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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応
予備自衛官でもあります。
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防衛予算から読み解く日本の防衛力(24)
第2部 危機的状況にある日本の安全保障体制(3)
34年間も続いた「基盤的防衛力構想」の大いなる矛盾
市川文一(元武器学校長・陸将補)
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□はじめに
前回の「情けは人のためならず」と同様に「君子、
豹変する」も、本来の意味は一般的に使われている
意味と違うようです。どちらかというと、「君子、
豹変する」の場合は「行動や態度、考え方がガラッ
と変わる」という間違った使われ方が一般化してし
まっています。このように書いている筆者自身も、
わかっていながら間違った使い方をよくします。
「君子、豹変する」は、「君子(立派な人)は、過
ちをしても直ぐに改めることができる」「君子は時
代や環境の変化に対応して変わることができる」と
いう意味で一般的には使われます。これも、意味を
限定しすぎていて本来の意味とは変わってしまった
ようです。「君子、豹変する」は、のちに「小人
(しょうじん)は面(おもて)を革(あらた)む」
と続くもので、中国の古典「易経」にあります。
本来は、「君子はヒョウ柄のように鮮やかに変化
するが、小人(ダメな人)は上面だけしか変わらな
い」という幅広い意味です。一般的な使われ方が間
違っているわけではありませんが、「本質的な変化
か表面的な変化か」という本来の意味が失われてし
まっています。
唐突に、ことわざ、格言の話になりましたが、時
代、時間の流れの中で本来の意味が変わってしまう
ことはよくあることで、日本の安全保障政策におい
ては「基盤的防衛力構想」がその代表です。民主党
政権時に「基盤的防衛力構想」から脱却して「動的
防衛力」に移行したため、基盤的防衛力とは静的防
衛力とのイメージが定着してしまったようです。
民主党政権下での22大綱の策定まで遡って「基盤的
防衛力構想」の本質を再認識しなければ、防衛予算
に係わる各種問題を解決することは困難です。今回
は「基盤的防衛力構想」の本質を明確にします。
★ 訂正とお詫び
今まで何回か使ってきた中期防の呼称が間違って
いました。31年度以降の大綱は策定年度を冠して
「30大綱」と呼称しますが、31年度(令和元年度)
から5年度までの中期防は初年度を冠して「31中期防」
と呼称します。
これまで、大綱も中期防も策定年度で30大綱、30
中期防と呼称していましたが、誤りですので訂正し
ます。申し訳ありませんでした。
▼ 51大綱と「基盤的防衛力構想」(その2)
10年前に大綱から姿を消したため完全に忘れ去ら
れた「基盤的防衛力構想」ですが、昭和51年から34
年間という長きにわたり、非常に概念的でわかりに
くい構想が、日本の防衛力整備の基本であった訳で
す。
安全保障や軍事に詳しい人でも、否、詳しい人ほ
ど、理解できない構想ですが、言葉を換えて、わか
りやすくポイントを抽出します。
(1)日本に対する軍事的脅威には対抗しない。
つまり、日本の安全保障環境に左右されない。
(2)限定的かつ小規模な侵略は独力で排除できる防
衛力を整備する(これが独立国として必要最小限の
基盤的な防衛力)。
(3)限定的かつ小規模な侵略、必要最小限の基盤的
な防衛力については定義されていないが、同年度に
閣議決定された防衛費のGDP1%枠と一体化されてお
り、GDP1%以内で整備できる防衛力が基盤的な防衛
力である。
(4)基盤的な防衛力で排除できない脅威が現れた場
合、基盤的な防衛力を基本として防衛力をエキスパ
ンドする(緊急募集による自衛官の増員と緊急増産
と輸入による装備品の増加等)。
(5)米軍の増援までは耐え忍び、米軍の戦力を持っ
て脅威を排除する
これを整理すると、「日本の安全保障環境に係わ
らず、GDP1%以内の予算で防衛力を整備し、保有す
る防衛力で対応できない侵略に対しては防衛力を急
速拡大してこれを阻止し、米軍の増援を待ってこれ
を排除する」ということになります。GDP1%という
予算ありき、防衛力を急速拡大できるという楽観的
な机上論、米軍の増援に期待するという他力本願の
構想が「基盤的防衛力構想」です。
なお、GDP1%については大綱と切り離されて、
別に閣議決定されたものですが、当時の国防会議に
おいて「基盤的防衛力構想」とセットで議論されて
いるように、基盤的防衛力の規模がGDP1%以内を想
定していたのは明らかです。
GDP1%以内の防衛力の理由付けとしてあるのが基盤
的防衛力です。そうでなければ、限定的かつ小規模
な侵略な侵略とはどの程度の部隊規模の侵略なのか、
独立国として必要最小限な防衛力、力の空白になら
ない防衛力の規模はどの程度なのか、ということを
明らかにしなければ具体的な防衛力整備はできませ
ん。
極論するならば、「基盤的防衛力構想」とはGDP1%
以内の防衛力を正当化するためだけの日本の安全保
障を度外視した、非論理的で矛盾に満ちた構想であ
るといえます。
軍事的脅威に対抗しないということは、軍事的脅威
の「あるなし、大小」は防衛力整備に影響しないと
いうことですが、軍事的脅威があるからこそ、防衛
力(軍事力)を保有するのです。脅威がなければ、
防衛力は国家の財政を圧迫する無駄な存在と呼ぶ以
外にはありません。脅威があれば、脅威に対抗でき
る(軍事力の使用を抑止できる、又は対抗できると
相手に思わせる)防衛力を持たなければ意味があり
ません。
国力の関係で保有できる防衛力には限界があります
が、国家予算のバランスの中で許される限りで我が
国に対する軍事的脅威に最大限対抗できる防衛力を
整備しなければなりません。そもそもが、我が国に
対する軍事的脅威に直接対抗できない防衛力では、
自らが力の空白となって我が国周辺地域における不
安定要因となってしまいます。
侵略の規模は侵略国の能力と意思により決まるもの
であり、限定的かつ小規模を前提とすることは誤り
です。限定的かつ小規模な侵略を想定するなら情勢
見積もりも不要ですが、「基盤的防衛力構想」から
脱却する22大綱までの間、防衛白書においては多く
のページを割いて国際情勢、軍事情勢について記述
されています。
限定的かつ小規模以上の侵略に対しては、防衛力の
エキスパンドが必要ですが、予備戦力の確保(予備
自衛官の人員数)は限定的で装備品の緊急増産に関
しては何も手を付けられていません。まさに、絵に
描いた餅です。
「51大綱」と「GDP1%枠」が三木政権で閣議決定さ
れてから10年後、中曽根政権により「GDP1%枠」は
撤廃されました。しかしながら、「基盤的防衛力構
想」が「GDP1%枠」を考えの基本としている限り、
防衛力整備の考え方は変わりません。つまりは、予
算ありきの防衛力です。そしてその後も、平成22年
の大綱改定まで、「基盤的防衛力構想」は長い間日
本の防衛力整備の考え方として守り続けられました。
(つづく)
(いちかわ・ふみかず)
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【著者紹介】
市川文一(いちかわ・ふみかず)
1961年生まれ。長野県出身。防衛大学校27期生。
1983年、陸上自衛隊に入隊。
2002年に1等陸佐に昇任後、第13後方支援隊長、統合
幕僚監部人事室長、装備施設本部武器課長、陸上幕
僚監部武器・化学課長、東北方面後方支援隊長、愛
知地方協力本部長として勤務、
2015年陸将補に昇任後、陸上自衛隊武器学校長の勤
務を最後に2017年8月に退官。退官後の9月には
YouTube「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演。
2019年9月に新刊『不思議で面白い陸戦兵器』を刊
行。
2017/9 YouTube「桜林美佐の国防ニュース最前線」
に出演。
https://youtu.be/6hPY3vgpidw
2017/10/21「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出
演
https://youtu.be/jESYh1lIeSE
2018/2/10「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
https://youtu.be/D_md0ZSJNds
2018/6/9「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
https://youtu.be/eHnT9jvqQjk
2018/10/6「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
https://youtu.be/aEOhNJ3twN0
著書に、
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