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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応予備自衛官
でもあります。
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防衛予算から読み解く日本の防衛力(11)
防衛関係費その8
市川文一(元武器学校長・陸将補)
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□はじめに
自衛官の募集について、前回の続きです。自分の経験からも自
衛官の募集は日本全体の雇用状況とほぼ連動しています。「国民
の自衛隊に対する信頼の高まり」や「自衛官の処遇や給与」とい
ったものが、募集状況に与える影響はわずかです(自衛官の処遇
や給与が大幅に改善された場合の影響は大きい)。
3.11の大災害に伴う自衛隊の災害派遣活動が収束に向かってい
る時期に、「自衛官が活躍して自衛官の人気が高まり、自衛官に
なりたいという希望者も増えたでしょう」という質問をよく受け
ましたが、現実には逆効果でした。「報道されるような厳しい任
務に耐えられない」と考える募集対象者、その保護者が多かった
というのが現実です。
日本全体の雇用状況が良くなると、就職先は自由に選べます。
悪くなると就職することも難しくなります。雇用状況は景気に大
きく影響されます。これに対して、自衛官の募集は景気に左右さ
れず毎年ほぼ一定です。自衛官の募集は日本全体の雇用状況に反
比例します。現在のように景気が良く(疑問のあるところですが
株価も高止まりしています)、雇用状況が良ければ、自衛官の募
集は厳しくなります。
雇用状況が良く、いろいろな就職先が自由に選べるときに、自
衛官という職業を選ぶ人が少なくなるのは自衛官という職業に
「就職先としての魅力」がないということです。前回紹介した、
任期制自衛官の「退職が前提の就職であること」、自衛官の「勤
務場所が全国であること」といった不利な条件も、魅力を下げる
大きな要素です。反対に、「国民に信頼される組織への就職であ
ること」は、魅力を上げる効果とはなっていません。
ここで念押ししなければならないのは、「就職先としての魅力」
と「職業としての良し悪し」は別です。自衛官という職業は素晴
らしい職業で、自衛官という職業を選択して後悔したという話を
聞くのは極めて希です。親子で自衛官というのが他の職業に比べ
て非常に多いのも、職業としての素晴らしさを象徴しています。
▼年度予算の位置づけ
ここまでは、パンフレットのページに沿って説明してきました。
といっても、わずか3ページに多くの時間を割きました。防衛予
算を読み解くには、この3ページを理解することが非常に重要で
あるということです。この3ページが理解できるだけで、防衛予
算に対する見方が変わるでしょう。
さて、順番だと、次の解説はパンフレットの「本文」と「主要な
装備品等」になりますが、防衛予算を読み解くためには、「本文」
と「主要な装備品等」はほとんど役に立ちません。本文では、防
衛予算が何にいくら使われているのかについて、いきなり細部に
入ってしまいます。防衛予算を読み解くには、全体像を理解する
ことが重要です。
日本が必要とする防衛力は大綱の10年計画で規模を定め、5年計
画の中期防で具体的に整備する装備品と数量、部隊の新・改編、
全体の予算額等(買い物計画)を定めます。2つの中期防で大綱
の防衛力の水準を達成します。年度予算は、中期防で定められた
買い物計画を1年ごとに国会決議を得ながら、着実に達成してい
くものです。
年度予算で大事なのは中期防の買い物計画がどれだけ進捗してい
るか、大綱で定められた防衛力の水準にどれだけ達しているのか
です。ところが、パンフレットの本文には当該年度での買い物計
画が書かれているだけです。同様に、主要装備品等の調達、研究
開発経費等においても中期防や大綱との関連は書かれていません。
少なくとも、主要装備品等の調達数量の欄には中期防で定められ
た装備品の整備規模と進捗率が書かれるのが当然だと思いますが、
前年度との比較しかありません。
年度予算の説明で必要なのは中期防の進捗状況であり、進捗率が
低ければその理由を説明するとともに、今後の改善策が必要です。
年度予算は毎年独立したものではなく、中期計画の一部であると
いう認識が希薄な気がします。
また、中期防は閣議決定された計画であり、政府としては計画通
りに防衛力整備を行なう義務があります。ところが実態は、中期
防で定められた装備品の整備規模は達成されていません。大綱で
定められた防衛力は日本の安全保障にとって最低限必要なもので
す。目標を達成するのは当然として、日本の安全を考えるなら目
標以上の防衛力を目指すのが政府の務めです。
たとえば、25中期防の別表では、戦車の整備規模は44両と定めら
れています。これに対して、実際に年度予算での調達数量は、26
年度で13両、27年度で10両、28年度で6両、29年度で6両、30年度
で5両の計40両です。閣議決定された戦車の整備規模が達成されて
いません。同様に、輸送機(C-2)の整備規模は10機ですが、
年度予算の調達数量は、26年度で2機、27年度で0機、28年度で
0機、29年度で3機、30年度で2機の計7機です。
パンフレットの主要装備品等の調達数量は前年度との比較だけで
すから、中期防で定められた装備品の整備規模が達成されている
かどうかもわかりません。装備品の毎年の調達数量を足し算する
人は、極めて希です。防衛や安全保障に関心があり、中期防や年
度予算のパンフレットを読んでいる人でも中期防で定められ防衛
力が達成されていないことを知っている人はほとんどいないと思
われます。
このような状況は、25中期防以前からあります。ただし、25
中期防以前の中期防では、中期防の見直しという形で閣議決定を
経て、当初の中期防別表を変更して装備品の整備規模を減らして
います。特に象徴的なのが16中期防の見直しです。16年度に
中期防が策定されたときに定められた整備数量が20年度に大幅
に削減されています。
陸自であれば、輸送ヘリコプター(CH-47JA)が11機から9機へ、
中距離地対空誘導弾が8コ中隊から7コ中隊へ(1コ中隊で1つ
のシステム)、海自であれば、哨戒ヘリコプター(SH-60K)が23
機から17機へ、空自であれば、戦闘機(F-2)が22機から18機へ削
減されています。
見直しの理由に関しては「中期防衛力整備計画の見直しについて」
の第1項に記載されていますが、「諸外国の技術水準の発展等に
的確に対応しつつ、装備品の整備をより効率的に進めるため」と
あるだけで具体的な説明は何もありません。実際は予算編成が厳
しく防衛費を増額することができないから、防衛力の整備規模を
減らしただけです。前回の防衛関係費の推移でもわかるように、
この時期は小泉改革により防衛費が削減された時期と重なります。
中期防見直しの理由として記載されている「装備品の整備をより
効率的に進める」ことと、その結果として「装備品の取得数量を
減らすこと」がどういう関係にあるのか、全く理解できません。
「効率化」を最も端的に表すのは「無駄を減らすこと」です。装
備品の整備であれば、必要のない装備品を削減し(そのような装
備品があるとすれば)、装備品を取得するための無駄なコストを
削減することでしょう。効率化とは、中期防の別表で定めた整備
数量(日本の安全保障に必要な装備品の数量)を減らすことでは
ありません。
効率化という理由で日本の安全保障に必要な装備品の削減が閣議
決定されたことや中期防で定められた装備品の整備規模が達成さ
れないまま何の議論もないという事実は、防衛費をGDPの1%
とするとした時代と日本における安全保障に対する考え方がほと
んど変わっていないという真実を語っています。防衛予算は誤魔
化しができません。
(つづく)
(いちかわ・ふみかず)
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【著者紹介】
市川文一(いちかわ・ふみかず)
1961年生まれ。長野県出身。防衛大学校27期生。1983年、陸上自
衛隊に入隊。
2002年に1等陸佐に昇任後、第13後方支援隊長、統合幕僚監部
人事室長、装備施設本部武器課長、陸上幕僚監部武器・化学課
長、東北方面後方支援隊長、愛知地方協力本部長として勤務、
2015年陸将補に昇任後、陸上自衛隊武器学校長の勤務を最後に
2017年8月に退官。退官後の9月にはYouTube「桜林美佐の
国防ニュース最前線」に出演。
2019年9月に新刊『不思議で面白い陸戦兵器』を刊行。
2017/9 YouTube「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演。
https://youtu.be/6hPY3vgpidw
2017/10/21「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
https://youtu.be/jESYh1lIeSE
2018/2/10「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
https://youtu.be/D_md0ZSJNds
2018/6/9「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
https://youtu.be/eHnT9jvqQjk
2018/10/6「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
https://youtu.be/aEOhNJ3twN0
著書に『猫でもわかる防衛論』(大陽出版)がある。
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