配信日時 2019/10/21 08:00

【桜林美佐の美佐日記(48)】天神様の怪奇現象─祟り神から厄除けの神へ

こんにちは、エンリケです。

天神さんをめぐるおはなしです

さっそくどうぞ。

エンリケ



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桜林美佐の「美佐日記」(47)

天神様の怪奇現象─祟り神から厄除けの神へ

桜林美佐(防衛問題研究家)
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おはようございます。桜林です。「男もすなる日記といふものを、
女もしてみむとてするなり」の『土佐日記』ならぬ『美佐日記』
は今回で48回目です。

 最近のメルマガ「軍事情報」の執筆陣の文面から共通した「怒
り」を感じますね。いずれも軽佻浮薄な世の中の風潮を嘆いてい
ます。

 たまたまニュースを聞いていて驚いたのは、「テレビ朝日の番
組で、スーパーの客として取り上げた人がディレクターが知人に
頼んでいた人たちだったことが分かりました」というもの。

 これって・・・、ニュースなの??

ちょうど先日、テレビ制作をしている友人とお喋りで、「今はシ
コミとか厳しいみたいだねー」「そーだよ、絶対にしませんと誓
約書交わしたりもするよ」という会話をしたばかりでした。

 これは、かつて「〇〇を食べると健康になる」や「△△でヤセ
た」といった類のもので誇張やヤラセがあった疑いがあることか
ら、ルールを厳しくしたわけで、ヤラセがいけないのは、視聴者
を騙したり、誰かを傷つけたりすることになりかねないからでし
ょう(お見合い番組で、カップルになる相手を予め頼んでおくと
か)。

 買い物客を事前に仕込むことも同じレベルの悪い事なのでしょ
うか。仮に「ここのお店のは美味しいわあ」とその仕込んだ人が
言ったとして、それが本心じゃないとしても、それがテレビとい
うものなんですよと、と私などは思ってしまうんですよね。

 近年はプライバシーの問題で、カメラに映り込んでしまった全
ての人に許可を得るように命じている局が多いようですので、そ
んなことをするくらいなら友達に頼もうと考えてもおかしくあり
ません。このディレクターを擁護したいわけでもなんでもありま
せんが、なにしろ、この話が他の国内外の重大ニュースと一緒に
報じられていることに驚き呆れたわけです。そんなことに目くじ
らをたてるなら、数々の反日・偏向報道、自衛隊に対する無知な
発言こそ改めてもらえないでしょうか・・。

 さて、気を取り直して本題?に入ります。

「とおりゃんせ~とおりゃんせ~ここはどこの細道じゃ~天神様
の細道じゃ~」と歌われたこの童歌、皆さんもご存じですよね?

しかし、この歌の意味するところは「よく分からない」という方
が多いのではないでしょうか。

 もちろん、私も分かりません。じゃあ書くなよ!という声が聞
こえてきそうですが、今日はこの「天神様」についてお話したい
と思っています。

 かねてこの日記では、私の住まいの周囲には色々な歴史的な所
が多いと書いていますが、その中でも最も有名と言っていい地名
がありました。それは「天神」です。天神は博多と並ぶ繁華街で、
東京で言えば新宿や渋谷のような場所、近くにある自衛隊の若い
隊員さんが「てんじん行く~」と言えば、金曜の夜に電車でくり
出す楽しいことを意味します。

 天神の地名は、菅原道真(みちざね)を祀る水鏡天満宮(すい
きょうてんまんぐう)があることからそう呼ばれるようになった
ようです。

 そんな中、先日BS-NHKの『英雄たちの選択』という番組で菅原
道真を特集していて、道真の壮絶な死とその後の怪奇現象につい
て知り、身震いしたのです。

 大宰府天満宮を参拝するとその歴史や逸話が掲示されています
ので、道真が大宰府に左遷されたことくらいは知っていたわけで
すが、実際はそこに書くことができないようなドロドロした物語
があったのですね。

学者という身分にもかかわらず右大臣に抜擢された道真は嫉妬の
的となり、挙句は左大臣だった藤原時平らによって謀略を企んで
いると罪をかぶせられ、都を追放されてしまいます。

 「東風(こち)吹かば 匂いおこせよ 梅の花 主(あるじ)
なしとて 春な忘れそ」

 これは、京都を出る時に、長年親しんだ住まいにある梅に対し、
自分がいなくなっても春は毎年来るのだから、忘れずに咲いてお
くれよと語りかけている歌です。

失意の中で大宰府に移り住んだ道真は他にも多くの歌を詠んでい
ます。いずれも非常に切ないものです。

 月が西の空に向かっているのを見て作られた漢詩には、自然の
運行に従っているだけのはずの月が、浮雲に覆われて西の空に流
されているなんて、いったいどうしたのかい?というものもあり
ます。九州に流されてきた自身を月に重ねたのです。月よ、お前
も左遷されたのかと。

 道真はボスであった醍醐天皇が自分を信じてくれて、無実を晴
らしてくれるのをひたす待ち望みながら、無念のうちに左遷から
2年後に息を引き取ります。

 人々を震撼させる出来事が起きたのはその後です。そのあたり
を詳述してくれている数少ない関連神社の一つ静岡天満宮のHP
から、ちょっと長いですが転載します。

「道真公の死後、京では異変が相継ぐ。道真公を放逐した政敵 藤
原時平の一派であった藤原定国の急死(延喜6年)、藤原菅根の
落雷による死亡(延喜8年)、そして時平の39歳の若さでの急逝
(延喜9年)。
同時に、日照りによる不作、疫病の流行などの災厄が京の街を襲
う。この頃から都では、これらの不幸や災厄が道真公の怨念によ
る祟りであるとの噂が流布し、加持祈祷の中に道真公の怨霊が姿
を現したなどの流言が飛ぶことになる。
ついで、醍醐天皇の皇太子 保明親王が薨御(こうぎょ)され(延喜
23年)、これを承継した慶頼王が亡くなられる(延長3(925)年)。
そして延長8年、天皇の御殿である清涼殿において折からの旱魃
(かんばつ)の対策を話合っていた際、京の街を激しい雷雨が襲い、
清涼殿に落雷、火災を引き起こし、さらに儀式の御殿である紫宸
殿にも落雷した。
この事故で藤原清貫ら数名が即死、醍醐天皇は3ヶ月後に崩御さ
れた。これらによって道真公は雷神として恐れられることになっ
たという。
当時、地主神として火雷天神が祀られていた北野の地に道真公が
祀られ(天暦元(947)年)、これが現在の北野天満宮となっている。
道真公の大宰府の墓所には社殿が造営されて(延喜19(919)年)、
道真公の御霊をお祀りし、これが現在の太宰府天満宮である。道
真公の無実がわかり、『祟り神』は変身し、『厄除けの神』とな
ったのである。」

 ひえ~っ、と思わず叫んでしまうような災厄の数々!宮殿の、
しかも部屋の中に落雷、道真が謀略にはめられるのを見て見ぬふ
りをした関係者たちが焼死するなんて!道真が「雷神」として恐
れられたのは当然のことでしょう。

 因みに、道真の家があった京都の桑原という場所だけが難を免
れたことから、雷が鳴ると「くわばら、くわばら」と言うように
なったのだそうです。

 崇徳院などもそうですが、神社の「霊鎮め」という役割が、そ
のうちにご利益信仰に変っている場合がほとんどではないかと思
われ、本来の目的を全く忘れてしまっていいのだろうかと、心配
症の私は思うわけですが、これが日本人の大らかさなのでしょう
か。

 これから受験シーズンになり、多くの人が全国の天神様や天満
宮を訪れると思います。単に合格祈願するだけよりも、道真公や
周囲の人々の物語を知ることで「合格できなくても人を妬まない」
「苦難も受け入れ前向きに」などの教訓を持ち帰ってもらったほ
うが、その人の人生にためになるような気がしますが、余計なお
世話でしょうか!

 <おしらせ>
YouTubeチャンネルくららで毎週土曜にアップしている「国防ニュ
ース最前線」、今週も伊藤俊幸・元海将に解説を頂きます。

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(つづく)



(さくらばやし・みさ)



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【著者紹介】
桜林美佐(さくらばやし・みさ)
昭和45年、東京生まれ。日本大学芸術学部卒。フリーアナウンサー、
ディレクターとしてテレビ番組を制作。その後、国防問題などを
中心に取材・執筆。著書に『奇跡の船「宗谷」─昭和を走り続け
た海の守り神』『海をひらく─知られざる掃海部隊』『誰も語ら
なかった防衛産業[改訂版]』『武器輸出だけでは防衛産業は守
れない』『防衛産業と自衛隊』(いずれも並木書房)、『終わら
ないラブレター─祖父母たちが語る「もうひとつの戦争体験」』
(PHP研究所)、『日本に自衛隊がいてよかった』(産経新聞出
版)、『ありがとう、金剛丸─星になった小さな自衛隊員』(ワ
ニブックス)。月刊「テーミス」に『自衛隊密着ルポ』を連載。


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