配信日時 2020/04/02 20:00

【ライター・渡邉陽子のコラム (272)】  ― メイキングオブ防衛白書(2)―

こんにちは、エンリケです。


「メイキングオブ防衛白書」
の二回目です。


体験談やご感想もお寄せください。
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さっそくどうぞ

エンリケ

追伸
東京五輪は一年延期されました。
『オリンピックと自衛隊 1964-2020』
を読んで、来年に思いを馳せます。
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『ライター・渡邉陽子のコラム (272)
 ―メイキングオブ防衛白書(2)―

         渡邉陽子
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こんばんは。渡邉陽子です。
卓上カレンダーに書き込まれていた予定のほとんどに×印がついた
3月が終わりました(そして4月はほとんど真っ白です)。誰もが
「ウイルスと人類が戦う」当事者になりえるのに、これまでの私は
その認識が欠落していました。もしも東京オリンピックの開催が危
ぶまれるような事態が起こるとすれば、それはテロだと思っていま
した。
まだ先は長そうです。メルマガの読者のみなさまも、くれぐれもご
自愛ください。

■メイキングオブ防衛白書(2)

防衛白書の制作にあたるのは、防衛省大臣官房企画評価課防衛白書
室。
なにやら威圧感のある長い名称ですが、実際の事務室はキャビネッ
トと人数分の机を並べればそれでいっぱいの、決して余裕のあると
はいえないこぢんまりとした部屋。ただしこれは私が取材した当時
の部屋なので、もしかしたら今はどーんと広い部屋にバージョンア
ップしているかもしれません。

そこで白書の制作に関わっているのは6名。これに白書担当の報道
官1名の計7名という少数精鋭が1年の年月をかけてつくります。

編成は、報道官を筆頭に、室長を務める部員(いわゆる背広組です)、
陸海空の自衛官1名ずつ、庶務担当の女性自衛官、そして事務官と、
背広組と制服組がタッグを組む混成チーム。
白書室にやってくるまでは、その誰もが白書の一読者に過ぎなかっ
た面々です。
右も左もわからないまま、さあこれから白書を作りなさいとこの部
屋に集められるのですから、スタート時の苦労がしのばれます。

私が取材した時期の報道官は前田哲氏、白書室の直属の上司に当た
ります。ちなみにこの方、現在は内閣官房副長官補(兼)国家安全
保障局次長(兼)内閣サイバーセキュリティセンター長と、たいそ
うな役職を兼任されていらっしゃいます。
取材時にはこんなコメントを残してくれていました。
「防衛白書は発行部数が多く“白書オブ白書”といえるもの。世間
にアピール度も高く、それを作らせてもらえるのは光栄な仕事だと
思いました。また、1年かけて防衛省のさまざまな施策を国際情勢
も含めて隅々まで見る機会はそうありませんから、その点でもラッ
キーだと思いましたね」

室長に当たるM部員は、白書室の取りまとめ役です。
「最初の数か月は、当時勤務していた北海道防衛局と白書室の兼務
だったんです。北海道と東京を行ったり来たり、もう何という人事
だと(笑)」

白書の本文の作成に当たるのは、陸海空の自衛官。
本文作成だけでなく、所属の幕僚部との連絡調整なども行ないます。
制服組のリーダーはK2等空佐(当時)。現在は第2補給処業務部
長兼ねて十条基地司令となっていらっしゃいます。取材時のコメン
トです。
「自衛官が書くって意外に思われるかもしれませんが、現場を知っ
ている自衛官が書くのがいちばんいいという考えからです。現場を
通して国民に伝えたい、ということなんでしょうね。今回は陸や海
の自衛官、事務官と混成チームでの仕事ですが、以前防衛大学校に
勤務していたときもこういう感じだったので、特に違和感はなかっ
たです」

I2等陸佐(当時)は現在、中央即応連隊長。白書作成時にはこん
な言葉を残していました。
「白書の読み手から作り手に変わって気づいたのは、ひとつの言葉
にさまざまな人の思いが込められているということです。それに単
語ひとつとっても、その単語に賛成の人もいれば反対の人もいる。
文を書くのはもともと好きだったんですが、書く難しさを再認識し
ています」

S3等海佐は、今まで何気なく読んできた白書の「深み」に気づい
たそうです。
「自分が制作側に回って、実はすごく精査されていて隙のない文章
なんだということを知りました。まさに防衛省の知恵が詰まった
1冊で、一般の人だけでなく自衛官にももっと読んで欲しいと思い
ましたね」
S3佐については最新の情報がたどれませんでした。2015年3月に、
ソマリア沖アデン湾の警戒監視活動を行なっている派遣海賊対処行
動航空隊第18次要員の飛行隊長として、警戒監視飛行1万時間を達
成したことまではわかっています。

そして白書室の紅一点、丹羽梢海士長。舞鶴総監部からはるばるや
ってきた、庶務を担当する海上自衛官でした。
初めての仕事、初めての東京、周囲は年上の上官ばかり、知り合い
もいない。最初はさぞ心細かったことでしょう。
「陸の人、空の人、事務官もいるといった環境で働くのは初めてだ
ったので、すごく新鮮でした。そもそも言葉が通じないんですよ。
陸海空それぞれ独自の用語があるみたいで、当たり前に“巡検”と
いう言葉を使ったら『は?』って顔されたり(笑)。私は私でヘリ
ボンとか言われても、なんのことやらさっぱりでした」

これら総勢7名が白書室というチームを構成し、約1年かけて国内
外に日本の防衛の基本方針を語る白書を作るのです。



(つづく)


(わたなべ・ようこ)


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□著者略歴

渡邉陽子(わたなべ・ようこ)
神奈川県出身。大学卒業後、IT企業、編集プロダクション勤
務を経て2001年よりフリーランス。2003年から月刊
『セキュリタリアン』『MAMOR』などに寄稿。
現在は自衛隊関連の情報誌などで記事を発表。メルマガ「軍事
情報」で自衛隊関連の記事を配信中。
 
2016年6月、デビュー作
『オリンピックと自衛隊 1964-2020』を刊行。

 
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