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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応
予備自衛官でもあります。
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知的体力を養う上で欠かせない
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得難い本です。
「防衛予算から読み解く日本の防衛力」は、
きょうから第二部に入ります。
我が足元にある最大の危機と真剣に向き合う
機会です。
さっそくどうぞ
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防衛予算から読み解く日本の防衛力(22)
第2部 危機的状況にある日本の安全保障体制(1)
「大綱」を実現するための予算が「中期防」に
付かないという矛盾
市川文一(元武器学校長・陸将補)
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□お知らせ
発売されたばかりの月刊『軍事研究』(2020
年3月号)で、「国産製品が割高・低性能の誤解を
解く!『日本が弾薬を国産する理由』」という記事
が掲載されました。不良弾や欠品が許されない国内
事情、継戦能力の確保だけではない弾薬を国産する
理由について解説しています。ご一読いただければ
幸いです。
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□はじめに
「パラダイムシフト」という用語を「発想(見方、
考え方)の転換、固定観念からの脱却」という意味
で広く一般化したのはスティーブン・R・コヴィー
の『7つの習慣』ではないかと思われますが、日本
の安全保障政策を見るときにはこの「パラダイムシ
フト」が必要不可欠です。
日本の安全保障政策の柱である大綱、中期防、年
度防衛予算が、望ましい形で完成されたものという
固定観念があると、大きな間違いを生じます。今回
は、大綱と中期防が矛盾した関係にあることを説明
しますが、そもそも、日本初の51大綱が極めて政治
的なものであり、真に日本の安全保障を考えたもの
ではありません。
ここまで、防衛予算の説明をしてきましたが、こ
れまでの説明の中でも防衛予算が多くの問題を内在
していることは明らかです。補正予算なしでは成り
立たない防衛予算はすでに破綻しているといっても
過言ではないでしょう。誤魔化しに誤魔化しを重ね
ている状態です。
国の安全保障政策は国家の存立に係わる最も重要
な事項です。そして、安全保障政策の核となるもの
が防衛力で、それを構築するための計画、手段が大
綱、中期防、年度予算です。この大綱、中期防、年
度予算に歪みが生じており、その歪みは拡大傾向に
あります。歪みが拡大していった到達点は安全保障
体制の崩壊です。
そして、歪みをもたらしている根本的な要因は大
綱と中期防の矛盾した関係であり、現実的な問題は
防衛費の大幅な増額ができないことです。所要防衛
力を構築するために必要な予算は、国民にしっかり
と説明して確保するべきです。憲法に自衛隊を明記
するよりも優先してやらなければならないことが、
政府与党にあることをしっかりと認識してほしいも
のです。
▼大綱と中期防の矛盾した関係
前回までは、防衛予算の構造を主体として解説し
てきました。今回からは、大綱、中期防、年度予算
とつながる防衛力整備上の問題を明らかにしていき
ます。すでに、今までの防衛予算の構造を解説する
中で、防衛予算が様々な問題を抱えていることを理
解できたかと思いますが、それ以上に深刻な問題を
抱えています。
防衛予算の各種問題も、予算そのものが少ないこと
が現実的な要因であることは間違いありません。防
衛予算を倍増すればほとんどの問題が解決できます。
しかしながら、現在の態勢を占めているのは、今の
防衛予算を多少増額すれば、そのやりくりの中で、
しっかりとした防衛力が作れるという考えです。こ
の考え方こそが、51大綱に始まる「基盤的防衛力構
想」であり、現在の大綱と中期防の矛盾を生んだ根
本となるものです。「基盤的防衛力構想」について
は、次回から詳しく説明します。
さて、30大綱と30中期防が平成30年12月18日に閣議
決定されました。「すべての領域の能力を融合させ
る領域横断作戦等を可能とする、真に実効的な防衛
力として、『多次元統合防衛力』を構築してまいり
ます」と防衛大臣が記者会見で発言したとおり、日
本の安全保障環境を見据え、最新の世界の軍事情勢
に対応する大綱ができあがったと考えられます。
しかしながら、宇宙、サイバー、電磁波といった新
たな領域での作戦を可能とする高い理想を掲げた30
大綱に対し、実際の買い物計画である30中期防の所
要経費は、25兆5,000 億円と、25中期防に対して、
1兆5,300億円しか増加していません。30中期防の所
要経費として報道等で取りあげられるのは、 27兆
4,700 億円、25中期に対して、2兆8,000億円の増額
という数値ですが、この金額は30年度予算を基準と
した防衛力の規模を示すものであり、実際に各年度
で編成される防衛予算は、前者の低い金額です。
中期防には二つの所要経費が記載されていますが、
「防衛力の規模は平成30年度価格で見積もって27兆
4,700億円ですが、実際には25兆5,000億円の予算し
か付けません。約2兆円の開きについては「防衛費
の効率化、合理化に努め、節約をしなさい」という
ことです。つまり、30中期防が目指す防衛力は、約
2兆円の防衛費の合理化・効率化を前提としたもの
です。
もっと端的にいうと「30大綱が定める防衛力を整備
するのには、30中期防では27兆4,700億円が必要で
すが、25兆5,000億円の予算しか付けません。後は、
努力してください」ということです。今までの防衛
予算の構造を説明したとおり、今までの防衛力整備
さえ補正予算なしでは成り立たなかったものが、中
期防で2兆円、年間4,000億円の効率化・合理化は不
可能です。
しかも、宇宙、サイバー、電磁波といった新たな領
域での作戦を可能とするための防衛力整備のための
増額が、中期防で1兆5,300億円、年間3,000億円し
かありません。これは、30年度に「自衛隊の安定的
な運用態勢の確保」のためとして編成された3,822億
円の補正予算よりも少ない額です。つまり、30大綱、
30中期防の策定の時点で、大綱が定めた防衛力を整
備することが非常に困難ものとなっているのです。
また、車両、通信器材、施設器材等の損耗更新用予
算が激減しているという話をしましたが、実際の現
場部隊を訪れるとよく実感できます。現場の隊員か
らは「人が少ない。古い装備品が更新されない。装
備品が壊れたら長期間直らない。建物が古い。射撃
訓練のための弾薬が少ない」といった話をよく耳に
します。
30大綱の理想を実現するどころか、現在の防衛力が
しっかりと機能するのかさえ疑問となるような状況
なのです。一時期、「陸上自衛隊ではトイレットペ
ーパーを自費で買っている」という話題がネット上
で盛り上がりましたが、これも、現場部隊の実情を
伝える象徴的な一例といえます。小笠原理恵氏がズ
バリ「自衛隊員は基地のトイレットペーパーを『自
腹』で買う」のタイトルの本で自衛隊の実情を書か
れています。
大綱があるべき防衛力を備えようと理想を追求して
いるのに対し、中期防では大綱の理想を実現するた
めの予算が付けてられていません。これが大綱と中
期防の矛盾です。この矛盾が、防衛予算が少ないこ
とによる問題を計数的に拡大し、日本の安全保障体
制に対して深刻なダメージを与えています。
次回からは、大綱と中期防の矛盾はどのように生ま
れ実際の防衛力にどのような影響をもたらしている
のか、そして、今後、大綱、中期防はいかにあるべ
きかを順を追って解説していきます。
(つづく)
(いちかわ・ふみかず)
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【著者紹介】
市川文一(いちかわ・ふみかず)
1961年生まれ。長野県出身。防衛大学校27期生。
1983年、陸上自衛隊に入隊。
2002年に1等陸佐に昇任後、第13後方支援隊長、統合
幕僚監部人事室長、装備施設本部武器課長、陸上幕
僚監部武器・化学課長、東北方面後方支援隊長、愛
知地方協力本部長として勤務、
2015年陸将補に昇任後、陸上自衛隊武器学校長の勤
務を最後に2017年8月に退官。退官後の9月には
YouTube「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演。
2019年9月に新刊『不思議で面白い陸戦兵器』を刊
行。
2017/9 YouTube「桜林美佐の国防ニュース最前線」
に出演。
https://youtu.be/6hPY3vgpidw
2017/10/21「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出
演
https://youtu.be/jESYh1lIeSE
2018/2/10「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
https://youtu.be/D_md0ZSJNds
2018/6/9「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
https://youtu.be/eHnT9jvqQjk
2018/10/6「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
https://youtu.be/aEOhNJ3twN0
著書に、
『猫でもわかる防衛論』(大陽出版)
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「不思議で面白い陸戦兵器」(並木書房)
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