配信日時 2020/02/19 20:00

【防衛予算から読み解く日本の防衛力(23)】 第2部 危機的状況にある日本の安全保障体制(2) 今も亡霊のように安全保障政策に影響を与える「基盤的防衛力構想」   市川文一(元武器学校長・陸将補) 市川文一(元武器学校長・陸将補)

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応
予備自衛官でもあります。
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「防衛予算から読み解く日本の防衛力」第二部の
ニ回目です。

種々考えさせられるところ多い内容です。

冒頭文も面白いですね。

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防衛予算から読み解く日本の防衛力(23)
第2部 危機的状況にある日本の安全保障体制(2)

今も亡霊のように安全保障政策に影響を
与える「基盤的防衛力構想」

市川文一(元武器学校長・陸将補)
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□はじめに

 格言や名言、ことわざの中には、本来の意味とは
違う意味で使われるのが一般化したものや、間違っ
て使われることが多いものがあります。その代表的
なものが「情けは人のためならず」や「君子、豹変
する」です。

「情けは人のためならず」は、「人に情けをかける
のは、その人のためになるばかりでなく、やがては
めぐりめぐって自分も情けをかけられ、自分のため
になる」という意味で使われますが、「情けをかけ
るのは、その人のためにならない」という間違った
使われ方もします。

 しかし、この正しいとする使われ方も本来の意味
とは違うらしいのです。本来の意味とは、「他人に
情けをかける、そのことで自分も豊かな気持ちにな
れる。立派な人格が形成される」ということです。
キリスト教でいう「隣人を愛せよと」と近い意味で
す。

 ことわざ、格言などは、宗教的な教えや論語、孟
子などの中国の古典から取り出されたものが多いの
で、「情けは人のためならず」も現在使われている
意味とは違うものだったと考えるのが正しいと思わ
れます。今の使われ方であれば、将来に自分への利
益を期待するもので人間の欲に訴えかけるものです
から、「教え」としてはふさわしくありません。

 宗教的な教えや論語などの古典の意味するところ
は難しいことが多く、使われているうちに一般に理
解できる内容に変質してくるのでしょう。このあた
りの話は、ネット検索では見つかりません。いわゆ
る、安岡正篤氏のような思想家と呼ばれる人が書い
たものや講演から紐解くしかありません。(つづく)


▼51大綱と「基盤的防衛力構想」(その1)

 安全保障を議論する中で「基盤的防衛力構想」は
すでに死語となっています。しかし、言葉はなくな
っても、その考え方は未だに日本の安全保障政策に
根強く残っています。それは、「安全保障環境にと
らわれない予算ありきの防衛力整備」です。

 本来は、日本の安全保障環境に基づき必要な防衛
力を構築しなければなりません。そこには、当然、
国家予算全体の縛りがありますから、捻出できる予
算と必要な防衛力整備に割ける予算をミリミリと調
整しなければなりません。しかし、あくまでも必要
な防衛力がまずあって、次に捻出できる予算です。

 ところが、現実は他の予算と同様に前年度同額以
下という考え方を基準に防衛予算の編成がなされて
きました。最近は、中期防の伸び率分は確保できる
ように1%程度の増額はあるものの、平成15年度か
ら24年度までの10年間の減額をようやく取り戻した
程度です。意識的であるかどうかは別として、その
考えの根本にあるのは「防衛費はGDPの1%以内」
という予算ありきの発想です。

 以前にも説明しましたが、1976年(昭和51年)に
三木政権で閣議決定されたのがGDP(当時はGNP)の
1%枠です。1986年の中曽根政権でこの枠が撤廃さ
れるまでの10年間は、防衛予算は日本の安全保障環
境にかかわらずGDPの1%が基準だったわけです。
そして、この1%枠とセットとなっているのが「基
盤的防衛力構想」です。「基盤的防衛力構想」は、
日本初の大綱である「51大綱」策定時に防衛費GDP
1%枠と同時に当時の国防会議で審議されました。

51大綱策定までは第1次から第4次にわたる「防衛
力整備計画」により防衛力整備が行なわれてきまし
たが、この考え方は、日本周辺の安全保障環境に応
じた各種脅威に対抗できる防衛力を整備するという
ものです。当然、日米安保を前提とした、侵攻の抑
止を基本とした脅威への対抗であり、日本単独で敵
の侵攻を撃退するというものではありません。これ
が防衛力の本来あるべき姿である「所要防衛力」で
す。

しかしながら、1970年代前半は東西冷戦も緊張緩和
の時期で、日本の財政上も防衛費の増額は非常に厳
しい政治状況にあり、「所要防衛力」を整備してい
くことが困難な状況となります。そこで生まれたの
が「基盤的防衛力構想」であり、「GDP1%枠」です。
「51大綱」策定の経緯や「基盤的防衛力構想」導入
の経緯については、千々和泰明氏の「未完の『脱脅
威論』―基盤的防衛力構想再考―」(*1)と
「『51大綱』における防衛構想と自衛隊」(*2)に
詳細が書かれていますので、参考にしてください。

「51大綱」は「基盤的防衛力構想」に基づき策定さ
れていますが、大綱本文には「基盤的防衛力構想」
の言葉は使われてはおらず、防衛庁長官談話で語ら
れています。大綱本文の中で述べられているのは最
初に改訂された「07大綱」においてです。

この「基盤的防衛力構想」とは何かについては、次
のように「07大綱」で述べられています。

「我が国に対する軍事的脅威に直接対抗するよりも、
自らが力の空白となって我が国周辺地域における不
安定要因とならないよう、独立国としての必要最小
限の基盤的な防衛力を保有する」というものです。

そして、「基盤的防衛力」とその運用については、
次のように「51大綱」で述べられています。

「防衛上必要な各種の機能を備え、後方支援体制を
含めてその組織及び配備において均衡のとれた態勢
を保有することを主眼とし、これをもって平時にお
いて十分な警戒態勢をとり得るとともに、限定的か
つ小規模な侵略までの事態に有効に対処し得るもの」、
「情勢に重要な変化が生じ、新たな防衛力の態勢が
必要とされるに至ったときには、円滑にこれに移行
し得るよう配意された基盤的なもの」

「限定的かつ小規模な侵略については、原則として
独力で排除することとし、侵略の規模、態様等によ
り、独力での排除が困難な場合にも、あらゆる方法
による強じんな抵抗を継続し、米国からの協力をま
ってこれを排除する」

 非常に抽象的でわかりにくい構想ですが、これが
35年の長期にわたって日本の安全保障政策の基本
となってきたのです。そして、構想自体は死語とな
った今も亡霊のように日本の安全保障政策に影響を
与えているのです。


(*1)千々和泰明「未完の『脱脅威論』―基盤的防衛力構想再考―」
   http://www.nids.mod.go.jp/publication/kiyo/pdf/bulletin_j18_1_6.pdf
(*2)千々和泰明「『51大綱』における防衛構想と自衛隊」
   http://www.nids.mod.go.jp/publication/senshi/pdf/201703/04.pdf



(つづく)


(いちかわ・ふみかず)


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【著者紹介】
市川文一(いちかわ・ふみかず)
1961年生まれ。長野県出身。防衛大学校27期生。
1983年、陸上自衛隊に入隊。
2002年に1等陸佐に昇任後、第13後方支援隊長、統合
幕僚監部人事室長、装備施設本部武器課長、陸上幕
僚監部武器・化学課長、東北方面後方支援隊長、愛
知地方協力本部長として勤務、
2015年陸将補に昇任後、陸上自衛隊武器学校長の勤
務を最後に2017年8月に退官。退官後の9月には
YouTube「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演。
2019年9月に新刊『不思議で面白い陸戦兵器』を刊
行。

2017/9 YouTube「桜林美佐の国防ニュース最前線」
に出演。
 https://youtu.be/6hPY3vgpidw
2017/10/21「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出

 https://youtu.be/jESYh1lIeSE
2018/2/10「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
  https://youtu.be/D_md0ZSJNds
2018/6/9「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
 https://youtu.be/eHnT9jvqQjk
2018/10/6「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
  https://youtu.be/aEOhNJ3twN0

著書に、
『猫でもわかる防衛論』(大陽出版)
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