配信日時 2020/02/05 20:00

【防衛予算から読み解く日本の防衛力(21)】 補正予算頼みの防衛予算(その3) 市川文一(元武器学校長・陸将補)

───────────────────────
ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応
予備自衛官でもあります。
お仕事の依頼など、問い合わせは以下よりお気軽に
どうぞ
 
E-mail hirafuji@mbr.nifty.com
WEB http://wos.cool.coocan.jp
───────────────────────


こんにちは、エンリケです。

市川さんの最新刊
「不思議で面白い陸戦兵器」
https://amzn.to/2mHwynA

は、陸戦兵器や装備に興味ある人にとっては、
知的体力を養う上で欠かせない
「必須サプリメント」のような存在でしょう。
得難い本です。


きょうも、他では手に入らない
知識が手に入る内容です。

さっそくどうぞ


エンリケ





市川さんの新刊
「不思議で面白い陸戦兵器」
https://amzn.to/2mHwynA
※大反響発売中



ご意見・ご感想はコチラから
 ↓
https://okigunnji.com/url/7/

───────────────────────
防衛予算から読み解く日本の防衛力(21)

補正予算頼みの防衛予算(その3)

市川文一(元武器学校長・陸将補)
───────────────────────

□はじめに

 メルマガ軍事情報での連載を始めてから、軍事に
なじみのない人でもわかるようにと、簡単、単純、
わかりやすさを心がけてきました。しかし、今回の
連載に関しては、自分でも限界を感じています。予
算そのものが、そもそもわかりにくい上に、防衛予
算は複雑怪奇です。

 軍事の専門家と呼ばれている人でも防衛予算に精
通している人は極めて少数で、自衛隊の中でも予算
関連の職務に携わっていない人は防衛予算に関する
知識はわずかです。元々が分かりにくいということ
もありますが、防衛予算をテーマにして軍事を語る
のは本連載が初めてではないかと思います。

 そして、複雑怪奇な防衛予算の中においても、今
回まで3回にわたって連載した補正予算との関係は、
ほとんど理解されていない分野です。特に今回の内
容については、ここ数年の現象であり気が付いてい
ない人が多いと思われます。
 
 しかしながら、予算の仕組みについては複雑怪奇
ですが、問題点は明確です。現在の防衛予算は補正
予算がなければ成り立たないものであり、現状でも
2,000~3,000億円の増額が必要不可欠であるという
ことです。数字をごまかすことはできません。

▼補正予算頼みの防衛予算(その3)

 補正予算は当該年度の不測事態に対応するための
予算であるため、基本は歳出予算です。当該年度に
契約して当該年度に納品と支払いを行なうこととな
ります。とはいえ、補正予算が編成されるのは通常
年末のため、公告から納品まで、当該年度内に終わ
らせるのは非常に厳しく、国会の決議に基づき次年
度まで予算が繰り越されることが多くなります。

ところが、防衛省が所管する補正予算に関しては、
市販されている施設機材や市販品に近い装輪車、燃
料等を除き、予算の繰越しをしても対応できないも
のがほとんどです。特に、「自衛隊の安定的な運用
態勢の確保」のための装備品の取得や維持管理のた
めの定期整備等は後年度負担でなければ時間的に不
可能です。そこで、一部の装備品の取得経費につい
ては、新規後年度負担の予算となっています。

 補正予算の原則歳出予算という性格上、新規後年
度負担で装備品を取得した場合は、契約は補正予算
の枠内で行ないますが、支払いは防衛費の中の歳出
化経費となってしまいます。つまり、補正予算の枠
組みで装備品を購入しても結局は防衛予算に跳ね返
るということです。

 補正予算で装備品を取得し防衛予算の歳出化経費
に反映されるとすれば、26年度以降、毎年、2,000
億円前後の補正予算が編成されていますから、本来
は、防衛予算の歳出化経費に反映され防衛予算の伸
び率は4~5%の伸び幅になるはずです。

 また、新規後年度負担の予算額についても、27年
度の3,534億円増、31年度の4,074億円の増も、数年
後の歳出化経費に影響を与えるため、補正予算と相
まって防衛予算の5%前後の増加という結果が予想さ
れます。ところが、現実には、毎年の防衛予算の伸
び率は1%前後に押さえられています。このカラク
リは概算要求と実際の予算を比べることで明らかに
なります。

 令和2年度の概算要求の歳出化経費21,614億円に
対して、閣議決定された予算案の歳出化経費は19,3
36億円で、その差は2,278億円であり、31年度の概
算要求の20,647億円に対して、国会決議された予算
の歳出化経費は18,431億円で、その差は2,226億円
です。

 これまで説明したように、歳出化経費はすでに契
約されたものの支払いのための経費であり予算化し
なければならないものです。したがって、概算要求
の時点で金額はほぼ確定しており、予算を査定する
ときに削減の対象とはなりません。

ただし、一部の契約は、当初の契約額が確定してい
ないものがあり概算要求時と予算の査定時と金額が
変わる場合もあります。たとえば、輸入製品につい
ては為替レートにより契約金額が変わります。研究・
開発関係の契約のように費用の見積もりが不確定の
ため契約金額が確定していないものもあります。

しかしながら、その変動額は数十億~数百億円程度
であり数千億の変動はあり得ません。26年度は76億
円、25年度は141億円、26年度は239億円ですから、
31年度、令和2年度の差額は通常の10倍以上というこ
とになります。

この歳出化経費の概算要求額と予算額の差を埋めて
いるのが補正予算です。「自衛隊の安定的な運用態
勢の確保」のために編成された補正予算、30年度で
あれば3,822億円のうちの2,226億円が歳出化経費と
して使用されているということです。

つまり、防衛費を5%以上増額するのは、大きな議論
となる可能性が高いため、補正予算を活用しながら
1%程度の増額に押さえているというのが真実なの
です。日本の安全保障のために最低限必要な防衛費
さえも、補正予算で誤魔化しながら増額しなければ
ならないというのが、日本の実態ということです。



(つづく)


(いちかわ・ふみかず)


市川さんへのメッセージ、ご意見・ご感想は、
このURLからお知らせください。

https://okigunnji.com/url/7/


 
【著者紹介】
市川文一(いちかわ・ふみかず)
1961年生まれ。長野県出身。防衛大学校27期生。
1983年、陸上自衛隊に入隊。
2002年に1等陸佐に昇任後、第13後方支援隊長、統合
幕僚監部人事室長、装備施設本部武器課長、陸上幕
僚監部武器・化学課長、東北方面後方支援隊長、愛
知地方協力本部長として勤務、
2015年陸将補に昇任後、陸上自衛隊武器学校長の勤
務を最後に2017年8月に退官。退官後の9月には
YouTube「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演。
2019年9月に新刊『不思議で面白い陸戦兵器』を刊
行。

2017/9 YouTube「桜林美佐の国防ニュース最前線」
に出演。
 https://youtu.be/6hPY3vgpidw
2017/10/21「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出

 https://youtu.be/jESYh1lIeSE
2018/2/10「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
  https://youtu.be/D_md0ZSJNds
2018/6/9「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
 https://youtu.be/eHnT9jvqQjk
2018/10/6「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
  https://youtu.be/aEOhNJ3twN0

著書に、
『猫でもわかる防衛論』(大陽出版)
 https://amzn.to/2qBGuNJ
「不思議で面白い陸戦兵器」(並木書房)
https://amzn.to/2mHwynA
がある。


 
PS
弊マガジンへのご意見、投稿は、投稿者氏名等の個
人情報を伏せたうえで、メルマガ誌上及びメールマ
ガジン「軍事情報」が
主催運営するインターネット上のサービス(携帯サ
イトを含む)で紹介させて頂くことがございます。
あらかじめご了承ください。
 
PPS
投稿文の著作権は各投稿者に帰属します。
その他すべての文章・記事の著作権はメールマガジ
ン「軍事情報」発行人に帰属します。


最後まで読んでくださったあなたに、心から感謝し
ています。
マガジン作りにご協力いただいた各位に、心から感
謝しています。
そして、メルマガを作る機会を与えてくれた祖国に、
心から感謝しています。ありがとうございました。


 
●配信停止はこちらから
https://1lejend.com/d.php?t=test&m=example%40example.com
 
 
----------------------------------------
 
発行:おきらく軍事研究会
(代表・エンリケ航海王子)
 
メインサイト
https://okigunnji.com/
 
問い合わせはこちら
https://okigunnji.com/url/7/
 
 
Copyright(c) 2000-2020 Gunjijouhou.All rights reserved.