こんにちは、エンリケです。
こういう切り口は、
名著『奇跡の船・宗谷』『海はひらく』の
著者でもある、海に強い桜林さんならでは
のものと感じます。
非常に新鮮で、ハッとさせられます。
さっそくどうぞ。
エンリケ
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今年4月に刊行された『自衛官が語る災害派遣の記
録』に続く、第2弾『自衛官が語る海外活動の記録』
(桜林美佐監修・自衛隊家族会編)が発売されてい
ます。中東シーレーンの安全確保をめぐって新たな
自衛隊派遣が行われているこの時期にタイミングを
合わせたような出版です。現地で自衛官たちが何を
思い、どのような苦労をして、任務をこなしてきた
か、25人の自衛官のリアルな体験記です。
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桜林美佐の「美佐日記」(61)
波瀾万丈の豪華客船「ダイアモンド・プリンセス」
桜林美佐(防衛問題研究家)
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おはようございます。桜林です。「男もすなる日
記といふものを、女もしてみむとてするなり」の
『土佐日記』ならぬ『美佐日記』は今回で62回目
です。
新型コロナウイルスの感染者が出たということで、
横浜港で足止めになっているクルーズ船「ダイアモ
ンド・プリンセス」、その名を聞いて「えッ」と思
った関係者は少なくないと思います。
「ダイアモンド・プリンセス」は三菱長崎造船所で
建造された国産の客船です。建造中に出火し、納期
が迫っていたため急きょ2番船として建造中だった
「サファイア・プリンセス」を「ダイアモンド・プ
リンセス」に改修したという、その誕生からして波
瀾万丈でした。
このような経緯を経て同船は2004年の2月に納入さ
れましたが、7か月遅れになってしまいました。なお、
火災で炎上した元「ダイアモンド・プリンセス」は
この日記でご紹介した、あの香焼工場で「サファイ
ア・プリンセス」として生まれ変わったのだそうで
す。
なんともややこしい話になってしまいましたが、
船の持つ運命というのはそれぞれ違い、ご紹介した
『宗谷』や、あるいは駆逐艦『雪風』のように、強
運に恵まれているとしか思えない船がある一方、運
に恵まれなかった船もあります。
海上自衛隊でも何か事故など起きると「あの艦は
進水の時も悪天候だった」とか「艤装中にもトラブ
ルが多かった」といったことが囁かれたりします。
これほど科学技術が発展した現代においても、海
の男たち(女もいますね)は「船の運命」であった
り、人間の理解を超越する力を信じています。ある
意味、非科学的な一面を持ち合わせていると言って
よさそうです。
『宗谷』が南極観測のための初めて航海で海が荒れ
非常に苦労していた時、そういえば出港時に神棚を
取り外してしまったと誰かが思い出し、急きょ「宗
谷神社」を作って設置したという話も思い出されま
す。日本の船であれば護衛艦であれ何であれ必ず神
棚があり、神信心と船は切っても切れない関係なの
です。
なので、何か船で事故が起きると「最近、何か変
えたことがあったりしません?以前からの習わしを
やめたとか」神様の存在を忘れていたことはないか、
なんてことを、つい聞きたくなってしまいます。
実は三菱重工の造船部門では近年「産みの苦しみ」
が続いています。くだんの「ダイアモンド・プリン
セス」と「サファイア・プリンセス」は苦難の末に
無事に引き渡されましたが、最近も客船がらみで大
きな損失を出してしまったのです。
2016年に完成した大型客船「アイーダ・プリマ」
と2番船「アイーダ・ペルラ」を手がけましたが、
大型客船事業で累計2500億円超の損失を計上。
このため、同社は客船事業から撤退することを決め
ています。
「アイーダ・プリマ」は度重なる設計の変更などで
完成が遅れ、3回も納期を延期した上、火災も発生し
ました。それも3回も。警察の調べでは放火の疑いが
あるといいます。
「ダイアモンド・プリンセス」の火災でダメージを
負って以降、ストップしていた客船事業に起死回生
の受注となったはずの船なのに、またも火災に見舞
われてしまったのです。
結局「アイーダ・プリマ」は納期を1年も遅れて欧
州の発注元「アイーダ・クルーズ」社に引き渡され
ました。
しかし、受注金額約1000億円に対して、関連損失は
1872億円という、いわば「大型損失客船」になって
しまったのです。
アイーダ側の要求はかなり高級な仕様だったとい
います。レストランのタイルでさえも特定の輸入メ
ーカーのものをあしらい、専門の職人を欧州から呼
び寄せる必要があったのだそうです。
これではコストがかかるはずです。造船業は発注
者がかなり力を持っているようで、徹底的にオーナ
ーが納得するものを作り上げなければならないとい
います。
作業の遅れを取り戻すために作業員を増員しなけ
ればならず、多くの外国人労働者が造船所に入りま
した。その数は最大で5000人!
当時、長崎に行った人によると、長崎の街は外国
人で溢れ、ホテルは造船所の外国人労働者でいっぱ
いになっているとのことでした。
言葉も通じない、文化も生活習慣も違う人たちが
これだけ集まったら収拾がつきません。ずっと作業
にあたっていた日本人からも不満が高まり、現場の
ムードはどうしても悪くなります。そうした雰囲気
の中で火災は発生したのです。
三菱重工が困難だと分かっていた客船事業に乗り
出した背景には、ご存じの通り、わが国の造船業が
直面している危機的状況があります。
韓国、中国といった、国をあげて支援して安値受
注をするライバルにとてもかなわず、受注は激減。
いずれの造船所も存続が危ぶまれているのです。こ
の日記で書いた香焼島工場売却検討もその一環の話
です。
「ダイアモンド・プリンセス」や「アイーダ・プリ
マ」は三菱の造船事業継続を懸けて取り組んだもの
の、それを断念させることになった厄病神のように
報じる経済誌などが多いですが、私はむしろこれら
の船は幸運の船だと思っています。
艱難辛苦を乗り越えてこの世に生まれたのですから、
強い運を持っているはず。
新型コロナウイルスの報道を見て、また「ダイア
モンド・プリンセス」がトラブルに見舞われたかと
私も一瞬、驚きましたが、船上の皆さんにはこの船
が大きな困難を克服してきたことを励みに、ぜひ頑
張って頂きたいと思います。
最後に、今回の話は自衛隊と全く無関係ではあり
ません。
わが国の護衛艦などは建造期間が5年弱しかなく、
とても現実的ではない時間内での完成を迫られます。
イギリス海軍関係者がこれを知って「そんなに短期
間で作れるのか!わが海軍もお願いしたい」と大い
に驚いたという話を聞いたことがあります。
現実には「ダイアモンド・プリンセス」や「アイー
ダ・プリマ」で起きたような事故が護衛艦建造中に
いつ発生してもおかしくないような時程の中で作業
をしています。
自衛隊の装備品は支援災害などの特例以外は納期遅
延は許されません。もちろん、外国人労働者も雇え
ませんし、専門技術を持つ技術者だけが作業に関わ
ることになるため、その人たちを艦の完成後も維持
していく必要があります。
そのあたりを認識している関係者は決して多くなく、
無理な状況はどんどんエスカレートしてしまうので
す。
造船業界が危機に瀕し、金額も含めた様々な無理筋
な受注をせざるを得ない状況になっている、その影
響は自衛艦建造にも及んでいるのです。
連日でテレビに映し出される豪華客船に、つい、そ
んなことも連想しています。
<おしらせ>
YouTubeチャンネルくららで毎週土曜にアップして
いる「国防ニュース最前線」、今週はお休みです!
http://okigunnji.com/url/42/
(つづく)
(さくらばやし・みさ)
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【著者紹介】
桜林美佐(さくらばやし・みさ)
昭和45年、東京生まれ。日本大学芸術学部卒。フリ
ーアナウンサー、ディレクターとしてテレビ番組を
制作。その後、国防問題などを中心に取材・執筆。
著書に『奇跡の船「宗谷」─昭和を走り続けた海の
守り神』『海をひらく─知られざる掃海部隊』『誰
も語らなかった防衛産業[改訂版]』『武器輸出だ
けでは防衛産業は守れない』『防衛産業と自衛隊』
(いずれも並木書房)、『終わらないラブレター─
祖父母たちが語る「もうひとつの戦争体験」』(PH
P研究所)、『日本に自衛隊がいてよかった』(産
経新聞出版)、『ありがとう、金剛丸─星になった
小さな自衛隊員』(ワニブックス)。月刊「テーミ
ス」に『自衛隊密着ルポ』を連載。
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