配信日時 2019/11/27 20:00

【防衛予算から読み解く日本の防衛力(14)】防衛関係費(その11) 市川文一(元武器学校長・陸将補)

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応
予備自衛官でもあります。
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自衛隊活動費の実態がわかりますね。
非常にわかりやすかったです。

それにしても、
なぜこんな現状に至ったのでしょうか?
なんとも不可解です。

なお、
英語をめぐる教育については
市川さんと同意見です。

さっそくどうぞ


エンリケ



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防衛予算から読み解く日本の防衛力(14)

防衛関係費その11

市川文一(元武器学校長・陸将補)
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□はじめに

 ここ数年、日本の英語教育が大きく変わってきて
います。小学校からの英語教育の導入、部外機関の
英語試験の導入など、日本人の英語能力を高めよう
という政府(行政機関)の意思の表れだと思われま
す。

中学、高校で6年間の英語教育が行なわれている割
には語学力が低いという指摘は以前からされていま
したが、今、なぜという疑問が生じます。2020年の
東京オリンピック・パラリンピックが契機となって
いるということもあるでしょうが、外国語教育に関
する考え方が周回遅れになっています。

外国語に関する教育は、日本人が国語を学ぶと同じ
純粋な語学という面と外国との意思の疎通を図るた
めツールという面があります。今、政策的強化しよ
うとしているのは後者のツールとしての教育の重視
です。経済も文化もスポーツも国際的になり、外国
語は必須のツールとなっていることは確かです。

しかし、最近売り出されたポケトークの機能でもわ
かるとおり、現在の翻訳ソフトの能力は非常に高い
ものとなっています。ロゼッタというメーカーの翻
訳ソフトであれば、90言語に対応し、2,000の専門分
野の翻訳を最大95%の精度で行なえます(言語と分
野を自動的に判断して翻訳します。95%はプロの翻
訳家のやや下のレベル)。さらにAIを駆使して精
度を高め、次期モバイル通信規格の5Gと現在の画
像認識、音声認識を組み合わせてウエアラブル端末
を作れば、どこでも同時通訳が可能となります。

AIで注目を浴びているのが車の自動運転ですが、
安全性の課題が多く実現には時間がかかりそうです。
5Gというと映像、動画の話題になりますが、娯楽
の域をでていません。AIを適用する分野として非
常に相性のいいのが翻訳の世界だと思いますが、一
部の企業の一事業に留まっています。5Gの通信速
度であればウエアラブル端末で認識した文字情報を
クラウド上で速やかに処理して、ごく短時間で翻訳
された文字情報を返すことができます。

5Gが規格化された時代では、同時通訳の自動翻訳
機が誰でも使える時代になります。あとは大手メー
カーや政府が力を入れるだけです。ツールとしての
語学能力を個人に付与する努力をするよりは、自動
翻訳機を普及させる努力のほうが効率的です。コン
ピューターの知識がなくても誰でもスマホを活用し
ているように、語学能力がなくても誰でもが外国人
と会話できる時代はすぐそこにあります(あくまで
ツールとしての語学であり、学問としての語学は別
の問題)。

▼自衛隊の活動経費

 物件費には契約ベースと歳出ベースがあることを
理解した上で、物件費の内訳を見ると内容がスムー
ズに頭の中に流れ込んできます。パンフレットでは、
54ページから56ページに円グラフで掲載されていま
す。契約ベースと歳出ベースの二つの顔を持つ「一
般物件費」、歳出ベースの「歳出化経費」、契約ベ
ースの「物件費」=「新規後年度負担+一般物件費」
の順で掲載されています。

 実際に買う(買った)「もの」という視点に立つ
と、一つ目のグラフは31年度(令和元年度)に契約
して買う「もの」で31年度に入手します。必要性が
生じた「もの」を必要な時期に入手できます。二つ
目のグラフは前年度以前に契約して買った「もの」
で、すでに入手が確定していて変更できません。三
つ目のグラフは31年度に契約して買う「もの」で、
31年度および来年度以降に入手できます。一つ目の
グラフの金額は、三つ目のグラフの金額に含まれま
すので、新規後年度負担は三つ目のグラフから一つ
目のグラフを引いた金額となります。

それでは、予算の内訳を見ていきましょう。一つ目
のグラフは、一般物件費9,808億円で自衛隊が活動
するために必要な経費です。とは言え、そのうちの
40%の3,987億円が「基地対策経費等」で、実際に自
衛隊の活動経費といえるのは42%の4,156億円の「維
持費等」です。「基地対策経費等」の約半分の1,83
0億円が「在日米軍駐留経費負担」として使用されて
いますが、これは、自衛隊の活動経費である「維持
費等」の半分近くの金額です。

単純な比較はできませんが、防衛予算を考える上で
の一つの目安として、一人あたりの活動経費を計算
してみます。在日米軍の実員は3万5千人前後です
から522万円/人で、陸・海・空自衛隊は約23万人で
すから181万円/人です。「在日米軍駐留経費負担」
の約半分が在日米軍基地で働く日本人の労務費です
から、二つの数字は単純に比較できませんが、在日
米軍基地を訪れるとこの金額の差が実感できます。
基地は非常にきれいに整備されており、家族を含め
た米軍人は非常に恵まれた環境で勤務、生活してい
ます。

在日米軍が日本の安全保障環境に果たす役割、特に
抑止力としての役割は非常に大きなものです。しか
し、在日米軍は、日本を守るためだけに存在するの
ではありません。アメリカの国家戦略の一つとして
も存在しています。在日米軍が日本に駐留するため
の経費負担は、自衛隊の基地や駐屯地を基準として、
一般物件費内の予算のバランスを図らなければなり
ません。

在日米軍を基準にするならば、「維持費等」を今の
2倍の8,000億円以上に引き上げる必要があります。
現在の一般物件費の額を基準とするなら、「在日米
軍駐留経費負担」を減らして「維持費等」を増やす
べきです。GDPで日本を抜き、世界第2位となっ
た中国に対してODAを行なってきたことも理解で
きない政策でしたが、在日米軍が「在日米軍駐留経
費負担」によって自衛隊よりもはるかに良い環境で
勤務・生活していることも、問題として認識する必
要があるでしょう。

一般物件費の中の「維持費等」は、個人で例えるな
ら毎月の生活費です。二つ目のグラフの歳出化経費
にも「維持費等」があります。これは、新規後年度
負担で前年度以前に契約したものです。31年度の新
規後年度負担の「維持費等」は、物件費(契約ベー
ス)13,534億円(マイナス)一般物件費4,156億円=
新規後年度負担9,378億円となります。

一般物件費の約2倍の額が新規後年度負担となりま
す。新規後年度負担の「維持費等」は、装備品の計
画整備、定期整備、定期点検や計画的に取得する部
品の購入等に使用される経費がほとんどです。新規
後年度負担の場合は、ものを入手できるのが次年度
以降になりますから、光熱水料や高速道路の通行料、
燃料費、装備品が故障したときの修理費等、自衛隊
が今、活動するのに必要な経費は約4,000億円でまか
なう必要があります。

個人の生活と組織の活動を比較することに問題はあ
りますが、わかりやすい例えをするなら、在日米軍
は年収520万円で普通の生活し、自衛隊は年収180万
円で最低限の生活がやっとできるということです。
実際に陸・海・空自衛隊の4,000億円の「維持費等」
は、部隊が活動するのにギリギリの額で一部に支障
を生じています。特に問題があるのが、装備品の修
理についてです。



(つづく)


(いちかわ・ふみかず)


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【著者紹介】
市川文一(いちかわ・ふみかず)
1961年生まれ。長野県出身。防衛大学校27期生。
1983年、陸上自衛隊に入隊。
2002年に1等陸佐に昇任後、第13後方支援隊長、統合
幕僚監部人事室長、装備施設本部武器課長、陸上幕
僚監部武器・化学課長、東北方面後方支援隊長、愛
知地方協力本部長として勤務、
2015年陸将補に昇任後、陸上自衛隊武器学校長の勤
務を最後に2017年8月に退官。退官後の9月には
YouTube「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演。
2019年9月に新刊『不思議で面白い陸戦兵器』を刊
行。

2017/9 YouTube「桜林美佐の国防ニュース最前線」
に出演。
 https://youtu.be/6hPY3vgpidw
2017/10/21「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出

 https://youtu.be/jESYh1lIeSE
2018/2/10「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
  https://youtu.be/D_md0ZSJNds
2018/6/9「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
 https://youtu.be/eHnT9jvqQjk
2018/10/6「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
  https://youtu.be/aEOhNJ3twN0

著書に、
『猫でもわかる防衛論』(大陽出版)
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「不思議で面白い陸戦兵器」(並木書房)
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がある。


 
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