こんにちは、エンリケです。
こういうものがたりを知る機会。
今のわが国では「ない」と思います。
キチンと広く国民に啓蒙する(できる?)マスメデ
ィアも存在しません。
きょう、貴重な機会をモノにして、
一味違う日本人になりませんか?
さっそくどうぞ。
エンリケ
追伸
「美佐日記」は、今号で記念の60回目を迎えました!
お忙しい中、貴重な記事を毎回提供くださる桜林さ
んに、深く御礼申し上げます!
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今年4月に刊行された『自衛官が語る災害派遣の記
録』に続く、第2弾『自衛官が語る海外活動の記録』
(桜林美佐監修・自衛隊家族会編)が発売されてい
ます。中東シーレーンの安全確保をめぐって新たな
自衛隊派遣が行われているこの時期にタイミングを
合わせたような出版です。現地で自衛官たちが何を
思い、どのような苦労をして、任務をこなしてきた
か、25人の自衛官のリアルな体験記です。
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桜林美佐の「美佐日記」(60)
香焼島造船所の売却検討─「宗谷」建造と川南豊作
桜林美佐(防衛問題研究家)
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おはようございます。桜林です。「男もすなる日
記といふものを、女もしてみむとてするなり」の
『土佐日記』ならぬ『美佐日記』は今回で60回目
です。
今回も読者の「予備3曹」様より感想を頂戴しま
した。「殺処分の件、予備自補の時の班長が言って
おりました。あの作業服の下にはオムツを着けてい
ると。どうしてこんなに大変なことをされてる方を
非難できようか。非難される方は一度現場を見てほ
しい。そんなことを思いました」
ありがとうございます!本当に多くの方にまずは
関心を持ってもらいたいと思います。
さて、昨年末、ちょっと驚いたニュースがありまし
た。それは「三菱重工が長崎の香焼島造船所の売却
を検討」というものです。この香焼島(こうやぎじ
ま)という地名には、実は馴染みがあります。
私のデビュー作である『奇跡の船「宗谷」』の主
人公「宗谷」が建造されたのは、ここ香焼島なので
す。
しかし、当時は三菱の造船所ではありませんでした。
三菱と香焼島の歴史はまだ50年程で、その前にこ
の小さな島を日本の一大造船所にしたのは川南豊作
(かわみなみ とよさく)という人物でした。
川南は1902年に生まれ、東洋製罐に就職。そ
こで働いて貯めた3万円を資本金にして、1931年に
缶詰製造会社を設立します。
発案したトマト・サーディンの缶詰が大ヒットし、
様々な分野に事業拡大を続けます。ある時、香焼島
造船所を持っていた松尾造船が経営破綻し、跡地が
放置されていることを知り、これを買収したのです。
造船に関しては全くの素人であった川南がスター
トさせた造船所でしたが、なんとソ連から3隻の耐
氷船建造の受注が舞い込みます。そしてなんとか作
り上げたのですが、情勢変化により軍からソ連への
引き渡しを止められてしまいます。
そのうちのひとつである「ボロチャエベツ」と名付
けられた船が海軍に引き取られ「特務艦」として戦
火を生き抜き、これがのちの「宗谷」になったので
す。
香焼島造船所は大戦中、三菱長崎造船所や三井玉
野造船所を超える造船実績を出したといいますから、
一世を風靡したと言えます。
しかし戦争が終わると流れは変わりました。川南氏
は貧困が国民を苦しめている状況に「国民が飢えて
いたら国家の再建はままならない」と、漁船を建造
して魚を獲ることを思い立ちます。
残っている資材で船を作り、従業員が漁に出るよう
になったのだといいますので驚きます。
東洋製罐から連れてきた何人かの社員が活躍し、
魚の缶詰にして販売して従業員にもくまなく配った
のだそうです。
因みに川南氏の娘さんに聞くと「家族は質素な食事
で缶詰は一度もたべさせてもらわなかった」とのこ
とでした。
かつての従業員に話を聞いた際も「私欲のない人
でした」と言っていたことを思い出します。
長崎の発展のために道路や橋を作ったりもしたのだ
そうですが、その方は川南工業がなくなると、三菱
長崎造船所で働いていたことから、そこへの配慮で
川南時代を称賛するようなことは、あまり書いて欲
しくないと訴えられていたことが印象に残っていま
す。
おそらく同じように、戦後は三菱に移った従業員
が多かったと思われますので、川南豊作氏の功績が
あまり世の中に残っていないのは、ライバルだった
三菱と川南の関係を気遣ったからなのではないかと
思われます。
川南氏は公職追放された人々も保護しました。
「お国のために戦った人を、敗戦で路頭に迷わせて
はいけない」と、大物将校や特高警察や憲兵など構
わず自宅に住まわせたり会社で雇ったのです。
その中には東条英機の三男である敏夫氏の姿もあっ
たといい、また源田実氏は香焼島炭鉱所長として雇
用されています。
その後、川南氏自身も公職追放になり、川南工業
は昭和30年に倒産します。あの「宗谷」が南極観測
船として生まれ変わり出港したのは、奇しくもその
翌年のことでした。
三菱重工が香焼造船所跡地を取得したのは1968年
のこと。
実は川南氏が香焼島の松尾造船跡を買い取った時、
三菱重工も話を持ちかけていました。しかし、三菱
の条件では松尾の借金は返すことが困難で交渉が滞
っていたところに川南氏が現れ、松尾氏の借金を全
て肩代わりして取得したのです。しかも、前社長を
顧問として呼び入れ、社名も「松尾造船所」のまま
残しました。
三菱がこの地を買い取ったのは、それから32年
後ですから、30年がかりの因縁の取得だったと言
えるのかもしれません。
そして、さらに50年が経ち、今回、三菱重工が
この造船所を手放すというのです。この一見小さな
ニュースには、長い歴史の物語があるのです。
三菱重工の香焼工場売却が報じられる約1か月前
には、ジャパン マリンユナイテッド(JMU)と今治
造船が資本業務提携を発表し、日本の造船業に激震
が走りました。
今治造船はいわゆる「オーナー系」企業で、大手
重工業系であるJMUが事実上、今治の傘下に入る形だ
からです。
これには国が大幅に助成しているという韓国造船
業や、同じように安値攻勢で進出している中国造船
業の勢いがあります。そして最近、これら中韓の造
船大手は再編でさらに拡大しているのです。
このような状況はここ数年でますます進み、日本
の造船業はもう先がない、などとも言われるように
なりましたが、日本の業界の方々はそんな中でも戦
う姿勢です。
日本の造船を守ることは、これまで積み上げてきた
わが国の歴史を守ることと同義とも言えますので国
としてもバックアップしてもらいたいものです。
三菱重工もJMUも言うまでもなく自衛隊艦艇を建造
しています。こちらが直面する問題についても、ま
た回を改めてお伝えしたいと思っています。
<おしらせ>
YouTubeチャンネルくららで毎週土曜にアップしてい
る「国防ニュース最前線」、今週も伊藤俊幸 元海
将に解説して頂きます。
http://okigunnji.com/url/42/
(つづく)
(さくらばやし・みさ)
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【著者紹介】
桜林美佐(さくらばやし・みさ)
昭和45年、東京生まれ。日本大学芸術学部卒。フリ
ーアナウンサー、ディレクターとしてテレビ番組を
制作。その後、国防問題などを中心に取材・執筆。
著書に『奇跡の船「宗谷」─昭和を走り続けた海の
守り神』『海をひらく─知られざる掃海部隊』『誰
も語らなかった防衛産業[改訂版]』『武器輸出だ
けでは防衛産業は守れない』『防衛産業と自衛隊』
(いずれも並木書房)、『終わらないラブレター─
祖父母たちが語る「もうひとつの戦争体験」』(PH
P研究所)、『日本に自衛隊がいてよかった』(産
経新聞出版)、『ありがとう、金剛丸─星になった
小さな自衛隊員』(ワニブックス)。月刊「テーミ
ス」に『自衛隊密着ルポ』を連載。
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