配信日時 2019/11/01 20:00

【二つの愛国心─アメリカで母国を取り戻した日本人大尉(31)】「祖国を憎む倒錯の心理」 加藤喬

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応予備自衛官
でもあります。
お仕事の依頼など、問い合わせは以下よりお気軽にどうぞ
 
E-mail hirafuji@mbr.nifty.com
WEB http://wos.cool.coocan.jp
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こんにちは。エンリケです。

加藤さんが翻訳した武器本シリーズ最新刊が出ました。
今回はMP5です。

「MP5サブマシンガン」
L.トンプソン (著), 床井 雅美 (監訳), 加藤 喬 (翻訳)
発売日: 2019/2/5
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加藤さんの手になる書き下ろしノンフィクション
『二つの愛国心─アメリカで母国を取り戻した日本人大尉─』
の第三十一話です。

加藤さんならではの話が続きます。
さっそくどうぞ。

エンリケ


追伸
ご意見ご質問はこちらから
https://okigunnji.com/url/7/


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『二つの愛国心─アメリカで母国を取り戻した日本人大尉』(31)
 
「祖国を憎む倒錯の心理」

Takashi Kato

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□はじめに

 書下ろしノンフィクション『二つの愛国心──アメリカで母国
を取り戻した日本人大尉』の31回目です。「国とは?」「祖国
とは?」「愛国心とは?」など日本人の帰属感を問う作品です。
 
 学生時代、わたしは心を燃え立たせるゴールを見つけることが
できず、日本人としてのアイデンティティも誇りも身につけるこ
とがありませんでした。そんな「しらけ世代の若者」に進むべき
道を示し、勢いを与えたのはアメリカで出逢った恩師、友人、そ
して US ARMY。なにより、戦後日本の残滓である空想的平和主義
のまどろみから叩き起こしてくれたのは、日常のいたるところに
ある銃と、アメリカ人に成りきろうとする過程で芽生えた日本へ
の祖国愛だったのです。
 
 最終的に「紙の本」として出版することを目指していますので、
ご意見、ご感想をお聞かせいただければ大いに助かります。また、
当連載を本にしてくれる出版社を探しています。


□今週の「トランプ・ツイッター」10月16日付

「永遠の同盟国などないし、永遠の敵国も存在しない。永遠なの
は国益だけだ」

19世紀半ば世界に君臨した大英帝国の首相、パーマストン卿が
残した名言です。外交の本質を見事に言い当てています。この実
利主義に徹した視点が、150年後のいま、トランプ大統領の立
ち位置と重なります。

 先日来、トランプ大統領はシリア北部に駐屯していた米軍地上
部隊を撤退させたことで与野党から批判にさらされています。マ
スコミは「過激派組織イスラム国の掃討作戦で米軍とともに戦っ
たクルド人武装勢力を見捨て、敵対するトルコの越境攻撃を許し
た。この裏切り行為はアメリカの信頼を失墜させた」と報道して
います。

 アメリカが化学兵器を使用したアサド政権懲罰と、イスラム国
駆逐の名目でシリア内戦に地上部隊を派遣したのは2015年。
この際、オバマ政権が友軍に選んだのが勇猛果敢で知られるクル
ド人民兵組織でした。クルド人とはトルコ、イラク、イラン、そ
してシリアに居住する「国を持たない世界最大の民族集団」で、
2000万人が住むトルコでは、独立国家樹立を目指し武装闘争
を行なっています。

 つまりトルコから見れば、クルド人武装勢力はテロリストも同
然。「米国とクルド人の協力関係を快く思っていなかったトルコ
が、米軍の撤退を機にクルド人勢力に越境攻撃をかける」。この
シナリオはトランプ氏にとって想定内だったでしょうし、中東に
おけるロシアやイランの影響力拡大を危ぶむ文民補佐官や、統合
参謀本部議長ら制服組は撤退に反対したはずです。

 では、政権内部からの不協和音や「同盟国としての信頼失墜」、
不名誉な「裏切り批判」を覚悟のうえで撤退を強行したのはなぜ
か?

 2011年、アサド政権に対する平和的抵抗運動として始まっ
たシリア内戦は、しかしほどなくヒズボラやイランの革命防衛隊、
そしてイスラム国を巻き込み、誰が何のために誰と戦っているの
かも判然としない混沌状況に陥りました。現在も出口なき戦争状
態が続いています。ベトナム戦争、アフガン戦争、イラク戦争の
泥沼から抜け出せず米経済が疲弊するのを目の当たりにしてきた
トランプ氏は、シリア内戦にこれ以上関わり続けることは国益で
ないと読んだのです。

 ビジネスマン大統領の冷徹な損得勘定を「超大国の指導者とし
て自覚がない」とか「アメリカ撤退はロシアを利するだけだ」と
糾弾しても詮無いこと。トランプ氏は従来の政治手法を意に介さ
ぬワイルドカードだと認め付き合っていくしかありません。目下
トランプ氏は、覇権野心を隠さなくなった中国をいかに抑え込み、
手なずけるかに心を砕いています。中国対処に国力を集中するた
め、石油をはじめエネルギーの自給自足を前倒しで達成した米国
が、当面ビジネスにならない中東の領土問題から距離を置く。こ
れは実利主義者トランプにとって理にかなった決断であり、紛れ
もない国益追求なのです。

 シリアをめぐるトランプ氏の判断が示すのは「アメリカ第一主
義」が選挙用リップサービスではなく、「アメリカの信頼」を犠
牲にしてでも成し遂げる至上命令だという事実。トランプ大統領
にとっても「永遠の同盟国は存在しない」ことを強く示唆してい
ます。来年再選されれば、トランプ氏はアメリカ第一主義の信任
と捉え、国益重視の外交を一層強めるのは確実です。

 ちなみに、中国は国内にジョージ・オーウェルの『1984』
を地で行く監視社会を築き上げ、また、一帯一路の名を借りて世
界中で覇権工作を進めています。自由、人権、機会均等といった
民主的価値を共有できる相手ではありません。安倍首相は「悠久
の歴史を誇った中国と中国共産党は似て非なるもの」という事実
から目を背けたいのか、はたまた「対米従属一本槍ではない」こ
とを示す意図なのか、習近平主席への媚を隠そうともしません。
一党独裁国家への接近がトランプ氏の対中抑え込み政策を阻害す
る事態にでもなれば、一見安泰な安倍─トランプ関係がどうなる
か・・・。

「永遠の同盟国は存在せず、永遠なのは国益のみ」。この峻厳な
現実を、日本の施政者と有権者は今こそ肝に銘じるべきだと思い
ます。



 本日のトランプ・ツイッター、キーワードは what is happening 
here。「いまここで起きていること」という意味です。

I am the only person who can fight for the safety of our 
troops & bring them home from the ridiculous & costly 
Endless Wars, and be scorned. Democrats always liked that 
position, until I took it. Democrats always liked Walls, 
until I built them. Do you see what’s happening here?

「馬鹿げているうえ多大な犠牲をともなう出口なき戦争から米軍
将兵の命を守り、無事帰還させることができるのはわたしを置い
て他にない。にもかかわらず、わたしは(撤退宣言で)嘲られる。
民主党議員らは、わたしが撤退を決断するまでこの案に賛成だっ
た。彼らはまた、わたしが実際に建設するまで、国境の壁にも賛
成していた。この一連の出来事に共通するのがなにかお分かり
か?」


「二つの愛国心─アメリカで母国を取り戻した日本人大尉」(31)

(前号までのあらすじ)
武器科から陸軍情報部に転属後、与えられた初の海外任務は陸自
北熊本駐屯地で行なわれた「ヤマサクラ27」だった。同指揮所
演習中、わたしは憲兵旅団に配属された。陸自警務科との合同戦
況ブリーフィング通訳が主任務だったが、日本側が主催する歓迎
行事の通訳支援も飛び入りで行なった。ある晩、米軍の将官らが
熊本名物「馬刺し」の老舗に招待され、わたしはDLIで教えた
語学兵らを従え同行した。テンガロンハットにブーツ姿の将軍た
ちを前に、「カウボーイに馬肉はマズイな」と直感した。わたし
は一計を案じた。

▼祖国を憎む倒錯の心理

 演習終了後、長崎原爆資料館を訪れたいという旅団長に同行し
た。傍から見れば単なる外人観光客と通訳ガイドだが、平和公園
に鎮座する祈念像の前で、わたしは来し方を反芻していた。

国を問わず、軍人を志すのは祖国愛に駆られた者だ。叔父を含め、
滅びゆく母国を守らんと予科練に志願した戦中の若者などその典
型だろう。ところがわたしは、日本の若きパイロットが特攻まで
して守りたかった祖国ではなく、旧敵側の軍人になった。
なぜか・・・日本では自分の進むべき道を見つけることができな
かったことが一つ。いま一つは使命感に飢えていたことだ。母国
で命をかけるに値する目的を血眼で探し求めたが、おぼろげな輪
郭さえ垣間見ることがなかった。日常生活のなかで力のかけどこ
ろがなかった。居場所すらなかった。渡航先にアメリカを選んだ
のは、幼少期そこはかとない憧れを抱いた夢の国であり、また
「空気の缶詰」がやってきた土地だったからだ。

米軍入隊の動機は、コネひとつない新天地に根を下ろし、移り住
んだ社会で尊敬を得たかったことが大きい。このゴールを達成す
るには米軍士官を目指すのが最短コースであり、糧(かて)を得
るという実利にもかなった選択だった。そのうえ、ユニフォーム
に徽章や略章、パッチを身につける軍人は、他のどんな職業より
目に見えるカタチで成功を誇示できる。

米社会主流派の目を意識せざるを得ない移民にとって、これは抗
いがたい魅力だった。第二の祖国を守る誇りと生き甲斐は、入隊
後、仲間と汗を流しながら徐々に身についていった。生死を共に
する者への同胞意識・・・部隊と軍への帰属感。お互い命を預け
合う兵への献身と信頼・・・愛と言ってもかまわない。「お国の
ため」と上から背負わされる義務ではなく「戦友は決して見捨て
ない」軍隊の掟・・・底辺から湧いてくる兵士同士の一体感。こ
れが真の意味での愛国心だ。国旗や国歌は、そういう気持ちを束
ねる象徴的なタガであり、それ自体に愛国心が宿っているわけで
はない。

「日米が再び戦火を交えることになったら、どちらの側につくの
か?」
 任官後、日本に帰るたびによく聞かれた。聞き手の心に根付く
「軍隊イコール戦争」という大前提を感じ、わたしは曖昧に笑っ
て答えなかった。が、実を言えは、わたしもそういう色眼鏡で軍
隊を見ていた。中学生の頃、「もしソ連軍が攻めてきたら、武器
は取らずロシア人の人間性を信じ降伏するのが平和主義だ」と言
う先生がいた。わたしは憤慨も反発も感じなかった。日本が再び
アメリカに歯向かうことを恐れる連合国軍総司令部が行なった
「日本人に戦争罪悪感を植え付けるプロパガンダ」と、それを継
承した教師やマスコミ、反戦漫画によって歪んだ日本観を刷り込
まれていたせいだろう。

 高校生になるとクラスメートに演劇少女がいて、「マッチ擦る
つかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや」という寺山
修司の歌をことあるごとに諳(そら)んじた。わたしも「命をか
けて守るに値する国などない」との反語にもろ手を挙げて賛成し
た。マッカーサー元帥率いる連合国軍総司令部が行なった日本人
の精神的非武装化は、予想をはるかに上回る成果を上げたと言わ
ねばならない。民族の誇りと誉ある過去を完璧に否定・抹殺され
た日本人が手にしたのは、祖国を憎む倒錯の心理だったからだ。

皮肉にも、後年わたしは米軍で鍛えられる過程で、心の芯まで染
み込んでいたこの悪しき残渣を洗い落とすことができた。武器を
とって自分の命を守ることが本能であり、天与の権利であること
を軍隊で学んだ。言い換えれば、米軍がわたしを「普通の人間」
に作り直したのだ。守る対象が個人から国になっても、その行為
が自己保存の本能に根ざしたものであることは変わらない。

とすれば、わたしが米軍の士官となったのは不条理でも背信行為
でもない。生まれ故郷ではなくとも、守るべき人が住む国の軍人
を目指すのは自然な情であり、生存という生得権利の行使だから
だ。それだけではない。わたしは、日米両軍の間に活躍の舞台を
見いだした。軍人として二つの祖国の潤滑油になることこそ、ゴ
ールデン街を徘徊していた時代から探し求めてきた使命だった。


(つづく)


加藤喬(たかし)



●著者略歴
 
加藤喬(かとう・たかし)
元米陸軍大尉。都立新宿高校卒業後、1979年に渡米。アラスカ
州立大学フェアバンクス校他で学ぶ。88年空挺学校を卒業。
91年湾岸戦争「砂漠の嵐」作戦に参加。米国防総省外国語学校
日本語学部准教授(2014年7月退官)。
著訳書に第3回開高健賞奨励賞受賞作の『LT―ある“日本
製”米軍将校の青春』(TBSブリタニカ)、『名誉除隊』
『加藤大尉の英語ブートキャンプ』『レックス 戦場をかける
犬』『チューズデーに逢うまで』『ガントリビア99─知られざ
る銃器と弾薬』『M16ライフル』『AK―47ライフル』
『MP5サブマシンガン』『ミニミ機関銃(近刊)』(いずれも
並木書房)がある。 
 
 
追記
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『チューズデーに逢うまで』関係の夕刊フジ
電子版記事(桜林美佐氏):
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20150617/plt1506170830002-n1.htm
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20150624/plt1506240830003-n1.htm
 
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『レックス 戦場をかける犬』の書評です
http://honz.jp/33320

オランダの「介護犬」を扱ったテレビコマーシャル。
チューズデー同様、戦場で心の傷を負った兵士を助ける様子が
見事に描かれています。
ナレーションは「介護犬は目が見えない人々だけではなく、
見すぎてしまった兵士たちも助けているのです」
http://www.youtube.com/watch?v=cziqmGdN4n8&feature=share
 
 
 
きょうの記事への感想はこちらから
 ⇒ https://okigunnji.com/url/7/
 
 
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日本語でも英語でも、日常使う言葉の他に様々な専門用語があ
ります。
軍事用語もそのひとつ。例えば、軍事知識のない日本人が自衛
隊のブリーフィングに出たとしましょう。「我が部隊は1300時
に米軍と超越交代 (passage of lines) を行う」とか「我が
ほう戦車部隊は射撃後、超信地旋回 (pivot turn) を行って離
脱する」と言われても意味が判然としないでしょう。
 
 同様に軍隊英語では「もう一度言ってください」は
 "Repeat" ではなく "Say again" です。なぜなら前者は
砲兵隊に「再砲撃」を要請するときに使う言葉だからです。
 
 兵科によっても言葉が変ってきます。陸軍や空軍では建物の
「階」は日常会話と同じく "floor"ですが、海軍では船にちな
んで "deck"と呼びます。 また軍隊で 「食堂」は "mess 
hall"、「トイレ」は "latrine"、「野営・キャンプする」は 
"to bivouac" と表現します。
 
 『軍隊式英会話』ではこのような単語や表現を取りあげ、
軍事用語理解の一助になることを目指しています。
 
加藤 喬
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しています。ありがとうございました。

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