配信日時 2020/04/03 08:00

【【海軍式】戦う司令部の作り方(4)】「リーダーの資質と個性──「理」と「情」のバランスをどうとるか」 堂下哲郎(元海将)

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応
予備自衛官でもあります。
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おはようございます。エンリケです。


堂下元海将の連載
「海軍式 戦う司令部の作り方」
の四回目です。

冒頭に、

<当たり前のことですが、世の中の大半のリーダー
は誰かのスタッフでもあります。したがって、リー
ダに求められる資質や個性といっても、実はスタッ
フ、リーダーと共通するところが多く、違うのはそ
の重点がどこにあるかということだけなのかもしれ
ません。>

とあります。

これってもしかしたら、
素人がリーダーシップを把握するための、
核心のひとつかもしれないと思いました。


あなたの体験や思い、感想など、
ぜひ堂下さんにお届けください。
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いつでもお待ちしています。



エンリケ


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【海軍式】戦う司令部の作り方(第4回)

リーダーの資質と個性──「理」と「情」のバラン
スをどうとるか

堂下哲郎(元海将)
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□はじめに

 前回は「チーム論」について、さわりの部分をお
話ししました。今回は、リーダーの資質と個性につ
いてです。当たり前のことですが、世の中の大半の
リーダーは誰かのスタッフでもあります。したがっ
て、リーダに求められる資質や個性といっても、実
はスタッフ、リーダーと共通するところが多く、違
うのはその重点がどこにあるかということだけなの
かもしれません。

▼リーダーに求められる資質

 数あるリーダー論の中で、私が最も得心したのは
陽明学者の安岡正篤(まさひろ)です。私が現役時
代の先輩方から受けた教えとぴったり重なるもので
す。彼はリーダーに求められる資質は「知識」「見
識」「胆識」「節操」だと論じています。

 まずは「知識」。真面目に仕事をしていれば、早
い遅いの差はあってもある程度は身につくのが知識
やスキルです。これがなければプロ失格ですが、こ
れだけでは行動する力にはなりません。

「知識」を行動する力に変えるのが「見識」です。
「見識」は、リーダーが決断する際の洞察力、信念、
リスク感知能力、他者への共感力から生まれます。

▼佐久間艇長の遺書

 明治43年の第六潜水艇の沈没事故をご存知でしょ
うか。死を間際にした佐久間艇長の切々たる遺書で
有名です。当時この遺書は日本中に同情を巻き起こ
し、遺書の全文を記念碑に刻む計画が持ち上がりま
した。これに待ったをかけたのが呉鎮守府長官の加
藤友三郎(のち首相)です。「この遺書にあまりに
同情を表すると、将来同じような事故で、まず遺書
を認めてから本務に取り掛かる心得違いの者が出て
こないか」として計画をやめさせたのでした。

▼「見識」を実行するための「胆識」、「節操」

 加藤長官の場合のように、「見識」は一般の意見
と異なることも多く、反対や抵抗を受けることがあ
ります。このようなときに断固として実行するのに
必要なのが「胆識」です。安易な妥協や迎合をせず、
相手を粘り強く説得、翻意させることが大事です。
そうでなければせっかくの「良識」があっても行動
に移せず、かえって「優柔不断」「日和見」という
ことになってしまいます。

 また、「節操」というのはリーダーの「ビジョ
ン」や「志」を反映したものであり、一貫して人々
を導くトップリーダーにこそ求められるものである
としていますが省略します。

▼リーダーの個性

 リーダーの個性を論じるときに様々な切り口があ
りますが、もっとも重要なのは「理」と「情」のバ
ランスではないかと思います。

 理性とは「道理に基づいて考え、判断し、行動す
る能力」であり、判断能力、問題解決能力、ビジョ
ンを語る能力、行動する能力のことです。一方、感
性とは「印象を受け入れ反応する能力、感受性」で
す。人の心を感じる能力があるかどうか、人間につ
いて理解することに熱意を持っているかどうかが問
われます。

▼山本五十六と井上成美

「情」のリーダーの筆頭格は山本五十六で、部下思
いだった彼の「情」の統率は有名です。彼はまた、
作戦面でも「情」を発揮しました。パールハーバー
攻撃は「理外の理(常識では説明できない道理)」
として発案したものでしたが、「リメンバー・パー
ルハーバー」の合言葉で米国を総力戦に立ち上がら
せて敗因の一つとなりました。半年後に歴史的敗北
を喫したミッドウェー海戦には、低速の戦艦群を出
動させていますが、その理由は活躍の場のなかった
戦艦乗員の士気を高めることであり、作戦面での効
果はありませんでした。

「理」のリーダーとしては井上成美があげられます。
彼は、トラック島で搭乗員の慰労会をやったことが
ありますが、公家のような格好で歴戦の搭乗員を招
待し、反感を持った彼らからビールをひっかけられ
ています。戦略教官の時には「数理と情報を大切に
せよ」といい、同僚教官らと軋轢を生んだほどでし
たが、実際の戦場に出たときには情報を大切にした
とは言えない戦いぶりでした。

▼「理」と「情」のバランス

 論理的な思考によらない作戦は作戦といえません
が、そこに敵を欺くような発想を盛り込むには「感
性」の助けも必要です。作戦実行の現場においても
同じことで、「理性」に基づく指揮をとりつつ、
「感性」を発揮して勝機をつかまなければ勝利は得
られません。

 リーダーの資質には「指揮能力」に加えて人の心
を動かす「統率」が不可欠です。「作戦は人なり」
という言葉があるように硝煙の中で作戦を成り立た
せているのは人であり、その闘志です。その力を最
大限に発揮させるのは「感性」であり、そのために
は指揮官に「情の統率」がなければなりません。

 「理」と「情」のバランスをどうとるか、リーダ
ーたる者、終生のテーマだと思います。



(つづく)


(どうした・てつろう)


□次回以降のテーマ

第5回 リーダーの役割
第6回 戦うリーダーに求められるもの(最終回)



●著者略歴
 
堂下哲郎(どうした てつろう)
1982年防衛大学校卒業。米ジョージタウン大学公共
政策論修士、防衛研究所一般課程修了。海上勤務と
して、護衛艦はるゆき艦長、第8護衛隊司令、護衛
艦隊司令部幕僚長、第3護衛隊群司令等。陸上勤務
として、内閣官房内閣危機管理室(初代自衛官)、
米中央軍司令部先任連絡官(初代)、統幕防衛課長
(初代)、幹部候補生学校長、防衛監察本部監察官、
自衛艦隊司令部幕僚長、舞鶴地方総監、横須賀地方
総監等を経て2016年退官(海将)。


 
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