにご協力いただいた各位に、心から感
謝しています。
そして、メルマガを作る機会を与えてくれた祖国に、
心から感謝しています。ありがとうございました。

 

 
●配信停止はこちらから
https://1lejend.com/d.php?t=test&m=example%40example.com
 
 
----------------------------------------
 
発行:おきらく軍事研究会
(代表・エンリケ航海王子)
 
メインサイト
https://okigunnji.com/
 
問い合わせはこちら
https://okigunnji.com/url/7/
 
 
Copyright(c) 2000-2020 Gunjijouhou.All rights reserved.