配信日時 2020/03/03 08:00

【短期連載 米国とイランはなぜ戦うのか?(5)】イランを追いつめたトランプ政権の「最強圧力」  菅原出(国際政治アナリスト・危機管理コンサルタント)

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応
予備自衛官でもあります。
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●なぜ米とイランは激しく対立するのか?
●米とイランの争いの歴史

を振り返り、

●トランプ政権の対イラン戦略と、それに対する
イランの抵抗戦略

を丹念に分析して、

今そこにある危機

の実相を解説した本です。

おススメの一冊です。

200202、派遣情報収集活動水上部隊が、現地に出立
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『米国とイランはなぜ戦うのか?』
 菅原出(著)
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新型コロナウイルスは、イランでも猛威を振るって
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の視野が広がるでしょう。


エンリケ


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●短期連載  米国とイランはなぜ戦うのか?(5)

イランを追いつめたトランプ政権の「最強圧力」

菅原出(国際政治アナリスト・危機管理コンサルタント)

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□はじめに

 イランで新型コロナウイルスの感染が拡大してい
る。イラン国内では3月1日時点で978人が感染し54人
が死亡したと伝えられている。またイラン経由で感
染したとみられる人がイラク、アフガニスタン、バ
ーレーン、クウェート、オマーン、レバノンやアラ
ブ首長国連邦(UAE)などで出ており、すでにクウ
ェートやオマーン、トルコなどはイランからの航空
便やイランへの渡航を制限し、イラク、トルコやパ
キスタンはイランとの陸の国境を一時閉鎖する措置
を発表している。

 イランでの同ウイルスの感染拡大は、長引く制裁
により医薬品が不足し、医療体制の脆弱ななかで深
刻化する可能性がある。また、巡礼者を含む近隣諸
国との人や物の往来が止まることは、ただでさえ米
国による経済制裁で厳しい経済状況がさらに悪化す
ることにつながり、政権に対するさらなる不満や批
判の拡大にもつながりかねない。


 さらにイラクやレバノンなどがイランからの入国
の制限やイランとの取引を削減することは、イラン
が近隣諸国との間で築いてきた反米抵抗のネットワ
ークの弱体化にもつながる可能性があり、今後の動
向に注意が必要である。


 2月6日に発売された拙著『米国とイランはなぜ
戦うのか?』では、“トランプ政権がもはや取り返
しのつかないところまでイランを追い込み、イラン
が生存をかけた危険な勝負に出ている”という現在
の危機の構図と背景を解説させていただいた。本連
載では、同書からそのエッセンスを読者の皆様にお
伝えさせていただいているが、連載第5回目は、20
19年に入って加速したトランプ政権の対イラン圧力
キャンペーンとイランの抵抗戦略を振り返ってみた
い。


▼イランを追いつめたトランプ政権の「最強圧力」


 トランプ大統領は2018年5月8日にイラン核合意か
らの離脱を宣言し、イランに対して「最強の経済制
裁を課す」として対イラン経済戦争を開始したが、
その効果は絶大だった。


 翌2019年春頃までにイランが支援するシリアの民
兵やレバノンの民兵組織ヒズボラの戦闘員の給与が
削減され、イラン革命防衛隊系の企業が受注して進
めていたシリア復興プロジェクトも資金難で中断さ
れるなど、制裁の影響がイラン系ネットワークの末
端にまで及び始めた。


 そして同年5月にトランプ政権は、一部の国々に
対して認めてきたイラン原油輸入の猶予措置も終了
させ、イラン原油の全面禁輸措置を発動。イラン経
済を完全に締め上げるまで圧力を強めたのであった。
しかし、原油の全面禁輸というかつてない域にまで
米国が踏み込んだことで、イランは猛反発し、それ
までの政策を大きく転換させることになった。


 前回号で触れたように、イランは当初、米国の圧
力戦略に過剰に反応することを避け、主に欧州諸国
と協力することで核合意を維持し、米国による経済
制裁を回避する方法を欧州勢や中国などがつくって
くれることを期待していた。


 しかしパワフルな米国を前に欧州勢はイランに対
する救済策をとれないなか、米国はイラン産原油の
全面禁輸を発動。このままでは潰されると危機感を
募らせたイランは、圧力に徹底的に抵抗し、積極的
に相手を揺さぶる作戦へと政策を転換させていった。


 イランのロウハニ大統領は2019年5月8日に核合意
の履行を一部停止する方針を表明し、「60日以内に
欧州などとの交渉に進展がなければ高濃縮ウランを
製造する」と警告。以降60日ごとに核合意の履行を
段階的に停止して少しずつ核開発を再開させ、欧州
諸国に圧力をかける作戦をとり出した。


 イランのロジックはシンプルである。核合意によ
って得られるはずのメリット、すなわち国際社会と
の経済関係の再開、その中でもイランの原油を世界
に販売できることが大きなメリットだったわけだが、
それが得られないのであれば、核合意を遵守しない。
また濃縮ウランの再開を含めて核開発を再開させる。
それが嫌なら米国の制裁を回避してイランの原油を
売れるような仕組みをつくれ、と主に欧州諸国に圧
力をかけたのであった。


 そしてその一方でイランは、米国に対して“我々
に圧力をかけるには代償が伴うことを分からせる”
ために、軍事的に抵抗する作戦を始めた。実際、こ
の5月を境に中東で危険な事件が頻発していった。

 5月12日にアラブ首長国連邦(UAE)のフジャイラ
沖でサウジの石油タンカーなど4隻が攻撃を受ける事
件が発生。14日にはサウジアラビア・リヤド州のパ
イプラインの圧送施設に無人機による攻撃がなされ
た。


 6月14日にはホルムズ海峡近くのオマーン湾で日
本の船舶を含む2隻の石油タンカーが攻撃を受けて
炎上。18日にはイラク北部モスルで米軍を狙ったロ
ケット弾攻撃。19日にはイラク南部バスラに進出す
る米石油会社エクソン社のオフィス近くにロケット
弾が撃ち込まれるなど、「石油関連」「米政府関
連」の標的が次々に攻撃を受けたのである。

 そして6月20日にイラン革命防衛隊は、「米海軍の
無人偵察機がイラン領空を侵犯した」として撃墜し
たことを発表するに至り、緊張はピークに達した。

 イランは、米国が仕掛ける圧力に対し、徹底的に
抵抗し、戦争の危機を高めることで、「戦争を回避
したい」トランプ大統領を追いつめ、「戦争か制裁
緩和か」の二者択一に追い込んで妥協を引き出そう
と、一か八かの賭けに出たようだった。

 トランプ大統領は、イランに圧力をかければ、イ
ランは最終的には膝を屈して新たな交渉に応じてく
ると考えていただけで、「圧力」をかけた結果「戦
争」に発展することを望んでいたわけではなかった。
むしろ、「中東から米軍を撤退させる」という公約
を選挙前までに実現させることを望んでいる。トラ
ンプ大統領にとってイランの抵抗は計算違いだった
はずである。

 トランプ大統領は、米軍の無人機が撃墜されたこ
とに対する報復としてイラン国内の3か所のターゲ
ットを空爆すべきとする閣僚たちに押され、一度は
攻撃を承認したものの、直前に攻撃命令を撤回して
いたことも、明らかになった。

 しかし、トランプ大統領が戦争を回避させるため
に「弱気を見せた」ことで、イランのとりわけ保守
強硬派は調子に乗り、さらに大胆な攻撃を仕掛ける
ようになる。

 次回はイランによるサウジ石油施設への「前代未
聞の攻撃」とその影響をみていきたい。


(つづく)



(すがわら・いずる)






●著者略歴
 
 菅原 出(すがわら・いずる)
国際政治アナリスト・危機管理コンサルタント
1969年生まれ、東京都出身。中央大学法学部政治学
科卒業後、オランダ・アムステルダム大学に留学、
国際関係学修士課程卒。東京財団リサーチフェロー、
英危機管理会社役員などを経て現職。合同会社グロ
ーバルリスク・アドバイザリー代表、NPO法人「海
外安全・危機管理の会(OSCMA)」代表理事も務め
る。著書に『外注される戦争』(草思社)、『戦争
詐欺師』(講談社)、『秘密戦争の司令官オバマ』
(並木書房)、『「イスラム国」と「恐怖の輸出」』
(講談社現代新書)などがある。
 

 
 
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