配信日時 2019/11/20 09:00

【陸軍小火器史(54)番外編(26)】「敵より優位に立って戦いたい思い」 荒木肇

こんにちは。エンリケです。

「陸軍小火器史」の五十四回目は、
番外編の26回目です。

荒木先生の最新刊
『日本軍はこんな兵器で戦った-国産小火器の開発
と用兵思想』 http://okigunnji.com/url/62/ 
評判が非常にいいそうです。

あなたも、もう読まれましたよね?

きょうも、読者反響をお届けします。
素晴らしい言葉が並びます。
楽しく、うれしいですね。

さっそくどうぞ。


エンリケ


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 陸軍小火器史(54)・番外編(26)

 「敵より優位に立って戦いたい思い」

 荒木 肇
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□「悪魔に悪を説く」

 土曜日は抜けるような青空でした。都下にある小
さな市にある駐屯地の創立記念日にお招きをいただ
き、出席させていただきました。そこは陸海空の自
衛官が学ぶところでもあり、中には会計や情報、警
務ほかの学校があり、さまざまな課程があります。

 駐屯地司令たる学校長の素晴らしい式辞がありま
した。続いて立たれたのは、来賓の筆頭、政権与党
の国会議員の方です。いつもの議員先生方のお話の
通り、国際情勢の不透明さを解説し、いかに自衛隊
の任務が重要なものかを語り、災害派遣にも誠実に
向かう必要があること、さらにはたゆまない訓練こ
そ自衛官の仕事であるといった高邁な演説でした。

 しかも長い。ふつうは5分くらいのはずですが、
先生は15分近くも語りました。おかげで、式進行
は大きく狂い、訓練を演示する予定の隊員たちは空
しく外で待たされています。限られた時間の中、名
前をアピールし、存在を印象付けるには十分な中身
と要領の良い話し方が大切です。

 ある口の悪い元自衛官の先輩は、自衛官に国際情
勢を説き、訓練の大切さを語るのは、まさに「悪魔
に対して悪とはどういうことかを説教する」に等し
いと笑っていました。地元の選出の議員さんなのに、
この学校が海外情報の調査・分析にあたる自衛官を
養成することも知らないのではないかと心配になり
ます。

 このような方も国会議員です。選良です。しかも
政権をになう与党の方でした。これでは、とても憲
法改正など無理ではないかと思いました。

□こんな僕たちに

 日曜日は近くにある横須賀市の防衛大学校に行き
ました。娘の母校でもあり、わたしの多くの友人た
ちが学んだところです。立派な観閲行進が行なわれ、
先輩たちの搭乗する航空機が祝賀飛行をし、午後に
は恒例の「棒倒し」がありました。この競技は学生
たちが構成する4個大隊が予選を行ない、それぞれ
の勝者が決勝戦を行ないます。

 各大隊は4個中隊で編成され、各中隊は3個小隊
で成っています。合計で48個小隊、各小隊には1
学年から4学年までの約40人が所属します。留学
生は含まず、約1900人の学生が合宿生活をして
いるわけです。陸・海・空のそれぞれの要員に分か
れるのは2学年に進むときになります。

 戦前の軍隊が、陸海軍の統合作戦がなかなかでき
なかった。その反省から、同じ釜の飯を食わせると
いう意図から、世界でも珍しい統合士官学校ができ
たと聞いたことがありました。

 棒倒しは、昔の海軍兵学校で行なわれた団体戦で
す。各大隊から選ばれた男子学生160名が、それ
ぞれの役割に分かれて敵の1本の棒を倒すことに全
力を挙げる肉弾戦になります。今年は、すでに3連
覇をしている第2大隊が1回戦を勝ち上がり、第1
大隊との決勝戦に臨もうとしていました。例年通り、
少林寺拳法部の演武、応援リーダー部の演技が終わ
ったときのことでした。

 1人の男子学生が壇上に上がりました。彼は4学
年、開校祭実行委員長です。わたしたち来賓のいる
方向に背を向けて、一般来場者の方に向かって彼は
とつとつと語り始めました。開校祭の目的は2つあ
ると言いました。1つは自分たちを見直すこと、も
う1つは笑顔であると。しかも、その笑いは学生た
ちと、皆さん来場者の両方のものであると。

 「知ることは理解の元になります。理解すれば共
感できる、共感すれば互いのことがもっとよく分か
ります。そうして・・・こんな僕たちに、わが国の
防衛を任せてもいいかなと思ってもらえれば、それ
ほど嬉しいことはありません」

 厳しい生活です。よく、税金で学んでいるとか、
手当てを貰っているとかの批評も聞こえます。しか
し、24時間、いつも訓練と学習です。アルバイト
をする暇も、自由に遊びに出かけることもできませ
ん。ふつうの大学生とは違うのです。しかも、こう
して国民の負託に応える気持ちを学生たちは日々養
っています。どうか、防衛大学校の学生たちにこれ
からも温かい応援をお願いいたします。

□お礼

 Kさま、「京に下る」、まさに現代から見ている
描写というご指摘愉快でした。ありがとうございま
す。そうですね。時代小説の書き手の方も、勉強は
されておられるのでしょうが、ふっと筆が滑ること
もあるのでしょう。それだけに歴史小説を専門にさ
れる方々の中には研究者も負けるような勉強家もお
られますね。

▼いくつかの読者の感想から

 続々とわたしのところには、拙著『日本軍はこん
な兵器で戦った』の読者の皆さんの方からのお便り
が届きます。陸上自衛官の方々からの感想の一部を
ご紹介します。ある高級幹部の方からのお便りです。

「旧日本軍が使用していた小火器について、これほ
ど詳細にまとめられた資料を拝読したのは初めてで
す。旧日本軍が精神主義ではなく、火力主義であっ
たことにも納得しました。38式歩兵銃が輸出され
ていた事実にも驚かされました。技術の趨勢に応じ、
より高い能力の兵器を求め、敵より優位に立って戦
いたい思いは、いまと少しも変わらないのだと改め
て思いました。その変化をより効果的かつタイムリ
ーに為し得た者が勝者になるのかと思います。将来
を考える上で、過去を学ぶことができ、多くの示唆
をいただくことができました」

 100年ほど前の大正時代、日本陸軍の中枢では
「戦場の主役は小銃火か砲兵火か」という大論争が
ありました。第1次世界大戦の教訓から、火砲の威
力をいい、小銃による火力は歩兵の自衛用にしかな
らないという主張があったのです。これからの戦争
は砲兵が主役になるといいました。

ところが反発したのは、当時の戦場の主兵と自負す
る歩兵科でした。砲弾の威力は認めるが、やはり戦
場を支配し、土地をおさえ、敵に銃剣を突き付ける
のが戦争である。だから、あくまでも砲兵は歩兵の
支援兵科にしか過ぎない。しかも、資源、国力に限
りがある我が国が欧州戦場のようなふんだんに砲弾
を撒くような戦争はできないというものでした。

そうして砲兵の拡張はおしとどめられ、いわゆる大
正の4回にわたる軍備縮小も、中心は砲兵の大削減
でした。これが満洲事変(1931年)、本格化し
た対中国戦争(1937年から)で、あまり語られ
ない苦戦につながります。装備が減れば、人も減り
ました。陸軍士官学校でも砲兵科の生徒が減りまし
た。昭和の大戦争では、火砲も不足しましたが、何
より指揮官級の砲兵将校がたいへん少なくなってい
たのです。

それでいて、陸軍は、なかでも歩兵は軽機関銃や擲
弾筒といった火力を頼みにするようになりました。
もちろん、砲兵火力の大切さは誰もが理解していた
のです。拙著の中でも書きましたが、有効な対戦車
砲がなかったために、爆弾を投げて米戦車を攻撃す
る・・・といった悲惨な状況が生まれました。現場
の指揮官たちは誰もが「統率にならぬ」「まともな
戦闘を否定するのか」という大反発をしたことも付
け加えておきます。

▼先人から学ぶ

また、防衛産業の幹部社員の方からのご感想。

「兵器に関する自らの知識不足を反省しながら、ま
た、技術というものに対する日本人の感性・姿勢に
学びながら(先日、正倉院御物の多くが国内で作ら
れたとするテレビ番組を観ましたが、技術を究めよ
うとする日本人のDNAは現在に至るまで連綿とつ
ながっているように感じます)、そして、国産兵器
の開発能力が先細りしつつある我が国防衛の現状を
憂いながら拝読させていただいております」

▼誤った定説をくつがえした

別の高級幹部の方から。

「知らなかった真実、先人の努力と苦労を学ぶこと
ができる興味深い内容だったため、一気に読了しま
した。この名著により、帝国陸軍に対する誤った定
説の数々が覆され、英霊の皆さまも喜んでおられる
と思料します」

▼若い世代の自衛官に

 同じく高級幹部から。

「現在、陸上自衛隊も新たな時代の新たな戦い方に
対応すべく、編成、装備も改革の真っ最中にありま
す。先生のお書きになられたこのご本を自衛官自ら、
なかんずく若い世代の人たちが我がこととして、興
味をもって手にとってもらいたいと願います」

▼過去の兵器が今の兵器にひと筋になってつながった

 そうして、普通科(歩兵)戦闘の研究機関の将校
の方からは、
「歩兵として小火器を扱ってきた隊員たちも、知っ
ているようで知らなかったことがいっぱい書かれて
います。読んでみると、身近なモノの中から、いっ
ぱいの発見があります。身近なモノからの発見は感
動につながります。その感動にひかれて、過去の小
火器と、いまの目の前の小火器が1つの筋となって
つながってきました。いままで、小火器を扱いなが
ら、その歴史、技術、背景、訓練、用兵の進化、変
貌などについて、あまりに無関心であったような思
いでいっぱいです。今後は若い幹部たちとともに学
んでゆきたいと思います」

 まだまだ反響は届きます。ありがとうございます。


(以下次号)


(あらき・はじめ)

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●著者略歴
 
荒木  肇(あらき・はじめ)
1951年東京生まれ。横浜国立大学教育学部卒業、同
大学院修士課程修了。専攻は日本近代教育史。日露
戦後の社会と教育改革、大正期の学校教育と陸海軍
教育、主に陸軍と学校、社会との関係の研究を行な
う。
横浜市の小学校で勤務するかたわら、横浜市情報処
理教育センター研究員、同小学校理科研究会役員、
同研修センター委嘱役員等を歴任。1993年退職。
生涯学習研究センター常任理事、聖ヶ丘教育福祉専
門学校講師(教育原理)などをつとめる。1999年4月
から川崎市立学校に勤務。2000年から横浜市主任児
童委員にも委嘱される。2001年には陸上幕僚長感謝
状を受ける。
年間を通して、自衛隊部隊、機関、学校などで講演、
講話を行なっている。
 
著書に『教育改革Q&A(共著)』(パテント社)、
『静かに語れ歴史教育』『日本人はどのようにして
軍隊をつくったのか―安全保障と技術の近代史』
(出窓社)、『現代(いま)がわかる-学習版現代
用語の基礎知識(共著)』(自由国民社)、『自衛
隊という学校』『続自衛隊という学校』『子どもに
嫌われる先生』『指揮官は語る』『自衛隊就職ガイ
ド』『学校で教えない自衛隊』『学校で教えない日
本陸軍と自衛隊』『あなたの習った日本史はもう古
い!―昭和と平成の教科書読み比べ』『東日本大震
災と自衛隊―自衛隊は、なぜ頑張れたか?』『脚気
と軍隊─陸海軍医団の対立』『日本軍はこんな兵器
で戦った─国産小火器の開発と用兵思想』(並木書
房)がある。
 
 
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