配信日時 2020/03/23 20:00

【戦略航空偵察(8)】「冷戦時代初期の対ソ連航空偵察と朝鮮戦争の勃発」 西山邦夫(元空将補)

こんにちは、エンリケです。

「戦略航空偵察」八回目です。

朝鮮戦争への新たな視野を得られます。

さっそくどうぞ


エンリケ



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戦略航空偵察(8)

冷戦時代初期の対ソ連航空偵察と朝鮮戦争の勃発

西山邦夫(元空将補)
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□ご挨拶

中華人民共和国(以下中国と表記します)の建国は
1949年10月1日でした。朝鮮戦争が始まったのはそ
の翌年1950年6月25日のことです。1950年前半の国
際情勢はどのような状況だったのか、一言でいえば
朝鮮半島で戦争が始まるとは米国を始め、西側陣営
の国々はほとんど考慮の外だったと推察できます。

英国は1月にいち早く中国を承認し、北欧諸国もこ
れに続きました。アチソン米国務長官が米国の不後
退防衛線として同年1月にいわゆるアチソン・ライ
ンを宣言し、このライン内に朝鮮半島は入っていな
かったのですが、この宣言が、朝鮮戦争が始まるき
っかけの1つになるとは、米国自身も想定外だった
のでしょう。

その時期、米国が最も心配していたのがヨーロッパ
情勢です。前回書きましたように、トルーマン大統
領は1950年6月初め、対ソ連航空偵察の開始を命じ
ました。ソ連の動向に最も関心が向いており、朝鮮
半島など極東情勢には眼が届いていなかったのです。

中国は建国直後の状態で、中ソ友好同盟相互援助条
約を結びこそしましたが、朝鮮半島に兵力を派遣す
る余裕はなかったはずです。そこで始まった朝鮮戦
争ですが、米国にとってまさに奇襲を受けた状況で
した。

▼特別電子航空捜索プロジェクト(SESP)

 朝鮮戦争が始まる直前の1950年5月5日、米統合
参謀本部(JCS)は対ソ連航空偵察の目的と手順を
定め、特別電子航空捜索プロジェクト(SESP)と命
名しました。国防長官へ送られたメモには、SESPの
目的は、米国の防衛のため、できるだけ大量の他国
の電子技術の情報を収集することと書かれていまし
た。

 SESPに従って、統合参謀本部はソ連の国境沿いの
偵察飛行により防空態勢を探る計画を作成しました。
その大要は次の3点でした。

1)偵察飛行は、ソ連の、あるいは衛星国の国境か
ら20マイル以上離れること。
2)偵察飛行は、安全のため計画されたルートを離
れてはならない。
3)飛行に従事する航空機は、非武装で民間輸送機
の姿をしていなければならない。
(この措置は、西側が占領している地域、並びにベ
ルリン回廊は非武装の航空機の運航が行なわれてい
ること〔ベルリン封鎖へ対応する輸送作戦〕に起因
していたのですが、のちに武装の有無は問われなく
なりました)

▼トルーマン大統領、ソ連偵察飛行認可へ

 1949年8月、ソ連はプルトニウム型の原爆の実験に
成功しました。それまで行なわれていたトルーマン
大統領のソ連領侵入飛行の禁止措置は、ソ連の戦略
的核能力に関する情報収集を停滞させたので、情報
が混交し、欧州でソ連が侵攻してくるのではないか
という懸念が高まりました。戦争に備えるため、情
報収集を強化せよという声が米政府内でも上がりま
した。

 1950年6月6日、朝鮮戦争が始まるわずか2週間前
にトルーマン大統領は空軍に対し、バルト海でELINT
偵察任務を開始することを認可しました。週に2回、
ソ連のレーダー技術の進歩の状態を確認するのが目
的でした。

▼米ソ戦争の恐れと朝鮮戦争勃発

この時期、米英間で緊急に交わされた高位の情報見
積の会議で、興味深い出来事がありました。ソ連と
の戦争がいつ起こるかという問題に、英側は1955年
まではないという見解に対し、米側は1952年、ある
いはその前かも知れないと主張しました。米国の情
報機関のトップは、ここ1~2年のうちに対ソ連戦争
が起こるかも知れないと真面目に考えていたのです。
この議論は、1950年6月25日に勃発した朝鮮戦争で、
新たな事態を生むことになります。

 朝鮮戦争に関し、旧ソ連で活動していた人たちの
証言が出ています。スターリンは韓国攻撃に乗り気
ではなかった、スターリンは1950年1月に「金日成
同志の申し出に完全に同意できないのは、南進は現
在準備不足であり、作戦のリスクは最小限にしてお
かなければならない、と考えたからだ」と金日成に
テレックスで伝えていました。しかし、金日成の
「韓国の撃破は数日で可能であり、米国は出てこな
いだろう」との主張に最後には説き伏せられでしま
ったのでしょう。このあたりの事情については、多
くの本が書かれていますが、A.V トルクノフ氏の著
書『朝鮮戦争の謎と真実』(*)(草思社)はソ連
時代の秘密文書を多く引用しており、その中でもス
ターリンは北鮮軍の南進許可に躊躇していたことが
書かれています。
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▼MiG-15の戦闘加入

 北朝鮮軍が南進を開始し、対応する国連軍は釜山
橋頭保に圧迫されました。仁川上陸作戦で戦況は逆
転、国連軍は鴨緑江に迫りました。危機を感じた中
国は義勇軍という名目で大規模介入に踏み切り、国
連軍を38度線付近まで押し戻し、戦況は一進一退と
なりました。

 戦争の初期段階では制空権は国連軍側にありまし
たが、ソ連はMiG-15を中国に供与、1950年秋頃から
中朝国境付近で活動を始めました。当時の国連軍側
の作戦機はレシプロ機が主力で、ロシア人のパイロ
ットが操縦するジェット戦闘機には太刀打ちできず、
航空活動は大きな制約を受けることになりました。

▼スターリンの懸念

 スターリンには大きな懸念がありました。米国と
の直接対決を招くような事態は絶対に避けたかった
のです。ソ連の支援は秘密裏のことだったので、ロ
シア人のパイロットが万一国連軍の捕虜になれば困
った事態になります。

 ロシア人パイロットは、中国軍の制服を着用し、
空中では中国語で交話させられました。MiGの活動
範囲は北朝鮮側が支配するエリアに限り、撃墜され
た時にロシア人が捕虜になる事態を防ぎました。

▼電子戦

 1950年11月、横田基地の第31戦略偵察中隊が装備
するRB-29はRB-50Bに換装され、この機体は9個のカ
メラと、新型のレーダーを搭載しました。この処置
は、ソ連が新たに供給したレーダーへの対処でした。

 1951年初め、同機は北朝鮮が早期警戒レーダー
(RUS-2S)の信号を傍受し、そのすぐ後に火器管制
レーダー(SN-2)の信号も採取しました。これによ
り、敵レーダーの位置が判明し、味方爆撃機の作戦
に大いに役立ちました。

 1952年7月10日、北朝鮮側はB-29の爆撃に対し、
新しい戦術を編み出して対抗しました。4機のB-29
がSHORAN無線航法施設を使って郭山の鉄道橋の爆撃
を試みた時、B-29は20個ものサーチライトで照らし
だされました。そのうえ12機以上のMiG-15に攻撃さ
れ、2機が撃墜されました。

 それまでB-29は夜間に出撃し、レーダーを搭載し
ていないMiGの攻撃を避けていましたが、サーチラ
イトで照らされ、発見されてしまったのです。北朝
鮮側は、SHORANのビームを捉えて爆撃機の針路を知
り、待ち構えていました。その後、戦争が休戦に至
るまで電子戦が激しく戦われました。1951年はその
嚆矢の年でした。



(つづく)


(にしやま・くにお)


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□著者略歴

西山邦夫(にしやま・くにお)
1936年生まれ。防衛大学校卒(4期・空)。
情報関係略歴:航空幕僚監部調査2課収集1班長、航
空総隊司令部情報課長、陸幕調査別室主任調整官、
航空自衛隊幹部学校主任教官。著書に『肥大化する
中国軍(空軍部分を執筆)』(晃洋書房、2012年)、
『中国をめぐる安全保障(空軍部分を執筆)』(ミ
ネルバ書房、2007年)。研究論文に『中国空軍の戦
力構成とドクトリン』『中国空軍のSu-30MKKとイン
ド空軍のSu-30MKI』『韓国空軍の増強と近代化』
『中露合同軍事演習』『中国の主要航空兵器の装備
化実績と将来予測』『中国空軍の戦力とドクトリン』
『チベットにおける中国の軍事態勢整備』など多数。


 
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