こんにちは、エンリケです。
「戦略航空偵察」三回目です。
思わず読みふけってしまう内容です。
さっそくどうぞ
エンリケ
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戦略航空偵察(3)
最近の朝鮮半島情勢と偵察行動
西山邦夫(元空将補)
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□はじめに
前回に続いて戦略偵察機の運用について書くつもり
でしたが、昨年秋から北朝鮮を監視する米軍偵察機
の行動が活発になっていますので、これについて触
れてみます。
昨年12月、北朝鮮の金正恩がトランプ大統領にク
リスマス・プレゼントを差し上げると外務次官を通
じて言いました。このプレゼントが何なのか、トラ
ンプ大統領は花瓶かも知れないなどと言って茶化し
ていましたが、ICBMの発射が行なわれるのではない
か、とのもっぱらの噂でした。花束と言わず、花瓶
としたのには意味がありそうです。朝鮮の青磁製細
首の花瓶は高級品、トランプ大統領が細首をねだっ
たのでしょうか。
▼米空軍の監視態勢の強化
この事態に際し、米軍は北朝鮮に対する偵察機に
よる監視態勢を強化しています。嘉手納基地から連
日のようにRC-135SコブラボールとRC-135V / Wリベ
ットジョイントを飛ばし、地上監視のE-8 J-Star、
海軍のEP-3、ドローンのグローバルホークもこの監
視チームに加わっています。2020年1月末にはWC-135W
を嘉手納に配備、北朝鮮の核実験に備える姿勢を見せ
ています。この機は核実験で飛び散ったチリなどの
サンプルを採取する機能を持っています。
▼RC-135WとRC-135Sの能力
RC-135V / Wリベットジョイントは、電波情報(SIGINT)
収集において空軍の最も能力の高い有人の偵察機の
1つです。敵の通信の監視など、さまざまなSIGINT
を収集することができ、防空レーダーや通信機器な
ど、各種の電波発射源を検出、分類および位置特定
する機能を持っています。その成果として特定のエ
リアで「敵電子機器のデータベース」(Electronic
Oder of Battle 略してEOB)の作成するデータを収
集・提供します。 この機は半島を南北に分ける
DMZ(非武装地帯)の南側を東西方向に往復する飛行を
しており、北朝鮮のほぼ全域を収集範囲に入れてい
ます。
前回に書きましたように、RC-135V / Wは、アナリ
ストや語学員を含む少なくとも26人の多数の乗組員
とともに飛行しています。特長として、搭乗してい
る多数の要員の働きで収集した情報の処理をすぐに
開始でき、収集したデータを地域の司令部や地上部
隊を含む他の資産にほぼリアルタイムで送信するこ
とができます。最近、朝鮮半島の監視にあたってい
る一部のRC-135Vは、上部に新しいアンテナを搭載し
ています。これは、航空機の通信およびデータ転送
機能をさらに向上させるためのものです。
昨年12月には、空軍が持っている3機のRC-135Sコブ
ラボール航空機のうち2機が嘉手納基地に派遣され
ています。その1機は12月5日と12月12日に日本海で
飛行しました。2020年1月初めにはこの中の1機が
帰国した模様です。この機は、リベットジョイント
とは異なり、ミサイルの発射に関連する画像をだけ
でなく、テレメトリやその他の電波発射源を収集す
るように特別な装備を持っています。飛行エリアは
日本海で、時に給油機の支援を受けて長時間飛行し
ている模様です。1月末現在、RC135WとRC135Sは連
日のように飛行しています。
▼ RC-135以外の偵察機
最近、北朝鮮周辺の監視に参加しているのはRC-135
だけではありません。少なくとも1機の空軍RQ-4B
グローバルホークが韓国内から情報収集・監視任務
を実施し、高度52,000フィートで飛行しました。強
力なマルチ・スペクトル・カメラとレーダー画像シ
ステムを使用し、北朝鮮の深部まで見ることができ
ます。
米海軍P-3Cオライオンも監視飛行に駆り出されてい
ます。ワシントン州のウィッビー島にあるVP-40パ
トロール中隊に配備されていたP-3C は、11月に引
退し、P-8ポセイドンが後継しています。ところが、
引退するはずのP-3Cは北朝鮮監視に駆り出され、韓
国上空を飛行しているのです。空軍機などがこれほ
ど超密な監視体制をとっているにもかかわらず、ま
だ不足なのでしょう。P-3Cが引退時期を引き延ばさ
れたのです。そのためか、機体には部隊識別マーク
も描いてありません。注目されるのが、ゴンドラ型
ポッドの下に取り付けられたAN / APS-149 沿岸監視
レーダーシステム(LSRS)です。対潜哨戒機ではあ
りますが、合成開口レーダーで、陸上の監視も行な
えるのです。
▼韓国と北朝鮮の「軍事分野合意書」
2018年9月19日、韓国と北朝鮮の国防相が「軍事分野
合意書」(9.19軍事合意)に署名しました。この内
容に航空偵察に関する部分が次のとおり記述されて
います。
「2018年11月1日より、軍事境界線の上空から全ての
機種の飛行禁止区域を次のように設定することにし
た。
固定翼航空機は軍事境界線から東部地域(軍事境界
線標識物第0646号から第1292号までの区間)は40キ
ロメートル、西部地域(軍事境界線標識物第0001号
から第0646号までの区間)は20キロメートルを適用
し、飛行禁止区域を設定する。
回転翼航空機は軍事境界線から10キロメートルに、
無人機は東部地域から15キロメートル、西部地域か
ら10キロメートルに、気球は25キロメートルを適用
する」
この協定は、韓国と北朝鮮が米国と協議することな
く署名したものです。米軍が十重二十重に北朝鮮に
対する監視体制を築き、安全保障上の努力を続けて
いる状況は、韓国の一方的な措置により崩されたと
言えましょう。しかし、米軍は飛行禁止について認
めない姿勢をとっています。
米軍が綿密な態勢を作って監視しているのに対し、
韓国はどの様に備えているのでしょうか? 韓国々
防部は万全の体制を築いていると述べていますが、
上記の協定を守れば、監視体制に穴が開くのは明ら
かです。この緊迫した時に、韓国政府統一部は北朝
鮮の災害復旧と対応に必要な経費20億500万ウォン支
援すると12月23日に発表しました。国連決議で禁止
されている北朝鮮への観光旅行も始める気配です。
国内保守派からは批判が出ていますが、文大統領は
意に介しません。米国がトランプ大統領の嫌う資金
をつぎ込んで警戒監視にあたっているのに、われ関
せずの態度です。自国の安全を他国任せにする心は
理解できません。
(つづく)
(にしやま・くにお)
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□著者略歴
西山邦夫(にしやま・くにお)
1936年生まれ。防衛大学校卒(4期・空)。
情報関係略歴:航空幕僚監部調査2課収集1班長、航
空総隊司令部情報課長、陸幕調査別室主任調整官、
航空自衛隊幹部学校主任教官。著書に『肥大化する
中国軍(空軍部分を執筆)』(晃洋書房、2012年)、
『中国をめぐる安全保障(空軍部分を執筆)』(ミ
ネルバ書房、2007年)。研究論文に『中国空軍の戦
力構成とドクトリン』『中国空軍のSu-30MKKとイン
ド空軍のSu-30MKI』『韓国空軍の増強と近代化』
『中露合同軍事演習』『中国の主要航空兵器の装備
化実績と将来予測』『中国空軍の戦力とドクトリン』
『チベットにおける中国の軍事態勢整備』など多数。
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