こんにちは、エンリケです。
元陸将 元陸幕長・火箱さんの半生を辿る
「神は賽子を振らないー元
陸上自衛隊幕僚長火箱芳文の半生―」
のつづきです。
過酷な幹部レンジャー課程への挑戦。
その過酷さは、想像とは違うものでした。
さっそくどうぞ
エンリケ
「ライター・渡邉陽子のコラム」バックナンバー
https://okigunnji.com/watanabe/
ご意見・ご感想はコチラから
↓
https://okigunnji.com/url/7/
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
『ライター・渡邉陽子のコラム (266)
―神は賽子を振らない
第32代陸上幕僚長火箱芳文の半生(8)―
渡邉陽子
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
こんばんは。渡邉陽子です。
今週も「PANZER」に連載中の元陸上幕僚長火箱芳文氏の半生を振り
返る「神は賽子を振らない-第32代陸上幕僚長 火箱芳文の半生-」
の最初の赴任地、沖縄時代のお話です。
今回は、空挺基本降下課程と肉体の限界に挑んだ幹部レンジャー課
程についてご紹介します。
次週からは新連載の予定です。
■神は賽子を振らない 第32代陸上幕僚長火箱芳文の半生(8)
沖縄で過ごした3年の間に、火箱はBOC(幹部初級課程)、空挺基
本降下課程、幹部レンジャー課程を修了している。沖縄の暖かい陽
気が合ったのか、幹候時代に悩まされた膝もすっかりよくなり、存
分に体を動かせる状態になっていた。体力検定はもともと1級だっ
たが、小隊長時代は満点に近い1級取得と、体力的にはMAXの状態
だった。
初級幹部必須のBOCを修了した程度では、指揮の面で自信を持つま
でには到底いたらない。しかし現実にはすでに部下の命を預かる立
場である。自分の支えとなり柱となるものが欲しいと考えた火箱に
とって、幹候時代から抱いていた「空挺の基本降下課程とレンジャ
ーは絶対やる」という思いを実行するのは自然な流れだった。
まずは空挺の基本降下課程に進んだ。訓練は厳しいものだったが、
恐怖心や緊張感は基本的に飛び出すときと着地するときはあるもの
の、なんとなくもの足りなさを感じた。空挺徽章を手に入れてもや
り遂げたという大きな達成感までにはいたらなかったので、レンジ
ャー課程にも挑戦することにした。
上司は「空挺に行ったから、レンジャーはもういいだろう?」と渋
った。ちょうどこのとき、火箱には英語課程で教育を受ける話も来
ていたからだ。しかし気力体力がみなぎっていた彼は、自分の心身
の限界を追究したいという思いから迷わずレンジャー課程を選んだ。
もしもあのとき英語課程を選択していたら、もう少し英語が話せる
ようになっていたかもしれないと思うこともある。
幹部レンジャー課程は予想通り厳しく苦しいものだったが、最初の
頃はまだ余裕も自信もあった。最年長だったので学生長に命じられ
たがそれを重荷に感じることもなく、前半の基本行動はどれも一発
でクリアしていた。後から振り返れば、当時は自信が過信となり、
天狗になっていたのかもしれないとわかるが、レンジャー課程を順
調にこなしていたリアルタイムでは、そんな自分に気づいていなか
った。しかし教官はそんなおごりを見逃すわけがなかった。
朝3時に起こされ、すぐさまその日付与された状況に対する計画を
立て、慌ただしく出発した日のことだ。「飯を食って来い」と指示
されたものの、時間に追われていた火箱は「1食抜くくらいなんて
ことはない」と朝食を取らずに出発した。
大雨が降るなか、重い背嚢を背負いつつ山を登り敵通信所を襲撃し、
また山を下りて今度は橋梁を爆破する。このあたりまでは「せいぜ
い一晩くらいの行程だな」と読んでいた火箱の予想通りで、内心
「今日はこれで終わりだろう」と思った。
ところが状況は終了せず、教官が交代しているではないか(教官や
助教は8時間ごとに交代する)。つまりこの先、さらに8時間は状
況が続くかもしれないということだ。
「あれ、おかしいな。まだやるのか?」
そう思った火箱は、このとき少しばかり気を抜いていた。「俺の時
代」と言わんばかりにぐいぐい行く学生にお灸をすえるのが教官た
ちの役目だ。間違いなくこのとき、火箱はターゲットとしてロック
オンされていた。
一度は降りた山に再び登り始めたが、今度は雨どころかカンカン照
りの晴天である。暑さに体力を奪われ周りは次から次へとばたばた
倒れていく。火箱はなんとか倒れた学生の荷物を持って歩いたが、
このときになって前日の朝食を抜いたことが響き、次第に体に力が
入らなくなった。
ひどく喉も乾いているが水筒に残された水はごくわずか。目がチカ
チカして、貴重な食糧である乾パンを食べようとしてもまったく唾
が出ないので飲み込めず、ぽろぽろと口からこぼれ落ちてしまう。
脱水症状はさらに進み、視野まで狭くなってきた。
夕方にようやく状況が終了し、なんとかぎりぎり持ちこたえた火箱
は「気をつけ」と大声で号令をかけようとした。ところが意志に反
して弱々しいかすれ声しか出ない。
富士学校に戻ると左右から「どうした、死人のような顔してるぞ」
と声をかけられたので鏡を見れば、そこには自分でもぎょっとする
ほど頬がこけ、形相の変わった顔があった。
さらに風呂に入ろうと服を脱いだところ、自分の身になにが起きた
のかと動揺するほど全身が縮んでいた。太腿、胸筋は見たことがな
いほど細くなっていて、体重も72キロから61キロになっていた。わ
ずか2日間で11キロ分の水分が抜けたのである。
それほどまでに脱水がひどかったわけで、この後「水を飲んでも飲
んでもどんどん入っていく」「いくらでもがんがん食べられる」と
いう夕食を経て、翌日にはみごとに復活、体重も体型も元通りにな
っていた。
しかし軽い気持ちで「1食ぐらい抜いても大丈夫」と思ってしまっ
たことを教訓とし、それ以降の想定では時間がなくともロッカーに
入れておいたバナナを飲み込みながら支度をするようになった。教
官たちの「火箱の鼻っ面をへし折る」という思惑は成功しただけで
なく、当人に多くのことを学ばせ、レンジャー教官となった暁には
貴重な経験として生かされることとなった。
空挺基本降下課程と幹部レンジャー課程を修了した事実は、まだ経
験値の少ない初級幹部である火箱にとって大きな支えとなった。特
に辛酸をなめたレンジャーは思い出も色濃く、苦楽を共にした仲間
と会うときは、今でも当時の想定の話で大いに盛り上がる。
(つづく)
(わたなべ・ようこ)
「神は賽子を振らないー元陸上自衛隊幕僚長火箱芳文の半生―」
http://okigunnji.com/watanabe/category1/category45/
※現在連載中
「PANZER」1月号
「神は賽子を振らない」第9回
https://amzn.to/33CaB8Y
「正論」12月号
「自衛隊あってのオリンピック」第6回
https://amzn.to/31UaMf4
「ライター・渡邉陽子のコラム」バックナンバー
https://okigunnji.com/watanabe/
ご意見・ご感想はコチラから
↓
http://okigunnji.com/url/7/
□著者略歴
渡邉陽子(わたなべ・ようこ)
神奈川県出身。大学卒業後、IT企業、編集プロダクション勤
務を経て2001年よりフリーランス。2003年から月刊
『セキュリタリアン』『MAMOR』などに寄稿。
現在は自衛隊関連の情報誌などで記事を発表。メルマガ「軍事
情報」で自衛隊関連の記事を配信中。
2016年6月、デビュー作
『オリンピックと自衛隊 1964-2020』を刊行。
PS
弊マガジンへのご意見、投稿は、投稿者氏名等の個人情報を伏せ
たうえで、メルマガ誌上及びメールマガジン「軍事情報」が主催
運営するインターネット上のサービス(携帯サイトを含む)で紹
介させて頂くことがございます。あらかじめご了承ください。
最後まで読んでくださったあなたに、心から感謝しています。
マガジン作りにご協力いただいた各位に、心から感謝しています。
そして、メルマガを作る機会を与えてくれた祖国に、心から感謝
しています。ありがとうございました。
----------------------------------------
メールマガジン「軍事情報」
発行:おきらく軍事研究会
(代表・エンリケ航海王子)
メインサイト:
https://okigunnji.com/
問い合わせはこちら:
http://okigunnji.com/url/7/
メールアドレス:
okirakumagmag■■gmail.com(■■を@に
置き換えてください)
----------------------------------------
●配信停止はこちらから
https://1lejend.com/d.php?t=test&m=example%40example.com
<丸谷 元人の講演録&電子書籍>
謀略・洗脳・支配 世界的企業のテロ対策のプロが明かす…
知ってはいけない「世界の裏側」を見る
http://okigunnji.com/url/13/
---------------------
投稿文の著作権は各投稿者に帰属します。
その他すべての文章・記事の著作権は
メールマガジン「軍事情報」発行人に帰
属します。
Copyright(c) 2000-2020 Gunjijouhou.All rights reserved