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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応予備自衛官で
もあります。
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上田さんの最新刊
『武器になる情報分析力』
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こんにちは、エンリケです。
上田さんの新刊が、講談社から来月出ます。
詳細は以下でどうぞ。
きょうの記事は、「情報ファン、マニア」の方にとって
垂涎の的かもしれません。
さっそくどうぞ。
エンリケ
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わが国の情報史(41)
秘密戦と陸軍中野学校(その3)
陸軍中野学校の学生選抜と教育方針
インテリジェンス研究家・上田篤盛(あつもり)
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□はじめに
近日、講談社現代新書から拙著『未来予測入門─元防衛省情報
分析官が編み出した技法』が発売されます。発売日は10月16
日ですが、すでに「アマゾンサイト」などでは予約受付をしてい
ます。
https://www.amazon.co.jp/dp/4065145805
そこで、今回から数回にわたって拙著の紹介をさせていただき
ます。最初に、本書の作成に至った経緯についてです。
筆者は、2018年4月に社会人向け講座を企画している「麹
町アカデミア」の主催で、ビジネスパーソンに向けて安全保障に
関わる情報分析講座を開催しました。
その講座に参加された「講談社現代新書」の編集長から、「安
全保障に関わる情報分析手法を、個人の成長戦略やビジネスに特
化した内容に落とし込めないか?」との企画提案をいただきまし
た。
その後、同講座を基にした安全保障に関わる物と“完全ビジネ
スパーソンバージョン物”の2つの執筆作業を同時並行的に進め
てきました。
前者は本年6月に並木書房から『武器になる情報分析力』とし
て出版しました。そして後者が今般上梓する『未来予測入門』と
いうことになります。
これまでの拙者の「情報分析本」を整理すれば以下の関係にな
ります。
◇『戦略的インテリジェンス入門』
⇒国家等の情報分析官を対象。情報分析を中心に情報活動解全般
を網羅
◇『武器になる情報分析力』
⇒ビジネスパーソンを対象。主として安全保障に関わる情報分析
手法を解説
◇『未来予測入門』
⇒ビジネスパーソンを対象。情報分析手法を自己発展戦略やビジ
ネスへ適用
当初は、ビジネスの経験のない筆者が“完全ビジネスバージョ
ン”を書けるのか、という不安はありました。たしかに「わが国
のIT産業がどうなるか?」「都市の不動産価格がどのように推
移するのか?」など、その道のプロたるもの知識が必要なものは
私には書けません。
ただし、ビジネスパーソンの知りたいこと、知らなければなら
ないことを聴取(ヒアリング)したら、彼らが抱える問題は意外
にも、ライフスタイルに関するもの、ちょっとした仕事上の悩み、
あるいはどんなスキルを身に着ける、どんな職業を選択するのか
といった、ごく身近な内容であることに気がつきました。
そこで、現在さまざまな悩みや課題を持ちながらも、懸命に人
生に頑張っている私の子供たちやその世代を想定し、私が培って
きた情報分析手法を使ってどのようなアドバイスができるのかに
ついて思案しました。
そして一つの確信を得たのです。彼らが思考法や情報分析手法
をしっかりと身に着けることができれば、さまざまな課題に直面
しても、その解決に向かって自信をもって挑戦できるであろうこ
とを。
この本をお読みいただければ、自衛官をずっとやってきた筆者が、
なぜビジネスパーソン向けの本を書いたのか(書けたのか)、お
そらくその“謎”が解けると思います。つまり、皆様もある思考
法さえ身に着ければ、他領域の問題解決であろうが、他分野の論
文執筆であろうが、克復できるということなのです。
是非とも手に取ってお読みいただければ嬉しく思います。
さて、今回は「秘密戦と陸軍中野学校」編の第3回です。中野
学校の学生選抜と教育方針について解説します。
▼入校学生は5種類に分類
1938年7月の後方勤務要員養成所の入所(入校)者(1期
生)の主体は民間大学など高学歴の甲種幹部候補生出身将校から
採用することとし、各師団や軍制学校からの推薦を受けた者を選
抜した。これは、秘密戦士には世の中の幅広い知識が必要である
との配慮による。
なお、所長の秋草自身も陸軍派遣学生として一般大学(現在の
東京外国語大学)を修了している。
また、2期学生からは下士官養成も開始し、陸軍教導学校での
教育総監賞受賞者や現役の優秀な下士官学生(乙種幹部候補生出
身)を採用した。さらに中野学校が正規の軍制学校になってから
は陸軍士官学校出身将校をも採用し、戦時情報および遊撃戦の指
導者として養成された。
1940年8月制定の「陸軍中野学校令」では、入校学生は甲
種学生、乙種学生、丙種学生、丁種学生、戊種学生に分類された。
これは前回述べたとおり、1941年10月には、学校の所管が
陸軍省から参謀本部に移管されて参謀本部直轄校となり、甲種学
生が乙種学生に、乙種学生が丙種学生、丙種学生が戊種学生とな
った。
では上述の区分にしたがって各種学生を順番に紹介することと
しよう。
(1)甲種学生
後方勤務要員養成所および「陸軍中野学校令」(1940年8
月)の乙(陸軍士官学校出身)および丙種(甲種幹部候補生出身
将校)の学生課程を経て、一定期間に秘密戦に従事した大尉、中
尉が対象となった。修業期間は1年間。
しかし、これは制度として存在したのみであり、中野学校が短
期間で終了したために活用されず。
なお、この学校で1甲、2甲と称せられた学生は「陸軍中野学
校令」制定前に陸軍士官学校出身者で中野学校に入学を命じられ
た学生の呼称である。
(※注「1甲、2甲」は「陸軍中野学校令」制定後、参謀本部直
轄前の入校)
(2)乙種学生
陸軍士官学校を卒業した大尉および中尉を主体として、そのほ
か現役の各種将校を推薦により乙種学生として入校させた。修業
年限は2か年、当時の情勢で1年ないし8か月に短縮。1942
年に入校の1乙より、45年入校の5乙まで存続した。卒業生総
数は132人。
(3)丙種学生
甲種幹部候補生出身の教育機関である予備士官学校の学生から
試験を行なった後に採用した学生であり、修業年限は2か年、当
時の情勢で1年ないし8か月に短縮。中野学校の幹部学生の大半
を占めて基幹学生ともいうべき存在。
後方勤務養成所創設時に入校した1期生、その次に入校した乙
I長および乙I短(いわゆる2期生)、それ以降の乙II長およびと
乙II短は丙種学生である。
遊撃戦幹部要員としての二俣分校学生、遊撃および情報の臨時
学生は、ともに丙種学生の範疇に属する。
卒業生総数は本校学生が900人、二俣学生が553人。
(4)丁種学生
中野学校を卒業した下士官を将校にするための課程学生である。
制度として存在したのみで、実際には活用されず。
(5)戊種学生
乙種幹部候補生出身や陸軍教導学校において教育総監賞などを
受賞して卒業した下士官学生であって第2期生から採用され、陸
軍中野学校の下士官学生の基幹となった。卒業生総数は567人。
以上のとおり、中野学校の主体をなす学生は民間大学等高学歴
の甲種幹部候補生出身将校の丙種学生と、陸軍教導学校などを卒
業した下士官学生である戊種学生とが大半であった。
そのほか必要に応じて遊撃戦の幹部将校を養成するために臨時
に入校を命ぜられた遊撃学生、司令部で情報分析等に勤務するた
めの将校を養成するために臨時に入校を命ぜられた情報学生がい
た。(以上、『陸軍中野学校』より要点を抜粋)
▼卒業生の選抜
中野学校の基幹をなす丙種学生の選抜要領は以下のとおりである。
1)陸軍省より、師団、予備士官学校、各種陸軍学校に対し漠然
と秘密戦勤務に適任と思われる学生の推薦を依頼する。
2)師団、予備士官学校等において、中隊長等がそれとなく適任
と思われる成績優秀な学生を選び、本人の意思を尊重して、相当
数の学生を選出して報告する。中野学校職員が説明に出向くこと
もあった。
3)中野学校において右報告書に基づいて書類選考し、受験させ
る者を決定し、予備士官学校に通知する。
4)受験者に対し、陸軍省、参謀本部、中野学校職員からなる選
考要員が、それぞれの予備士官学校等(1期生は九段の偕行社)
に出張し、各地における選考の結果を総合して採用者を概定し、
1人あたり1時間の口頭試験を行ない、身体検査する。
5)各地における選考の結果を総合して採用者を概定し、これに
対し憲兵をして家庭調査をさせる。その結果に基づいて採用を決
定する。
6)採用予定者を中野学校以外の東京のとある場所に招集して、
再度本人の意思を確かめ、さらに身体検査をして採用を決定した。
選抜に際しては、受験生に対して中野学校での勤務内容を秘匿
することと、本人の意思に反して入校強要しないことの2点が留
意された。
▼学生に対する教育および訓練の特色
中野学校では秘密戦士として必要な各種の専門教育が行なわれ
た。
秘密戦の特性上、「上意下達」の一般軍隊とは異なり、単独で
の判断が必要となる場面が多々予測される。そのため幅広い知識
の付与と、新たな事態に応じた応用力の涵養を狙ってカリキュラ
ムが組まれた。
また「謀略は誠なり」「功は語らず、語られず」「諜者は死せ
ず」など、精神教育、人格教育などが徹底された。さらにはアジ
ア民族を欧米各国の植民地から解放する「民族解放」教育もなさ
れた。
経年的にみるならば、1938年7月の開所からの約3年間は、
海外における秘密戦士(いわゆる長期学生)を育成することを狙
いに教育が行なわれた。しかしながら、1941年末の太平洋戦
争の勃発(開戦)により、卒業後の任地は作戦各軍に赴任するも
のが多くなり、教育内容も次第に戦時即応の強化に重点が指向さ
れるようになった。
そして開戦後の2年間までの学生は、いまだ戦場になっていな
い関東軍方面要員についての多少の例外があったが、南方地域を
はじめとする支那方面およびその他の地域において、占領地域の
安定確保、民族解放のための政治的施策などをはじめとして、将
来の決戦にそなえる遊撃戦要員としての特技が強く要求されるに
いたった。
1944年以降は、遊撃戦の教育および研究に最重点がおかれ、
それも外地作戦軍地域内における遊撃戦にとどまらず、本土決戦
に備えて、国内において遊撃戦を敢行するための各種の訓練が開
始された。
▼中野学校が目指した教育方針
上述のように、中野学校の教育内容は国際情勢の趨勢とわが国
の戦況によって変化した。ただし、中野学校が当初目指した教育
の主眼は、“転属のない海外駐在武官”の養成であった。
秋草中佐は後方勤務要員養成所の開所にあたって、1期生に対
して「本所は替らざる駐在武官を養成する場であり、諸子はその
替らざる武官として外地に土着し、骨を埋めることだ」と訓示し
た。
当時、秘密戦の中核ともいうべき軍事情報の収集は、各国とも
に主として海外駐在武官がこれに当たっていた。そのため、武官
には広範な良識と特殊な秘密戦技能を持つことが要求された。
当時、欧米の場合は情報謀略要員が長年の間、一定の地に留ま
って情報活動を行なうのが通例であった。しかも階級も年功や功
績によって少尉から将官まで順調に昇任したという。
これに対して、日本の陸士、陸大出身の在外武官は階級を上げ
るためにポストを替えなければならないので、3年もすれば栄転
というかたちで転属するほかなかった。こうした官僚制度により、
在外での秘密戦の効果が妨げられたようである。
この改善こそが、甲種幹部候補生出身将校による、長期にわた
る在外での情報勤務であったわけである。ある意味、昇任・出世
を捨てて、国家の捨て石としての存在を幹部候補生に求めたとい
える。幼年期から軍人として育てられた陸士出身者ではそれは補
えず、危機対処能力、形に捉われない柔軟な発想力こそが幹部候
補生の強みであった。
▼1期生の教育
中野学校の当初の教育方針が「替らざる武官」、すなわち海外
勤務に長期間にわたって従事する長期学生の育成にあったこと、
そして1941年から太平洋戦争が開始され、「戦わずして勝つ」
の追求が困難になったことに着目する必要がある。
つまり、中野学校の教育の原点は、1期生と第2期の長期学生
(乙I長)および乙II長(開戦間近に繰り上げ卒業)に対する教育
への思いであったことを軽視してはならない。
1期生の教育カリキュラムはしっかりと定まったものではない。
いや、試行錯誤を前提としたものである。ただし、それゆえに関
係者の思いが凝縮しているのである。
そこで1期生の教育課目についてみてみよう。
(1)一般教養基礎学
国体学、思想学、統計学、心理学、戦争論、日本戦争論、兵器
学、交通学、築城学、気象学、航空学、海事学、薬物学
(2)外国事情
ソ連(軍事政略)、ソ連(兵要地誌)、ドイツ、イタリア、英
国、米国、フランス、中国(兵用地誌)、中国(軍事政略?)、
南方地域(軍事)
(3)語学
英語、ロシア語、支那語
(4)専門学科
諜報勤務、謀略勤務1、謀略勤務2、防諜勤務、宣伝勤務1、
宣伝勤務2、経済謀略、秘密通信法、防諜技術、破壊法、暗号
解読
(※謀略勤務1と2があったのではなく異なる教官により教育で
あったので、筆者が番号はふって区分した)
(5)実科
秘密通信、写真術、変装術、開緘術、開錠術
(6)術科
剣道、合気道
(7)特別講座、講義
情報勤務、満州事情、ポーランド事情、沿バルト三国事情、ト
ルコ事情、支那事情、支那事情、フランス事情、忍法、犯罪捜
査、法医学、回教事情
(8)派遣教育
陸軍通信学校、陸軍自動車学校、陸軍工兵学校、陸軍航空学校
(9)実地教育(往復は自由行動、終わって全員学習レポートを
提出)
横須賀軍港、鎮守府、東京湾要塞、館山海軍航空隊、下志津陸
軍飛行校、三菱航空機製作所、小山鉄道機関庫、鬼怒川水力発
電所、陸軍技術研究所、陸軍士官学校、陸軍軍医学校、陸軍兵
器廠、大阪の織物工場、その他の工場、NHK、朝日新聞、東
宝映画撮影所、各博物館等
(以上、校史『陸軍中野学校』より抜粋)
ざっと教育課目を眺めるだけで、どのような教育が行なわれた
のか察することができるが、次回はもう少し、教育内容をかみ砕
いて、その特色など説明することとしよう。
(次回に続く)
(うえだあつもり)
上田さんへのメッセージ、ご意見・ご感想は、
このURLからお知らせください。
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【著者紹介】
上田篤盛(うえだ・あつもり)
1960年広島県生まれ。元防衛省情報分析官。防衛大学校(国際関係
論)卒業後、1984年に陸上自衛隊に入隊。87年に陸上自衛隊調査
学校の語学課程に入校以降、情報関係職に従事。92年から95年に
かけて在バングラデシュ日本国大使館において警備官として勤務
し、危機管理、邦人安全対策などを担当。帰国後、調査学校教官
をへて戦略情報課程および総合情報課程を履修。その後、防衛省
情報分析官および陸上自衛隊情報教官などとして勤務。2015年定
年退官。現在、軍事アナリストとしてメルマガ「軍事情報」に連
載中。著書に『中国軍事用語事典(共著)』(蒼蒼社、2006年11
月)、『中国の軍事力 2020年の将来予測(共著)』(蒼蒼社、
2008年9月)、『戦略的インテリジェンス入門―分析手法の手引
き』(並木書房、2016年1月)、『中国が仕掛けるインテリジェ
ンス戦争―国家戦略に基づく分析』(並木書房、2016年4月)、
『中国戦略“悪”の教科書―兵法三十六計で読み解く対日工作』
(並木書房、2016年10月)、『情報戦と女性スパイ─インテリジ
ェンス秘史』(並木書房、2018年4月)、『武器になる情報分析
力─インテリジェンス実践マニュアル』(並木書房、2019年6月)
など。
ブログ:「インテリジェンスの匠」
http://Atsumori.shop
『情報戦と女性スパイ─インテリジェンス秘史』
※女性という斬り口から描き出す世界情報史
『中国戦略“悪”の教科書―兵法三十六計で読み解く対日工作』
※兵法をインテリジェンスに活かす
『中国が仕掛けるインテリジェンス戦争』
※インテリジェンス戦争に負けない心構えを築く
『戦略的インテリジェンス入門』
※キーワードは「成果を出す、一般国民、教科書」
PS
弊マガジンへのご意見、投稿は、投稿者氏名等の個人情報を伏せ
たうえで、メルマガ誌上及びメールマガジン「軍事情報」が主催
運営するインターネット上のサービス(携帯サイトを含む)で紹
介させて頂くことがございます。あらかじめご了承ください。
PPS
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最後まで読んでくださったあなたに、心から感謝しています。
マガジン作りにご協力いただいた各位に、心から感謝しています。
そして、メルマガを作る機会を与えてくれた祖国に、心から感謝
しています。ありがとうございました。
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