こんにちは、エンリケです。
「戦略航空偵察」四回目です。
空の最前線で何が行われているかよくわかる内容です。
同じものを見ても聞いても
プロと素人では見ているもの、見えているものが全
く違う。
プロというものはすごいものだ、と
あらためて感じさせてくれる内容です。
さっそくどうぞ
エンリケ
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戦略航空偵察(4)
偵察機の飛行安全
西山邦夫(元空将補)
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□ご挨拶
戦略的な偵察を目的とする偵察機は国際法を遵守
し、公海上か友好国の上空を飛行して、対象国の領
空を侵犯することを避けます。とは言え、対象とす
る国の状況、特に軍事に関する情報を収集するため
に飛行するのですから、その国に接近して飛行する
必要があります。対象国はこれを嫌がって飛行を妨
害したり、さまざまな嫌がらせをしたりします。今
回は、その実態や偵察機側の対処などを書いてみま
す。
▼自衛隊偵察機、米軍偵察機に対する中国戦闘機の
異常接近飛行
2014年5月11日、防衛省は東シナ海の公海上空で午
前11時ごろと正午ごろ、中国のSu27戦闘機2機が航
空自衛隊の電子測定機YS11EBと海上自衛隊の画像情
報収集機OP3Cに異常接近したと発表しました。
YS-11EBに約30メートル、OP3Cに約45メートルまで
近づいたといいます。
この2機の自衛隊機は5月20日から始まった中露海軍
合同軍事演習「NAVAL INTERACTION-14(海上連合20
14)」関連の情報収集活動の任務に就いていたと思
われます。中露の合同演習については、のちの回で
触れることにしますが、このような対象国が見せた
くない、偵察をさせたくないと考えるような演習な
どの場合は、上記のような威嚇を伴った危険な接近
飛行があることも想定しておかなければなりません。
米軍偵察機に対する接近飛行も頻繁に行なわれて
おり、米紙「ワシントン・ポスト」などによると、
2017年5月17日には東シナ海上空を飛行中の米軍偵察
機WC-135に中国軍戦闘機Su-30が異常接近し、偵察機
の上で背面飛行をし、飛行を妨害しました。同年7月
24日、中国の戦闘機「殲10」2機のうち1機が米海軍
偵察機EP-3に進路変更を強要するような距離まで近づ
いたといいます。場所は青島市の沖合148kmの地点で
した。米軍機は南シナ海、東シナ海だけでなく、黄
海まで偵察範囲を拡げていますので、中国も神経質
になっています。
▼海上自衛隊機P-1に対する韓国駆逐艦の火器管制
レーダー波放射事件
2018年12月20日、日本海で海上自衛隊哨戒機P-1
に対し、韓国駆逐艦が火器管制レーダー波を放射し
た事件が発生しました。軍事専門的にはあまりにも
明らかな火器管制レーダーの使用でしたが、韓国側
はこれを認めませんでした。その上、哨戒機が威嚇
行動をとったと言い、今後そのような低空飛行で接
近した場合は強力な対応をとると国防相が言明しま
した。日本の自衛隊と韓国軍は敵対している訳では
なく、今後とも協力していくべき関係にあります。
国際法を守り、適正に飛行している海自哨戒機の運
用に不測の事態を及ぼすような危険な行動は誠に理
不尽なことです。
▼通信情報(COMINT)の重要性
最近も活発な活動を続けている米空軍RC-135には
2名のパイロット、2名の航法士、21~27名の収集操
作員が搭乗しているとされています。操作員の中に
は通信情報(COMINT)を傍受する人員も含まれてい
ます。この要員は偵察の対象とする国がその国の言
葉で通信するのを傍受するのが任務です。傍受する
通信内容の中には、対象国がスクランブルさせた戦
闘機と地上管制サイト、あるいは戦闘機間の通話な
どがあり、それにより、相手の戦闘機がいつ、どこ
の基地から発進し、どちら方向から何分後に出現す
るか推定できます。余裕をもって危険を避けるため
には大切な情報です。
2011年6月、南シナ海で偵察行動中の米海軍偵察機
EP-3が、スクランブルして来たF-8戦闘機に接触さ
れ、機体が損傷したため海南島の飛行場に緊急着陸
した事例がありました。EP-3は飛行中に、中国霊水
基地から戦闘機がスクランブルしたとの通信を傍受
していました。戦闘機の接近を警戒していたところ
、
約10分後に2機のF-8戦闘機が約1マイルのところから
接近して来るのを視認できました。
EP-3は中国の防空通信をしっかりとモニターしてい
たのです。スクランブルして来た機の予測ができれ
ば、慌てずにすみますし、通信系を確認し、防空態
勢などの情報も得られます。接近して来たF-8戦闘機
はEP-3のプロペラで尾翼を切断され、墜落したそう
ですから、操縦が下手だったのでしょう、偵察機が
そこまで想定して飛行しなければならないとは、難
儀なことです。
▼傍受要員の養成
無線通信を傍受して即座に内容を理解できるような
能力を持った語学要員を育てるためには、かなりの
年数が必要なのはご理解いただけるでしょう。1983
年に起きた樺太沖の大韓航空機撃墜事件では、稚内
の自衛隊傍受サイトが傍受したソ連戦闘機の交話が
国連安保理事会で公表されました。ロシア語の会話
を聞いて理解できる語学要員を自衛隊は育てていた
のです。当時の後藤田官房長官は自衛隊の能力が明
らかになるとして公表に反対でしたが、中曽根首相
が決断して公表に踏み切りました。
電波の収集をする要員も同様にベテランになるまで
年数がかかります。傍受した電波が重要な電波であ
ることを適切に判断し、記録しなければなりません。
飛行任務が終了してからが、傍受した信号の分析作
業が始まります。データベースの作成、更新など大
変な作業が待っています。通信内容の分析も大切で
す。一例として、通信網の構成などを探れば、指揮
系統などが分かります。収集したデータを分析する
作業がしっかり行なわれなければ、偵察飛行をする
意味がないのです。
▼救難態勢
偵察機を安全に飛行させるには、考慮するべき問題
がいくつかあります。その1つが救難態勢です。偵
察飛行は民間機の飛行とは違い、なにがしかのリス
クが伴います。自衛隊機に対しても、前述のように
危険な接近飛行が行なわれていますから、万一にで
も事故が起こり、不時着するようなことはあり得な
いとは言えません。
自衛隊の偵察機の場合も、自衛隊の救難活動が可能
な範囲で活動するのか、多少のリスクは覚悟して遠
くまで出ていくのか、救難ヘリコプターはどの範囲
まで期待できるのか…等々、綿密な検討がなされ、
対策を作っておかなければなりません。その上で、
偵察飛行が行なわれるのです。
(つづく)
(にしやま・くにお)
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□著者略歴
西山邦夫(にしやま・くにお)
1936年生まれ。防衛大学校卒(4期・空)。
情報関係略歴:航空幕僚監部調査2課収集1班長、航
空総隊司令部情報課長、陸幕調査別室主任調整官、
航空自衛隊幹部学校主任教官。著書に『肥大化する
中国軍(空軍部分を執筆)』(晃洋書房、2012年)、
『中国をめぐる安全保障(空軍部分を執筆)』(ミ
ネルバ書房、2007年)。研究論文に『中国空軍の戦
力構成とドクトリン』『中国空軍のSu-30MKKとイン
ド空軍のSu-30MKI』『韓国空軍の増強と近代化』
『中露合同軍事演習』『中国の主要航空兵器の装備
化実績と将来予測』『中国空軍の戦力とドクトリン』
『チベットにおける中国の軍事態勢整備』など多数。
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