配信日時 2020/04/10 08:00

【【海軍式】戦う司令部の作り方(5)】「リーダーの5つの役割──厳しいが愛情のある海軍 式「部下育成法」とは」 堂下哲郎(元海将)

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応
予備自衛官でもあります。
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どうぞ
 
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WEB http://wos.cool.coocan.jp
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堂下哲郎(著)
並木書房
2020/4/20発行
四六判240ページ
定価1500円+税
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【海軍式】戦う司令部の作り方(第5回)

リーダーの5つの役割──厳しいが愛情のある海軍
式「部下育成法」とは

堂下哲郎(元海将)
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□はじめに

 前回は、リーダーに求められる資質として「知識」
「見識」「胆識」「節操」の4つと、個性を論じる
ときに重要なものとして「理」と「情」をあげまし
た。

 今回はリーダーの役割です。リーダーには様々な
役割がありますが、海軍の先輩は「象徴」「決裁者」
「先輩・教育者」という3つの役割を、場面や相手
に応じて正しく使い分けなければならないと教えて
います。私は、海軍で見られたリーダーシップの欠
点を補うため、これらに加えて「改革者」と「執行
者」ということも考えるべきだと思います。


▼組織の「象徴」たれ

 リーダーというものは、外に対しては組織を代表し、
内に対しては組織の核となり、気風、習慣、道徳、
価値観の規準として士気の根源になるものです。象
徴としてのリーダーの風貌、挙措、言葉などは、そ
のまま組織の印象や評価を大きく左右するので、ゆ
るがせにできないものです。

「顔は心の窓」というように、リーダーの表情一つ
で組織は明るくも暗くもなります。また、危急に際
しては、部下はまず指揮官の顔を見ます。艦橋にお
ける艦長の慌てた表情は、たちまち艦内に伝染し、
一艦をパニックに陥れることにもなりかねません。
「リーダーは努めて楽観的であれ」とはこのことです。

 山本五十六は、服装、態度の端正さ、とくにその
答礼の厳正で有名でした。また、前線では出撃する
艦船、航空機を白服の襟を正し、必ず帽子を振って
見送りました。海軍病院の見舞いを欠かさないのも
彼でした。こうした山本のことを、兵士までが「ウ
チの長官」と呼び、「ウチの長官がおられるかぎり、
いくさは大丈夫だ。必ず勝つ」と信じて疑わなかっ
たと言います。

▼決断と実行の「決裁者」

「決裁者」の役割は最も重要なものです。不確実で
限られた情報をもとに短時間で決断を下す、組織の
内外から異論、反論が出ても、それらを説得し組織
の結束を保って実行するのは困難なことです。なん
とか実行できても、状況によっては中止したり、方
針を変更しなければならない場合もあるでしょう。
まさに決裁者は「見識」や「胆識」を試されると言
えます。

▼変化を恐れぬ「改革者」

「決裁者」が現状から得られた選択肢から決断する
のに対して「改革者」は現状を否定して新しいやり
方を考えるという点で異なります。改革とは、組織
の存亡を左右しかねない極めて重要なものです。過
去の成功体験や判断を疑い、場合によっては否定し
て新たなやり方を探るのですから反対も多いもので
す。この困難を可能にするのはトップリーダーの優
れた資質に加え、問題意識を持ち批判的思考を受け
入れる組織の風土があるかどうかにもかかっていま
す。

 日本海軍はパールハーバー攻撃を成功させ、航空
機の時代が到来したのを証明しましたが、実際に戦
艦から航空機に移行したのは米海軍であり、日本海
軍はその改革に長い時間を要し、結局は破れてしま
ったのは象徴的でした。

▼組織を動かし目標を達成する「執行者」

 これは、決断し、命令を与え、勇気をもって実行
するというリーダーの役割です。第2回で触れたよ
うに日本海軍の意思決定プロセスには欠陥がありま
した。また、リーダーの「象徴」としての役割を果
たすにあたり、スタッフのお膳立てに従って、堂々
としてさえいればよいと考えた人々も少なくなかっ
たのです。

 高木惣吉は、「彼等は思索せず、読書せず、上級
者となるに従って反駁する人もなく、批判を受ける
機会もなく、式場の御神体となり、権威の偶像とな
って温室の裡に保護された」と強い言葉で批判し、
「主将のロボット化」が海軍で深刻であったとして
います。リーダーたる者、意思決定プロセスの中心
にならなければなりません。

▼リーダーの育て方
 第5の役割は、「先輩・教育者」です。育てるリ
ーダーに部下はついてくるということで、これはあ
まり説明を要しないでしょう。山本五十六など海軍
での逸話がいくつも伝わっています。

 最後にリーダーの育て方として先輩から繰り返し
教えられたことを3つ紹介します。
まず、減点主義でなく加点主義でということです。
減点主義だと、先輩は目につく欠点を指摘すればよ
いし、後輩は「可もなく不可もなく」でやる限りは
安泰ということになります。それに対して加点主義
は、先輩は後輩の良いところを評価して伸ばすよう
に導くことになり、後輩も自然とチャレンジ精神で
伸びてくるということです。

 2つ目は、気概をもたせよ、3つ目は、簡単に助
太刀するなということです。3つを合わせると海軍
式の厳しいが愛情のある部下育成法がうかがえると
思います。

(つづく)


(どうした・てつろう)


□次回以降のテーマ

 第6回 戦うリーダーに求められるもの(最終回)



●著者略歴
 
堂下哲郎(どうした てつろう)
1982年防衛大学校卒業。米ジョージタウン大学公共
政策論修士、防衛研究所一般課程修了。海上勤務と
して、護衛艦はるゆき艦長、第8護衛隊司令、護衛
艦隊司令部幕僚長、第3護衛隊群司令等。陸上勤務
として、内閣官房内閣危機管理室(初代自衛官)、
米中央軍司令部先任連絡官(初代)、統幕防衛課長
(初代)、幹部候補生学校長、防衛監察本部監察官、
自衛艦隊司令部幕僚長、舞鶴地方総監、横須賀地方
総監等を経て2016年退官(海将)。


 
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