こんにちは、エンリケです。
「戦略航空偵察」七回目です。
ものごとは、こういうかたちで
多層複眼立体的に理解しようと
心がけなきゃいけないなあ。
そんなことを思いました。
それにしても、おもわずドキッとする記
述が多いですw
さっそくどうぞ
エンリケ
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戦略航空偵察(7)
バルト海におけるPB4Y2偵察機撃墜の波紋
西山邦夫(元空将補)
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□ご挨拶
新型コロナウィルスの蔓延で、わが国でも社会活
動が停滞してきました。ウィルスの正体も若干は分
かってきたようですが、まだまだ終息への道は遠い
ようです。その故か?去年の暮れまで毎月定期的に
飛来してきた中国の情報収集機Y-9が今年はまだ現
れていません。ロシア機の活動も低調です。ロシア
機は日本に何かあると、たとえば3.11大震災時など
には、偵察機を飛ばしてきましたが、今回は静かに
しています。
▼バルト海とスウェーデン
前回から、バルト海で発生した撃墜事件について
書いています。バルト海は日本海の約1/3の面積
で、入り口をスカゲラック海峡で扼された狭隘な小
地中海です。帝政ロシア時代には、サンクトペテル
ブルク近郊のクロンシュタットを本拠地としたバル
チック艦隊の根拠基地でした。
冷戦期になると、バルト海でも東西対立が深ま
り、バルト海西側の沿岸国であるスウェーデンは中
立国でしたが、西側陣営諸国に協力する姿勢をとり
ました。1950年ソ連機による米海軍PB4Y2偵察機撃
墜の後、1952年6月にソ連の戦闘機がバルト海の公
海上で2機のスウェーデン機を撃墜したいわゆるカ
タリナ事件が起きました。
スウェーデンのDC-3輸送機は、ソ連に対する
SIGINT収集にあたっていたことが2008年になって
National Geographic Newsに掲載されました。スウ
ェーデンは当該機が航法訓練飛行を実施していたと
主張し続けていましたが、この記事によって DC-3
がイギリス製の機器を装備し、NATOのために情報活
動をしていたと明かされてしまいました。
▼バルト海におけるPB4Y2偵察機の撃墜
ソ連が撃墜事件に関して行なった検証によれば、
「当日(1950年4月8日)17時39分、リトアニア
のリブアの南で、4発の大型機B-29がソ連領内に21
km侵入し、さらに深く侵入する気配があった。ソ連
戦闘機が着陸させようとしたが、米国機は従わず、
かえって射撃して来たので、ソ連戦闘機は反撃し
た。しかし、米軍機は海の方向へ逃げ去った」との
ことでした。
ランド研究所が1955年に作成した秘密報告によれ
ば、領空侵犯に対するソ連の政策が変わったのはこ
の事件からで、ソ連は他国の航空機が領空に侵入し
た時は、ソ連領内に強制着陸させる、従わなかった
ら撃墜すると宣言したとされています。
▼スウェーデンからの情報
この事件に関する信頼できる証言の1つは、スウェ
ーデンからの高度の秘密情報源からのものでした。
スウェーデンの通信傍受基地はソ連戦闘機の交話を
傍受しており、戦闘機は目標を追尾し、撃墜するよ
う命じられていたのを記録していました。これを当
時の駐米スウェーデン大使が、米側に語った記録が
残っていたのです。大使はこの証言をする際、決し
てソ連に漏らさないで欲しい。スウェーデンがソ連
の通信を傍受していることを知られると困る、と述
べたそうです。
樺太で起きた大韓航空機撃墜事件で、自衛隊がソ連
戦闘機の通信を傍受していることを公表するかどう
か、政府内で論争があったことを想起させます。ど
この国でも、軍事通信の傍受は最高度の秘密活動で
す。
▼ソ連への高まる非難
この撃墜事件が起こると、米国のメデイアや政治家
の間にソ連に対する抗議の声が上りました。ニュー
ヨーク・ヘラルド・トリビューン紙は、民主党議員
マコーミック氏が、米国はソ連に対し厳しい外交的
手段をとり、駐ソ連米大使を召還するべきで、1937
年中国揚子江で起きたパネー号事件を思い出さなけ
ればならない、と主張したと報じました。
パネー号事件とは、1937年12月12日、日本軍の南京
攻撃から避難・脱出する外国人を乗せて南京上流に
碇泊していた米船パネー号が日本機の攻撃を受けて
沈没し、同船に乗船していた米将校、兵士、米大使
館員などから死者3人、重傷者48人が出た事件で、
日本軍は事実を認め、米政府に対し公式に謝罪しま
した。PB4Y2の撃墜は、パネー号と同じパターン
で、野蛮な攻撃が非武装の航空機に対して行なわれ
た事件だとマコーミック氏は主張したのです。
PB4Y2がソ連の主張どおり領空侵犯をしていたの
か、米空軍の保全部隊が傍受したソ連側のレーダー
航跡によれば、PB4Y2はラトビアから20~25マイル
離れたバルト海の公海上で撃墜されたことが示され
ていました。当時のラトビアは1944年にソ連に併合
され、ソ連領になっていました。
▼PB4Y2の搭載器材をめぐる米ソの軋轢
その後の数週間、米国内のメデイアはPB4Y2の秘密
の任務について明らかにすることに熱中しました。
ワシントン・ポストの記者は、「ソ連は米軍機が新
しい傍受器材を搭載していると信じていた。その器
材は以前よりも長距離の受信が可能だった」と報じ
ました。
コラムニストのドリュウ・パーソン氏は、ソ連はこ
の機が高出力のレーダーと電子機器を搭載し、ソ連
の着上陸演習と秘匿されたロケット発射テストをモ
ニターする能力があることを知っていたのだと言
い、ワシントン・ポスト紙は、PB4Y2は罠にかかっ
たのだと論評しました。
推測を含めて多くの論評がなされましたが、結局の
ところ判明した事実は、ソ連の情報機関が非武装の
米機の予想飛行ルートを前もって部内に通報してい
たこと、ソ連情報機関は米機が重要な情報収集機器
を搭載していると信じていたこと、ソ連戦闘機部隊
はPB4Y2をできれば強制着陸させ、これができなけ
れば撃墜するという方針だったことでした。
ソ連はPB4Y2を捕獲し、搭載している電子機器を
調査することを意図としたのですが、この試みは失
敗に終わり、かつ陸上で撃墜して電子機器を回収す
ることもできませんでした。しかし、ソ連情報機関
は米海軍機の飛行とその目的を何らかの手段で前も
って知り、戦闘機が待ち構えていたのです。ソ連情
報機関の能力を推測できる1つの事例です。
▼トルーマン大統領の偵察開始宣言
バルト海の事件が起きると、当時のトルーマン大統
領は直ちに対ソ連航空偵察を実行することを公式に
承認しました。欧州で東西間の緊張が高まっている
との認識があったからです。バルト海事件の2か月
後に朝鮮戦争が始まりましたが、この戦争が米ソ戦
に発展してしまうのではないかという危惧が西側陣
営の中で高まりました。次回に書きますが、米空軍
はソ連、中国の原爆による攻撃目標を定めるための
偵察活動を開始しました。この活動は、マッカーサ
ー元帥が罷免された原因となった中国東北地区への
原爆攻撃計画とは別の話です。
(つづく)
(にしやま・くにお)
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□著者略歴
西山邦夫(にしやま・くにお)
1936年生まれ。防衛大学校卒(4期・空)。
情報関係略歴:航空幕僚監部調査2課収集1班長、航
空総隊司令部情報課長、陸幕調査別室主任調整官、
航空自衛隊幹部学校主任教官。著書に『肥大化する
中国軍(空軍部分を執筆)』(晃洋書房、2012年)、
『中国をめぐる安全保障(空軍部分を執筆)』(ミ
ネルバ書房、2007年)。研究論文に『中国空軍の戦
力構成とドクトリン』『中国空軍のSu-30MKKとイン
ド空軍のSu-30MKI』『韓国空軍の増強と近代化』
『中露合同軍事演習』『中国の主要航空兵器の装備
化実績と将来予測』『中国空軍の戦力とドクトリン』
『チベットにおける中国の軍事態勢整備』など多数。
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