配信日時 2019/12/12 20:00

【ライター・渡邉陽子のコラム (258)】明野駐屯地航空学校(8)

こんにちは、エンリケです。

明野駐屯地航空学校の八回目です。

「航空科に特化したMM」

想像も膨らんで、
とても面白かったです。


明野と聞いても正直ピンときませんが、
松阪、伊勢と聞くとイメージしやすいですね。

改元と2020年というキリのいい数字が重なるこ
ともあり、お伊勢さんに行きたいな、とふと思いま
した。

航空部出身・渡邉さんの
きょうの記事をさっそくどうぞ。


エンリケ


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『ライター・渡邉陽子のコラム (258)
 ― 明野駐屯地航空学校(8)―

         渡邉陽子
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こんばんは。渡邉陽子です。
先日、北海道のとある駐屯地にほぼ同時期に所属し
ていた幹部自衛官のOB会に参加してきました。本来
は内輪の集まりのはずなのですが、幹事がかつて仕
事をご一緒させていただいていた方で、お声をかけ
てくださったのです。退職時の階級は2佐から陸将
までさまざまですが、そんな階級を超えて「あの厳
しい寒さと雪に閉ざされた地」を共有する仲間とし
て、はたから見ていても実に気持ちのいい集まりで
した。
私もたった2か月間、研修のため過ごした会社にい
た人と、20年経った今でも付き合いが続いています。
大切なことはどれほど長い時間を過ごすか、ではな
いんですね。そんなことに改めて気づかせていただ
いた、楽しい夜でした。

T様
明野駐屯地の開設は1920年、この歴史のある駐屯地
でお父様も過ごされていたのですね。あと少しだけ
明野の連載は続きますので、引き続きお楽しみいた
だければ幸いです。メッセージありがとうございま
した。


■明野駐屯地航空学校(8)

明野の航空学校の話が思っていたより長くなります
が、私も楽しく連載させていただいています。
明野駐屯地の所在する三重県伊勢市に隣接する松阪
市は、世界に誇る黒毛和種ブランド松阪牛で知られ
ていますが、私にとっては今も昔も「松阪高校」が
真っ先に思い浮かびます。
というのも、高校時代に部活動でグライダーを操縦
していた頃、全国の数少ない航空部が集まって開催
される全国滑空選手権に、松阪高校も出場していた
のです。実は松阪工業高校か松阪商業高校も出場し
ていたのですが、どちらなのか記憶が曖昧です。し
かも母校と松阪の3校を検索したところ、すでにど
の高校にも航空部は存在していませんでした!
戦前、戦中は動力付きの固定翼を操縦する前にグラ
イダーで訓練したという歴史に加え、あいさつはす
べて敬礼、選手権の後部座席に乗ってジャッジする
教官は陸軍航空隊出身というミリタリー色の強い航
空部という存在は、日本航空学園(山梨)以外の高
校の部活としては異色だったかもしれません。当時
はまったく意識していませんでしたが……
そんな過去もあって、敬礼にはちょっとうるさい人
間になってしまいました(笑)。いきなり余談で失
礼いたしました。

さて、先週は幹部航空操縦課程に入校中の学生たち
を指導する教官をご紹介しました。
本日は図上演習最終日の様子をご紹介します。
図上演習とは図上演習とは実働を伴わない演習で、
古くは「兵棋演習」、欧米では「WAR GAME」と呼
ばれているものです。
第1教育部では、FOC(幹部特修課程)とAOC(幹部上
級課程)に入校中の学生が1週間に及ぶMM(図上演習)
の最終日を迎えていました。
MMは戦術能力の向上を目指し、将棋の駒を動かすよ
うにさまざまな状況を地図の上で表示する演習で、
今回は師団クラスの戦闘を想定、師団長役のみ教官
とし、残りは学生によって2個師団を構成しました。
普通科や機甲科といった職種、多彩な部隊からなる
師団の中で、「航空科をいかにアピールし戦況が有
利になる使い方をしてもらい作戦を進めるか」とい
うのが今回の主旨です。言葉に語弊があるかもしれ
ませんが、おもしろいですね。そう聞いただけでわ
くわくします。「うちをうまく使ってくれ! そう
すれば優勢になる!」という主張を通すための根拠
を示す必要があるわけです。

MMは富士学校などでも行なわれますが、航空科に特
化したMMはここ明野の航空学校でのみ行なわれてい
ます。

1師団、2師団とも室内はG1~4に区分されており、
学生たちは自分が割り当てられた任務に応じた場所
にいます。
G1は人事や部外教育、民生を担当するほか士気高揚
を図るため新聞を発行するなどの任務を担当。
G2は情報、G3はG2の情報をもとに実際に部隊を動か
す要、G4は兵站となっています。
ちなみに師団が使っている教場の壁には、MMの期間
中、こまめに発行されていた新聞が貼られていまし
た。こういう何気ないことが、士気の高揚につなが
るのです。

すべての流れをコントロールし、対抗部隊役も担っ
ているのが統裁部です。
ここには師団が立案した作戦計画が随時提出される
ので、それに応じて状況を付与していきます。つま
り学生達の手の内を知った状態で、彼らがより追い
詰められるような課題を与えるわけです。
師団が偵察機を出しその方向が的確だった場合、対
抗部隊を見つける、あるいは撃墜されるかといった
判断は、審判室でサイコロが振られて決まります。
本当にサイコロを振るんですよ。
審判室には演習の支援を行なう教官がいて、操縦士
役の学生が自身の行動を逐次報告に来ます。教官は
ここでの判定を統裁部にフィードバックすることで、
また新たな状況が付与されるのです。

教官のひとりが、学生たちはほとんど寝ていないで
状況にかかりきりだと教えてくれました。
図上とはいえ状況が錯綜し現場が入り乱れることも
多く、情報を整理することも難しいそうです。
参加しているAOCとFOCの学生はすべて航空科で、な
んらかの特技をすでに所有していますが、MMではそ
の特技をあえて考慮しません。そのため操縦士役が
本来の特技は通信だったりしますが、それが航空科
全体を見据えた運用という観点からは大事なことな
のでしょう。



(以下次号)


(わたなべ・ようこ)

※現在連載中

「PANZER」1月号
「神は賽子を振らない」第9回
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「正論」12月号
「自衛隊あってのオリンピック」第6回
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□著者略歴

渡邉陽子(わたなべ・ようこ)
神奈川県出身。大学卒業後、IT企業、編集プロダクション勤
務を経て2001年よりフリーランス。2003年から月刊
『セキュリタリアン』『MAMOR』などに寄稿。
現在は自衛隊関連の情報誌などで記事を発表。メルマガ「軍事
情報」で自衛隊関連の記事を配信中。
 
2016年6月、デビュー作
『オリンピックと自衛隊 1964-2020』を刊行。

 
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