こんにちは、エンリケです。
いっときの熱に浮かされてやってしまった「一見正論な」
ことは、将来に禍根を残すケースがひじょうに多い感
を持ちます。
注意したいものですね。
さっそくどうぞ。
エンリケ
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今年4月に刊行された『自衛官が語る災害派遣の記
録』に続く、第2弾『自衛官が語る海外活動の記録』
(桜林美佐監修・自衛隊家族会編)が発売されてい
ます。中東シーレーンの安全確保をめぐって新たな
自衛隊派遣が行われているこの時期にタイミングを
合わせたような出版です。現地で自衛官たちが何を
思い、どのような苦労をして、任務をこなしてきた
か、25人の自衛官のリアルな体験記です。
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桜林美佐の「美佐日記」(63)
病院船は必要?──装備は思いつきで作ったり買ってはいけない
桜林美佐(防衛問題研究家)
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おはようございます。桜林です。「男もすなる日
記といふものを、女もしてみむとてするなり」の
『土佐日記』ならぬ『美佐日記』は今回で63回目
です。
前回、ダイアモン・ドプリンセスについて書きま
したが、新型コロナウイルス関連で自衛隊もダイア
モンド・プリンセスを含めた各所に災害派遣で出て
います。
ご近所の主婦の方に「自衛隊が行かないといけない
の?」と聞かれましたが、もはや今は災害派遣の三
要件に適合するかどうかよりも、何かあれば自衛隊
を出動させ、その姿を見せることが当たり前になっ
てきました。
考えてみれば、警察や消防は地方の管轄ですから、
国が差配(さはい)できるのは自衛隊しかありませ
ん。どうしても頼りにされてしまうのです。いつも
複雑な心境です。
しかし、福島第一原発事故の際もそうでしたが、
いくら自衛隊が入っても、危機管理のノウハウがな
い人たちが上に立って指示を出せるはずがなく、致
命的な失敗に繋がりかねない危険があることから、
緊急時には縦割り行政を止め、権限を委譲できるよ
うにする必要を感じています。
憲法への緊急事態条項の設置はそのために議論する
はずだと思いますが、国権の乱用のおそれがあると
して反対が根強いのが現状です。
一方で、報道の姿勢は常に政府の落ち度を探して責
めるものが多いですが、現場では各省庁の人たちが
必死になって活動しているはずで、そうした頑張っ
ている部分を取り上げれば、不安な気持ちでテレビ
報道を見つめる視聴者を勇気づけることにもなると
思うのですが・・・。
表には出ませんが、外務省の人たちにしても相当ご
苦労をされているのではないでしょうか。
また、非常に気になっているのは、今回の対応措置
の一環として「病院船」の導入が取り沙汰されてい
ることです。
加藤厚生労働大臣は衆院予算委員会で、厚労省が病
院船を保有する必要性を問われ「これまでの議論や
課題を関係省庁と探り、配備のあり方は加速的に検
討する必要がある」と答弁しています。
なかなか良くできた回答でした。配備を検討ではな
くて「配備のあり方」を検討するということで、ま
ず配備ありきではないことを示唆しています。
そうなんです。いかにもすぐに配備するようなこと
になってはまずいのです。
誰が作る?誰が持つ?誰が運用する?建造経費は厚
労省の予算でいいですか?維持費ももちろん。
そうした細かいことを詰めていくと、病院船は長い
目で見ると「負の遺産」になりかねないものなので
す。
感染した人たちの収容・治療場所として船は確かに
好都合ではありますが、今から新造する話ではない
でしょうから、どこかでもてあましている船を流用
するということなのか、しかし、そんな船はあるの
か、横浜には「氷川丸」がありますが、まさか先の
大戦後の引き揚げ輸送でまさに「病院船」として使
われた「氷川丸」を使うとか!?
昭和ヒト桁生まれの「氷川丸」は無理だとしても、
既存の船を探して一時的な病院船にするならば、ま
あ、あり得るかもしれません。
ただ、多分そうした検討を始めるとしても、やれバ
リアフリーじゃないので患者の移送が困難とか、電
源を取る場所が少ないとか、あれこれ不備不足が出
ることが予想されます。そもそも病院船として造ら
れたわけではありませんので。
やっぱり、病院船として機能する不便のない船のほ
うがいいということで、建造に着手するとして、そ
うなると今度は将来的にその船をどこかの省庁で維
持する必要が出てきます。
仮に厚労省や内閣府で特別に建造予算を付けたとし
ても、その後も将来的にかかる経費を賄えるとは思
えません。
南極観測を支援している「しらせ」は文部科学省に
諸経費の予算が付いていますが、かつてヘリが予算
落ちし、2機必要なところを1機で活動しなければな
らず運用を担う海上自衛隊にその分の負担がかかっ
たこともありました。
この「しらせ」の運用について海上自衛隊は撤退す
る方針を示しています。人手不足に加え、実質的な
費用負担もかかるからです。
搭載ヘリの維持整備は自衛隊が担当していて、自衛
隊ヘリの部品を流用することもあるといいます。
つまり、他省庁で予算を付けても船やヘリなどの運
用が完璧にできるはずがなく、その運用・整備には
どうしても自衛隊の力が必要になります。
人員不足で「しらせ」でさえ継続できないというの
に、病院船が導入されて担いきれるはずがありませ
ん。
運用者について一縷の望みを検討するならば、自衛
隊OBの皆さんに出てきてもらうことです。もちろん、
それが実現しても所管省庁を定め人件費や雇用形態
について確立させなければなりませんが。
大きな問題は乗船する医療従事者をどのように確保
するのか、また、病院船の出番が終わった後はどの
ように運用するのかです。
医療機器を搭載するとなればそれらのメンテナンス
にも多額のお金がかかります。よく離島を巡回すれ
ばいいという意見も出ますが、本当にニーズがある
のかは不明です。要すればヘリで移送し陸上の病院
で治療を受けるほうが適切だと考えられます。
悪い事ばかりを言って前向きじゃないと思われるか
もしれませんが、装備はこのように小姑のような細
かいツッコミをいちいち入れながら検討することが
将来に禍根を残さないためにも大事で、思いつきで
作ったり買ってはいけないのです。
海洋国家なのに病院船がないなんてダメだ、という
のは確かに正論に聞こえますが、これを実現するた
めには、まずその体制が確立されていなければなら
ないのです。
前回、ムリヤリに5年で作り上げる自衛隊艦艇の建
造事情を改める必要を書きましたが、これについて
関係者の方と、このような事情の根源である競争入
札の弊害を改めて確認しました。「5年は無理で、
受注前からフライングで船体ブロックやエンジンな
どを作っている」ということで、一朝一夕にできる
ものではないのです。
万が一予算の関係で受注できないような場合は、そ
れらは損失となってしまいます。こうした企業が抱
えているリスクを知らないと、企業は落札したと同
時に着手し、あたかも数年で船を完成させてくれる、
といった感覚を持ってしまうのではないでしょうか。
その意味で、防衛装備案件は「悪しき教科書」にな
ってしまっているとも言えそうです。
<おしらせ>
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いる「国防ニュース最前線」、今週はお休みです!
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(さくらばやし・みさ)
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【著者紹介】
桜林美佐(さくらばやし・みさ)
昭和45年、東京生まれ。日本大学芸術学部卒。フリ
ーアナウンサー、ディレクターとしてテレビ番組を
制作。その後、国防問題などを中心に取材・執筆。
著書に『奇跡の船「宗谷」─昭和を走り続けた海の
守り神』『海をひらく─知られざる掃海部隊』『誰
も語らなかった防衛産業[改訂版]』『武器輸出だ
けでは防衛産業は守れない』『防衛産業と自衛隊』
(いずれも並木書房)、『終わらないラブレター─
祖父母たちが語る「もうひとつの戦争体験」』(PH
P研究所)、『日本に自衛隊がいてよかった』(産
経新聞出版)、『ありがとう、金剛丸─星になった
小さな自衛隊員』(ワニブックス)。月刊「テーミ
ス」に『自衛隊密着ルポ』を連載。
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