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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応
予備自衛官でもあります。
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防衛予算から読み解く日本の防衛力(28)
第2部 危機的状況にある日本の安全保障体制(7)
民主党政権での大綱見直し(その1)
市川文一(元武器学校長・陸将補)
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□はじめに
先週の筆者の記事に、早速、桜林氏にコメントし
て頂きましたが、相変わらず切れがあり、しかも楽
しく読めるコラム、流石でした。桜林氏とは、筆者
が現役の時から自衛隊の実情や防衛生産・技術基盤
について、幅広く意見交換させて頂いています。
今回の自衛隊病院の件も含め、自衛隊については誤
解されていることが多くありますが、それを伝える
記事は極わずかです。現役自衛官は当然のこと、O
Bでも発信できない事項がありますので、桜林氏に
は引き続き頑張って頂きたいと思います。
防衛生産・技術基盤の強化は、大綱や中期防でも謳
われ、現防衛大臣も発言されていますが、実体は、
強化されるどころか弱体化する一方です。本コーナ
ーでも解説していきますが、そろそろ危機的状況に
あることは間違いありません。日本の国の財政状況
が社会保障費に手を付けない限り改善されないのと
同様に、防衛生産・技術基盤の強化は「装備品の国
産化重視」と「装備品調達費の増加」以外に抜本的
な改善策はありません。
平成26年に策定された「防衛生産・技術基盤戦略」
以降の5年間にも、防衛産業からの撤退が加速し、
防衛生産・技術基盤が弱体化の一途を辿っていま
す。本戦略にあるような小手先の方策では改善され
ないことを認識しなければいけません。5年の節目
に、是非、本戦略の検証を行なってほしいものです。
▼民主党政権での大綱見直し(その1)
平成21年9月、民主党政権が誕生し、翌年の平成22年
に大綱、中期防が見直されました。当時は、政権交
代による政治の変化を印象づけようと、民主党の独
自色を出すために様々な政策が行なわれました。ス
ーパーコンピューターの開発経費をめぐっての蓮舫
議員の「なぜ一番でなければダメなのですか? 二
番ではダメですか?」の発言で話題となった事業仕
分けや「予算はコンクリートから人へ」の政策転換
に基づくダム建設の凍結、極めつけは普天間基地移
設の白紙撤回まで、ほとんどが、結果的に行政を混
乱させるものでした。
大綱改定についても、10年後を念頭に置いた大綱
を6年後に改定しており、政権交代の独自色を出す
ための政策として取られることもありますが、前回
も説明したとおり16大綱には5年後の修正規定があ
り、これを根拠として見直されたものです(前政権
での検討を白紙に戻し再検討を行なったため、6年
後の改定となった)。
民主党に政権が変わる前の自民党の麻生政権下で
新大綱の検討が行なわれ、部外有識者で構成される
「安全保障と防衛力に関する懇談会」からは、16大
綱の改定に資する報告書が提出されています。「基
盤的防衛力構想」からの脱却を期待した5年後の改
定でしたが、本報告書においては、結論は曖昧なま
まとなっています。
「16大綱は、基盤的防衛力構想の有効な部分を継承
しつつ、冷戦後の新しい脅威に対処するために『多
機能で弾力的な実効性のある防衛力』を保有すると
いう考えを示した。(中略)新しい安全保障戦略の
下、引き続き防衛力を多機能弾力的なものにすると
の方向性を維持しつつ、日本の安全に対する脅威や
問題について優先順位を明確にし、効率的・効果的
に防衛力を整備していく ことが必要である」との
記述が示すとおり、「基盤的防衛力構想」は継承す
ることが前提となっていると考えられます。
ところが、51大綱以降、防衛力整備の基本構想と
して最も重要なキーワードであり、日本の安全保障
政策を縛り続け、変えようとしても変えられなかっ
た「基盤的防衛力構想」が、翌年の政権交代をトリ
ガーとしてあっさりと変えられてしまいました。
民主党政権で策定された22大綱には、「今後の防
衛力については、防衛力の存在自体による抑止効果
を重視した、従来の『基盤的防衛力構想』によるこ
となく、各種事態に対し、より実効的な抑止と対処
を可能とし、アジア太平洋地域の安全保障環境の一
層の安定化とグローバルな安全保障環境の改善のた
めの活動を能動的に行い得る動的なものとしていく
ことが必要である。このため、即応性、機動性、柔
軟性、持続性及び多目的性を備え、軍事技術水準の
動向を踏まえた高度な技術力と情報能力に支えられ
た『動的防衛力』を構築する」と、明確に「基盤的
防衛力構想」からの脱却が謳われています。
この記述には、22大綱が示す防衛力として「各種
事態に対し、より実効的な抑止と対処を可能とする」
「安全保障環境の安定化と改善のための活動を能動
的に行い得る動的なもの」の2つのキーワードがあ
ります。「動的防衛力」の名称は後者の「能動的に
行い得る動的なもの」を表しており、「基盤的防衛
力」を「静的防衛力」と捉え、政権交代による独自
色を出すための手段として「動的防衛力」と表現し
たものと考えられます。
動的防衛力についての解説は、鳩山政権下におい
て「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」
で検討された報告書に詳しく解説されています。報
告書の要約では、「日本の防衛のためには、従来の
装備や部隊の量・規模に着目した『静的抑止』に対
し、平素から警戒監視や領空侵犯対処を含む適時・
適切な運用を行い、高い部隊運用能力を明示するこ
とによる『動的抑止』の重要性が高まっている」と
しています。
「基盤的防衛力」とは「我が国に対する軍事的脅威
に直接対抗しない、独立国としての必要最小限の防
衛力」というのが本質ですが、これを「装備や部隊
の量・規模に着目した防衛力」であると、曲解して
います。そして、「静的抑止」と「動的抑止」を対
立させるという、論理の飛躍が行なわれています。
本文においても、「冷戦下において米国の核抑止力
に依存しつつ日本に対する限定的な侵略を拒否する
役割に特化した『基盤的防衛力』概念」、「同構想
(基盤的防衛力構想)は、主として部隊・装備の量
(規模)に着目した防衛力の存在をもって抑止力を
構成するという、いわば静的抑止の考え方に立って
いた」と、「基盤的防衛力構想」の一面だけしか捉
えていません。
「基盤的防衛力構想」とは、軍事的脅威に対抗しな
いGDP1%を基準とした予算ありきの防衛力構想であ
り、その正当化のために考え出されたのが、「自ら
が力の空白となって我が国周辺地域における不安定
要因とならない」「独立国としての必要最小限の基
盤的な防衛力(限定的かつ小規模な侵略は独力で排
除できる。独力で排除できない脅威が現れた場合、
防衛力をエキスパンドできる)」という理屈です。
22大綱では、「基盤的防衛力構想」からの脱却が謳
われている記述の2つのキーワードのうち、「安全
保障環境の安定化と改善のための活動を能動的に行
い得る動的なもの」を全面的に打ち出していますが、
本来重要なのは「動的防衛力」ではなく防衛力の本
質である「実効的な抑止と対処を可能とする防衛力」
なのです。
「基盤的防衛力」とは軍事的脅威に直接対抗しない
予算ありきの防衛力ですが、これと正反対の本来あ
るべき防衛力が、各種事態に対し実効的な抑止と対
処を可能とする「所要防衛力」です。「基盤的防衛
力構想」からの脱却とは、「所要防衛力」を構築す
ることなのです。
(つづく)
(いちかわ・ふみかず)
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【著者紹介】
市川文一(いちかわ・ふみかず)
1961年生まれ。長野県出身。防衛大学校27期生。
1983年、陸上自衛隊に入隊。
2002年に1等陸佐に昇任後、第13後方支援隊長、統合
幕僚監部人事室長、装備施設本部武器課長、陸上幕
僚監部武器・化学課長、東北方面後方支援隊長、愛
知地方協力本部長として勤務、
2015年陸将補に昇任後、陸上自衛隊武器学校長の勤
務を最後に2017年8月に退官。退官後の9月には
YouTube「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演。
2019年9月に新刊『不思議で面白い陸戦兵器』を刊
行。
2017/9 YouTube「桜林美佐の国防ニュース最前線」
に出演。
https://youtu.be/6hPY3vgpidw
2017/10/21「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出
演
https://youtu.be/jESYh1lIeSE
2018/2/10「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
https://youtu.be/D_md0ZSJNds
2018/6/9「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
https://youtu.be/eHnT9jvqQjk
2018/10/6「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
https://youtu.be/aEOhNJ3twN0
著書に、
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