配信日時 2020/02/04 08:00

(新)【短期連載 米国とイランはなぜ戦うのか?(1)】繰り返される40年の対立   菅原出(国際政治アナリスト・危機管理コンサルタント)

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応
予備自衛官でもあります。
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おはようございます。エンリケです。

米とイランのかかわり。
なかでも、イラン革命後のそれを
キチンと正確につかんでいる日本人は
ほとんどいないはずです。

わたし自身を振り返ってみても、
特定の言い分のみを鵜呑みにして
いい加減な情報に踊らされて、常に判断
を誤ってきたような感じがします。

そして起きたのが、
令和二年初頭の米イラン危機です。

あのとき、実にいい加減な情報が、
表舞台で、まああれこれ飛び出てきました。

肩書は立派でも、
我が国をあてものの素材にするレベルの
「当てもの屋」ばかり。

我が知性はここまで落ちたか、と
正直呆れ果てました。

中東をめぐる情勢解説は、
もう誰も信じられない。

という人もいるかもしれませんが、

まあこの短期連載を読んでみてください

といいたいです。

こういう知識がないから、
中東事情がつかめないんだ、ということが
よくわかるはずです。

イラン、中東、米の関係がつかめるかも?
短期連載スタートです。


エンリケ


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●短期連載

米国とイランはなぜ戦うのか?(1)

繰り返される40年の対立

菅原出(国際政治アナリスト・危機管理コンサルタント)

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□ご挨拶

2020年は、年初から米軍がイラン革命防衛隊の
ソレイマニ司令官を殺害し、米国とイランがあわや
全面戦争かというところまで緊張が高まりました。
幸いにも今回は戦争を回避することができたものの、
危機の構図は変わらず、再び両国が軍事衝突に向か
う可能性は十分に残されています。

そうしたなか、このたび、米・イラン対立の歴史的・
構造的な背景、とりわけトランプ政権の対イラン政
策とイランの抵抗戦略に関して、「短期連載」とい
うかたちで寄稿させていただく機会に恵まれた。

2月6日に刊行予定の拙著『米国とイランはなぜ戦
うのか?』から、そのエッセンスをご紹介しながら、
“トランプ政権がもはや取り返しのつかないところ
までイランを追い込み、イランが生存をかけた危険
な勝負に出ている”という現在の危機の構図を読者
の皆様にお伝えさせていただこうと思います。

▼反米闘争が埋め込まれたイスラム体制

米国とイランの対立は、今に始まったわけではなく、
この二国はすでに1980年以来40年近く断交状態にあ
る。

よく知られているように、1979年の革命以前のモハ
ンマド・レザ・シャー・パーレビ政権時代のイラン
は、米国の同盟国であり、当時のイランは中東で最
大の米国製兵器の購入国でもあった。

その親米政権を、ホメイニ師を中心とするイスラム
教シーア派の宗教指導者が、イスラム主義思想を掲
げて打倒し、イスラム統治体制を樹立したのが現在
のイランである。

当初、パーレビ政権打倒の革命には、こうしたイス
ラム主義者だけでなく、共産主義者などさまざまな
思想的背景の人たちが加わっていたが、ホメイニ師
などイスラム主義勢力は、テヘランの米国大使館占
拠人質事件などを利用して反米感情を煽る強硬姿勢
を貫くことで、国内のライバルを倒し権力を固めて
いった。

つまり「イスラム体制の設立」に「反米闘争」とい
う性格が埋め込まれているのである。現在の最高指
導者ハメネイ師など、革命世代のイランの指導者の
強い対米不信はここから来ており、そう簡単に対米
交渉・関係改善などできないという点を理解する必
要がある。

▼「代理勢力によるテロ」を対外政策の武器に

革命後のイランは、自分たちの革命を対外的に普及
する意志を見せ、そうしたイランの拡張主義を警戒
する隣国イラクのサダム・フセイン政権が1980年9月
にイランへ侵攻、その後、8年間も続くイラン・イ
ラク戦争になった。

このイラクとの戦争で、物量で圧倒的に勝るイラク
軍に対抗するため、イランは宗教に基づく精神力で
戦うしかなく、「ジハードと殉教」という概念に基
づいて戦争を遂行する「革命防衛隊」が主力になった。

この戦争で中東のアラブ諸国や米国はイラクを支援
し、イランは国際的に孤立。これに対してイランは、
近隣諸国のイスラム教シーア派住民の急進派グルー
プにさまざまな支援を提供し、バーレーン、クウェ
ート、サウジアラビアなどにネットワークをつくり
始めた。

また1982年6月にイスラエルがレバノンに侵攻する
と、イランはレバノン国内のシーア派を支援するた
め、1000人規模の革命防衛隊員を派遣し、同国のシ
ーア派社会を軍事的に防衛するため、現地のシーア
派民兵組織に軍事訓練を提供した。

このレバノンを舞台にイランは、現地の代理勢力を
通じて間接的に米国へ攻撃を仕掛け、“代理勢力に
よるテロ”を対外政策の道具として使う手法を確立
していったのである。

1980~90年代にイランが仕掛けたとされる対米テロ
は、現在の基準からすると凄まじいものだった。今
だったら一発で戦争に発展してしまうような大規模
テロばかりである。

1983年4月、レバノンの米大使館に自動車自爆テロ、
17人の米大使館員含む63人が死亡。同年10月にはベ
イルートの米海兵隊本部にトラック爆弾テロ、241人
の海兵隊員死亡。83年12月、クウェートの米・仏大
使館が爆破、5人死亡。84年ベイルートの米大使館
にトラック爆弾、23人死亡。96年6月、サウジアラ
ビアの米軍兵士用宿舎で爆弾テロ、米軍兵士19人死
亡……等々。

▼イランの軍事戦略を決定づけたイラン・イラク戦
争の経験

イラン・イラク戦争はエスカレートし、1984年頃か
らペルシャ湾沿いの石油インフラ施設や同湾を航行
するタンカーや商船に対する攻撃が行なわれるよう
になった。米海軍はクウェートの石油タンカーを護
衛する作戦を開始し、87年10月にはタンカー攻撃に
対する報復としてイランの2つの油田を攻撃。また8
8年4月に米軍艦艇がイランの機雷攻撃を受けると、
米軍とイラン軍の間で交戦となり、イラン海軍の保
有する大型艦艇の4分の1が撃沈された。

日本ではもう忘れられていると思うが、このとき米
国とイランは交戦し、イランは圧倒的な米軍の攻撃
になす術(すべ)もなくやられてボコボコにされて
いた。

そしてこの経験が、その後のイランの軍事戦略の方
向性を決定づけた。すなわちイランは、巨大な敵と
戦うための「非対称戦争」の能力、つまり、テロや
ゲリラ戦術のように、強者の一方的な優勢を許さな
い変則的で予測困難な攻撃を仕掛けることで、米国
に負けない軍事力の構築を目指すようになったので
ある。

そして、そのためにも周辺地域に散在するイスラム
教シーア派コミュニティとのネットワークを強化し、
米国と敵対する国々との関係をつくることで「抵抗
の枢軸」の構築を目指すようになった。

革命防衛隊が1990年に対外的な秘密工作のための特
殊部隊として「コッズ部隊」を創設したのは、そう
した背景からだった。

現在まで続くイランの基本的な対米姿勢や軍事戦略
は、この頃に確立されたものであり、基本的な戦い
方はこの頃から変わっていないことが分かる。

次回は歴代米国政権の対イラン政策を振り返り、オ
バマ政権下で核合意に至る背景を振り返ってみたい。



(つづく)

(すがわら・いずる)






●著者略歴
 
 菅原 出(すがわら・いずる)
国際政治アナリスト・危機管理コンサルタント
1969年生まれ、東京都出身。中央大学法学部政治学
科卒業後、オランダ・アムステルダム大学に留学、
国際関係学修士課程卒。東京財団リサーチフェロー、
英危機管理会社役員などを経て現職。合同会社グロ
ーバルリスク・アドバイザリー代表、NPO法人「海
外安全・危機管理の会(OSCMA)」代表理事も務め
る。著書に『外注される戦争』(草思社)、『戦争
詐欺師』(講談社)、『秘密戦争の司令官オバマ』
(並木書房)、『「イスラム国」と「恐怖の輸出」』
(講談社現代新書)などがある。
 

 
 
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