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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応予備自衛官
でもあります。
お仕事の依頼など、問い合わせは以下よりお気軽にどうぞ
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hirafuji@mbr.nifty.com
WEB
http://wos.cool.coocan.jp
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こんにちは。エンリケです。
加藤さんが翻訳した武器本シリーズ最新刊が出ました。
今回はMP5です。
「MP5サブマシンガン」
L.トンプソン (著), 床井 雅美 (監訳), 加藤 喬 (翻訳)
発売日: 2019/2/5
http://okigunnji.com/url/14/
※大好評発売中
加藤さんの手になる書き下ろしノンフィクション
『二つの愛国心─アメリカで母国を取り戻した日本人大尉─』
の第三十話です。
加藤さんならではの話が続きます。
米の「州兵」に関する極めて分かりやすい説明があります。
カンタンに真似できるものでないことも、よ~くわかります。
さっそくどうぞ。
エンリケ
追伸
ご意見ご質問はこちらから
https://okigunnji.com/url/7/
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『二つの愛国心─アメリカで母国を取り戻した日本人大尉』(30)
「カウボーイと馬肉」
Takashi Kato
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□はじめに
書下ろしノンフィクション『二つの愛国心──アメリカで母国
を取り戻した日本人大尉』の30回目です。「国とは?」「祖国
とは?」「愛国心とは?」など日本人の帰属感を問う作品です。
学生時代、わたしは心を燃え立たせるゴールを見つけることが
できず、日本人としてのアイデンティティも誇りも身につけるこ
とがありませんでした。そんな「しらけ世代の若者」に進むべき
道を示し、勢いを与えたのはアメリカで出逢った恩師、友人、そ
して US ARMY。なにより、戦後日本の残滓である空想的平和主義
のまどろみから叩き起こしてくれたのは、日常のいたるところに
ある銃と、アメリカ人に成りきろうとする過程で芽生えた日本へ
の祖国愛だったのです。
最終的に「紙の本」として出版することを目指していますので、
ご意見、ご感想をお聞かせいただければ大いに助かります。また、
当連載を本にしてくれる出版社を探しています。
□今週の「トランプ・ツイッター」10月12日付
「第2次世界大戦中、敵を狙って発砲した米軍歩兵は全体の20~
25パーセントに過ぎない」
戦後、米陸軍が行なった調査の結論です。その信ぴょう性には
異論も唱えられています。しかし、生まれつき良心の呵責や慈悲
心をもたない社会病質者は別にして、人は他の人間を傷つけたり
殺したりしたがらないもの。そのうえ、殺人を忌諱する社会に生
まれ育ち、「汝殺すなかれ」と教えられてきた年若い召集兵が敵
兵の殺傷を躊躇したとしても不思議はありません。
米軍はこの戦訓を元に新たな訓練方法を編み出し、実戦を通じ
改善を続けました。わたしが新兵訓練を受けた1980年代には、軍
は「娑婆の人間を兵士に作り変える術」を完璧に心得ていたので
す。射撃訓練では、それまでの静止した黒点標的が、突然地面か
ら立ち上がるヒト型ターゲットに変更されており、出没する敵を
反射的に撃つ射撃術を叩き込まれました。
また、25メートルの距離に現れる複数のターゲットに対し、M1
6小銃をフルオートモードにして掃射する訓練も受けました。敵を
注意深く狙う「精密射撃」が躊躇を生むことから、「弾幕射撃」
で敵を制圧する戦術への転換期でもあったようです。
精神面では、不眠不休の訓練で芽生え、育まれる仲間や上官へ
の忠誠心と戦士としての自負心が、敵を撃つことへの恐怖や自責、
戸惑いを軽減させました。ちなみに、同じ効果は敵を「人間以下」
と見なすことでも得られます。先の大戦での「鬼畜米英」、ベト
ナム戦争で使われたアジア人への蔑称「グーク」、ターバンを巻
いたイスラム教徒への中傷「ラッグヘッド」、そして宗教家同士
が他宗派の迫害に使う「異端」などがこの典型です。
人間に対する同胞愛を抑制し「兵士」となった者が実戦に投入
され、同様の訓練を受けた敵と対峙するとき、市民生活では到底
理解しがたい修羅場が現出するのは想像に難くありません。そこ
で軍は、非戦闘員の殺害や捕虜の虐殺といった戦争犯罪を防ぐた
めに交戦規定を設け、武器の使用と不使用の線引きをします。し
かし、混沌と生と死が入り混じる戦場での出来事を、塵ひとつな
い軍事法廷で裁くことには本質的な矛盾と困難がつきまといます。
タリバンの爆弾製造犯を殺害したかどで軍法会議にかけられた陸
軍特殊部隊(グリーンベレー)少佐の一件もこの範疇でしょう。
トランプ大統領は「戦争の英雄が米政府自らの手で死刑に処さ
れるかもしれない」として、ホワイトハウスが裁判の見直しを遂
行中だとツイートしました。これを大統領による司法権の侵害と
する見方もあります。一方、戦場へ送った兵士の命と名誉を貴ぶ
最高司令官を賞賛する声も聴かれます。国を守るということは、
突き詰めれば、国民一人一人がこのジレンマに直面することに他
なりません。そう遠くない将来、日本人もこの問題に対峙する日
がくるでしょう。
本日のトランプ・ツイッター、キーワードは our boys。米国の
俗語表現で「我が国の兵士ら」を意味します。
The case of Major Mathew Golsteyn is now under review at
the White House. Mathew is a highly decorated Green Beret
who is being tried for killing a Taliban bombmaker. We
train our boys to be killing machines, then prosecute them
when they kill!
「マシュー・ゴルステン少佐の裁判はホワイトハウスで審査中だ。
マシューは多くの勲章を授与されたグリーンベレー隊員で、タリ
バンの爆弾製造犯殺害の容疑で軍法会議にかけられている。我々
は兵士らを殺人マシンに鍛え上げるが、敵を殺害したかどで訴追
するとは!」
「二つの愛国心─アメリカで母国を取り戻した日本人大尉」(30)
(前号までのあらすじ)
射撃が取り持つ縁で、DLIの古参ロシア語教授ピーター・サ
ボイと懇意になった。ユダヤ系ロシア人の同僚は、旧ソ連はもと
よりアメリカの警察や軍隊も信用しない「武装市民」で、自分の
身は自分で守るが口癖だった。長年勤めあげたDLIを退官後、
言語と民族のアイデンティティを分かち合える女性ラリサと巡り
会い、連れ添って訪れたイスラエルで「守るべき土地」を発見し
た。イスラエルのために銃を取る決意をしたピーターは祖国愛に
目覚めていた。
▼カウボーイと馬肉
湾岸戦争から帰還後、軍属教官として国防総省外国語学校(DL
I)日本語学部に赴任すると同時に、カリフォルニア陸軍州兵部
隊に転属した。武器科から情報部に転換するコースを経て、語学
情報将校として「ヤマサクラ27」に参加したのは1995年1
2月。西部方面隊ではじめて行なわれた日米合同指揮所演習だっ
た。
北熊本駐屯地を中心に行なわれた有事シミュレーションは、北朝
鮮軍が北部九州を占領したという想定だ。演習期間中、憲兵旅団
に配属されたわたしは陸自警務科との合同戦況ブリーフィングの
通訳などを担当した。捕虜や難民への対処を受け持つ陸自幹部か
らは、「砂漠の嵐作戦」で捕虜収容所を設営・管理した旅団長に
質問が相次いだ。捕虜と難民対策のノウハウを聞き出さんとする
真摯な態度に、有事に備える責任感が滲んだ。
米軍の編成に馴染みのない自衛官は、旅団長が頻繁に言及する
「州兵部隊」という組織に合点がいかない様子だった。アメリカ
の州は自律性がきわめて高い准国家というべきもので、憲法も州
ごとにある。これを日本の県のような地方自治体と見なすと「軍
服も装備も階級も正規軍と変らない巨大武装組織を各州が持つ」
ことが異様に感じられるのだ。旅団長にこの誤解を耳打ちする。
大佐は機転を利かし、独立戦争に遡って民兵の由来を説明した。
「植民地時代のアメリカでは、入植者たちが自衛のために民兵を
組織しました。彼らは食料を得るためにマスケット銃を所持して
おり、射撃の技術も高かったのです。独立したてのアメリカを制
圧せんと英国が軍隊を派遣した際、ジョージ・ワシントンの求め
に応じ、多くの民兵組織がはせ参じたのはご存じでしょう。ワシ
ントンが司令官を務めたのが大陸軍で、これが後年、連邦政府の
常備軍、つまり正規陸軍になりました。独立宣言で州となった植
民地の民兵たちは、それから8年余り、大陸軍と肩を並べて戦い、
独立を守り抜いたのです。召集されると1分で駆けつけることか
らミニットマンと呼ばれた即応民兵団は優秀な射手が多く、目立
つ赤い制服の英軍士官を狙撃したことで有名です。この民兵伝統
が、現在の州兵部隊に受け継がれています。われわれは軍人であ
ると同時に、民間の仕事も持つ市民兵なのです」
「民間人でもあるから、シチズン・ソールジャーなのですね?」
「イエス」
「米空軍の大陸間弾道弾ミニットマンの語源も、ここからきてい
るのですか?」
「いつでも戦える戦力という意味で、その通りです」
「失礼ですが、大佐殿は民間人としては何を?」
「空港警察の署長をしています。部下には郡保安官、市警察の巡
査部長、ハイウェイパトロールの警部補、それに地方検事などが
います」
「憲兵部隊は、軍服を脱いでも警察や法務関係が多いのですね」
「そういうことになります。もっとも、今回通訳を務めるキャプ
テン・カトーは、国防総省外国語学校の日本語教官です」
大佐の説明を通訳するや、陸自幹部らはお互いに何度も頷きあっ
た。前々からの疑問に答えが見つかったらしい。日米実働部隊同
士の理解は進んでいるようだった。
九州初の軍団レベル合同演習ということもあり、陸自と地元有志
による米軍へのもてなしは手厚かった。駐屯地内に住む自衛官ら
はテントに移り、米軍将兵に官舎を開放した。文化交流の一環と
して、生け花、茶道、武道の実演などが連日行なわれ、周辺住民
のボランティアが米兵らを家庭料理の夕べに招く歓待ぶりだった。
そんな中、在日米軍座間基地の通訳部から支援要請を受けた。
「地元の自衛隊応援団体が米軍将官らを夕食会に招待したい意向
だが通訳が足りない。来て欲しい」とのことだ。
草の根レベルの絆づくりに役立てるならと即諾した。さっそく、
演習に参加していたDLI卒業生の中から優秀な者を数名選抜し
た。その晩、我々は私服姿で熊本の繁華街に向かった。
指定の場所に出向いてみると、馬刺し専門店の看板に行き当たっ
た。熊本名物といえば桜肉。順当な選択だ。店の造りから、名の
通った老舗と見当をつけた。
物珍しげな若い兵らと暖簾をくぐる。すでに陸自幹部や地元有志
にエスコートされた将官らが集っているらしく、座敷の前には革
靴に混じってカーボーイ・ブーツが目についた。中の様子を覗う
と、ぎこちなく畳に足を伸ばす将官たちの中には、テンガロン・
ハットに大ぶりな金属製バックルといういでたちの者が数人いた。
おそらく、テキサスやモンタナ、ワイオミングなど、カーボーイ
文化が色濃い州の出身者だ。これはマズイことになったと直感し
た。
アメリカに馬肉を食する習慣はない。それどころか、カーボーイ
の伝統を継承する人々にとって、馬とは移動や農耕の手段を超え
たパートナー。犬と同じく家族の一員なのだ。日本側に他意はな
いにしろ、そんな人たちに馬肉をふるまったとなれば、取り返し
のつかない誤解と不信、そして不和の種を植えつけかねない。が、
策を巡らす時間はなかった。
「ワンダフル!」
将官らの感嘆のなか、酒と料理が次々に運ばれテーブルを埋めた。
乾杯の音頭と歓迎挨拶の通訳は経験ある部下らに任せ、わたしは
一計を案じた。新米語学兵をカーボーイ将軍らの専属通訳として
すぐ後ろに控えさせ、主催者側とのコミュニケーションを任せた
のだ。ただ「馬肉」という言葉は必ず割愛するよう指示した。
「なんのサシミか?」と食い下がる将軍には「すぐ聞いて参りま
す」を繰り返して時間を稼ぐ。この間、わたしはウエートレスと
陸自幹部、地元有志らを促し将軍らの盃に途切れなく酒を注がせ
た。遠慮する将軍には後ろに控える語学兵が、
「ジェネラル、日本では注がれた酒は飲み干すのが礼儀です」
と耳打ちする段取りだ。小一時間もすると、座敷は赤ら顔の日米
参加者が発する「カンパイ!」の大合唱に埋まり、桜肉の正体が
露呈する心配はなくなった。
同盟関係を酒宴で支える米兵など決してハリウッド映画には出て
こない。だが、涙ぐましい努力でモノにした日本語を武器に活躍
する語学兵は存在する。知られざる米軍の一面だ。
(つづく)
加藤喬(たかし)
●著者略歴
加藤喬(かとう・たかし)
元米陸軍大尉。都立新宿高校卒業後、1979年に渡米。アラスカ
州立大学フェアバンクス校他で学ぶ。88年空挺学校を卒業。
91年湾岸戦争「砂漠の嵐」作戦に参加。米国防総省外国語学校
日本語学部准教授(2014年7月退官)。
著訳書に第3回開高健賞奨励賞受賞作の『LT―ある“日本
製”米軍将校の青春』(TBSブリタニカ)、『名誉除隊』
『加藤大尉の英語ブートキャンプ』『レックス 戦場をかける
犬』『チューズデーに逢うまで』『ガントリビア99─知られざ
る銃器と弾薬』『M16ライフル』『AK―47ライフル』
『MP5サブマシンガン』『ミニミ機関銃(近刊)』(いずれも
並木書房)がある。
追記
「MP5サブマシンガン」
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『AK-47ライフル』
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『M16ライフル』発売中♪
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『アメリカンポリス400の真実!』発売中
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『チューズデーに逢うまで』発売中
http://www.amazon.co.jp/dp/489063326X
『チューズデーに逢うまで』関係の夕刊フジ
電子版記事(桜林美佐氏):
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20150617/plt1506170830002-n1.htm
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20150624/plt1506240830003-n1.htm
『レックス 戦場をかける犬』発売中
http://www.amazon.co.jp/dp/489063309X
『レックス 戦場をかける犬』の書評です
http://honz.jp/33320
オランダの「介護犬」を扱ったテレビコマーシャル。
チューズデー同様、戦場で心の傷を負った兵士を助ける様子が
見事に描かれています。
ナレーションは「介護犬は目が見えない人々だけではなく、
見すぎてしまった兵士たちも助けているのです」
http://www.youtube.com/watch?v=cziqmGdN4n8&feature=share
きょうの記事への感想はこちらから
⇒
https://okigunnji.com/url/7/
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日本語でも英語でも、日常使う言葉の他に様々な専門用語があ
ります。
軍事用語もそのひとつ。例えば、軍事知識のない日本人が自衛
隊のブリーフィングに出たとしましょう。「我が部隊は1300時
に米軍と超越交代 (passage of lines) を行う」とか「我が
ほう戦車部隊は射撃後、超信地旋回 (pivot turn) を行って離
脱する」と言われても意味が判然としないでしょう。
同様に軍隊英語では「もう一度言ってください」は
"Repeat" ではなく "Say again" です。なぜなら前者は
砲兵隊に「再砲撃」を要請するときに使う言葉だからです。
兵科によっても言葉が変ってきます。陸軍や空軍では建物の
「階」は日常会話と同じく "floor"ですが、海軍では船にちな
んで "deck"と呼びます。 また軍隊で 「食堂」は "mess
hall"、「トイレ」は "latrine"、「野営・キャンプする」は
"to bivouac" と表現します。
『軍隊式英会話』ではこのような単語や表現を取りあげ、
軍事用語理解の一助になることを目指しています。
加藤 喬
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PS
弊マガジンへのご意見、投稿は、投稿者氏名等の個人情報を伏
せたうえで、メルマガ誌上及びメールマガジン「軍事情報」が
主催運営するインターネット上のサービス(携帯サイトを含む)
で紹介させて頂くことがございます。あらかじめご了承くださ
い。
最後まで読んでくださったあなたに、心から感謝しています。
マガジン作りにご協力いただいた各位に、心から感謝しています。
そして、メルマガを作る機会を与えてくれた祖国に、心から感謝
しています。ありがとうございました。
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(代表・エンリケ航海王子)
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