配信日時 2019/10/04 20:00

【二つの愛国心─アメリカで母国を取り戻した日本人大尉(27)】「国防総省外国語学校:DLI」 加藤喬


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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応予備自衛官
でもあります。
お仕事の依頼など、問い合わせは以下よりお気軽にどうぞ
 
E-mail hirafuji@mbr.nifty.com
WEB http://wos.cool.coocan.jp
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こんにちは。エンリケです。

加藤さんが翻訳した武器本シリーズ最新刊が出ました。
今回はMP5です。

「MP5サブマシンガン」
L.トンプソン (著), 床井 雅美 (監訳), 加藤 喬 (翻訳)
発売日: 2019/2/5
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加藤さんの手になる書き下ろしノンフィクション
『二つの愛国心─アメリカで母国を取り戻した日本人大尉─』
の第二十七話です。

チューズデーが亡くなったそうです。合掌。


エンリケ


追伸
ご意見ご質問はこちらから
https://okigunnji.com/url/7/


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『二つの愛国心─アメリカで母国を取り戻した日本人大尉』(27)
 
「国防総省外国語学校:DLI」

Takashi Kato

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□はじめに

 書下ろしノンフィクション『二つの愛国心──アメリカで母国
を取り戻した日本人大尉』の27回目です。「国とは?」「祖国
とは?」「愛国心とは?」など日本人の帰属感を問う作品です。
 
 学生時代、わたしは心を燃え立たせるゴールを見つけることが
できず、日本人としてのアイデンティティも誇りも身につけるこ
とがありませんでした。そんな「しらけ世代の若者」に進むべき
道を示し、勢いを与えたのはアメリカで出逢った恩師、友人、そ
して US ARMY。なにより、戦後日本の残滓である空想的平和主義
のまどろみから叩き起こしてくれたのは、日常のいたるところに
ある銃と、アメリカ人に成りきろうとする過程で芽生えた日本へ
の祖国愛だったのです。
 
 最終的に「紙の本」として出版することを目指していますので、
ご意見、ご感想をお聞かせいただければ大いに助かります。また、
当連載を本にしてくれる出版社を探しています。


9月23日、『チューズデーに逢うまで』の介助犬チューズデー
が逝きました。イラク戦争でPTSDを患った故ルイス・カルロス・
モンタバン大尉をはじめ、ヒト・パートナーの支えとして献身し
た13年の生涯でした。同書の翻訳終了間際だった2014年1
2月、カリフォルニアを講演ツアーで訪れた大尉とチューズデー
に会う機会がありました。間近で見るルイスの目は、翻訳やメー
ルのやり取りを通して想像していたよりずっと穏やかで優しく見
えました。主人の脇にピタリと寄り添うチューズデーの忠実で聡
明な顔立ちに、訓練された介助犬だけが持つ「癒し」と「使命感」
を感じたものです。チューズデーを伴って全米を回り、戦傷復員
兵らの救済を訴え続けたモンタバン大尉その人も、PTSDの再発と
悪化で2016年に自死。チューズデーはその後、乞われて末期
患者のサービスドッグとなり、新たな主人の日常生活を支えてき
ました。最期はこの男性の腕に抱かれ、安らかに逝ったそうです。
 死別はこの世の定め。とは言え、やはり、辛い・・・。ヒトに
尽くし続けた忠犬に合掌。

□今週の「トランプ・ツイッター」9月23日付

「すべての生態系が崩壊しつつあり、わたしたちは絶滅の危機に
瀕しています。それでも、大人はお金と、永続する経済成長とい
う作り話に現(うつつ)を抜かすばかり。良くもそんなことが!」

 先日の国連気候行動サミットで、スウェーデンのグレタ・トゥ
ーンベリーさんは二酸化炭素削減策を先送りする各国首脳らを念
頭に、憤怒の表情でそう訴えました。同会議に出席していた小泉
環境相は「強烈だった。重く受け止めた。腹の底から(そう)思
っていると実感した」と語っています。

 実はわたしは、まさにその殉教者的「確信」に素朴な疑問を感
じました。「スパコンを動員しても、1週間を超える長期天気予
報が困難なのに、なぜ、10年後、二酸化炭素による温室効果で
環境系が破壊され大絶滅が起こると断言できるのか?」

 昨今のアメリカでこんな疑問を呈すると「温暖化否定派」のレ
ッテルを貼られ、肩身の狭い思いを強いられそうです。トゥーン
ベリーさんは科学がそれを極めて明確に示していると主張します
が、実は「二酸化炭素による温暖化説」に懐疑的な科学者もいま
す。

 スウェーデン王立宇宙物理学研究所で上級研究員を務める友人
はこう話してくれました。「懐疑派科学者は石油メジャーの御用
学者ではない。データ解析によって温度上昇の原因を地道に分析
している研究者たちだ。温暖化しているかどうかを判断するデー
タが不十分という見解や、温暖化は事実としながらも、その要因
に異議を唱える立場、そして、温暖化の主因が人為的であると認
めたうえで、太陽活動や太陽磁場、火山活動などまだよくわかっ
ていないメカニズムも温暖化要因として無視するべきではないと
の論旨だ」

 異なる原因には異なる対処法が要ります。とすれば、未知の温
暖化メカニズム研究も大切なはずですが、予算をめぐる研究者同
士の反目や、潤沢な資金源を持つ環境保護ロビーが「二酸化炭素
悪玉説」に固執し実現を阻んでいるようです。

 地球規模の気象予測はカオスが相手。何千もの既知および未知
の要因が複雑に絡み合っており、今のところ長期にわたる精密予
報は極めて困難です。だからこそ、地球温暖化とその影響に関す
る研究には政治や感情に左右されない論理性が不可欠。温暖化の
定説に異議を唱えると、即、政治的に白眼視され、疎まれ、蔑ま
れ、黙殺される世相こそが未来を否定する行為と言えましょう。

 ちなみに、トゥーンベリーさんが描いて見せた「子供対大人」
の対立構図は確かに劇的です。しかしながら解決策には一言も触
れられていません。これは16歳という免罪符があるから言える
こと。ピーターパンではない彼女は、好むと好まざるとにかかわ
らず、もうあと数年で大人の仲間入り。自分が責められる立場に
なったとき、トゥーンベリーさんはどのような秘策を披露してく
れるのか。その日が待たれます。

 本日のトランプ・ツイッターはトゥーンベリーさんを「真逆の
少女」として描いています。マスコミはこれをトランプ流の嘲り
と報じています。しかしこのあからさまなコントラストは、16
歳の少女を「孤高の環境活動家」に祭り上げた自然保護ロビーや
マスコミ、そして国連の「独り善がり体質」に気づくきっかけに
もなるでしょう。

She seems like a very happy young girl looking forward to 
a bright and wonderful future. So nice to see!

「輝かしく素晴らしい未来に胸を弾ませる、とても幸せな少女の
ようだ。会えてよかった!」


「二つの愛国心─アメリカで母国を取り戻した日本人大尉」(27)

(前号までのあらすじ)
 溶けた劣化ウラン弾による車両汚染やサウジアラビア軍による
誤射という異常事態は体験したが、幸い、直ちに命に関わる状況
にはならなかった。KKMC近隣の老若男女が突如盗賊と化した
水泥棒事件も、戦争映画の場面というよりドタバタ喜劇の趣が強
かった。時間の感覚を侵食する砂漠の倦怠が戻り始めた頃、半年
にわたる戦時任務が終結した。

▼国防総省外国語学校:DLI

国防総省外国語学校(DLI)の母胎となったのは陸軍情報部日
本語学校。太平洋戦争前夜の1941年11月1日、サンフラン
シスコ要塞の古びた格納庫で秘密裏に開校した。「まず敵を知る」。
情報を重視する米軍の対日戦略の一環だった。当初、4人の二世
教授が50人ほどの日系志願兵を教えた。慎ましい船出から数か
月後、フランクリン・ルーズベルト大統領が行政命令9066号
を発令。西海岸に住む日系市民は砂漠地帯の収容所へ強制移住さ
せられた2世兵が大半を占める陸軍日本語学校も例外ではなく、
山深いミネソタ州サベージ基地への移転を余儀なくされた。校名
も情報部語学学校となった。

敵性市民の汚名返上を誓う語学兵らは、卒業と同時に南方の島々
に赴いた。玉砕覚悟の日本兵に投降を促す任務のほか、尋問、捕
獲文書の翻訳などに従事し、敵兵と間違えられて誤射される危険
をはらむジャングルの最前線に立ち続けた。その勇敢さから「ヤ
ンキーサムライ」の異名をとった2世兵らの活躍は、太平洋戦争
終結を早め、多くの米軍将兵の命を救った。

戦後間もない1946年、同校はカリフォルニア州に戻る。当時
まだ漁業と缶詰工場の町に過ぎなかったモントレーに居を構え、
日本語のほか、ロシア語、中国語、韓国語など7言語を教える本
格的外国語学校への一歩を踏み出した。間もなく始まる冷戦期を
通じ、DLIは学部と教官・学生数を増やしていくことになる。

KKMC(ハリード国王軍事都市)を離れる直前、陸軍がこの語
学学校の日本語教官ポストを打診してきた。モントレーがどこか
も知らなかったが、中南米風の地名から多雨林や海辺のリゾート
を想像した。砂漠でなければどこでもいいという単純な理由で即
諾した。

やって来てみると、DLIは世界最大の外国語学校だった。4軍
の将兵やFBI特別捜査官などの連邦政府職員を対象に外国語教
育を行なっている。常時3500名の学生が在籍し、対象言語は
20数か国語にのぼる。卒業には日常の任務遂行に必要な会話、
聴解、読解能力が求められ、研修は最長1年半におよぶ。特殊部
隊やトップガン・パイロットですら音を上げる難易度の高いトレ
ーニングで知られる。わたしはここの軍属教官となると同時に、
カリフォルニア陸軍州兵部隊情報部に転属し士官としての任務も
続けることになった。

わたしが赴任した90年代初頭、モントレーはジョン・スタイン
ベックが描いた大恐慌時代のさびれた漁村から、西海岸屈指の高
級住宅地に変容していた。DLIの周辺にも名門ゴルフ場や高級
住宅地が迫っていたが、松林の斜面に建つ校舎群には史跡の趣が
あり、周辺コミュニティとの違和感はなかった。

DLIが教える言語の盛衰は、アメリカの国益と密接に結びつい
ている。1941年には日本語だったように、冷戦中はロシア語
やドイツ語が幅を利かせた。トンキン湾事件を境に急成長したの
はベトナム語。アメリカにとって厄介事、つまり国益に反する事
態が予想される地域の言語が伸びるわけだ。

20余年の在職中、ベトナム語、イタリア語、タイ語が廃部にな
り、同僚が失職の憂き目にあった。これらの国々または地域が、
アメリカにとって以前ほど深刻な脅威ではなくなったからだ。穿
った見方をすれば、中国語、韓国語、ペルシャ語、アラビア語の
大躍進は、近い将来きな臭い状況がやって来る先触れだとも言え
る。これらの言語の教官らは、母国とアメリカの戦争も覚悟しな
ければならない。雇用の安定だと喜んでばかりはいられない。

日本は戦後一貫してアメリカの盟邦として歩んできた。だからロ
シア語やペルシャ語、中国語などとは異なり、日本語学部にやっ
て来る学生に通信傍受要員や捕虜尋問官はいない。大使館付武官
や連絡将校・下士官の辞令を受けた者、自衛隊の幹部学校または
防衛研究所に入校する佐官留学生、そして語学兵を目指す新兵が
ほとんどだ。

学歴も軍歴もないが柔軟な頭脳を持ち記憶力に勝る若者が、トッ
プガン・スクールを卒業したエリート・パイロットや実戦体験の
ある陸軍特殊部隊グリーンベレー、レインジャー、海軍特殊戦部
隊シールズの強者、そして少数精鋭で知られる海兵隊の猛者と机
を並べるわけだ。当然、日本語学部の教官には、この両極端のグ
ループをいかに平等かつ効率よく教えるかという難題が問われる。
わたしが教え始めた頃もいまも、それは変わらない。

入校してくる職業軍人の中には、これまで挫折したことのない切
れ者が多い。純血種エリートたちは、まだあどけなさが残る2等
兵や1等兵が膨大な漢字や単語を苦もなく消化吸収し、奇怪な文
法を飲み込んで日本語を操る様子に驚愕する。毎週の読解・聴解・
会話試験でも一兵卒に敵わない。生まれて初めて味わう挫折。自
ずとフラストレーションがつのる。生真面目で自分を笑い飛ばす
ことができないタイプが危ない。放っておくと爆発するからだ。

佐官クラスが激昂したら、兵卒は瞬時に萎縮してやる気を削がれ
てしまう。したがって教官は、それぞれの学生が耐えられる限界
と「力の抜きどころ」を心得た心理カウンセラーでもなければな
らない。同時に、民間人を見下しがちな軍人メンタリティに
怯(ひる)まぬ度胸もいる。お門違いの哲学専攻だった自分はも
ちろん、第2外国語教育で修士号を持っている者にとっても、軍
人相手は生易しいことではない。わたしは着任早々先輩たちの職
人芸を盗み、叱咤と激励のバランス感覚を現場で学ぶよりほかな
かった。


(つづく)


加藤喬(たかし)



●著者略歴
 
加藤喬(かとう・たかし)
元米陸軍大尉。都立新宿高校卒業後、1979年に渡米。アラスカ
州立大学フェアバンクス校他で学ぶ。88年空挺学校を卒業。
91年湾岸戦争「砂漠の嵐」作戦に参加。米国防総省外国語学校
日本語学部准教授(2014年7月退官)。
著訳書に第3回開高健賞奨励賞受賞作の『LT―ある“日本
製”米軍将校の青春』(TBSブリタニカ)、『名誉除隊』
『加藤大尉の英語ブートキャンプ』『レックス 戦場をかける
犬』『チューズデーに逢うまで』『ガントリビア99─知られざ
る銃器と弾薬』『M16ライフル』『AK―47ライフル』
『MP5サブマシンガン』『ミニミ機関銃(近刊)』(いずれも
並木書房)がある。 
 
 
追記
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『チューズデーに逢うまで』関係の夕刊フジ
電子版記事(桜林美佐氏):
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20150617/plt1506170830002-n1.htm
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20150624/plt1506240830003-n1.htm
 
『レックス 戦場をかける犬』発売中
http://www.amazon.co.jp/dp/489063309X 
 
『レックス 戦場をかける犬』の書評です
http://honz.jp/33320

オランダの「介護犬」を扱ったテレビコマーシャル。
チューズデー同様、戦場で心の傷を負った兵士を助ける様子が
見事に描かれています。
ナレーションは「介護犬は目が見えない人々だけではなく、
見すぎてしまった兵士たちも助けているのです」
http://www.youtube.com/watch?v=cziqmGdN4n8&feature=share
 
 
 
きょうの記事への感想はこちらから
 ⇒ https://okigunnji.com/url/7/
 
 
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日本語でも英語でも、日常使う言葉の他に様々な専門用語があ
ります。
軍事用語もそのひとつ。例えば、軍事知識のない日本人が自衛
隊のブリーフィングに出たとしましょう。「我が部隊は1300時
に米軍と超越交代 (passage of lines) を行う」とか「我が
ほう戦車部隊は射撃後、超信地旋回 (pivot turn) を行って離
脱する」と言われても意味が判然としないでしょう。
 
 同様に軍隊英語では「もう一度言ってください」は
 "Repeat" ではなく "Say again" です。なぜなら前者は
砲兵隊に「再砲撃」を要請するときに使う言葉だからです。
 
 兵科によっても言葉が変ってきます。陸軍や空軍では建物の
「階」は日常会話と同じく "floor"ですが、海軍では船にちな
んで "deck"と呼びます。 また軍隊で 「食堂」は "mess 
hall"、「トイレ」は "latrine"、「野営・キャンプする」は 
"to bivouac" と表現します。
 
 『軍隊式英会話』ではこのような単語や表現を取りあげ、
軍事用語理解の一助になることを目指しています。
 
加藤 喬
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(代表・エンリケ航海王子)

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