配信日時 2020/03/02 20:00

【戦略航空偵察(5)】第2次世界大戦終結と東西対立(冷戦)激化の経緯 西山邦夫(元空将補)

こんにちは、エンリケです。

「戦略航空偵察」五回目です。

じつに面白い内容です。


平戦時問わず行われている

情報戦

のひとつの姿がここにあります。

さっそくどうぞ


エンリケ



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戦略航空偵察(5)

第2次世界大戦終結と東西対立(冷戦)激化の経緯


西山邦夫(元空将補)
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□ご挨拶

 今回から第2次大戦後に始まった冷戦時代の戦略
航空偵察について進めていきたいと思います。偵察
機にとって、この時代は冷戦などではなく、銃火が
飛び交う熱い戦いが繰り広げられていました。1946
年から1991年までの冷戦間、ソ連、中国、キュー
バ、東独、朝鮮半島などで実に39回の偵察機撃墜が
あり、数百名の乗員の命が失われています。日本周
辺でも7件の撃墜事件が発生していました。これら
の秘匿された偵察活動と、数々の悲劇は報道される
ことはありませんでした。

▼冷戦の始まり

 第2次世界大戦が1945年8月に日本の敗戦で終結
し、世界は紛争の種がなくなったかと思われました
が、そうではありませんでした。終戦前の同年4月、
米国の情報機関OSS(The Office of Strategic
Service)は次のような予測をしていました。

「ソ連は今次大戦が終われば、欧州とアジアで最も
強力な国家として君臨する恐れがある。軍事力にお
いても米国に迫るかも知れない」

 この予測はほぼ当たりました。第2次世界大戦の
勝者、米国は新たな挑戦者ソ連と対峙することにな
ったのです。ドイツが降伏した直後からスターリン
は欧州における影響力の強化に乗り出しました。大
戦時に召集された百万もの軍人たちは武装を解かれ
ず、東欧諸国(ハンガリー、ルーマニア、ブルガリ
ア、チェコスロバキア)に駐留し、衛星国としまし
た。さらにトルコ、イラン、ギリシャなどにも食指
を伸ばしたのです。米国と西欧諸国が、脅威を感じ
たのは当然のことでした。

 極東では、戦後処理を取り決めた1945年2月のヤ
ルタ会談で「ソ連はドイツの降伏後3か月以内に対
日参戦する」と決議されていましたが、ソ連は日本
に対する戦争をなかなか始めませんでした。広島、
長崎に対する原爆投下で日本の敗色が深まると、ソ
連は日本に宣戦布告し、直ちに満州、千島列島へ侵
入を開始しました。これを見た米国の指導者たち
は、日本占領の際の占領地域の分割で、ソ連が加わ
って来るのを警戒したのです。

▼ソ連の脅威の拡大

 戦争で疲弊した西欧諸国は、ソ連の浸透に対抗す
る術がなく、米国に頼るしかありませんでした。そ
の米国も1945年末には戦時の1,250万の兵力を150万
にまで削減しており、軍事力でソ連に対抗する方策
は、原爆に依存するしかありませんでした。当時、
米統合幕僚部(JCS)の報告書『ソ連の限定的な攻
撃に対する戦略的ぜい弱性』は、もし米ソ戦争が起
きたら、ソ連の20の主要都市を原爆攻撃するとして
いました。

▼鉄のカーテン

 ところで、米国と西欧諸国はソ連の意図がどこに
あるのか、推測しかねていましたが、1946年3月に
英首相のウィンストン・チャーチルが、ソ連は鉄の
カーテンを敷いているとの有名な演説を行ない、ソ
連について所信を述べました。すなわち、「鉄のカ
ーテンがバルト海からアドリア海のトリエステまで
欧州大陸を横断して下ろされた。その後ろには多く
の歴史ある国々がある。モスクワはこれらの国に対
し厳しい統制を加え、支配している」と。

 敷かれた鉄のカーテンの向こう側はどうなってい
るのか、信じられないことですが、米国はソ連の正
確な地図を持たず、戦略的な軍事施設のある場所も
知らなかったのです。唯一持っていたのは、第2次
世界大戦中にドイツ空軍が撮影し、戦後米軍が接収
したソ連西部の航空写真でした。

 米国は、ソ連の正確な情報を得ることに躍起にな
りましたが、スパイを送りこむことによるHUMINT
(ヒューミント、人を介して収集する情報)収集の
試みは、ソ連防諜組織の巧妙な抵抗で失敗に帰しま
した。なんとか成果を得られたのが、鉄のカーテン
の外側から行なった空中からの偵察で、信号情報
(SIGINT、シギント)と呼ばれる通信やレーダー電
波を傍受することにより得られる情報でした。

▼ソ連の原爆開発と戦略爆撃機部隊の建設

 ソ連の最高指導者スターリンは、日本に落とされ
た2発の原爆を見て、原爆の開発と、戦略爆撃機部
隊の建設を最優先課題に位置づけ、これを推進しま
した。ソ連は1949年8月にカザフスタンにあるセミ
パラチンスク核実験場で最初の原爆実験に成功しま
したが、これは米国を驚かせました。予測より3~
5年も早かったのです。実験により空中に飛び散っ
た放射線粒子を、米空軍偵察機WB-29が採集に成功
し、実験の成功が裏付けられました。

 さらにモスクワに駐在する米大使館付武官が、モ
スクワ近郊のツシノ飛行場で新型長距離爆撃機Tu-4
ブル(米B‐29のコピーとされている爆撃機)を視
認したことから、核実験の成功と併せ、米国はソ連
の核攻撃力が造成・強化されていると危惧しまし
た。米情報機関は、ソ連の核戦力を評価し、それが
米国を攻撃する力がどれくらいあるのか、見積らな
ければならない立場に置かれたのです。しかし、鉄
のカーテンが邪魔して必要な情報を得ることは困難
でした。

▼中華人民共和国の樹立

 こうした状況の中で、アジアでは中国共産党が国
民党政府を駆逐して、1949年に中華人民共和国を樹
立しましたが、これは米国にとって大きな痛手でし
た。共産主義の波がひたひたと自由陣営を浸食し、
これが大きな流れとなったと感じられたのです。特
にソ連の意図の判断のためには、ますます精度の高
い情報が求められました。

▼朝鮮戦争の勃発

さらに情勢に混迷を深めたのが1950年6月に始まっ
た朝鮮戦争です。北朝鮮軍の侵略を阻止するべく、
米空軍は迅速に介入しましたが、北朝鮮軍の勢いは
なかなか止まりません。米国は陸軍の大部隊を投入
し、北朝鮮軍の南下阻止を図りましたが、とうとう
釜山の橋頭保まで追い詰められました。米軍は起死
回生の仁川上陸作戦を実施し、北朝鮮軍を分断、戦
況を転換しました。その後、中国軍が戦闘に加入
し、戦況は一進一退の状況となり、1953年にようや
く休戦協定が結ばれました。

▼朝鮮戦争における偵察活動の特徴

 朝鮮戦争の間、当初米軍はソ連と中国の内陸の状
況を偵察する手段は、高度1万m近辺を飛行する偵察
機、たとえばB-29の偵察型であるRB-29、ジェット・
エンジン搭載の最初の爆撃機であるB-45の偵察型
RB-45などを米本土から緊急に空輸し、偵察部隊を
構築してしのぎました。これらの偵察機はその性能
上MiG-15戦闘機の脅威が大きく、時たま撃墜される
こともありました。しかし、情報収集の必要性は大
きく、リスクを冒しても朝鮮半島上空のみならず、
ソ連、中国々内の上空飛行を実行しなければなりま
せんでした。



(つづく)


(にしやま・くにお)


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□著者略歴

西山邦夫(にしやま・くにお)
1936年生まれ。防衛大学校卒(4期・空)。
情報関係略歴:航空幕僚監部調査2課収集1班長、航
空総隊司令部情報課長、陸幕調査別室主任調整官、
航空自衛隊幹部学校主任教官。著書に『肥大化する
中国軍(空軍部分を執筆)』(晃洋書房、2012年)、
『中国をめぐる安全保障(空軍部分を執筆)』(ミ
ネルバ書房、2007年)。研究論文に『中国空軍の戦
力構成とドクトリン』『中国空軍のSu-30MKKとイン
ド空軍のSu-30MKI』『韓国空軍の増強と近代化』
『中露合同軍事演習』『中国の主要航空兵器の装備
化実績と将来予測』『中国空軍の戦力とドクトリン』
『チベットにおける中国の軍事態勢整備』など多数。


 
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