配信日時 2019/10/09 20:00

【防衛予算から読み解く日本の防衛力(7)】防衛関係費(その4) 市川文一(元武器学校長・陸将補)

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応予備自衛官
でもあります。
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こんにちは、エンリケです。

先送りが過ぎるとにっちもさっちもいかなくなるのは
古今東西、全ての分野で共通する話ですが、いまの防
衛予算も同じようですねw

さっそくどうぞ

エンリケ



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防衛予算から読み解く日本の防衛力(7)

防衛関係費その4

市川文一(元武器学校長・陸将補)
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□はじめに

 一度イメージが作られるとそれが固定化され、なかなか変える
ことはできません。アメリカのトランプ大統領が好例です。強気
の発言や政策から、好戦的なイメージができあがっていますが、
結果的には常に戦争を避ける外交政策を決断しています。逆に経
済的な外交政策は、常に強気です。

 トランプ大統領の考えを読むときは、政治家としてではなく実
業家として捉えた方が良いと思われます。アメリカが経済的に得
をするのかしないのかが判断の基準になっていると考えると、過
去の政策が納得できます。戦争をするかしないかも経済的な損得
が基準でしょう。

 戦争をするにはお金がかかります。それが公共投資の役割をし
て国の経済を活性化させることもありますが、単に国の予算を圧
迫するだけに終わることもあります。戦傷者や戦死者による国民
の士気の低下も、最近では大きな問題です。一般的には戦争をす
れば経済的なマイナス効果が大きいと考えられるでしょう。

 国内の軍需産業を活性化させるには、戦争をして自国で兵器を
消費するよりは、兵器を輸出して他国に売りつけることの方がよ
ほど効果的です。日本の場合も、トランプ大統領になってからア
メリカからの兵器の輸入額が急増しています。F35、イージス
アショアは象徴的です。
 
 防衛予算についても、固定化されたイメージがあります。その
最たるものが、防衛予算はまだまだ効率化・合理化の余地がある
というイメージです。防衛産業は装備品を売ることで多額の利益
を得ている、装備品の単価はもっと安くなるというイメージです。
そんなに儲かるのなら、なぜ装備品の生産から撤退するメーカー
が増えているのでしょうか。

▼歳出予算と新規後年度負担の関係(2)

 新規後年度負担で契約した支払いが、2年後、3年後、4年後、
5年後に歳出予算の歳出化経費として計上されます。歳出化経費
には2国から5国で契約したものの支払いが含まれているわけで
す。新規後年度負担の説明の中で、以前は2国だった防護マスク
が今は4国(国振り)になっているという話をしました。

 新規後年度負担の本来の趣旨は、契約年度内に製造が終了しな
いために完成年度に納品と支払いをするというものです。それが、
防護マスクのように、国振りされるものが増えています。2国か
ら3国へ、3国から4国へ、4国から5国へと1年間、2国から
4国、3国から5国へと2年間の国振りが年々増加しています。

 なぜ、このような状況(国振り)が進んでいるのでしょうか。
年度予算パンフレットでは新規後年度負担の2国から5国の金額
はわかりませんが、実際の予算編成においては、2国から5国の
それぞれの予算額が重要な議論となります。特に、2国について
は予算額に厳しい枠が設けられます。(2国は翌年度の予算編成
時に歳出化経費となるため翌歳とも呼ばれ、これに厳しい締め付
けがあるという意味で「翌歳縛り」と呼ばれます)

 年度予算を編成するときの歳出化経費は2国から5国の支払経
費が確定されています。次の年度(2年後の年度)の歳出化経費
は、3国から5国の支払額が確定されており、対象となるのは2
国の支払額です。3年後の年度の歳出化経費は4国と5国の支払
額が確定されており、対象となるのは3国の支払額です。同様に
4年後の年度は4国、5年後の年度は5国の支払額です。

つまり、歳出化経費の枠に占める国債の支払額が、4年分(枠が
全て埋まっている)、3年分(枠が1年分空いている)、2年分
(枠が2年分空いている)、1年分(枠が3年分空いている)、
なし=0年分(枠が4年分空いている)と少なくなるということ
です。

新規後年度負担の予算を編成するときには、当然ながら5国の枠
が最も余裕があり2国の枠が最も余裕がありません。また、2国
の対象となる翌々年度の予算であれば、防衛費の全体枠と人件・
糧食費、一般物件費の額がある程度想定できますから、翌々年度
に歳出化経費となる2国の上限額がほぼ決まります。

 日本の国の予算は歳出過多のため、国債(債券)を発行して国
民から借金をして予算を編成しています。したがって、毎年の予
算編成時には、歳出の削減が常に求められます。防衛予算は、こ
こ数年増額が認められていますが例外ではありません。予算額は
前年度同額以下が基準となって、調整が行なわれます。2国の額
を少なくすればするほど、翌々年の歳出化経費が少なくなり当該
年度の予算編成は楽になります。

 このため、まずは2国の額を減らすために、2国を3国に国振
りするという調整が行なわれます。当然、3国を増やしすぎると
3年後の歳出化が肥大化して、3年後の予算編成が大変なことと
なります。そこで、3国を4国に、4国を5国に国振りして平準
化することとなります。

 しかし、新規後年度負担を増加させれば、後々、歳出化経費が
増加し歳出予算(世間一般でいわれる防衛予算)を増額させなけ
ればなりません。今のところは、問題の先送りで話がすんでいま
すが(歳出予算の増加は少額で収まる)、いずれは根本的な問題
を解決しなければならないこととなります。つまり、日本に必要
な防衛力とそれに必要な経費、そのために、防衛費の増額がどの
程度必要かということを決めなければなりません。

 一般に防衛予算の硬直化というと、「防衛予算(歳出予算)は
人件・糧食費と歳出化経費というほぼ決定されている経費が全体
の8割を占め、柔軟に対応できる経費は2割の一般物件費しかな
い」という意味で語られますが、これは誤りです。そもそもが、
防衛予算は特殊な構造をしており、歳出予算がほぼ確定された予
算であるのは前提事項です。防衛予算は歳出予算と新規後年度負
担の二本立てであり、防衛費の議論は新規後年度負担も含めたう
えで議論すべきものです。

 防衛予算の硬直化という意味で真に問題となっているのは、今
回解説した新規後年度負担の先送りが限界に来ているということ
です。今のように新規後年度負担の増額を国振りで平準化するの
も限界に来ています。今のまま国振りを続ければ、翌々年度の歳
出化経費が3国から5国の支払い経費でいっぱいになり、2国の
新規後年度負担はなくなります。次には3国がなくなり、4国が
なくなることになります。そのようならないうちに、防衛費の適
正額を真剣に議論しなければなりません。


(つづく)


(いちかわ・ふみかず)


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【著者紹介】
市川文一(いちかわ・ふみかず)
1961年生まれ。長野県出身。防衛大学校27期生。1983年、陸上自
衛隊に入隊。
2002年に1等陸佐に昇任後、第13後方支援隊長、統合幕僚監部
人事室長、装備施設本部武器課長、陸上幕僚監部武器・化学課
長、東北方面後方支援隊長、愛知地方協力本部長として勤務、
2015年陸将補に昇任後、陸上自衛隊武器学校長の勤務を最後に
2017年8月に退官。退官後の9月にはYouTube「桜林美佐の
国防ニュース最前線」に出演。
2019年9月に新刊『不思議で面白い陸戦兵器』を刊行。

2017/9 YouTube「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演。
 https://youtu.be/6hPY3vgpidw
2017/10/21「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
 https://youtu.be/jESYh1lIeSE
2018/2/10「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
  https://youtu.be/D_md0ZSJNds
2018/6/9「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
 https://youtu.be/eHnT9jvqQjk
2018/10/6「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
  https://youtu.be/aEOhNJ3twN0

著書に『猫でもわかる防衛論』(大陽出版)がある。
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