配信日時 2019/10/30 20:00

【防衛予算から読み解く日本の防衛力(10)】防衛関係費(その7) 市川文一(元武器学校長・陸将補)

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応予備自衛官
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防衛予算の仕組みがわかると、
防衛セクターが抱える真の危機が、
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防衛予算から読み解く日本の防衛力(10)

防衛関係費その7

市川文一(元武器学校長・陸将補)
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□はじめに

 前回、自衛官の募集が厳しいという話題を取りあげました。ど
れだけ厳しいかというと、予算で認められた実員(人件費)が確
保できない状態です。試験の合格基準や身体検査の基準を下げれ
ば人数を集めることは可能ですが、災害派遣や国際貢献といった
実任務がこれだけ増えると、基準を下げることはできません(即
戦力が必要という観点)。

 自衛官の場合、他の公務員と違い任期制という特殊な制度があ
ります。陸上であれば1任期2年、海上、航空であれば1任期3
年で、一度、退職扱いになります。任期を継続することはできま
すが、いずれは退職して別の職業に就かなければなりません。再
就職に関しては、自衛隊内に就職援護を行なう組織があり、必ず
他の職業に就職できますが、自衛隊が好きで入隊した人にとって
はつらいことです。

この間の階級は「士」です。「曹」の階級になると定年まで勤務
ができますが、曹になるための試験に合格しなければなりません。
しかも、任期制隊員の数に比べて合格枠が少ないため、任期制で
入隊した自衛官が曹になれるのは半分以下です。

 この任期制の制度は、世界各国どこの軍隊にもあります。最も
わかりやすいのが徴兵制です。韓国、中国、ロシアなど、日本の
周辺国は、徴兵制を採用していますが、これも任期制です。ある
年限(通常は2~3年)勤務して退職することになります。任期
制は、軍隊という特殊な組織を構成するためには必要不可欠な制
度です(年齢上のピラミッド組織を構成するという観点)。

 日本の場合は志願制ですから志願する人が少なければ任期制の
隊員を確保することができません。任期制の場合はいずれ退職し
なければならないため、就職先としては魅力が落ちます。

就職先としての自衛隊のライバルは警察と消防です。警察と消防
には任期制の制度はありませんから、どうしても自衛隊の人気は
下がります。また、最近は、実家に近い勤務先を選ぶ傾向が強く
なっています。自衛隊の勤務先は全国にわたりますが、県単位で
組織されている警察は県内、市町村単位で組織されている消防は
市町村内です。このように、任期制隊員の募集は、「退職が前提
の就職であること」「勤務場所が全国であること」という、不利
な要素をもともと抱えています。(この項つづく)


▼防衛関係費の推移

パンフレットの3ページに「防衛関係費の推移」として、国の予
算に占める割合が折れ線グラフで表してあります。5%前後を推
移しているということがわかります。平成15年度から24年度まで
の10年間、減少し、その後、増加していますが、日本の安全保障
環境が影響しているものではないことは明らかです。

防衛費が減少している時期は、小泉政権の「聖域なき構造改革」
と一致しています。「防衛費も聖域ではない」として、「聖域な
き改革」の象徴的な削減対象となりました。政局を重視した政策
であり、国の防衛を政局に利用したともいえます。

最も防衛費が落ち込んでいる時期は、民主党政権の平成21年から
平成24年と一致しているため、民主党政権時に防衛費を減らした
と誤解されがちです。民主党政権時の21年度防衛予算の新規後年
度負担は大幅減となっており、民主党政権が防衛費を削減したこ
とは事実です。

しかし、防衛費の削減に着手したのは自民党の小泉政権であり、
その後の安倍、福田、麻生政権においても防衛費は減少していま
す。現政権の中心にある安倍総理、麻生副総理の政権時にも、意
識的かどうかは別として防衛費が減っているという事実は、押さ
えておかなければなりません。

新規後年度負担は、2年から5年後には歳出化経費として歳出予
算に計上されます。新規後年度負担を増やしたり減らしたりした
結果が、実際に歳出予算として表れるのは数年後です。自民党政
権での新規後年度負担の削減は、歳出化経費の削減という形で民
主党政権での防衛費の減少にも影響を与えています。

小泉政権での「聖域なき構造改革」の政策のうち、「総人件費改
革」が防衛費の削減に大きな影響を与えました。平成18年度~22
年度の5年間で国の人件費を5%以上減らすという改革です。聖
域なき改革という御旗のもと、防衛予算についても例外とされず
人件費の5%低減が防衛省に求められました。人件費の削減は直
接、歳出予算に影響しますから防衛費の10年間の減少には大きく
影響しています。

人件費を削減するためには、給与を減らすか、実員を減らすかで
す。国家公務員の給与に関しては人事院勧告に基づき定められる
ため、政策として勝手に減らすことはできません。となると実員
を削減するしかありませんが、自衛官の実員を5年間で5%減ら
すには、組織そのものを見直す必要があります。組織を変えるた
めには、中期防や大綱の見直しが必要です。

したがって、人件費の削減は、本来、大綱の策定において議論す
べき問題で総人件費改革という一般政策の中で議論する話ではあ
りません。とはいえ、防衛省としては対応しないわけにはいかず、
給与も減らさず、実員を減らさない方法をいくつか捻り出し、な
んとか人件費を5%削減しました。

実際に、人件費削減に寄与した改革として平成22年度に制度化し
た「自衛官候補生」があります。自衛隊に入隊する場合、以前は
最初から自衛官として2等陸士の階級で入隊しました。22年度か
らは、入隊時に階級はありません。3か月間は自衛官候補生の身
分です。したがって、自衛官としての給与はもらえず自衛官候補
生手当の133,500円/月です。自衛官の2等陸士の給与は169,900
円/月(2019年現在)ですから、36,600円×3か月分×入隊者数
だけ人件費の削減になるわけです。

平成25年度からは歳出予算が増加しています。新規後年度負担の
増額は数年後に歳出化経費の増額として表れますから、すでに民
主党政権時から新規後年度負担の増額が始まっています。野田政
権時の平成24年度の歳出予算は減少していますが、新規後年度負
担は増加しています。民主党政権時にも防衛予算を増額している
事実は、ほとんど知られていません。

防衛関係費の増減の要因として考えられるものをいくつか説明し
ましたが、実際の増減額はわずかであり、大きな視点で見れば日
本の防衛関連予算は日本の安全保障環境に関係なく一定であると
捉えるのが妥当です。防衛予算を見る限り、「最近の日本の厳し
い安全保障環境を反映して、日本の防衛力が強化されている」と
は言いがたい状況だということです。

子ども手当などの新設が人件費の増加につながり、東北大震災の
復興予算を捻出するために国家公務員(自衛官も含む)の給与を
1割削減したことで人件費は減少しています。人件費は防衛予算
の40%以上を占めるため、人件費の増減が防衛費の増減に大きく
影響します。これは、日本の安全保障環境とは関係ありません。
ここ数年の0.1%程度の防衛費の増額(国の予算に占める割合)
も誤差程度といえるでしょう。



(つづく)


(いちかわ・ふみかず)


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【著者紹介】
市川文一(いちかわ・ふみかず)
1961年生まれ。長野県出身。防衛大学校27期生。1983年、陸上自
衛隊に入隊。
2002年に1等陸佐に昇任後、第13後方支援隊長、統合幕僚監部
人事室長、装備施設本部武器課長、陸上幕僚監部武器・化学課
長、東北方面後方支援隊長、愛知地方協力本部長として勤務、
2015年陸将補に昇任後、陸上自衛隊武器学校長の勤務を最後に
2017年8月に退官。退官後の9月にはYouTube「桜林美佐の
国防ニュース最前線」に出演。
2019年9月に新刊『不思議で面白い陸戦兵器』を刊行。

2017/9 YouTube「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演。
 https://youtu.be/6hPY3vgpidw
2017/10/21「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
 https://youtu.be/jESYh1lIeSE
2018/2/10「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
  https://youtu.be/D_md0ZSJNds
2018/6/9「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
 https://youtu.be/eHnT9jvqQjk
2018/10/6「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
  https://youtu.be/aEOhNJ3twN0

著書に『猫でもわかる防衛論』(大陽出版)がある。
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