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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応
予備自衛官でもあります。
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「防衛予算から読み解く日本の防衛力」第二部の
四回目です。
きょうは番外編として、
新型コロナ感染に関する危機管理上、安全保障上の問題
について、市川さんのご高見をお届けします。
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防衛予算から読み解く日本の防衛力(25)
第2部 危機的状況にある日本の安全保障体制(4)
バランスを欠いた新型コロナ対策
市川文一(元武器学校長・陸将補)
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□はじめに
本メルマガの桜林氏のコーナーでも、新型コロナ
ウイルス(以下「新型コロナ」)感染拡大について
は何度か取りあげられていますが、現在のマスコミ
の報道、国民の反応、それに動かされる政府の対応
については危機感を感じます。そこで、今回は連載
をお休みして、閑話休題、新型コロナ感染に関する
危機管理上、安全保障上の問題について意見を述べ
たいと思います。
▼新型コロナの陰に隠れて猛威を振るうインフルエ
ンザ(以下「インフル」)
今は、何を見ても新型コロナの話題しかありませ
んが、近年、猛威を振るっているインフルも健在
(おかしな表現ですが)で、アメリカでは死者が2
万人を超えたと言われています。日本でも累計患者
数は約700万人と例年並みの感染者が発生しています。
また、今回、政府が休校に踏み切った各種学校の累
計患者数は35万人、累計学級閉鎖数は約2万クラス
となっています。
日本のインフルの感染者数は増加傾向にあり、こ
こ数年は10週間近くにわたって20万人の感染者が常
在する状況です。死者も2012年から1,000人を超え、
昨年は3,000人以上が死亡しています。新型コロナ
の患者数や死者と比較すると3~5桁の桁違いの多
さです。
新型コロナの場合、ワクチンも治療薬もないため
危機感が大きいとも思われますが、インフルの場合
もワクチンや治療薬の効果は限定的であり、それは、
毎年の感染者数の拡大にもあらわれています。新型
コロナもインフルも、感染拡大の予防や感染予防や
発症後の処置は大差ないため、新型コロナ対策で両
方の対策できるという見方もできますが、本当に、
両者を考慮しているかどうかは疑問となるところで
す。
▼話題性が優先される新型コロナ対策
少なくとも、現在のインフルの感染状況、日本国内
は当然として猛威を振るっているアメリカの状況に
ついて、国民に周知させることは重要なことです。
インフルエンザとの比較も踏まえれば、もっと冷静
な対応ができます。現在の状況は、話題性だけで新
型コロナに飛びついているとしか思えません。
マスコミもネットも話題性の高いものを優先します
から、政府はこれに動かされてはなりません。桜林
氏が話題としている病院船の件も、結局は思いつき
の政策です。政治家の多くが危機管理や安全保障の
素人です。こういう時こそNSC(国家安全保障会議)
が省庁間の枠を超えて政策をリードすべきです(危
機管理を専門としている防衛省を中心とすべき)。
安倍内閣は、桜の会問題で支持率を大きく下げた関
係もあるせいか、新型コロナ対策に、今になって目
立った動きをしようとしています。当然、感染拡大
防止策は重要であり、東京オリンピックを見据えた
政策は必要ですが、今回の休校施策についても突然
すぎます。
▼軍事的視点も踏まえた危機管理施策
ここまでの話で誤解を招きそうですが、新型コロ
ナ対策が不必要だということではありません。現状
は実際の事象に対して世の中が騒ぎすぎの状態で、
チョットしたデマでもパニックに陥ることを懸念し
ています。実際に、マスクの売り切れ状態は継続中
で、トイレットペーパーの買い占めも起こりました。
要するに危機のあおりすぎです。今の時点では、と
にかく冷静な対応が必要です。
今回の件は、過去の危機管理の対応の悪さに漏れ
ず全てが後手に回っています。軍事的視点も加え、
中国が発症の中心地として捉えるなら、生物兵器の
流出の可能性も踏まえ、最初に最悪を想定しなけれ
ばなりません。
まずは、入国制限と入国者の管理です。もしも、新
型コロナが強力な感染力を持つウイルスであったな
ら、今の感染拡大では収まりません。ウイルスの実
体がある程度わかるまでは徹底した管理が必要です。
同時に、国内でデマが広がらないように、情報管理
を徹底しなければなりません。
予断は許しませんが、現状であれば、インフルと
同程度の対応でも問題ないと思われます(現状のイ
ンフル対策そのものに問題があるともいえますが)。
今回の動きは、緩やかな対応から厳しい対応へと本
来のあり方とは全く逆になってしまったがために、
国民の不安をあおり、負担を増大させてしまいまし
た。
▼バランスの欠けた防衛力整備
また、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い自衛隊
が災害派遣活動をしていることは、「メルマガ軍事
情報」の他のコーナーでも取りあげられていますが、
最近は自衛隊の災害派遣の回数が加速度的に増加し
ています。災害が頻発しているのに加え、自治体や
政府が自衛隊を頼りすぎる(安易に使う)という面
があるのも間違いありません。
その是非はともかくとして、自衛隊の災害派遣に
期待をして軽易に使うならば、最低限、人員や装備
品を充実させるのが当然だと思いますが、実体は本
連載でも説明しているように寂しい限りです。今回
の派遣の中心になっている衛生科部隊についても、
当然のごとく、人員充足は低く、主要装備品である
救急車も充足向上どころか損耗更新も遅れる一方で
す。
宇宙、サイバー、電磁波や弾道ミサイル対応、最
新戦闘機などの最先端の装備品は、災害派遣には役
に立ちません。自衛隊の本来任務である国の防衛に
係わる防衛力に重点的に予算を投入するのは当然で
すが、災害派遣に使用する装備品とは兵站、後方支
援といわれる分野で不可欠な装備品です。最前線の
装備品の取得を重視するために、これらの装備品の
取得を軽視するのは、まさに兵站軽視です。
日本の安全保障環境を考え、最先端の軍事情勢に
追随することは非常に重要なことではありますが、
常に期待される災害派遣にも万全を期せる態勢作り
をすることも同じレベルで非常に重要な事項です。
その能力は防衛力の基盤となる兵站や後方支援の能
力に直結します。つまり、防衛力が機能するのに不
可欠な能力なのです。災害派遣にも支障を来す防衛
力とは、国の防衛にも支障を来すということです。
今の防衛力整備は、あまりにもバランスに欠け、そ
の負担を全て部隊に背負わせているとしか思えませ
ん。この状態を改善するには、防衛費を大幅に増額
するか、防衛費の配分を変えるしかありません。
□おわりに
今回の件でアメリカは徹底したウイルス流入対策を
していますが、最近米国出張から帰国した人の話に
よると、国内では新型コロナの話題はほとんどない
ようです。しかも、インフルで2万人の死者が出て
いるにもかかわらず、マスクをしている人は10人に
1人くらいだとか。やはり、文化の違いでしょうか。
(つづく)
(いちかわ・ふみかず)
市川さんへのメッセージ、ご意見・ご感想は、
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【著者紹介】
市川文一(いちかわ・ふみかず)
1961年生まれ。長野県出身。防衛大学校27期生。
1983年、陸上自衛隊に入隊。
2002年に1等陸佐に昇任後、第13後方支援隊長、統合
幕僚監部人事室長、装備施設本部武器課長、陸上幕
僚監部武器・化学課長、東北方面後方支援隊長、愛
知地方協力本部長として勤務、
2015年陸将補に昇任後、陸上自衛隊武器学校長の勤
務を最後に2017年8月に退官。退官後の9月には
YouTube「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演。
2019年9月に新刊『不思議で面白い陸戦兵器』を刊
行。
2017/9 YouTube「桜林美佐の国防ニュース最前線」
に出演。
https://youtu.be/6hPY3vgpidw
2017/10/21「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出
演
https://youtu.be/jESYh1lIeSE
2018/2/10「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
https://youtu.be/D_md0ZSJNds
2018/6/9「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
https://youtu.be/eHnT9jvqQjk
2018/10/6「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
https://youtu.be/aEOhNJ3twN0
著書に、
『猫でもわかる防衛論』(大陽出版)
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「不思議で面白い陸戦兵器」(並木書房)
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マガジン作りにご協力いただいた各位に、心から感
謝しています。
そして、メルマガを作る機会を与えてくれた祖国に、
心から感謝しています。ありがとうございました。
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