こんにちは、エンリケです。
「戦略航空偵察」十一回目です。
知られざる歴史を知るよろこびが
これほど大きいとは、、、
われながら驚きます。
さっそくどうぞ
エンリケ
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戦略航空偵察(11)
日本周辺における偵察機の活動と悲劇(その2)
西山邦夫(元空将補)
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□ご挨拶
今回のメルマガに出てきますロシア軍のウナシ基
地やウグローワヤ基地の所在地や滑走路の形状は
google earth で見ることができます。冷戦時には、
鉄のカーテンの内側を覗き見ることは、偵察機か偵
察衛星でしかできませんでしたから、その時代に情
報活動をしていた私どもにとって隔世の感があります。
いまgoogle earthで見るとウグローワヤ基地はウラ
ジオストック空港の南西にあり、十数機の戦闘機が
エプロンに並んでいます。
どこにどのような飛行場があり、どんな機種が何
機配備され、どんな訓練をしているか、その戦術・
戦法は、パイロットは月に何時間飛んでいるか、作
戦機の性能は、どんなミサイルを積んでいるか、な
どなど知りたいことは山ほどあります。それを明ら
かにしなければ、いざ有事というときに戦えません。
それを知るため、当時は他に手段がなかったために
撃墜されるリスクを冒してまで偵察活動を行なった
結果、前回から述べているような悲劇が生まれまし
た。
▼偵察活動強行の理由
B-29のデッドコピーであるTu-4が1949年ソ連空軍
に配備され、またこの機による核兵器の投下が成功
したことが伝えられ、ソ連が爆撃機による対米核攻
撃能力を持ったと想定されました。それを根拠に、
1950年代には米国指導者層や軍の間にソ連が核をも
って奇襲をかけてくるのではないかという一種の強
迫観念が生まれました。それゆえ、想定されるソ連
爆撃機の攻撃ルート、それに対抗する米爆撃機の侵
入ルート、核で攻撃するべき目標のデータなど、攻
防両面からの情報収集が急がれました。
特に、当時実施された戦略空軍所属のRB-29、RB-50、
RB-47の偵察活動は核戦争に備えて行なわれ、多くの
人命と偵察機が失われました。国の安全のためなら、
多少の犠牲は我慢せざるを得ないと考えたのでしょ
うが、そうするだけの理由が米国にはあったのです。
▼撃墜事例その5 1954年9月4日 P-2V 日本海
米海軍のP-2Vが1954年9月4日に日本海で2機のウナ
シ基地を発進したMiG-17によって撃墜されました。
撃墜地点は、1952年にRB-29が、また1952年にRB-50
が撃墜された近くでした。のちにUSAFSSが公表した
レポートによれば、当該機は海岸から20マイル以上
離れていたが、機首は北を向いていたということで
す。ソ連防空指揮所は、この機を国籍不明機から敵
性機へ識別を変更し、その17分後に撃墜されたので
す。
三沢の6920保全群によれば、ソ連戦闘機と地上局
のVHFボイス通信が傍受されており、海軍のウグロー
ワヤ北西飛行場を発進した戦闘機がP-2Vからの銃撃
を受けて、損傷した模様との記録が残っています。
戦闘機は油圧系統が損傷しましたが、無事に着陸で
きました。
▼撃墜事例その6 1954年11月7日 RB-29 根室沖
1952年10月7日に北海道根室付近でRB-29が撃墜さ
れた25か月後、横田を発進したRB-29が北海道にお
けるルーチンの写真撮影任務に就いていましたが、
国後島東沸基地を発進したMiG-15に撃墜されまし
た。今回は乗員11名が脱出し、10名が救助されまし
たが、1名が死亡しました。
ソ連のレーダーはRB-29を捕捉し、戦闘機がRB-29
を攻撃する時点の1時間以上前からスクランブルを
発令していました。MiGが射撃動作に入る6分前に、
ソ連管制所はRB-29を不明機から敵性機に識別を変
更しています。
この事件に関して米極東空軍は次のとおり報告を
挙げています。
「第5空軍横田基地の第91 SRW(戦略偵察航空団)
のRB-29は千歳基地を離陸し、北海道東部に向かっ
た。その後、三沢のADCC(防空指令所)が飛行計
画のないRB-29がソ連の航空交通を混乱させている
と11時50分に報告した。当該機を呼び戻す試みが
なされたが、応答はなかった。道東沖にソ連機の
航跡が出現し、RB-29と11時48分頃接触した。千歳
基地から2機のF-86Fが11時52分に離陸した。2機の
MiG-15はRB-29に対し2回の射撃を行ない、RB-29の
翼と操縦装置に命中したため火災が発生し、コン
トロール不能となった。機長のフェイス大尉は根
室の近くで全員の脱出を命じ、機首を西に向けて
自動操縦とした。11名が安全に脱出したが、航法
士のアングロ少尉は死体で発見された」
当該RB-29は根室付近に墜落し、千歳の米第4要
撃戦闘航空団の法務将校は、墜落で損害を受けた
日本人ワクタ・カマタロウ氏に遺憾の意を表明し、
補償として千ドル支払いました。
▼ソ連機の領空侵犯
ソ連空軍の挑発的な行動は継続し、11月12日には
北海道上空への領空侵犯が起りました。ソ連機は国
後島上空で探知され、根室飛行場の北にある花咲半
島から根室上空を飛行しました。当時米軍が運営し
ていた根室レーダー・サイトの米軍人がソ連機を視
認し、MiG機と識別しました。ソ連機は南東へ針路
をとり、5日前にRB-29が撃墜された地点付近を通過
し、消え去りました。
▼撃墜事例その7 1955年4月18日 RB-47 カムチ
ャツカ沖
この事例は、カムチャツカ半島沖でRB-47は行方
不明になり、ソ連機に撃墜されたのではないかと
想定された事件です。現場は、戦闘機の支援が受
けられない遠方でした。
アラスカのイールソン基地を発進したRB-47は、
ソ連戦闘機に要撃されるまで既に7時間半飛行し
ていました。飛行計画はベーリング海を横断し、
カムチャツカ半島の東海岸から千島列島に沿って
飛行し、北海道付近から引き返すもので、13時間分
の燃料を搭載していました。行方不明になってから
6日間捜索が行われましたが、何も発見できません
でした。
この飛行に関するSIGINTのデータは、航跡を示す
短波のモールス信号と、短波によるソ連戦闘機の対
地無線交話が得られていました。これによれば、ソ
連戦闘機はかなり高性能だということです。ソ連警
戒管制レーダーが捕捉した不明機は、攻撃を受ける
41分前までの間600ノットの高速で23,000フィート
の高度を飛行しており、攻撃終了後3分間は航跡が
通報されていました。ソ連戦闘機は、攻撃前18分間
と攻撃後30分間の、ほぼ1時間近くRB-47の近くを飛
行しているのをソ連のレーダーが追跡していました。
当時のソ連戦闘機は距離が短く、1時間も飛行する
のは極めて希なことだったので、高性能な戦闘機と
いう評価が出たのでしょう。結局のところ、ソ連戦
闘機の機種は不明のままになりました。
この事件に関し、疑問が残ったのは、COMINTによ
ってはソ連戦闘機がRB-47を撃墜したという確たる
証拠が得られなかったことです。HF(短波)による地
対空ボイス通信が傍受されていましたが、それには
飛行針路の指示しかなく、撃墜した時にいつも聞か
れる言葉を使った交話がありませんでした。
しかし、状況証拠からRB-47は撃墜されたという結論
になりました。撃墜されたと思われる時刻の27時
間後、ペトロパブロフスク所在のソ連海軍潜水艦部
隊は緊急通信を受信しました。その後潜水艦が、
RB-47が墜落したと推定される地点に進出している
のが判明しています。
▼RB-47のムルマンスク偵察
1954年、3機のRB-47が英国の基地を発進し、大西
洋を北上、バレンツ海に入り、コラ半島めがけて南
下を始めました。当時コラ半島は最高秘密地域であ
り、ソ連が核兵器で米国に奇襲を掛けるとすれば、
この地域から爆撃機が発進すると考えられていまし
た。地球儀を見れば一目瞭然ですが、コラ半島はグ
リーンランドを越えて米国西海岸の主要都市、ワシ
ントン、ニューヨークまで最短距離にあるのです。
RB-47 3機のうち2機は海岸線で引き返しましたが、
1機は深く侵入を続け、MiGの要撃を受けました。MiG
の数は10機を超え、RB-47は搭載した機関砲で反撃し
ましたが、被弾して漸くフィンランド領まで退避し、
待機していた給油機から給油を受けて辛うじて帰投
しました。ソ連の核攻撃能力を探るには、RB-47の
他に偵察手段がありませんでしたから、リスクを負
っての偵察飛行でした。
(つづく)
(にしやま・くにお)
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□著者略歴
西山邦夫(にしやま・くにお)
1936年生まれ。防衛大学校卒(4期・空)。
情報関係略歴:航空幕僚監部調査2課収集1班長、航
空総隊司令部情報課長、陸幕調査別室主任調整官、
航空自衛隊幹部学校主任教官。著書に『肥大化する
中国軍(空軍部分を執筆)』(晃洋書房、2012年)、
『中国をめぐる安全保障(空軍部分を執筆)』(ミ
ネルバ書房、2007年)。研究論文に『中国空軍の戦
力構成とドクトリン』『中国空軍のSu-30MKKとイン
ド空軍のSu-30MKI』『韓国空軍の増強と近代化』
『中露合同軍事演習』『中国の主要航空兵器の装備
化実績と将来予測』『中国空軍の戦力とドクトリン』
『チベットにおける中国の軍事態勢整備』など多数。
PS
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