配信日時 2020/02/11 08:00

【短期連載 米国とイランはなぜ戦うのか?(2)】増大するイランの対米不信  菅原出(国際政治アナリスト・危機管理コンサルタント)

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応
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●なぜ米とイランは激しく対立するのか?
●米とイランの争いの歴史

を振り返り、

●トランプ政権の対イラン戦略と、それに対する
イランの抵抗戦略

を丹念に分析して、

今そこにある危機

の実相を解説した本です。

おススメの一冊です。

200202、派遣情報収集活動水上部隊が、現地に出立
しました。その状況を、より正確に把握するために
も、ぜひご一読ください。

『米国とイランはなぜ戦うのか?』
 菅原出(著)
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●短期連載  米国とイランはなぜ戦うのか?(2)

増大するイランの対米不信

菅原出(国際政治アナリスト・危機管理コンサルタント)

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□はじめに

2020年2月4日、トランプ米大統領は一般教書演説
において「イランで最も冷酷な殺人鬼」である革命
防衛隊「コッズ部隊」のソレイマニ司令官殺害を命
じ「邪悪なテロの支配を終わらせた」と述べ、イラ
ン指導部に対し核保有を断念し、テロ行為をやめる
よう迫った。

しかし、米・イラン対立の歴史的・構造的な背景を
みていけば、こうした圧力をいくらかけても、イラ
ンの現体制が米国の圧力に屈して「ギブアップ」す
るとは到底考えられないことが分かる。

2月6日に発売された拙著『米国とイランはなぜ戦
うのか?』では、“トランプ政権がもはや取り返し
のつかないところまでイランを追い込み、イランが
生存をかけた危険な勝負に出ている”という現在の
危機の構図と背景を解説させていただいた。

イランは現体制の存続をかけて、米国に対して決死
の抵抗を試みている。その意志と40年間培ってき
た抵抗のための「非対称戦能力」を過小評価しない
方がいい。

本連載では、同書からそのエッセンスを読者の皆様
にお伝えさせていただいているが、連載第2回目は、
歴代米国政権の対イラン政策を振り返り、オバマ政
権下で核合意に至る背景を振り返ってみたい。


『米国とイランはなぜ戦うのか?』
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▼何度もあった米・イラン関係改善の試み

前回は、イラン・イラク戦争において米国がイラク
を支援し、一時期イランと交戦したこと、この戦争
を通じてイランが米国と正面から戦っても勝てない
ことを経験し、非対称戦の能力を高めるために中東
各地にネットワークを拡大させ、米国に対して激し
いテロ攻撃を仕掛けた背景を紹介した。

米政府は、レーガン政権時の1984年1月にイランを
「テロ支援国家」に指定し、それ以来イランとの
「テロとの戦い」を続けているが、共和党政権、民
主党政権問わずこれまでに何度もイランとの関係改
善を試みたことがあった。

1989年1月に発足したジョージ・H・W・ブッシュ
(ブッシュ父)政権は、イランとの関係改善に積極
的な姿勢を見せ、「もしイランが、レバノンのヒズ
ボラが拘束している米国人人質を解放することに尽
力すれば、米・イランの関係改善で応じる」と伝え
て、前向きなシグナルをイランに送った。

これに呼応したイランが1991年12月までにすべての
米国人人質の解放を実現したことがあったが、当時
中東和平交渉に尽力していたブッシュ政権が、この
和平プロセスをイランが妨害していたことに腹を立
て、イランが人質を解放したにもかかわらずその見
返りを何も与えずに、イランの対米不信が逆に増大
したことがあった。

続くクリントン政権は、イランとイラクの二国を同
時に弱体化させる「二重封じ込め」政策をとり、イ
ランが中東和平に反対するパレスチナのテロ勢力を
支援しているとして、1995年から96年にイランとの
貿易や投資を禁止する制裁措置を発動した。

しかし、1997年5月にイランで改革派のハタミ大統
領が就任すると、米国はイランとの関係改善の好機
とみてかなり積極的にシグナルを送り、直接対話を
働きかけたことがあった。だが当時国内の権力基盤
が脆弱だったハタミ大統領は、国内保守派の反対を
抑えて米国の提案を受け入れることができず、米・
イラン対話は前進しなかった。

そして、ジョージ・W・ブッシュ政権では、2001年
9月11日の米同時多発テロ後の短い期間、イランと
の関係改善に向かう機会があった。ブッシュ政権は
国際テロ組織アルカイダを匿うアフガニスタンのタ
リバン政権への攻撃を決めたが、アルカイダもタリ
バンもイスラム教スンニ派の過激派であり、当時は
シーア派のイランと敵対していた。

そこでイランは、米国のアフガン攻撃への協力を申
し出て、米国の輸送機がイラン東部の基地を使用す
ることや、イラン領空における米空軍の探索・救難
を許可するなど、少なからず米軍に対して具体的な
支援を提供。また、アフガニスタンでタリバンと敵
対する北部同盟との関係を維持していたイランは、
対タリバンの地上作戦で米軍に協力するよう影響力
を行使したり、タリバン政権崩壊後の新政権づくり
でも米国に協力するように北部同盟に働きかけたり
したのだった。

しかし、そうした対米協力にもかかわらず、2002年
1月の一般教書演説でブッシュ大統領がイランをイ
ラクと北朝鮮と並ぶ「悪の枢軸」と呼んで非難した
ことから、イランは態度を硬化させた。ただその後、
ブッシュ政権が急速にイラク戦争へと向かうなかで、
イランは米国を妨害することなく静観した。言うま
でもなく、イラクのフセイン政権はイランにとって
は大きな脅威であり、その脅威を米国が取り除いて
くれることをイランは歓迎したからである。

それだけでなく、この頃イランは、米国との関係改
善を求めて“包括的な取引(グランド・バーゲン)”
を持ちかけようとしたこともあった。イランは核開
発計画を見直し、ヒズボラなどの国外代理勢力への
支援をやめ、イスラエルへの敵対姿勢を見直す用意
すらある。その代わりに米国はイランへの経済制裁
をやめ、イランの安全を保証し、体制転換(レジー
ムチェンジ)を目指さないことを約束することを求
めるという、米国とイランの関係改善のための包括
的な取引のオファーだったとされている。

当時のイランの大統領は穏健派のハタミ師。米国の
アフガン戦争を側面支援し、イラク戦争にも反対せ
ず、最後の望みをかけて当時のブッシュ政権に「包
括的な取引」を持ちかけたのだとされている。

しかし、当時飛ぶ鳥を落とす勢いだったブッシュ政
権の主要メンバーたちは、イランと対話をしたり、
このイランのオファーに応じる必要性を全く感じて
おらず、もちろんイランに返信をすることはなかっ
た。ブッシュ政権内のいわゆるネオコン派たちは、
イラクの次にはイランを叩くべしとまで主張してい
た。

この頃、イランの秘密の核計画が明らかになったこ
ともあり、ブッシュ政権時に米国とイランの関係は
著しく悪化した。

▼オバマ政権の核合意の「失敗」

2009年1月に大統領に就任したバラク・オバマは、
「核なき世界」へ向けて核軍縮や核拡散防止の分野
で何らかの成果をあげることを大きな目標とし、イ
ランの核開発問題の解決は、外交分野における最優
先課題の一つだった。

オバマ政権は発足当初から、米国が長年敵対してき
たイランに対して対話を呼びかける柔軟姿勢を見せ
た。

しかし、オバマ政権のこうした柔軟姿勢は、深いイ
ラン側の対米不信からすぐに挫折し、オバマ政権第
1期は、イランに対する圧力政策を強化した。米国
による厳しい対イラン制裁が次々と科され、それに
反発するイランが核開発を加速させるという応酬に
より米・イラン関係は悪化し、イランの核武装を恐
れるイスラエルによる対イラン軍事攻撃の可能性も
高まった。

また、米国はイスラエルと共同でイランの核開発に
打撃を与えることを狙った大規模サイバー攻撃を仕
掛けるなど、軍事オプション以外のあらゆる手段を
使ってイランに圧力をかけたがイランの核開発を止
めることができず、このままではイスラエルがイラ
ンを攻撃するのではないか、との懸念が強まった。
イラン核問題は中東地域の安全保障を脅かす最も深
刻な脅威として位置づけられるようになったのであ
る。

当時イスラエルは、イランの核開発を外交的に止め
ることのできる期限は2013年夏。それ以降は軍事オ
プションしかなくなる、と警告を発していたが、そ
の期限ぎりぎりの同年6月の選挙でロウハニ師がイラ
ンの大統領に当選し、8月に大統領に就任。以降、
イランは米国との核交渉に本腰を入れていく。

国際的な孤立状態から抜け出すことを目指すイラン
のロウハニ政権と、イランの核開発制限を狙ったオ
バマ政権の直接交渉は、何度も暗礁に乗り上げたが、
2年近くの交渉の末、2015年7月についに最終合意
に至った。いわゆる「イラン核合意(JCPOA)」と
呼ばれる合意である。

同合意の詳細は拙著で確認していただきたいが、こ
の合意はイランの核開発の最も危険な部分を後退さ
せ、一時的に凍結させる、すなわちイランの核能力
を「制限」することに力点が置かれ、その「制限」
の見返りとして経済支援というアメを与えるという
内容であった。

その制限についても時限的なものであり、恒久的に
イランから核能力を奪うものではなかったことから、
のちにドナルド・トランプをはじめとする合意反対
派から大いに批判されることになった。

また、イラク戦争により、イラン最大のライバルで
あったフセイン政権が崩壊し、イラクへの影響力を
拡大させたイランは、対イスラム国(IS)作戦を通
じてイラクだけでなくシリアにも活動領域を拡大さ
せたことから、米国内のイラン強硬派やサウジアラ
ビア、イスラエルなどは、「イランの影響力拡大」
に対する懸念を強めていった。

「イラン核合意」により外国からの投資が活発化し
たこともあり、イランの経済力が増大すれば、さら
にイランの近隣諸国への影響力が拡大する、として
サウジアラビアやイスラエルはイランに対する敵対
姿勢を強め、そんなイランとの関係改善を進めるオ
バマ政権との関係を悪化させていった。

こうしてオバマ政権時の米・イラン関係改善は、中
東地域のパワーバランスを変え、伝統的な同盟国で
あるサウジアラビアやイスラエルとの関係を著しく
悪化させることになったわけだが、そのオバマ政権
の対イラン政策を徹底的に批判してきたドナルド・
トランプが2017年に合衆国大統領に就任すると、そ
れまでのオバマ政権の政策を180度反転させ、サウ
ジやイスラエルとの関係を強化し、イランを敵対視
する政策に逆転させることになったのは、むしろ自
然な流れでもあった。

ここまで歴代の米政権のイランとの関わりやオバマ
政権の対イラン政策を駆け足で振り返ってみたが、
次号からはいよいよ本書の本題であるトランプ政権
の対イラン政策をみていきたい。



(つづく)

(すがわら・いずる)






●著者略歴
 
 菅原 出(すがわら・いずる)
国際政治アナリスト・危機管理コンサルタント
1969年生まれ、東京都出身。中央大学法学部政治学
科卒業後、オランダ・アムステルダム大学に留学、
国際関係学修士課程卒。東京財団リサーチフェロー、
英危機管理会社役員などを経て現職。合同会社グロ
ーバルリスク・アドバイザリー代表、NPO法人「海
外安全・危機管理の会(OSCMA)」代表理事も務め
る。著書に『外注される戦争』(草思社)、『戦争
詐欺師』(講談社)、『秘密戦争の司令官オバマ』
(並木書房)、『「イスラム国」と「恐怖の輸出」』
(講談社現代新書)などがある。
 

 
 
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