配信日時 2020/04/01 20:00

【防衛予算から読み解く日本の防衛力(29)】 第2部 危機的状況にある日本の安全保障体制(8) 民主党政権での大綱見直し(その2) 市川文一(元武器学校長・陸将補)

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応
予備自衛官でもあります。
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「防衛予算から読み解く日本の防衛力」第二部の
八回目です。

国防意思や軍事意思は部隊の動きで示されるケース
もある。と聞いたことがありますが、
政府の意思や本気度は、予算の動きで示されると言
って差し支えないような気がします。

新たな方針を組織に示しながら、予算が変わらない
という事は、その方針を実行する意思が政府にない、
と見て差し支えないのかもしれません。

言葉と行動は違うという事です。

では政府は何にお金を使って国の隆盛を図ろうとし
ているか?
その意思は、予算の動きを見れば分かるのではない
でしょうか?

何ごとにつけわれわれは、言葉より行動を見なきゃ
いけないのではないでしょうか?
そんなことをあらためて思いました。


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エンリケ




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防衛予算から読み解く日本の防衛力(29)
第2部 危機的状況にある日本の安全保障体制(8)

ここから大綱と中期防の矛盾が始まった
 ──民主党政権での大綱見直し(その2)


市川文一(元武器学校長・陸将補)
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□はじめに

 新型コロナウイルス感染拡大は、東京オリンピッ
ク開催の1年延期をはじめ、株価の暴落や経済活動の
低迷など、世界的に大きな影響をもたらしています。
欧米諸国では感染が爆発的に拡大し、収束の目処は
たっていません。

 そのような中において日本は、感染当初は世界的
にも注目されるような感染率の高い国でしたが、結
果的には封じ込めが比較的成功している数少ない国
になりました。今後、感染が爆発的に拡大する可能
性はあるものの、感染が拡大してしまった国と比較
すると今後の対応のしやすさは圧倒的に優位です。

 本コーナーで政府の対応の拙さを指摘しましたが、
感染拡大の封じ込めが上手くいっているのは政府の
対応というよりは、医療機関の充実、全国どこでも
水道水が飲めるような世界でも珍しい衛生状態の良
さ、そして何より、日本国民のガバナビリティ(被
統治能力、国民の順応性・自己管理能力)の高さの
ためといえるでしょう。また、多発する災害対応の
経験が積み重なり、国民一人一人の危機管理能力が
高まっているともいえます。

 今までの日本での対策は全て、外出の制限や大規
模な集会の禁止を強制するものではなく、あくまで
も自粛をお願いするものです。それでも、各種行事
は、ほとんどが中止や延期となり、街には人出が少
なく閑散としています。先々週の三連休にお花見な
どの人出が増えたのも、あまりにも国民の自主性に
頼った政府や自治体の責任かと思われます。

欧米諸国は水際対応を徹底して行ないましたが、そ
れで感染者の流入をゼロにするのは不可能です。国
内に感染者が流入した後は、政府の指針に基づき国
民が斉整と行動することが感染拡大防止の決め手と
なります。国民一人一人が気をつけなければ、政府
の施策は意味がありません(中国は政府の強制力に
より押さえ込みが上手くいっているのでしょう)。
 
普段は批判される「日本人の他人を気にしすぎる国
民性」も、今回は功を奏しているといえるかもしれ
ません。


▼民主党政権での大綱見直し(その2)

 22大綱は、「安全保障環境の安定化と改善のため
の活動を能動的に行い得る『動的防衛力』構築」の
方針を打ち出しました。しかしながら、同時に、
「従来の『基盤的防衛力構想』によることなく、各
種事態に対し、より実効的な抑止と対処を可能とす
る」という方針も合わせて打ち出したことで、半ば
意図せずして今までの大綱とは全く違うものとなっ
たのです。

 それは、軍事的脅威に直接対抗しない予算ありき
の「基盤的防衛力」から各種事態に対し実効的な抑
止と対処を可能とする「所要防衛力」への転換です。
ただし、「半ば意図せず」のとおり、「基盤的防衛
力」からの脱却により大幅な防衛費の増額が必要で
あるのとの認識はありません。

大綱が策定されるまで、第1次防衛力整備計画から
第4次防衛力整備計画においては、「所要防衛力」
の構築を方針として、第1次防衛力整備計画(3カ年)
で4,614億円、第2次防衛力整備計画(5カ年)で総額
1兆1,635億円、第3次防衛力整備計画(5カ年)で2兆
3,400億円、第4次防衛力整備計画(5カ年)で
4兆6,300億円と防衛力の増強を図ってきました。

「所要防衛力」を構築するには、当時、最も脅威の
高かったソ連に対抗する必要があり、防衛力の大幅
な増強は避けられないことでした。ところが、東西
冷戦の緊張緩和と日本の財政上の都合で防衛費の増
額を抑えなければならないという政治的要求に直面
しました。そこで、生み出されたのが防衛費の
GDP1%枠とそれを理由づける「基盤的防衛力構想」
です。

予算ありきの防衛力整備(防衛費のGDP1%枠)と
「基盤的防衛力構想」とはセットです。「基盤的防
衛力構想」から脱却することは、「予算ありきの防
衛力整備」からも脱却することになります。つまり、
日本の安全保障環境に応じた各種事態に対し、実効
的な抑止と対処を可能とする「所要防衛力」を整備
するということです。22大綱は、民主党政権の意図
にかかわらず「所要防衛力」を整備すべきという本
来あるべき大綱に姿を変えたのです。

22大綱の理念そのものは、日本が必要とする防衛力
を整備すべきという正当なものへと姿を変え、現在
までの2回の改定でもその理念は引き継がれています
が、防衛予算のレベルは低いままです。安倍政権に
なって少しずつは増額されているものの、小泉政権
の構造改革から始まった防衛予算の減額分をようや
く取り戻した程度です。理念だけが変わって実体が
伴っていないのです。それは、22大綱の理念と実体
の著しい乖離に端を発しています。

理念上、「基盤的防衛力構想」から脱却した22大綱
は日本の安全保障において転換点となるものですが、
実体は「基盤的防衛力構想」をさらに進化させた
「防衛予算はさらに抑えられる」という矛盾の塊の
ようなものとなってしまいました。そして、ここか
ら大綱と中期防の矛盾した関係が始まっています。

民主党政権においては、「事業仕分け」や「ダム建
設などの公共事業の凍結」等による新たな予算財源
の捻出、「特別会計から一般会計への予算の捻出」
等実現の可能性の乏しい「取らぬ狸の皮算用」「机
上の空論」的な政策が多く行なわれました。防衛予
算についても同様で、その考え方が大綱に色濃く反
映されています。長くなりますが、大綱の「基本方
針」での記述をそのまま引用します。

「厳しい財政事情を踏まえ、本格的な侵略事態への
備えとして保持してきた装備・要員を始めとして自
衛隊全体にわたる装備・人員・編成・配置等の抜本
的見直しによる思い切った効率化・合理化を行った
上で、真に必要な機能に資源を選択的に集中して防
衛力の構造的な変革を図り、限られた資源でより多
くの成果を達成する。また、人事制度の抜本的な見
直しにより、人件費の抑制・効率化とともに若年化
による精強性の向上等を推進し、人件費の比率が高
く、自衛隊の活動経費を圧迫している防衛予算の構
造の改善を図る」というものです。

論理の飛躍と机上の空論による実効性がない方針で
す。「本格的な侵略事態への備えとして保持してき
た装備・要員を始めとして自衛隊全体にわたる装備・
人員・編成・配置等の抜本的見直し」は、すでに07
大綱から始められており、大きな経費の捻出は期待
できません。自衛隊の人員構成を変え若年化を図り
人件費を抑制することは、以前より努力されながら
も実現ができなかったことです。これを成し遂げる
には徴兵制度を採用するしかありません。

22大綱は、「従来の『基盤的防衛力構想』によるこ
となく、各種事態に対し、より実効的な抑止と対処
を可能とし」の直接的な表現により、明確に「基盤
的防衛力構想」からの脱却を図りました。

しかしながら、「防衛予算には多くの無駄があり、
『基盤的防衛力構想』から脱却しても現状の防衛予
算額以下で防衛力整備はできる」という考えにとら
われたため、結局は「現状の防衛予算額以下の防衛
力整備」「予算ありきの防衛力整備」という「基盤
的防衛力構想」を内包してしまいました。



(つづく)


(いちかわ・ふみかず)


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【著者紹介】
市川文一(いちかわ・ふみかず)
1961年生まれ。長野県出身。防衛大学校27期生。
1983年、陸上自衛隊に入隊。
2002年に1等陸佐に昇任後、第13後方支援隊長、統合
幕僚監部人事室長、装備施設本部武器課長、陸上幕
僚監部武器・化学課長、東北方面後方支援隊長、愛
知地方協力本部長として勤務、
2015年陸将補に昇任後、陸上自衛隊武器学校長の勤
務を最後に2017年8月に退官。退官後の9月には
YouTube「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演。
2019年9月に新刊『不思議で面白い陸戦兵器』を刊
行。

2017/9 YouTube「桜林美佐の国防ニュース最前線」
に出演。
 https://youtu.be/6hPY3vgpidw
2017/10/21「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出

 https://youtu.be/jESYh1lIeSE
2018/2/10「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
  https://youtu.be/D_md0ZSJNds
2018/6/9「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
 https://youtu.be/eHnT9jvqQjk
2018/10/6「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
  https://youtu.be/aEOhNJ3twN0

著書に、
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がある。


 
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