こんにちは、エンリケです。
「戦略航空偵察」九回目です。
歴史理解には、史実の流れにピントを
合わせることが不可欠。その術こそが
情報史眼だと、私は思います。
平戦時問わず一貫して戦いを続けている
「情報」の歴史こそ、歴史を裏から支える、
歴史から学ぶ上で最も大切なキモなのだ。
その思いを強くする日々です。
しかしそんなもの、なっかなか手に入りません。
だからこの連載が面白いのでしょう。
さっそくどうぞ
エンリケ
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戦略航空偵察(9)
朝鮮戦争における航空偵察
西山邦夫(元空将補)
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□ご挨拶
今回は朝鮮戦争における航空偵察の状況についてで
す。皆さんは朝鮮戦争に際して、米軍は全力を戦争
の勝利に向けて傾注していたと考えておられるので
はないか、と思います。確かに、米軍は数万の戦死
者を出し、必死の戦いを続けていたのですが、その
一方でソ連との核戦争があり得るとの考えが米国の
指導者層や軍首脳にあり、それに対する備え、その
一環として情報収集が重要視されていました。戦略
空軍(SAC)は、隷下部隊で横田基地所在の第91戦
略偵察中隊のRB-45やRB-29を使って、朝鮮戦争を戦
いながら極東ソ連、中国の偵察飛行を実施していた
のです。
▼米極東空軍の状況
朝鮮戦争が始まった当時の米極東空軍の状況は、
日本に第5空軍を置き、その隷下の三沢、板付の各
基地にF-80C戦闘機が、横田にはF-80CとRF-80偵察
機(F-80の練習機タイプがT-33練習機)が配置され
ていました。また、嘉手納基地には戦略空軍に属す
るRB-29長距離偵察機が配置されていましたが、韓
国内には1機も作戦機は存在しませんでした。
▼戦略偵察の主力RB-45
朝鮮戦争で戦略的な偵察活動を行なった飛行部隊
は、第91戦略偵察中隊でしたが、次第に増強され、
最大の規模になった時には偵察機400機を擁する戦
域で最大の飛行部隊になりました。最新の偵察機は
RB-45トルネドで、最大速度マック0.72を高度37,000
フィートで出しました。同機は、写真撮影だけでな
く、高分解能のレーダー画像も取得しました。この
性能から、同機は高度の秘密任務に就くことがあり、
鴨緑江を渡河して来る中国軍の状況を把握するため、
毎日同江上空を飛行しました。
RB-45はさらに重要な任務を引き受けることにな
りました。かつて日本の本土爆撃を指揮した戦略航
空軍司令官のルメイ将軍が、核爆弾を搭載可能なB-29
をフィリピンの基地に準備していました。将軍は、
朝鮮戦争が拡大し、米ソ間の全面戦争に発展する可
能性を深刻に考慮したのです。RB-45はその作戦の
一端を担って偵察活動を行なったのですが、このこ
とは最近まで明らかにされることはありませんでし
た。
▼捕虜になった情報将校
RB-45について、さらに注目するべき出来事がありま
した。1950年12月12日、鴨緑江上空を偵察飛行して
いたRB-45が、新たに配備されたMiG-15により撃墜さ
れました。同機には正規のクルー以外に3名の同乗
者がおり、その1人が46歳のラベル大佐でした。彼
は米空軍の上級情報将校で、ペンタゴンで空軍情報
部長キャベル少将の下で働いていました。空軍は墜
落した乗員、同乗者皆が死亡したと推測しましたが、
機長の大尉は生存し、ラベル大佐は無傷で捕らえら
れました。彼はこの戦争で捕虜になった最高位の情
報将校で、北朝鮮将校の尋問を受けることになりま
した。
▼北朝鮮の捕虜取り扱い
ラベル大佐はソ連軍の戦闘序列(Oder of Battle)
に関する秘密のファイルを持っていました。このフ
ァイルにはソ連の主要人物の写真と経歴が記されて
いて、スターリンの項目もあったということです。
ソ連の情報将校はラベル大佐がその他にも重要な情
報を持っていると考え、尋問の機会を待っていまし
たが、北朝鮮の野蛮な振る舞いでその機会は失われ
ました。尋問にあたった北朝鮮の将校がラベル大佐
の非協力的態度を怒り、首に罪状を印したプラカー
ドをかけ、集まった群衆の前に突き出しました。そ
の結果、大佐は暴行され死亡しました。ソ連による
尋問の機会は失われたのです。
ソ連は北朝鮮のこの卑劣な行為で、貴重な情報源を
失ったことを許せず、捕虜の扱いを中国に依頼する
ことにしました。中国はソ連に協力し、ソ連が捕虜
の尋問をできるように計らったのです。
▼韓国人の北朝鮮に対する感情の変遷
米軍は、北朝鮮の捕虜に対する扱いを知って、獣の
ようだと表現しました。私は1978年に韓国を訪問し、
空軍の軍人たちと会合を持ったことがありましたが、
その際、彼らも北朝鮮軍について獣のようだと言っ
ていました。観光バスで一緒になった韓国農協の百
姓さんたちも同じでした。彼らは北朝鮮軍と直接接
し、その残忍な行為を身をもって体験してきた人た
ちです。
それが今、韓国の文大統領は北朝鮮への親愛感を隠
しません。朝鮮戦争では、米軍人4万人以上が戦死・
行方不明になっており、韓国民も百万人以上が犠牲
になっています。国を救った米国への感謝の気持ち
は失われ、ソウル郊外のマッカーサー元帥の銅像に
火をつける人まで現れました。日本に対する古い怨
念は覚えていても、わずか半世紀前の歴史をこれほ
ど早く忘却する人たちを私は知りません。
▼米軍事技術の収集
ソ連は当時の西側の兵器技術に深い関心を持ちまし
た。特に米空軍が新たに投入したF-86戦闘機につい
ては、MiG-15と対等以上に戦いましたから関心の的
でした。MiG-15は第2次大戦時の戦闘機にジェット・
エンジンを搭載して仕立てたような機体でしたが、
F-86は高度な技術を注入した機体だったのです。ソ
連は、捕虜としたパイロットから、戦闘機に関する
技術情報を聞き出すことを熱心に行ないました。ラ
ベル大佐もその対象の1人だったのです。
冷戦終了後、明らかになったソ連のレポートによれ
ば、米軍パイロット262人が尋問されています。中国
が担当した尋問は巧妙で、多くの秘密事項を聞き出
すことに成功していました。たとえば、レーダー・
ガンサイトの技術情報、空中戦の戦技、基地の地図
等々知りたいことは余すことなく聞き出していまし
た。
撃墜されたRB-45偵察機やF-86戦闘機などの機体はモ
スクワへ送られ、綿密に調査され、乗員の証言など
合わせて、ソ連は米空軍の航空偵察や戦闘機の能力
を分析することができました。
▼核戦争への備えとしての偵察飛行
第91戦略偵察中隊(91SRS)は、核攻撃の目標を設
定するため、戦略的に重要な地域への偵察を1951年
に開始しました。8月からソ連と中国の領海沿いの
偵察をRB-29に望遠カメラを搭載して行ない、対象
の中には日本の北方領土も含まれていました。中国
に対しては、一部内陸まで侵入しての偵察が行なわ
れました。その結果、ウラジオストク周辺空域のソ
連の防空態勢を明らかにする成果が得られました。
戦略空軍(SAC)は、ソ連と中国を対象とする核攻撃
の目標を設定するため、さらに広範囲の情報収集を
必要としていました。この目的を達成するため、
RB-45を使ってソ連と中国に対する情報を取得しよう
と計画しました。しかし、それは朝鮮戦争の戦域を
越えるため、より高いレベルの許可が必要でした。
1951年5月、朝日新聞は中国軍が中国東北部に兵力
を増強し、ソ連軍も極東に原爆も搭載できる戦略爆
撃機を含む航空機500機を配備、中国東北部には最
新レーダー設備も設置し、日本海に潜水艦を大規模
集結し始めたと報道しました。このような情勢があ
って、一部の地域の偵察飛行が認可され、1951年11
月9日、RB-45が横田基地を離陸しました。この機の
任務は樺太南部上空を高度18,000フィートで飛行し、
レーダーとカメラで情報収集することで、任務を終
え無事帰投しました。
▼相次ぐ偵察機の撃墜
1952年6月13日にウラジオストク沖を偵察飛行してい
たRB-29がソ連極東第5空軍の戦闘機により撃墜さ
れました。戦闘機が地上レーダーの誘導でRB-29へ
指向されていたのが分かっていましたが、それ以後
の詳細は不明のままになりました。このRB-29は、核
攻撃のための目標情報収集に従事していたものと思
われます。
この偵察計画が継続して実施されているうちに、
1952年10月7日、日本の北方領土上空でRB-29が撃
墜される事件が起きました。このように横田から発
進した戦略空軍の偵察機の撃墜事件が続いたのは、
同様の偵察飛行が頻繁に実施されていたことの証左
と思われます。朝鮮戦争が戦われている一方で、核
が使われるリスクが高まっていたことが具体性をも
って認識されていました。
▼マッカーサー元帥の解任と核戦争への備え
マッカーサー元帥が主張した中国東北地区に対する
原爆攻撃は、トルーマン大統領により拒否され、元
帥は1951年4月に解任されました。しかし、それとは
別に米国は核戦争に対し、身構えていたのです。
ジャーナリストのポール・ラシマー氏はその著書で、
朝鮮戦争が最終的に得たものは、それが核戦争に発
展せず、他の戦争のトリガーにならなかったことで
あると書いています。そして、スターリンはロシア
人のパイロットに中国服を着せ、トルーマンは中国
領の爆撃を許可しなかったために、エスカレートを
防いだのだと評価しています。
(つづく)
(にしやま・くにお)
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□著者略歴
西山邦夫(にしやま・くにお)
1936年生まれ。防衛大学校卒(4期・空)。
情報関係略歴:航空幕僚監部調査2課収集1班長、航
空総隊司令部情報課長、陸幕調査別室主任調整官、
航空自衛隊幹部学校主任教官。著書に『肥大化する
中国軍(空軍部分を執筆)』(晃洋書房、2012年)、
『中国をめぐる安全保障(空軍部分を執筆)』(ミ
ネルバ書房、2007年)。研究論文に『中国空軍の戦
力構成とドクトリン』『中国空軍のSu-30MKKとイン
ド空軍のSu-30MKI』『韓国空軍の増強と近代化』
『中露合同軍事演習』『中国の主要航空兵器の装備
化実績と将来予測』『中国空軍の戦力とドクトリン』
『チベットにおける中国の軍事態勢整備』など多数。
PS
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