こんにちは、エンリケです。
元陸将 元陸幕長・火箱さんの半生を辿る
「神は賽子を振らないー元
陸上自衛隊幕僚長火箱芳文の半生―」
のつづきです。
きょうは、
知られざる名将・桑江閣下のはなしです。
さっそくどうぞ
エンリケ
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『ライター・渡邉陽子のコラム (264)
―神は賽子を振らない
第32代陸上幕僚長火箱芳文の半生(6)―
渡邉陽子
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こんばんは。渡邉陽子です。
今週も「PANZER」に連載中の元陸上幕僚長火箱芳文氏の半生を振り
返る「神は賽子を振らない-第32代陸上幕僚長 火箱芳文の半生-」
の最初の赴任地、沖縄時代のお話です。でも今週は火箱氏は登場し
ません。
■神は賽子を振らない 第32代陸上幕僚長火箱芳文の半生(6)
先週は火箱氏が沖縄に配属された当時の沖縄の状況についてご紹介
しました。自衛隊に対する沖縄県民の拒絶反応はすさまじいものが
ありましたね。特に最初は「自衛隊帰れ」ではなく「日本軍帰れ」
とシュプレヒコールを挙げていたそうですから、部隊も大変だった
と思います。
では続きをどうぞ。今回は当時、幹部候補生だった火箱氏にとって
はほとんど雲の上のような存在だった第1混成団長のご紹介です。
沖縄県民として凄絶な人生を送られた人です。
少し脱線するが、若き日の火箱に影響を与えた第1混成団長、桑江
良逢氏についても記しておきたい。
桑江氏は1922(大正11)年、沖縄県首里市に生まれ、沖縄一中から
広島幼年学校を経て陸軍士官学校を1941(昭和16)年に卒業後、満
州東部国境警備隊で勤務。1944(昭和19)年2月に内南洋メレヨン
島部隊の中隊長となり、そこで終戦を迎えた。
1952(昭和27)年に警察予備隊入隊。防衛大学校教官、第10普通科
連隊長(北海道滝川)を経て臨時第1混成群長となり沖縄へ移駐。
1976(昭和51)年8月まで第1混成団長を務め、1977(昭和52)年1
月に退官した。
沖縄戦で祖母、母、弟の家族全員と多数の親戚縁者や友人、知人を
失っている。さらに士官候補生以来の原隊である歩兵第32連隊、第
24師団主力(山部隊)も沖縄で玉砕。
著書『幾山河』には「運命は皮肉にも、沖縄出身の私が、派遣隊と
して連隊主力よりも半歳さきに南方に転進したために、こうして生
き残り、満州時代の上官・同僚・部下・教え子等の大部分が、ここ
沖縄の土となってしまった」と記されている。
家族の死は引き上げ後に知り、機銃掃射にあったと聞かされたサト
ウキビ畑で、肉親の名前が刻まれている撃ち抜かれた弁当箱を見つ
けたという。
沖縄部隊指揮官の職務は桑江氏自身の希望でもあった。
周囲は「君は満州や南方戦線で人並み以上の苦労をした。命令なら
ば仕方ないが自ら進んで困難な沖縄部隊指揮官の職務を希望するこ
とはない。しかも栄転ならともかくすでに何年も前に連隊長を終え
た君にとって、第1混成群は部隊の規模から言っても格下げの職務
ではないか」と反対した。しかし桑江氏は「私にとって沖縄は単な
る故郷ではなく聖域であり聖地。沖縄部隊指揮官という職務はそう
いう場所をお守りする指揮官と受け止めている」と、意志を曲げな
かった。このような経歴の持ち主が、火箱が最初に赴任した部隊の
長だったのである。
臨時第1混成群長という役職は革新勢力にとって最大の攻撃対象だ
ったため、就任後の桑江氏にはどこに行くにもMPが同行した。休日
の夜に飲みに出かけるときも、私服のMPが付いて来た。それほど沖
縄部隊指揮官とは覚悟が求められる職務だった。
2010(平成22)年3月、第15旅団の改編に伴い第1混成団は廃止さ
れた。このとき、火箱は陸上幕僚長。改編行事で訪れた際、意識が
混濁する病床にあった桑江氏を見舞った。付き添う令夫人が「火箱
さんよ」と声をかけると、「おお!」と一瞬目を見開き、温かい手
で握り返した。幹候を出たばかりの火箱の初々しい姿を知っている
桑江氏にとって、陸幕長となった火箱の姿がどれほど喜ばしく頼も
しく映ったか想像に難くない。
火箱は旅団における祝賀行事で、「小隊長として沖縄にいた頃とは
比べものにならないほど、今では多くの方々が自衛隊を支えてくれ
ている。病気で欠席されている桑江元団長がこの場にいたなら、今
日の日を大変喜んだでしょう」とあいさつしている。桑江氏は第15
旅団改編後しばらくして逝去した。
(つづく)
(わたなべ・ようこ)
「神は賽子を振らないー元陸上自衛隊幕僚長火箱芳文の半生―」
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□著者略歴
渡邉陽子(わたなべ・ようこ)
神奈川県出身。大学卒業後、IT企業、編集プロダクション勤
務を経て2001年よりフリーランス。2003年から月刊
『セキュリタリアン』『MAMOR』などに寄稿。
現在は自衛隊関連の情報誌などで記事を発表。メルマガ「軍事
情報」で自衛隊関連の記事を配信中。
2016年6月、デビュー作
『オリンピックと自衛隊 1964-2020』を刊行。
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