配信日時 2019/11/27 09:00

【陸軍小火器史(55)番外編(27)】「明治から近代の歴史を学んでこなかった」 荒木肇

こんにちは。エンリケです。

「陸軍小火器史」の五十五回目は、
番外編の27回目です。

荒木先生の最新刊
『日本軍はこんな兵器で戦った-国産小火器の開発
と用兵思想』 http://okigunnji.com/url/62/ 
評判が非常にいいです。

あなたも、もう読まれましたよね?

きょうも、読者反響をお届けします。

いずれも心に響く内容です。

なかでも、
陸自幹部の方のお手紙は、荒木先生のことばと
相まって戦後日本が失った一番の核心部分を
照らし出している感を持ちました。

なかでも
<陸海軍を批判することは先人を貶(おとし)めるこ
とだけではありません。「いじめ」や「忖度」「不
正」「不公平」が現に存在する社会に生きている我
々には、「自分には関係がない」と免責してしまう
ことにつながる気がしてなりません。>

とのことばを真剣に受け止め、
知的に対処できる日本人でありたいと強く思いました。

さっそくどうぞ。


エンリケ


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 陸軍小火器史(55)・番外編(27)

 「明治から近代の歴史を学んでこなかった」

 荒木 肇
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□寄せられるご感想に感謝します

 毎日、毎日、お葉書、封書、メール、お便りをい
ただいています。また、アマゾンの読者レビューに
も、すでに書き込みをいただいております。今日も
そうしたお声について、お答えをしていきたいと思
います。


▼明治から現代の歴史の授業

 「我々は明治から現代の歴史の授業はあまりじっ
くりと勉強してこなかったように思います」。こん
なご投稿をいただきました。

 「本書は明治陸軍が解体されるまでを範囲とし、
技術がない時代は海外の火器の輸入から始まり、技
術を次第に身につけ、日本人の手で国産の小火器を
作れるようになるまでの歴史、技術の進歩、犠牲と
運用の進歩が実例を豊富に交え、紹介されている。
 日本人が自らの手で自らの国を守るため、世界に
並ぶ技術を身につけるまでの先人たちのご苦労がわ
かり、先人たちに感謝したい。
 現代の豊かな技術的に進んだ日本は、先人たちの
努力なくしてはなかったと思わせてくれる一冊です。
日本人に生まれて良かった」

こうしたお声こそ、たいへん嬉しく思うものです。
歴史は何の役に立つのだ・・・という方もおられる
し、暗記モノだったから嫌いだったという声も聞き
ます。


 その通りですね。すでに過ぎて結果が分かってい
るものなど学んで何になるのかというのもその通り、
ある意味正論です。現にわたしも若いころに「昔の
日本軍なんて、もう無くなったものなんか調べてど
うするの。未来を見通せるものを調べるべきだ」と
批判されたこともあります。

 しかし、その「分かっている」「処理は終わった」
というのが、どうにもうさん臭く思われたのです。
まず、昔の陸軍については「精神主義で、非科学的
で」という決めつけがありました。それでいて、戦
艦大和やゼロ戦、酸素魚雷の昔の海軍はよかったと
いうまとめをする人もいました。

 同じ国民が、同じ教育を受けたはずの若者が、入
営した軍種によって精神重視と科学技術の信奉者に
分かれてしまう、これが不思議でした。それなら、
彼らの環境を調べてみようと思ったのです。教育課
程を調べ、訓練、特技の習得過程を追究しました。
そうして、組織の中での暮らしも知ろうと思うと、
昔の人の日記や、公文書も見なければなりません。

 分かったことがありました。いまの私たちと少し
も変わらないということです。たしかに暮らしの周
囲の状況や、技術的環境は、現在の豊かさとは比べ
物になりません。ところが、親が子を思う気持ち、
友を気遣い、異性を愛し、将来を夢見ること、ある
いは他人を憎み、未来に絶望すること等々、100
年前の人々は少しもわたしたちと変わらない。

 たしかに、過去について十分に知り、正しい価値
判断をするには面倒な手続きが必要です。最低、何
年には何が起こった、何の結果からこういうことが
できた、事件に関わったのは何という人だったのか、
そういう基本知識はどうしても必要です。そういう
基礎・基本の知識もなしに、過去を知っても、それ
を正確に受け止めることはできません。

そうした基本知識があってこそ、初めて価値判断の
面白さに気づくことができます。世にはいわゆる学
者といわれる歴史学専門家、あるいは作家、評論家
といった名声のある方々が、たくさんの歴史につい
ての解説書を書かれています。なるほど、説得力の
ある解釈が目白押しに並んでいます。ただ、よくよ
く読めば、同じことを扱っても、全くさかさまな主
張をされていることが分かるのです。

たとえば、日露戦争(1904~5年)は自衛戦争
だったという方がいます。いや、あれは日清戦争
(1894~5年)に続くアジア大陸への侵略戦争
だったとまるで反対の主張をされる方もおられます。
自衛戦争の立場に立つ方は、当然、やむなく立ちあ
がった日本という状況を描かれる。侵略戦争だった
という方々は、さらに続く戦争の数々を一本の線上
にあるように、ひたすら悪玉日本の証拠を出して主
張されます。

このどちらが正しいか、それぞれの主張を読んで、
「好み」ではなく、どちらが正しいかを考えて行か
ねばなりません。「じっくり勉強」とはそうした面
倒な手続きのことを指すのです。

▼時局のうねりの中で努力した先人たち

 また、ある陸自の指揮官の方からは、次のような
お便りをいただきました。いささか長いのですが、
いくらか編集してご紹介してみます。

「世間では日本陸軍の戦闘は、劣悪な兵器で戦った
精神主義として批判されています。しかし、この本
では集められた文献だけではなく、各地の陸自駐屯
地の資料館に出向き、その兵器にご自身がふれられ
たご体験を元にその批判を打ち消しておられます。
 使用した小火器の写真やスペックの紹介にとどま
らず、弾丸、銃身の構造や撃発機構、さらには火薬
の解説までされておられます。
 単なるマニアにではなく、先生は誰にこれを訴え
たかったのかを、うかがわせるものがあります。
 さて、考えてみれば、過去に敗北した軍隊を現代
の視点から批判するのはたやすいことであります。
すでに結果が分かっているからです。
 特に日露戦争以降に、機関銃の運用が発達し、陸
海軍の統合が指摘され、第1次世界大戦以降には、
国家の総力をあげて行う『総力戦』が叫ばれるよう
になり、戦争は陸軍、もっと申さば軍事のみでは遂
行できなくなりました。『戦争の特性』がこれまで
と大きく変わるなか、国民に理解を求め、国力のさ
ほどない日本がいかにして予算を捻出し、兵器を改
良し、また次の戦争に勝つために用兵思想を考察し
たか。
 こと国防とはただでさえ関心が高くないうえに、
多くの方々にとっては考えたくもないものでもある
ので、そうした軍部の努力は並大抵のことではなか
ったことでしょう。時局のうねりの中で、必死に戦
ってきた先人たちに私は尊崇の念こそ湧け、軽々と
批判する気持ちにはなれません」

 20世紀初めの日露戦争は現在の地上戦のさきが
けとなりました。完成された槓桿式連発小銃、機関
銃、速射砲、爆発力の高い榴弾が使われ、野戦でも
築城(陣地構築)がされることが常識になったので
す。密集して突撃すれば、どちらの軍隊も機関銃の
餌食になりました。掩蓋(えんがい・覆いのある機
関銃座)は榴弾でなければ破壊できず、塹壕どうし
の戦いでは手榴弾と迫撃砲が有効でした。

 手紙をくださったのは、現在の指揮官になるまで
に陸上幕僚監部にも勤務され、財務省との交渉にも
あたられた経験のある将校です。国防は平時には国
民が関心をもたないものでしょう。いまがそうであ
るように。多くの方々は西南諸島の防衛や、北方領
土をにらみ監視する自衛官のことには無関心です。
大地震や台風災害のことも考えたくない、そういっ
たのが人情のつねでもあります。

 昔の日本人だって同じです。日露戦争に出征した
近衛兵の日記を読みました。動員準備でごったがえ
す兵営を開放して家族や知人と兵士たちが面会する
ことがありました。そこで周囲に聞えよがしに、
「戦争は軍人と兵器産業がもうける為にやるのだ」
と大きな声で語る人がいたと書かれていました。
「それが身なりも整い、いっぱしの中産知識階級の
人である」とも憤りをこめて22歳の現役兵は書い
ています。

 また、100年ほど前の世論です。「中国と争う
ことはない、話し合いがあれば問題は解決する。中
国人だってわからず屋ばかりではない」「日清戦争
などではひどいことをした。まず、謝罪をすればい
い」。こういった意見がマスコミなどには流れてい
たのです。

 そういう世間の風潮がある中で苦労した先人たち
を、現役自衛官が批判するわけもありません。

▼むざむざ負けにゆく者はない

「戦争は不透明です。かつ、不確実であり、必勝を
期すことは出来ますが、行う前からの必勝はあり得
ません。さらに国家の命運をかけた戦争にむざむざ
負けに行く者もほとんどいないでしょう。ましてや、
眼前に実弾が飛び交い、砲弾が炸裂する現場を思え
ば、手を抜くなどとは考えられません。ならば、批
判をする前に、そうした軍人たちの所作、思いに寄
り添ってみる姿勢こそ必要なのではありますまいか」

 そうです。誰だって生還したかったのです。そう
して勝ちたかったのです。自分は安全地帯にいて平
和だ、人道だ、戦争反対だと云々する人とは異なっ
て、戦場へ出た人々に思いを馳せよと自衛官は言う
のです。なぜなら、自衛官だけが戦場に真っ先に赴
くからです。

▼説得力と感化力

「戦争に負けた事実だけから短絡的、直線的に日本
陸軍を批判する巷説(こうせつ)が跋扈(ばっこ)
しています。多くの方々にとっては、このご本はい
ささか奇異なものと思えるのではないでしょうか。
しかし、著者自らが文献収集とそれらの考察だけで
はなく、その兵器をさわって当時の現場に寄り添い、
当時の将兵の思いと一体となって語られる言葉には
大いなる説得力と感化力があります」

 戦争に敗れた軍隊には言い訳はできません。いま
も続く、社会の中にある戦争アレルギーと軍隊嫌悪
の責任は、たしかに帝国陸海軍にあります。人権感
覚の未成熟、組織の中での理不尽な実態もよく指摘
されるところです。しかし、それも結果論ではない
でしょうか。

陸海軍を批判することは先人を貶(おとし)めるこ
とだけではありません。「いじめ」や「忖度」「不
正」「不公平」が現に存在する社会に生きている我
々には、「自分には関係がない」と免責してしまう
ことにつながる気がしてなりません。

▼歴史書として読んだ

「兵器の技術について本当に詳しく書かれているの
で、銃器技術の書にも感じられましたが、わたしは
歴史書として大変興味深く読ませていただきました。
いわゆる『定説』を打ち破るためには、銃器技術の
細部に至るまで考証する必要があるのです。その事
実の上に立ち、当時の精密機械を製造するための工
業技術力、これを扱う兵士の教育水準、弾薬の補給
能力などなどを総合的に各国と比較して、いかに我
々の先人たちは最大の努力をしてきたのかを説き起
こされています。願わくは、現役の幹部諸官がこの
書を読んで、自らの頭で大いに思考していただきた
いものです」

▼インド軍からの褒め言葉

「インド陸軍の博物館において、旧日本軍の武器は
非常に優れており、当時、日本軍との戦闘は努めて
回避したかったという説明を受けました。当方も、
陸上自衛隊の幹部の端くれとして、しっかりその事
実について知っておく必要があると考えていたとこ
ろです」

▼一気に読了しました

「自衛官であるから一気に読了した・・・というよ
り、本書で紹介された各兵器・武器に関わる説明描
写がきめ細やかであり、数ページごとに同武器の写
真や、説明があることでイメージを思い描きやすく
されており、その武器の時代背景、開発に至る経緯、
導入等をよくお調べになっていることに感心し、本
書に没頭したからに他なりません。本書を読んで日
本陸軍の勤勉さと、実戦での兵器の貢献に感心させ
られるとともに、私自身の鼓舞、さらなる勉学努力
心を新たにさせられたところです」

 ありがとうございました。



(以下次号)


(あらき・はじめ)

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●著者略歴
 
荒木  肇(あらき・はじめ)
1951年東京生まれ。横浜国立大学教育学部卒業、同
大学院修士課程修了。専攻は日本近代教育史。日露
戦後の社会と教育改革、大正期の学校教育と陸海軍
教育、主に陸軍と学校、社会との関係の研究を行な
う。
横浜市の小学校で勤務するかたわら、横浜市情報処
理教育センター研究員、同小学校理科研究会役員、
同研修センター委嘱役員等を歴任。1993年退職。
生涯学習研究センター常任理事、聖ヶ丘教育福祉専
門学校講師(教育原理)などをつとめる。1999年4月
から川崎市立学校に勤務。2000年から横浜市主任児
童委員にも委嘱される。2001年には陸上幕僚長感謝
状を受ける。
年間を通して、自衛隊部隊、機関、学校などで講演、
講話を行なっている。
 
著書に『教育改革Q&A(共著)』(パテント社)、
『静かに語れ歴史教育』『日本人はどのようにして
軍隊をつくったのか―安全保障と技術の近代史』
(出窓社)、『現代(いま)がわかる-学習版現代
用語の基礎知識(共著)』(自由国民社)、『自衛
隊という学校』『続自衛隊という学校』『子どもに
嫌われる先生』『指揮官は語る』『自衛隊就職ガイ
ド』『学校で教えない自衛隊』『学校で教えない日
本陸軍と自衛隊』『あなたの習った日本史はもう古
い!―昭和と平成の教科書読み比べ』『東日本大震
災と自衛隊―自衛隊は、なぜ頑張れたか?』『脚気
と軍隊─陸海軍医団の対立』『日本軍はこんな兵器
で戦った─国産小火器の開発と用兵思想』(並木書
房)がある。
 
 
PS
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