配信日時 2019/11/15 20:00

【二つの愛国心─アメリカで母国を取り戻した日本人大尉(33)】「戦傷復員兵」 加藤喬

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応
予備自衛官でもあります。
お仕事の依頼など、問い合わせは以下よりお気軽に
どうぞ
 
E-mail hirafuji@mbr.nifty.com
WEB http://wos.cool.coocan.jp
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こんにちは。エンリケです。

加藤さんが翻訳した武器本シリーズ最新刊が出まし
た。今回はMP5です。

「MP5サブマシンガン」
L.トンプソン (著), 床井雅美 (監訳), 加藤喬 (翻訳)
発売日: 2019/2/5
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※大好評発売中


加藤さんの手になる書き下ろしノンフィクション
『二つの愛国心─アメリカで母国を取り戻した日本
人大尉─』の第三十三話です。

加藤さんならではの話が続きます。

さっそくどうぞ。

エンリケ


追伸
ご意見ご質問はこちらから
https://okigunnji.com/url/7/


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『二つの愛国心
  アメリカで母国を取り戻した日本人大尉』(33)

「戦傷復員兵」

Takashi Kato

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□はじめに

 書下ろしノンフィクション『二つの愛国心──ア
メリカで母国を取り戻した日本人大尉』の33回目
です。「国とは?」「祖国とは?」「愛国心とは?」
など日本人の帰属感を問う作品です。
 
 学生時代、わたしは心を燃え立たせるゴールを見
つけることができず、日本人としてのアイデンティ
ティも誇りも身につけることがありませんでした。
そんな「しらけ世代の若者」に進むべき道を示し、
勢いを与えたのはアメリカで出逢った恩師、友人、
そして US ARMY。なにより、戦後日本の残滓である
空想的平和主義のまどろみから叩き起こしてくれた
のは、日常のいたるところにある銃と、アメリカ人
に成りきろうとする過程で芽生えた日本への祖国愛
だったのです。
 
 最終的に「紙の本」として出版することを目指し
ていますので、ご意見、ご感想をお聞かせいただけ
れば大いに助かります。また、当連載を本にしてく
れる出版社を探しています。


□今週の「トランプ・ツイッター」11月5日付

 今月4日、メキシコ北部のソノラ州で、乳幼児を
含む9人のアメリカ市民が惨殺されました。3台の
車に分乗してアリゾナに向かっていたところ、麻薬
製造と密売を競うカルテル間の抗争に巻き込まれた
との報道です。犠牲となった母親3人と6人の子供
たちはモルモン教の分派に属し、人口1千人ほどの
教団コミュニティに住んでいました。わたしの住ん
でいる町から、国境を越えそう遠くない場所です。

 弾痕の残る焼け焦げた車両の周囲では空薬莢が20
個以上も回収され、まさに戦場の様相を呈していま
す。同地区では麻薬密売や人身売買が横行し、米国
務省は「渡航を考え直すべき地域」に指定。こうし
て原稿を書きながら目視できる国境の壁と、ボーダ
ーパトロールによる警備や陸軍の壁建設支援がなか
ったら、麻薬密売組織の凶漢らはここにもやって来
ているはずです。女子供の命すら顧みないギャング
の外道ぶりと同時に、巨大武装組織となった麻薬カ
ルテルの脅威を実感します。

 メキシコ国境における危機的状況を再三訴えてき
たトランプ大統領は「(麻薬カルテルの)モンスタ
ーどもを一掃するために助けが必要なら、喜んでメ
キシコ政府に協力する。アメリカには掃討作戦を速
やか、かつ効果的に実行する能力があり、待機して
いる」とツイートしています。トランプ流の誇張は
差し引くとしても、善良なアメリカ市民に害をなし
た凶賊は見逃さない決意が滲みます。国民の生命財
産を守るのが国家の存在理由なら、テロリストでも
ギャングでも同様に殲滅する。歯に衣を着せぬワイ
ルドカード大統領の論法には胸のすく説得力があり
ます。

 翻って安倍内閣は、罪名すら明らかにされないま
ま中国当局に拘留され続けている邦人救出に向けた
動きが鈍い。拉致被害者の奪還に関しても「あらゆ
る機会を逃さず全力を尽くす」を繰り返すのみ。な
ぜ日本は「国民を守る国家の矜持」が持てないのか?

 未来永劫の非武装化を目的とした「お仕着せ憲法」
の金縛りが、施行後70年以上経った今も解けてい
ないからです。「自国民を守るためですら、日本は
武力を行使しない」中国やロシア、北朝鮮からこう
侮られている現実の裏面でもあります。安倍首相の
弾道弾発射非難に対し「弾道ミサイルが日本上空を
飛び越える不安と恐怖が恋しくなったのなら、また
発射する」と北朝鮮外務省が恫喝してきたのもこの
ためです。

 米国主導の「新世界秩序」に代わり、中露による
力の支配が世界を浸潤しています。国家存立の危機
を尻目に、衆院憲法審査会での議論すら拒み続ける
野党の諸氏は「亡国の政治家」と呼ばれても仕方あ
りません。

 本日のトランプ・ツイッター、キーワードは 
wipe off。「拭い去る」「一掃する」という意味で
す。

The great new President of Mexico has made 
this a big issue, but the cartels have become 
so large and powerful that you sometimes need 
an army to defeat an army! This is the time 
for Mexico, with the help of the United States, 
to wage WAR on the drug cartels and wipe them 
off the face of the earth.

「メキシコの偉大なる新大統領は、麻薬カルテルを
重大問題と捉えている。しかし、巨大化した麻薬組
織は軍隊のように強大になった。軍隊を打ち破るに
は、時として、こちらも軍隊が必要だ。アメリカの
支援を受け、今こそメキシコは対麻薬カルテル戦争
の宣戦布告をするべきだ。地球上からカルテルを一
掃するのだ」


「二つの愛国心─アメリカで母国を取り戻した日本人大尉」(33)

(前号までのあらすじ)
 戦後、進駐軍が画策した日本人の精神的非武装化
は日本民族の去勢とも言えるものだった。独立国の
矜持と民族の誇りが根こそぎにされたからだ。マッ
カーサー元帥は軍備を否定する憲法を押し付けてお
いて、朝鮮戦争が起こるや再武装を強要。そうこう
するうち、自衛権はあるにはあるが、まず攻撃を受
けてからでないと守ることも許されないという非常
識が国是になってしまった。大国のエゴで二律背反
に陥った1億の日本人が精神分裂をきたし、祖国を
憎む心が生まれた。このような状況では、わたしを
含めた戦後派の日本国民に健全な愛国心や国家意識
が戻るわけがなかった。

▼戦傷復員兵


2001年9月11日、同時多発テロが起きた。たしか8
月初旬からだったと記憶するが、モントレー要塞を
囲むフェンスの補強作業が始まった。湾岸戦争中で
すら、交通の要所を占めるDLIは周辺住人や市営
バスが自由に出入りできた。ところが基地に通じる
すべての遊歩道が突然閉鎖され、ところによってフ
ェンス下部にあった隙間も注意深く塞がれた。司令
官からの通達で、正門には学生が輪番で警護につい
た。今にして思えば、政府上層部の一部は前代未聞
のテロを察知していたのだろう。

11日早朝、職場で起きた変事を国際テロに結びつけ
ることもなく、わたしはいつもどおりハンドルを握
っていた。助手席越しには紺碧のモントレー湾が拡
がる。その優美な湾曲を愛でていると、まさしく
「世は並べて事もなし」。太平の風景にしか見えな
い。

そのとき、ラジオのパーソナリティが「音楽の途中
ですが速報です。なになに、『ニューヨークの国際
貿易センタービルの一つに飛行機が・・・衝突した』
ちょっとヘンなニュースです・・・」と半信半疑の
口調で言った。しかし続報はなく音楽に戻ったので、
遊覧飛行のセスナか何かが接触でもしたのだろうと
気に留めもしなかった。ツイン・ビルを訪れた際、
聳え立つ剣のごとき姿に圧倒された記憶から、軽飛
行機やヘリが接触してもガラスが割れる程度だと決
め込んでいた。

毎朝寄るカフェに足を踏み入れるや、何かが違うこ
とに気づいた。店員らは挨拶も忘れ、
「ペンタゴン(国防総省)にも飛行機が突っ込んだ
らしい」
「ハイジャックされた旅客機がまだ何機も飛んでい
るそうだ」
 と囁きあっている。たちこめるコーヒーの香りに
もかかわらず、常連客もモーニング・コーヒーを楽
しんでいる雰囲気ではない。東海岸で何かが起きて
いる。貿易センターからさほど遠くない高層マンシ
ョンには高校時代の同級生が住み、ペンタゴンにも
多くの教え子らが勤務している。湧き上がる胸騒ぎ
にコーヒーはやめ、オフィスに直行することにした。
アクセルを踏み込むとタイヤが軋んだ。

教室にはすでに数人の学生がいた。彼らが見つめる
テレビ画面に黒煙を上げる北タワーの姿がある。大
型機が突入したに違いない。浅くなる呼吸を感じつ
つ映像に見入っていると、もう1機が急接近し南タ
ワーに吸い込まれた。学生らの叫びと反対側から紅
蓮の炎が吹き出すのが同時だった。戦争になる。わ
たしは直感した。陸、海、空軍、海兵隊の戦士の顔
に戻った学生も、この瞬間、戦場行きを覚悟したは
ずだ。まもなく北タワーが崩壊した・・・。

 この日を境に始まったテロとの戦いは、18年を過
ぎた今も続く。多くの日本語学部卒業生がイラクや
アフガニスタンの戦場に赴いた。幸い戦死した者は
いないが、復員後、PTSDを発症した教え子は知
っている。PTSDとは日本語で「心的外傷後スト
レス障害」。生命を脅かすような体験で心に傷を受
け、時間が経ってからもその出来事に対して強い恐
怖心とストレスを感じる疾患だ。アドレナリン分泌
で起こる闘争・逃走反応が慢性的に続く状態で、過
剰警戒心や不安、不眠症、記憶障害、フラッシュバ
ック、広場恐怖症などの症状が患者の社会生活を妨
げる。

「戦争から戻ってくると、主人が毎晩うなされるよ
うになりました。夜中に叫んで飛び起きるのです。
自宅にいると気づいても、あたりを警戒する視線が
刺すようでした。以前の夫ではなくなってしまい、
どうしていいか分からず、正直、怖かった・・・」

 日本人妻のなかには、そう秘めた体験を打ち明け
てくれた者もある。平和と空気はただと信じてきた
女性が、伴侶のPTSDを通じ戦争の修羅を垣間見
たのだ。恐れを抱いたのも無理はない。

 わたしがPTSDを患う戦傷復員兵、ルイス・カ
ルロス・モンタバン元米陸軍大尉と知り合ったのは
数年前。彼の著書『チューズデーに逢うまで』を翻
訳したのが縁だった。

 ルイスはキューバ系アメリカ人。両親はカストロ
政権を逃れアメリカに亡命したインテリで、ルイス
は軍隊とは無縁の少年時代を過ごした。が、湾岸戦
争勃発で愛国心に駆られ陸軍に入隊。歩兵として数
年過ごした後、大学に戻って予備役士官訓練部隊
(ROTC)に参加。卒業後、希望通り騎兵科士官
に任官した。

 イラク戦争で国境地帯の密輸取り締まり任務を遂
行中、テロリストらに襲われた。拳銃で相手を射殺
し九死に一生を得たが、外傷性脳損傷と脊椎骨破砕
を負った。しかし病状を隠して戦線復帰。翌年には、
慢性のめまいと激しい偏頭痛・腰痛をおして2度目
のイラク派遣に志願した。帰国後PTSDを発症。
ほどなく心身消耗状態に陥り名誉除隊を余儀なくさ
れた。

市民生活に戻ってからも戦場追体験は頻繁に起こり、
移り住んだマンハッタンの街中に狙撃兵や自爆テロ
犯の幻影を見ては怯えた。歩道に空き缶を見つける
とパニック発作で前に進めず車道を迂回することも
しばしばあった。テロリストが仕掛ける簡易爆弾に
コーラ缶が使われたからだ。「ここはニューヨーク
だ」と自分に言い聞かせても無駄だった。PTSD
は理性や常識では克服できない。パニックが起こる
や、ルイスは爆発でひん曲がった車体や肉片が散乱
する戦場に引き戻されるのだ。

 戦傷復員兵の窮状を救ったのは犬だった。大型犬
ゴールデン・レトリバーのチューズデーはサービス
ドッグ(介助犬)。介助犬というと日本では盲導犬
が知られているが、戦争の惨状などを「見過ぎて」
PTSDを発症した人々を助けるサービスドッグも
いる。

 チューズデーもその一頭で、ルイスに代わってド
アを開け、電気を点け、杖や靴をとってくるよう訓
練されている。脳損傷で平衡感覚を失った主人の横
について階段の昇り降りを助けるのはもちろん、戦
場体験のフラッシュバックやパニックが起こる前に
鋭敏な嗅覚で発作を感じ取り、ルイスに警告するこ
ともできる。人生のどん底にあったルイスの身体と
魂は、介助犬の愛と献身で徐々に癒されていった。


(つづく)


加藤喬(たかし)



●著者略歴
 
加藤喬(かとう・たかし)
元米陸軍大尉。都立新宿高校卒業後、1979年に渡米。
アラスカ州立大学フェアバンクス校他で学ぶ。88年
空挺学校を卒業。
91年湾岸戦争「砂漠の嵐」作戦に参加。米国防総省
外国語学校日本語学部准教授(2014年7月退官)。
著訳書に第3回開高健賞奨励賞受賞作の『LT―あ
る“日本製”米軍将校の青春』(TBSブリタニカ)、
『名誉除隊』『加藤大尉の英語ブートキャンプ』
『レックス 戦場をかける犬』『チューズデーに逢う
まで』『ガントリビア99─知られざる銃器と弾薬』
『M16ライフル』『AK―47ライフル』『MP5サブ
マシンガン』『ミニミ機関銃(近刊)』(いずれも
並木書房)がある。 
 
 
追記
「MP5サブマシンガン」
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『チューズデーに逢うまで』関係の夕刊フジ
電子版記事(桜林美佐氏):
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20150617/plt1506170830002-n1.htm
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20150624/plt1506240830003-n1.htm
 
『レックス 戦場をかける犬』発売中
http://www.amazon.co.jp/dp/489063309X 
 
『レックス 戦場をかける犬』の書評です
http://honz.jp/33320

オランダの「介護犬」を扱ったテレビコマーシャル。
チューズデー同様、戦場で心の傷を負った兵士を助ける様子が
見事に描かれています。
ナレーションは「介護犬は目が見えない人々だけではなく、
見すぎてしまった兵士たちも助けているのです」
http://www.youtube.com/watch?v=cziqmGdN4n8&feature=share
 
 
 
きょうの記事への感想はこちらから
 ⇒ https://okigunnji.com/url/7/
 
 
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日本語でも英語でも、日常使う言葉の他に様々な専
門用語があります。
軍事用語もそのひとつ。例えば、軍事知識のない日
本人が自衛隊のブリーフィングに出たとしましょう。
「我が部隊は1300時に米軍と超越交代 (passage of 
lines) を行う」とか「我がほう戦車部隊は射撃後、
超信地旋回 (pivot turn) を行って離脱する」と言
われても意味が判然としないでしょう。
 
 同様に軍隊英語では「もう一度言ってください」
は "Repeat" ではなく "Say again" です。な
ぜなら前者は砲兵隊に「再砲撃」を要請するときに
使う言葉だからです。
 
 兵科によっても言葉が変ってきます。陸軍や空軍
では建物の「階」は日常会話と同じく "floor"です
が、海軍では船にちなんで "deck"と呼びます。 
また軍隊で 「食堂」は "mess hall"、「トイレ」
は "latrine"、「野営・キャンプする」は "to bivouac" 
と表現します。
 
 『軍隊式英会話』ではこのような単語や表現を取
りあげ、軍事用語理解の一助になることを目指して
います。
 
加藤 喬
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PS
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最後まで読んでくださったあなたに、心から感謝し
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マガジン作りにご協力いただいた各位に、心から感
謝しています。
そして、メルマガを作る機会を与えてくれた祖国に、
心から感謝しています。ありがとうございました。

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