配信日時 2020/04/08 20:00

【防衛予算から読み解く日本の防衛力(30)】 第2部 危機的状況にある日本の安全保障体制(9) 理念は所要防衛力、実体は基盤的防衛力という矛盾 ──民主党政権での大綱見直し(その3) 市川文一(元武器学校長・陸将補)

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応
予備自衛官でもあります。
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●月刊『軍事研究』(2020年3月号)で、
「国産製品が割高・低性能の誤解を解く!
『日本が弾薬を国産する理由』」という市川さんの
記事が掲載されました。不良弾や欠品が許されない
国内事情、継戦能力の確保だけではない弾薬を国産
する理由が解説されています。
ご一読をおススメします。

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「防衛予算から読み解く日本の防衛力」第二部の
九回目です。

情報が氾濫している今、
イチバン心掛けなければいけないことは何か?

市川さんの答えに、ハタと膝を打ちました。

ふと思いますが、
この連載は、そのトレーニングとしても
使えますね。

さっそくどうぞ


エンリケ




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防衛予算から読み解く日本の防衛力(30)
第2部 危機的状況にある日本の安全保障体制(9)

理念は所要防衛力、実体は基盤的防衛力という矛盾
     ──民主党政権での大綱見直し(その3)


市川文一(元武器学校長・陸将補)
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□はじめに

 以前、「四耐」で紹介しました安岡正篤氏が、物
事を考える時には三つの視点が必要だと説いていま
す。

第一は、目先にとらわれないで、できるだけ長い目
で見る
第二は、物事の一面に捉われないで、できるだけ多
面的に、できうれば全面的に見る
第三は、何事によらず枝葉末節に捉われず、根本的
に見る

の三つです。誰もが納得する卓見ですが、「言うは
易く行うは難し」です。

 当然のごとく、巷にあふれている情報は、「目先
にとらわれた、物事の一面のみを見た、枝葉末節な」
ものばかりです。多くの人が、そんな情報をそのま
ま鵜呑みにしてしまいます。そして、鵜呑みにされ
た情報が、そのまま発信されます。

 ネット社会になって情報が氾濫し、情報を見るだ
け、選ぶだけでも多くの労力が必要です。情報を取
り入れる努力をすると、三つの視点どころか考える
暇さえありません。情報化社会と言われるとおり、
情報が非常に価値を有する時代となりましたが、有
用な情報を選び、情報をどのように活かすかを考え
なければ話のネタ程度のものにしかなりません。

情報の活かし方だけでなく情報が正しいかどうかに
ついても、自分で考えて判断しなければなりません。
重要なのは「自分で考えること」です。今の時代、
圧倒的に欠けているのは「自分で考えること」では
ないでしょうか。そして、考える時には三つの視点
を常に意識することが必要です。

情報を得ることに意識が向かうと思考がおろそかに
なります。自分で考える時間を作るために一番いい
のは、情報を遮断することです。


▼民主党政権での大綱見直し(その3)

理念では「基盤的防衛力構想」から脱却したものの、
実体は「基盤的防衛力構想」からは離れられない22
大綱の考えは、23中期防での予算額として明確に打
ち出されています。これが、17中期防の23兆6600億
円に対し、1800億円少ない23兆3900億円という23中
期防の予算額削減です。

日本の安全保障のために真に必要な、日本に対する
軍事的脅威に対抗する防衛力が「所要防衛力」であ
り、その規模は「基盤的な防衛力」よりも大きくな
ります。「所要防衛力」を整備するためには、防衛
費を毎年増額しなければならず、その歯止めとして
生み出されたのが「基盤的防衛力構想」なのですか
ら当然のことです。各種事態に対し実効的な抑止と
対処を可能とする防衛力を整備することを打ち出す
ことで、中期防の所要経費が増額となるのは必然で
す。

しかし、22大綱では、自衛隊全体にわたる装備・人
員・編成・配置等の抜本的見直しによる思い切った
効率化・合理化と人件費の抑制・効率化により、本
来、増額となる経費を抑えられるとしてしまいまし
た。簡単に言えば、今までの防衛力整備は非常に無
駄が多いので、無駄を削減すれば今まで以下の予算
でも「所要防衛力」が整備できるということです。

この発想は、民主党政権の政策の中でも大きな柱で、
「現在の行政機構は無駄遣いが多いため、これを削
減することで日本の赤字財政も黒字に転換できる」
という考え方です。ところが、3年間の政権運営の
中で、無駄遣いを洗い出し財政を黒字化することは
できませんでした。当然、防衛力整備でも同じこと
がいえます。そして、この時に始まった「理念は所
要防衛力で、実体は基盤的防衛力」という矛盾した
構造は現在まで続いているのです。

しかも、23中期防から、23兆4900億円と23兆3900億
円という、2つの所要経費が登場しました。

該当部分を引用します。

VI 所要経費 

1 この計画の実施に必要な防衛関係費の総額の限度
は、下記3の額を含め、平成22年度価格でおおむね
23兆4,900億円程度をめどとする。 
 
2 各年度の予算の編成に際しては、国の他の諸施
策との調和を図りつつ、一層の効率化・合理化に努
め、おおむね23兆3,900億円程度の枠内で決定する
ものとする

3 将来における予見し難い事象への対応、地域及
びグローバルな安全保障課題への対応等特に必要が
あると認める場合にあっては、安全保障会議の承認
を得て、上記2の額の他、1,000億円を限度として、
これら事業の実施について措置することができる。

将来の予見し難い事象への対応のため予備経費
1,000億円を準備するという考え方は、それまでの
中期防を継承したものです。ただし、それまでの中
期防では23中期防のように二つの数字はなく、今ま
での中期防に倣うのなら、23中期防の経費の記載は
次のようになります。

1 この計画の実施に必要な防衛関係費の総額の限
度は、平成22年度価格でおおむね23兆3,900億円程
度をめどとする。 
 
2 各年度の予算の編成に際しては、国の他の諸施
策との調和を図りつつ、一層の効率化・合理化に努
めこの経費内で決定するものとする。将来における
予見し難い事象への対応、地域及びグローバルな安
全保障課題への対応等特に必要があると認める場合
にあっては、安全保障会議の承認を得て、1,000億
円を限度として、これら事業の実施について措置す
ることができる。

意味することは同じですが、記載要領を変更するこ
とで、所要経費の規模は23兆4,900億円、効率化合
理化により23兆3,900億円におさえるというイメージ
を与える効果があります。そして、この、中期防の
二つの経費は、自民党政権に変わってからの26中期
防、31中期防において、より悪い方向に進化してい
きます。


(つづく)


(いちかわ・ふみかず)


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【著者紹介】
市川文一(いちかわ・ふみかず)
1961年生まれ。長野県出身。防衛大学校27期生。
1983年、陸上自衛隊に入隊。
2002年に1等陸佐に昇任後、第13後方支援隊長、統合
幕僚監部人事室長、装備施設本部武器課長、陸上幕
僚監部武器・化学課長、東北方面後方支援隊長、愛
知地方協力本部長として勤務、
2015年陸将補に昇任後、陸上自衛隊武器学校長の勤
務を最後に2017年8月に退官。退官後の9月には
YouTube「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演。
2019年9月に新刊『不思議で面白い陸戦兵器』を刊
行。

2017/9 YouTube「桜林美佐の国防ニュース最前線」
に出演。
 https://youtu.be/6hPY3vgpidw
2017/10/21「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出

 https://youtu.be/jESYh1lIeSE
2018/2/10「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
  https://youtu.be/D_md0ZSJNds
2018/6/9「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
 https://youtu.be/eHnT9jvqQjk
2018/10/6「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
  https://youtu.be/aEOhNJ3twN0

著書に、
『猫でもわかる防衛論』(大陽出版)
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がある。


 
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