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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応予備自衛官で
もあります。
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こんにちは、エンリケです。
情報(インテリジェンス)をきちんと評価できないから
現実と妥当に向き合えず、同じ過ちを繰り返し続けてい
るというのに・・・
情報勤務への理解、扱いは、
今も昔もあまり変わっていない、これからもおそらく同じ、
と見ておくのが正解かもしれません。
だからこそ、
長期にわたってわたしの心を強く捉えて
離さないのかもしれません。
読み応えある記事が続きます。
実に面白いですね。
さっそくどうぞ。
エンリケ
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わが国の情報史(44)
秘密戦と陸軍中野学校(その6)
陸軍中野学校における教育の温度差
インテリジェンス研究家・上田篤盛(あつもり)
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□はじめに
最近、中露関係が緊密化し、中露が同盟を結ぶのではないかと、
騒がれています。
10月29日の共同通信は、「ロシアが中国に対し、ミサイル
攻撃の早期警戒システムの構築を支援していることが判明、両国
が事実上の軍事同盟締結を検討しているとの見方が強まっている。
(中略)両国が同盟関係を結べば北東アジアで日米韓との対立が
深まり、日本との関係にも影響が出るのは必至」などと報じてい
ます。
今年6月、中露両国は「包括的・戦略的協力パートナーシップ」
を発展させることで合意しました。これについて表向きには「同
盟ではなく、対立もせず、第三国を標的にしない新しいタイプの
国家関係」と説明しましたが、一方で中露関係の専門家であるロ
シア国立高等経済学院のマスロフ教授は、「両国指導部は軍事同
盟締結の方針を決定済みだ」と発言しています。
さて、中露は今どうなっているのか、これからどうなるのでし
ょうか?
これついて、11月11日発売の週刊『プレイボーイ』に、筆
者と米海軍系シンクタンクで戦略アドバイザーを務める北村淳氏
が解説していますので、よろしければご覧ください。
さて、今回も陸軍中野学校の教育についての解説記事です。
▼講義内容がテンデバラバラ?
中野学校での教育について、乙I長期(2期生)原田統吉氏は、
『風と雲 最後の諜報将校』において、「最初に奇妙なに感じた
ことは、それそれぞれの講義の内容がテンデバラバラであること
だ」と述べ、次のような事例を挙げている。
少し、長文になるが引用したい。
「当時参謀本部の英米課の課長の杉田参謀が(筆者注:杉田一次、
すぎたいちじ、陸士37期・陸大44期。最終階級は帝国陸軍
では陸軍大佐、陸自では陸上幕僚長を歴任。当時杉田氏は少佐
に昇任したばかりであるので単なる部員)、その『英米事情』
の最初の講義の時間に、英米に対する意見をワラ半紙に書かせ
て、生徒全員から徴収したことがあった。
これは試験などというものではなく、教官が生徒の理解や知識
の程度を掴むための参考にするデータであって、これによって
教官は講話の内容を決めたものらしい。
甲谷さん(筆者注:甲谷悦男、こうたにえつお、陸軍大佐、陸
士35期、参謀本部ソ連課参謀、ソ連大使館付武官輔、大本営
戦争指導課長、ドイツ大使館付武官輔佐官、戦後は公安調査庁
参事官やKDK研究所長)などは、『ソ連要人の名前を知って
いるだけ書け』というような問題を出し、その場でめくって見
て『うん、去年の連中よりはよく知っているな……』と軽く言
い放って、講義をはじめたものである。
しかし杉田さんの場合は違っていた。見終ると、T学生を指名
して、『君の英米に対する認識および判断の理由は?』と聞く。
Tがその前日、支那事情の教官から受けた講義の線に沿って説
明すると、非常に不機嫌になり、他の二、三の学生にもそれと
同様の質問をし、同じような答えが返って来ると益々不機嫌に
なり、多少の論争の後、『本日はこれで終わる』と帰ってしま
った。
まだ稚(おさな)かったわれわれは軍の画一主義から抜け出し
ておらず、しかも参謀本部ともあろうものは、一つの認識と一
つの意志とに統一されているべきものだと思っていたのだ。
要するに『諸悪の根源は英米にして、英米やがて討つべし』と
いう先日の教官の意見は、われわれに無批判に受け入れられて
いたのである。
ところが、杉田参謀はその後一度も講義に来ないのである。多
少の誤解もあったのだが、『あのような、単純な反英米的教育
が行われているところへ講義に行っても無駄だ…』というのが
理由であったらしい。杉田さんというのは後年、自衛隊の陸幕
長をつとめた杉田一次氏である。
このように、実に多様の、食い違い、相反する認識と意見が、
そこの教壇ではそれぞれ強い情熱とともに語られ、われわれは
新しい学び方を急速に身につけなければならなかった。
この学校の最も中心的なテーマである『情報』ということば一
つにしても、各人各様の解釈があつたのである」
▼杉田参謀の心中は?
原田氏の発言は当時の陸軍参謀部内の情勢認識や戦略判断の相
違を裏付けるものとして興味深い。
杉田氏は戦後になって『情報なき戦争指導─大本営情報参謀の
回想』を著すが、同書では、大本営(陸軍参謀本部)で仕えた1
1人の第2部長の各時代における情報活動が描かれるとともに、
当時の国家の情勢認識や戦略判断が詳細に述べられている。
杉田氏は米国駐在経験が豊富な知米派であって、米国の国力な
どを認識していたから対米戦争絶対回避の立場をとっていた。彼
は、親独派の陸軍高官や松岡外相などが日独伊三国同盟にひた走
り、それがわが国を対米英決戦へと駆り立てたとの批判的な見方
も示している。
海軍の山本五十六連合艦隊司令長官について、表面的には対米
戦争回避を主張するも、その実態は真珠湾の先制攻撃がやりたく
て仕方なかったというようなトーンで、山本の人物像を描いてい
る。
かいつまんで言えば、杉田氏は、米国との戦争の蓋然性が高く
なっても、参謀本部2部長には米国を知らない親独派がずっと就
任し、こうした歪められた恣意的な人事が、正しい情報認識を阻
害し、米国との戦争に至った原因である旨を主張しているのであ
る。
このような杉田氏であったから、前出の中野学校での講義にお
ける学生の応答に対し、激しい嫌悪感あるいは諦念感を抱いたの
であろう。決して、「一つの意見や情報を無批判に受け入れるな」
との、学生に対する印象教育が狙いではない。
原田氏は「この道においては、すべてが参考に過ぎない。自分
で考え、自分で編みだし、自分で結論せよということである」と
述べており、結果的に杉田氏の教育放棄から得るものがあったと
語っている。
他方、原田氏はロシア課の甲谷氏の温情的なエピソードと対比
して杉田氏の事例を紹介している。ここには参謀本部による中野
学校に対する期待値あるいは温度差がバラバラであることへの悲
哀感の吐露もうかがえる。
杉田氏の著書『情報なき戦争指導』を読む限りにおいて、筆者
は戦略情報の重要性に対する杉田氏の見識の高さを覚えるが、杉
田氏から、諜報や謀略など、いわゆる秘密戦への関心はほとんど
感じられない。同著においては秘密戦のことや陸軍中野学校に関
することはほとんど触れられておらず、おそらく杉田氏は、諜報、
謀略などいうものは“邪道”としてみていたのだろう。
筆者は平時における戦略情報こそが最も重要であり、その情勢
判断こそが国家の生存・繁栄をもたらすと考えている。しかし他
方で、秘密戦ともいうべき情報活動は絶対に軽視してはならない
と考えている。
第二次世界大戦における勝利の要訣は秘密戦にあった。当時の
英国首相・チャーチルは、対独戦争を優位に展開するため、米国
を第二次世界大戦の舞台に引っ張りこんでわが国と戦わせた。秘
密戦によって日独の連携を離間させた。
杉田氏は戦後に陸上幕僚長に就任する。戦後、陸上自衛隊にお
いて秘密戦は忌避され、諜報、防諜、謀略などの言葉も使われな
くなった。この両方の相関関係についてはないが、杉田氏が中野
学校や秘密戦についてどのような認識を持っていたか、それを陸
上自衛隊の運営において何らかの教訓として活用したのか、この
点を聞いてみたかったなと思う次第である。
むろん、筆者と杉田氏の年齢差からして物理的に不可能な話で
はある。
▼中野学校の創設は陸軍の総意ではなかった
中野学校の入校学生は全国から選りすぐりの精鋭であった。し
かし、陸軍内では総力戦の趨勢と先行き不透明な時代の“寵児”
として中野学校の学生卒に大いに期待する者もいれば、そうでな
い者もいた。
陸軍上層部と中野学校関係者とでは、卒業生あるいは学校に対
する期待値に大きな温度差があったとみられる。
また参謀本部内においても作戦部門と情報部門では温度差があ
り、その情報部門を所掌する参謀本部第2部の中でも中野学校な
どへの期待値は異なっていたのである。
そもそも参謀本部は中野学校の創設や秘密戦士の育成には全体
として乗り気ではなかったようだ。ただ参謀本部第5課(ロシア
課)だけが、共産主義イデオロギーの輸出や諜報、謀略を展開す
るソ連の国家情報機関の恐ろしさを認識していたので、秘密戦士
の育成に積極的であったという。
しかし、参謀本部の第6課(欧米課)、第7課(支那課)は
「それができれば駐在武官の必要性がなくなって困る」と考えた
のか、強硬に設立反対を唱えた者もいたようである
(畠山『秘録 陸軍中野学校』ほか)。
陸軍省内では、入校した1期生と当時の兵務局長の今村均少将
との会食が行なわれたり、1期生に対する東條英機陸軍次官の校
内巡視があったりなど、中野学校を重視する傾向はうかがえた。
しかしながら、総じて言うならば、参謀本部第5課、そして兵
務局や軍務局の一部を除いては秘密戦士の育成には無関心であっ
たと言わざるを得ない。だから設立費用も乏しく、当初は愛国婦
人会の建物の一部を借りて、寺子屋式で出発したのであろう。
教育を担当する学校関係者と陸軍上層部の思いには大きな差が
あったことは筆者の経験からも「なるほどな」と思われる節があ
る。詳細は割愛するが、筆者は陸上自衛隊では初めての試験選抜
の情報課程(総合情報課程)の1期生の学生長として入校した。
我々に対する、学校関係者の高い心意気と、陸上幕僚監部あるい
は現場の情報部隊との冷戦な対応には、やはり温度差を感じた。
教育内容ひとつをとっても、学校関係者は学生に対してできる
だけ多くのことを、現地研修などを通じて、現地・現物で学ばせ
ようと一所懸命に尽力する。しかし、受け入れ側の上級組織や情
報組織の現場では、「保全意識も確立していない学生に対して、
秘匿度の高いものを“おいそれ”とはみせられない」ということ
になる。
▼中野学校の基礎教育が功を奏した
中野学校の1期生たちの活躍は総じて評価が高かったようであ
る。各部署から中野卒業生を多く取ってほしいとの現場の声が止
まないという。これが、後方勤務要員養成所が認知され、陸軍省
直轄の中野学校、そして参謀本部直轄の中野学校として発展を遂
げた、一つの要因でもあろう。
中野学校の1期生たちの卒業後の活躍が、すなわち中野学校の
教育がすぐれていたというわけではない。そもそも、1年程度の
教育期間をもってして素人を一人前の秘密戦士として大化(おお
ば)けさせることはほぼ不可能である。
単純には比較することはできないが、冷戦期のソ連KGBには
海外に派遣する秘密スパイを養成するための「ガイツナ」と呼ば
れる特別訓練施設があったとされる。ここでは、外国人になるき
るために10年以上の訓練が行なわれたとされる。
それに、中野卒業生に期待する役割についても一様ではなかっ
た。太平洋戦争以前の1期生や2期生長期学生に期待されたのは、
『替らざる武官』であった。
しかし、中野卒業生の任務は時代変化に翻弄され、特務機関の
要員、さらには残置諜者、国内ゲリラ戦の従事者などへと変化す
る。つまり、教育目的に変化に対して、教育内容が追随できたの
かも疑わしい。
それでも、各所において中野卒業生が目覚ましい働きができた
とすれば、それは優秀な学生を選抜したことにつきる。そして、
学校関係者が彼らをエリート学生として尊重し、自由闊達な気風
のなかで、彼らの自主性を重んじたからである。決して画一的な
教育が功を奏したわけではないといえよう。
強(し)いて言えば、教育面については、秘密戦士などとして
成長するための素地を授ける基礎教育を重視したことが功を奏し
たのであろう。さらに言えば、情報戦士の在り方を追求した中野
学校における精神教育が、中野卒業生の中に期を超えた同志愛を
醸成し、すすんで難局な任務にあたらせたと言えよう。
次回は、中野学校の精神教育について解説するこことしたい。
(次回に続く)
(うえだあつもり)
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【著者紹介】
上田篤盛(うえだ・あつもり)
1960年広島県生まれ。元防衛省情報分析官。防衛大学校(国際関係
論)卒業後、1984年に陸上自衛隊に入隊。87年に陸上自衛隊調査
学校の語学課程に入校以降、情報関係職に従事。92年から95年に
かけて在バングラデシュ日本国大使館において警備官として勤務
し、危機管理、邦人安全対策などを担当。帰国後、調査学校教官
をへて戦略情報課程および総合情報課程を履修。その後、防衛省
情報分析官および陸上自衛隊情報教官などとして勤務。2015年定
年退官。現在、軍事アナリストとしてメルマガ「軍事情報」に連
載中。著書に『中国軍事用語事典(共著)』(蒼蒼社、2006年11
月)、『中国の軍事力 2020年の将来予測(共著)』(蒼蒼社、
2008年9月)、『戦略的インテリジェンス入門―分析手法の手引
き』(並木書房、2016年1月)、『中国が仕掛けるインテリジェ
ンス戦争―国家戦略に基づく分析』(並木書房、2016年4月)、
『中国戦略“悪”の教科書―兵法三十六計で読み解く対日工作』
(並木書房、2016年10月)、『情報戦と女性スパイ─インテリジ
ェンス秘史』(並木書房、2018年4月)、『武器になる情報分析
力─インテリジェンス実践マニュアル』(並木書房、2019年6月)
など。
ブログ:「インテリジェンスの匠」
http://Atsumori.shop
『情報戦と女性スパイ─インテリジェンス秘史』
※女性という斬り口から描き出す世界情報史
『中国戦略“悪”の教科書―兵法三十六計で読み解く対日工作』
※兵法をインテリジェンスに活かす
『中国が仕掛けるインテリジェンス戦争』
※インテリジェンス戦争に負けない心構えを築く
『戦略的インテリジェンス入門』
※キーワードは「成果を出す、一般国民、教科書」
PS
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