配信日時 2019/10/02 20:00

【防衛予算から読み解く日本の防衛力(6)】防衛関係費(その3) 市川文一(元武器学校長・陸将補)

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応予備自衛官
でもあります。
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こんにちは、エンリケです。

非常にわかりやすい解説ですね。
防衛予算の概略見取り図が
頭の中にできます。

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エンリケ



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防衛予算から読み解く日本の防衛力(6)

防衛関係費その3

市川文一(元武器学校長・陸将補)
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□はじめに

 千葉県の災害派遣について、桜林さんが「桜林美佐の『美佐日記』
(44)」で書かれていましたが、ブルーシートの設置など、本
来の災害派遣活動の範囲を超える作業まで自衛隊が行なうことが
当然のようになってきました。給食支援や入浴支援は、もはや自
衛隊が行なう非常に重要な任務となっています。これらの支援は、
ボランティアなどの活動が本格化して自衛隊の支援が必要なくな
るまで続きます。

 特に入浴支援については、自衛隊以外に支援する手段を持って
いる組織がありませんから長期間にわたることになります。入浴
支援ができる部隊は陸自の中でも少数ですから、全国から部隊が
集められます。千葉県の入浴支援も全国から部隊が派遣され、北
海道の部隊も派遣されています。本来の防衛任務では入浴支援の
必要性と重要性が低いため、入浴支援のための装備品や部隊の人
員充足の優先順位も下がります。しかし、いま現在のニーズが高
いのが入浴支援であるのも事実です。この辺が現場部隊のジレン
マとなっています。

 これらの数々の問題を解決するには、防衛費を増加させる以外
に方策はありません。安全保障、防衛、軍事の問題の解決は、突
き詰めていけば防衛予算が障害になります。どんなに素晴らしい
戦略を作っても、予算がなければ何もできないのが現実です。予
算を増やさずに、防衛力を向上させるというのは机上の空論であ
るのは、少し考えればわかることですが、なぜか「防衛予算の効
率化・合理化」と言葉を換えて、机上の空論が正論になっていま
す。

これも、防衛予算の特殊な構造が壁となって、問題の本質の理解
を阻害しているのかもしれません。防衛予算の特殊な構造を理解
することが、問題解決の第一歩です。

「新規後年度負担(国債)で契約したもののうち、2年後に支払
われるのを2国と説明されていますが、契約から支払いまではせ
いぜい1年といったのが実態で、2年度にまたがるものが2国と
いう説明が正しいのではないでしょうか」というご指摘を、防衛
省との契約経験のある読者から頂きました。ありがとうございま
す。ご指摘のとおりで、契約時期はほとんどが年度後半(年度末
が多い)に集中しますから、契約から支払いまでの期間は1年程
度というのが実態です。

調達制度に関しても説明する予定ですので、詳しい解説はのちほ
どということで、今の段階では防衛予算の構造を説明するために
話を単純にしていますので、説明内容の正確度が低いということ
をご理解ください。


▼歳出予算と新規後年度負担の関係(1)

新規後年度負担で契約したものの支払いは次年度以降の支払いに
なり、歳出予算に計上されることとなります。これが31年度予算
パンフレット2ページ「防衛関係費」の上の表「歳出予算(三分
類)」の中の「歳出化経費」です。

歳出予算は、「人件・糧食費」と「物件費」に区分され、さらに
物件費は「歳出化経費」と「一般物件費(活動経費)」に区分さ
れます。三分類というのは、「人件・糧食費」と「歳出化経費」
と「一般物件費(活動経費)」の三つをいいます。人件費は給与・
ボーナス・退職金、糧食費は食事代、物件費はそれ以外の物を買
う経費と、大きく捉えて問題ありません。人件・糧食費に占める
糧食費の割合は2%弱であり、ほとんどが人件費です。歳出化経
費は新規後年度負担で30度以前に契約したものの支払いをする経
費、一般物件費は31年度に契約、支払いをする経費です。

歳出化経費は、27年度から30年度に契約したものの支払いがあり
ます。27年度は5国、28年度は4国、29年度は3国、30年度は2
国の最終的な支払いとそれぞれの中間前金です。なお、31年度に
契約する新規後年度負担のうち、31年度に支払いをする前金につ
いては、一般物件費に含まれます。前金、中間前金については、
全体の予算に占める割合が少なく防衛予算の構造を理解するのに
影響ないため、今後省略します。つまり、2国で契約したものの
支払いは全て次年度、3国はすべて3年後の年度、4国はすべて
4年後の年度という前提で説明します。

さて、31年度歳出予算の実際の金額を確認しましょう。合計額5
兆70億円のうち、人件糧食費が2兆1,831億円、歳出化経費が1
兆8,431億円、一般物件費が9,803億円で、これを割合にすると
43.6%、36.8%、19.6%となります。人件費の大半を占める隊員
の給与・ボーナス・退職金等は、一般の国家公務員と同じく人事
院勧告に基づき決められますから、防衛予算増減の議論の対象と
なりません。また、歳出化経費は契約に基づく支払いですから議
論すべきものではありません。つまり、国会での防衛予算増減の
議論、マスコミで扱われるGDPの1%を超えるか超えないかの
議論は19.6%の一般物件費なのです。

一般物件費は「活動経費」とも記載されているように、実際に自
衛隊が動くために必要な光熱水料や燃料費、装備品を修理するた
めの経費等です。しかも、基地対策経費等が一般物件費の40%を
占めます。基地対策経費等は演習場での射撃音や航空機が離発着
する騒音対策の経費、在日米軍駐留経費です。実際に自衛隊が
1年間活動するために必要な経費は一般物件費の60%で防衛予算
(歳出予算)全体の10%程度となります。当然、この予算を削減
すれば、自衛隊が動かなくなるということになります。

つまり、毎年度、国会で議論され(本質的な議論かどうかは別と
して)、マスコミで「○○年度の防衛予算は○%の大幅増」とし
て大きく捉えられる防衛予算(歳出予算)は、実は、ほとんど議
論の余地のない確定されたものなのです。

マスコミ等で報道される場合は、予算額と同時に装備品の取得に
ついても触れられますが、これも正確ではありません。令和2年
度の防衛予算の概算要求の報道についてgooニュースを引用します
が、マスコミ各社とも、ほぼ同様の報道要領です。

「防衛省は2020年度予算の概算要求で、過去最大となる5兆3千
億円超を計上する方針を固めた。宇宙やサイバー空間など新領域
の強化、最新鋭ステルス戦闘機F35を含む米国製の防衛装備品の調
達などに充てる」

「過去最大となる5兆3千億円超」となる予算額は歳出予算です。
この額は、3分類と言われる人件・糧食費、歳出化経費、一般物
件費ですからほぼ確定されている額です。「宇宙やサイバー空間
など新領域の強化、最新鋭ステルス戦闘機F35を含む米国製の防衛
装備品の調達」に必要な経費は、ほとんどすべてが新規後年度負
担ですから5兆3千億円超には含みません。

しかし、これだけ読むと「過去最大となる5兆3千億円超」には、
「宇宙やサイバー空間など新領域の強化、最新鋭ステルス戦闘機
F35を含む米国製の防衛装備品の調達」に必要な経費が含まれ、
防衛装備品調達費が膨れ上がって防衛費が過去最大となっている
と認識してしまいます。こうして、一般国民が「防衛予算」とし
て知る情報は、誤って認識されます。

 装備品の調達経費は、ほとんどが新規後年度負担ですが、新規
後年度負担についても国会での決議が必要です。当然、防衛省か
ら概算要求されています。防衛省のホームページで確認できます。
年度予算パンフレットが掲載されている同じ画面で「令和2年度
概算要求の概要」のパンフレットが確認できます。歳出予算は
5兆3,222億円で、新規後年度負担は2兆5,170億円です。

 令和2年度概算要求の歳出予算は、前年度に対して3,153億円増
加しています。内訳を見ると、歳出化経費が3,183億円増加してい
ますから、概算要求の増加分は歳出化経費分ということになりま
す。「宇宙やサイバー空間など新領域の強化、最新鋭ステルス戦
闘機F35を含む米国製の防衛装備品の調達」に必要な経費は、新
規後年度負担の2兆5,170億円に含まれます。

過去には、子ども手当が新設され自衛隊員がもらう給与が増えた
ために人件・糧食費が急増し、歳出予算が増加したという事象が
ありました。この時にもマスコミ各社は「防衛費増額」を見出し
としましたが、完全に誤った情報を国民に伝えたことになります。
誤った認識をするように意図的に情報を流しているマスコミもあ
るでしょうが、防衛予算の特殊な構造が、防衛予算の実態を、ひ
いては防衛や安全保障に対する理解を妨げている要因であること
は間違いありません。


(つづく)


(いちかわ・ふみかず)


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【著者紹介】
市川文一(いちかわ・ふみかず)
1961年生まれ。長野県出身。防衛大学校27期生。1983年、陸上自
衛隊に入隊。
2002年に1等陸佐に昇任後、第13後方支援隊長、統合幕僚監部
人事室長、装備施設本部武器課長、陸上幕僚監部武器・化学課
長、東北方面後方支援隊長、愛知地方協力本部長として勤務、
2015年陸将補に昇任後、陸上自衛隊武器学校長の勤務を最後に
2017年8月に退官。退官後の9月にはYouTube「桜林美佐の
国防ニュース最前線」に出演。
2019年9月に新刊『不思議で面白い陸戦兵器』を刊行。

2017/9 YouTube「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演。
 https://youtu.be/6hPY3vgpidw
2017/10/21「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
 https://youtu.be/jESYh1lIeSE
2018/2/10「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
  https://youtu.be/D_md0ZSJNds
2018/6/9「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
 https://youtu.be/eHnT9jvqQjk
2018/10/6「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
  https://youtu.be/aEOhNJ3twN0

著書に『猫でもわかる防衛論』(大陽出版)がある。
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