配信日時 2019/09/25 20:00

【防衛予算から読み解く日本の防衛力(5)】防衛関係費(その2) 市川文一(元武器学校長・陸将補)

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応予備自衛官
でもあります。
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こんにちは、エンリケです。

きょうの記事も役に立ちます。

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エンリケ



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防衛予算から読み解く日本の防衛力(5)

防衛関係費その2

市川文一(元武器学校長・陸将補)
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□はじめに

 新刊『不思議で面白い陸戦兵器』に多数の予約をいただきあり
がとうございました。出版社からも「出だし好調」の連絡をいた
だいています。内容について疑問や質問がありましたら、ぜひお
尋ねください。

 ここ十数年、地球温暖化の影響か自然災害が頻発しています。
最近では台風15号が千葉県の広域に被害をもたらしました。しか
も、台風、豪雨、豪雪、地震と一年を通じて何らかの災害が発生
しています。そのつど、自衛隊が災害派遣活動を行なっています。
自衛隊の主任務が国防であることは間違いありませんが、これだ
け災害が多いと災害対応についても力を入れざるを得ない状況に
なってきています。

 昔の社会党の政策提言に代表されるような自衛隊を廃止して災
害対処部隊を創設するなどというのは、今や、どの政党も語らな
い論外の政策としても、災害対処に特化した機材の必要性も増加
しているように思われます。阪神大震災を契機として災害派遣用
の機材が自衛隊にも導入されていますが、短期間で調達したため
必ずしも使い勝手が良いとはいえません。防衛装備品だけではな
く、災害対処用の機材も防衛省としての開発が必要となっている
のかもしれません。

 自衛隊の災害派遣に対する基本的考え方は、防衛任務を遂行す
るための装備品と教育訓練で部隊をつくりあげ、災害派遣に必要
な機材や訓練を一部プラスすれば災害派遣には十分に対応できる
というものです。しかしながら、南海トラフ地震や首都直下地震、
超大型台風による風水害のような大規模災害に対応するには、他
省庁や地方自治体とも連携した総合的な計画と共同訓練が必要で、
毎年規模が拡大していますし、大規模災害対処のための資機材が
必要となっているのも事実です。

 新大綱、中期防は、多次元統合防衛力ということで宇宙、サイ
バー、電磁波といった新たな領域への対応を強く打ち出していま
すが、いま現在、日常的に発生している災害への対応もしっかり
とできなければなりません。これだけ自衛隊に対する期待が大き
くなると、防衛任務に対応する力で国際貢献や災害派遣などの多
様な任務にも対応するという従前の考え方では、すべての期待に
応えられるような防衛力を整備していくのは限界でしょう。


▼「歳出予算」と「新規後年度負担」の違い

 歳出予算については、馴染みが深い仕組みであり理解しやすい
と思いますが、新規後年度負担については少しややこしくなりま
す。しかも、この2つの予算は独立していますが、それぞれに影
響を及ぼします。この関係を理解するのが防衛予算の構造を理解
する第一歩です。

 31年度歳出予算は調達業務の入札、契約、納品、支払いが当該
年度(平成31年4月から令和2年3月の期間)ですべて終了する
(支払いの一部が次の年度に繰り越される)のに対して、新規後
年度負担の調達業務は当該年度では入札と契約しか行なわれませ
ん。しかも、納品の時期は次の年度である令和2年度だけではな
く、3年度、4年度、5年度と納品時期が調達する物によって異
なります(6年度以上のものもあるが、特例)。

 なぜこのようなシステムが必要なのかというと、防衛装備品は
契約してから作り始め、完成するのに数年を要するからです。現
在では、装輪車両は2年、戦闘車両は3年、航空機は4年、大型
艦艇は5年というのが一般的です。契約してから数年後に完成し、
納品され支払いをするというのが、「新規後年度負担」です。大
きな建築物も同様です。

この場合も、最終的な支払いは装備品が完成し納品された後です
が、途中年度に一部の支払いをする制度があります。契約年度に
支払うのを前金、納品までの途中の年度で支払うのを中間前金と
いいますが、建設工事や契約金額の大きいものにこの制度が使わ
れています。

新規後年度負担は、法律上の予算区分としては「継続費」と「国
庫債務負担行為」の2つがあります。どちらも、契約年度と支払
いの年度が異なるというのは同じですが、国会で決議されている
かどうかが異なります。

大綱、中期防、年度予算の関係の説明の中で、複数年度の予算制
度がないという話をしましたが、「継続費」は複数年度の予算制
度です。予算制度としては特例であるため、予算全般としては、
複数年度にまたがないという認識で問題ありません。

「継続費」は次年度以降の支払いの予算についても国会で認めら
れ、次年度以降の予算審議の必要はありません。防衛省内でも艦
艇など一部の予算で認められていますが、装備品のほとんどは
「国庫債務負担行為」です。

「国庫債務負担行為」は、契約額については予算として国会で決
議されますが、次年度以降の支払いについては決議されません。
支払いの予算は支払いする年度に国会で決議されなければなりま
せん。つまり、継続費は歳出予算と同様に契約から支払いまでの
予算が国会決議されますが、国庫債務負担行為は契約の予算だけ
しか国会決議されないということです。とはいえ、契約したもの
の支払いを決議しないわけにはいきません。したがって、実態は
継続費も国庫債務負担行為も同じと理解して問題ありません。

国庫債務負担行為は、略して国債と呼ばれます。国債というと、
通常は国が税金だけでは歳入予算が不足するときに発行する債券
(いわゆる国の借金)をイメージしますが、実際に予算を使う国
の予算関係者にとっての国債は、国庫債務負担行為のことです。
新規後年度負担(国債)で契約したもののうち、2年後に支払わ
れるのを2国、3年後に支払われるのを3国、4年後に支払われ
るのを4国、5年後に支払われるのを5国と呼びます。

さて、新規後年度負担の原則は、契約してからものが完成するま
でに時間がかかり納品が次年度以降になるため、完成の年度に支
払いをすることです。したがって、契約してから完成するまでに
要する製造期間のぶんだけ支払いが遅れることとなり、製造期間
が2年のものが2国、3年のものが3国となるわけです。しかし、
この原則も崩れてしまっています。

一例をあげると、毒ガス攻撃などから身を守るための防護マスク
(ガスマスク)、防護衣が現在は4国です。通常4国というと航
空機です。防護マスクと航空機が同じ4国というのはおかしな話
です。常識で考えれば、防護マスクや防護衣の製造に4年もかか
る訳がなく、2年の2国が妥当だと思われるでしょう。

実際に、筆者が市ヶ谷で予算関係の仕事に携わっていたときは2
国でした。それが、いつからか4国になってしまいました。何年
度に4国に変わったのかは初回で紹介した毎年度の概算要求書を
紐解けばわかりますが、ここでは省略します。同様に、2国から
3国へ、3国から4国へ、4国から5国へと変更になっている装
備品がたくさんあります(これを国振りと呼びます)。


(つづく)


(いちかわ・ふみかず)


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【著者紹介】
市川文一(いちかわ・ふみかず)
1961年生まれ。長野県出身。防衛大学校27期生。1983年、陸上自
衛隊に入隊。
2002年に1等陸佐に昇任後、第13後方支援隊長、統合幕僚監部
人事室長、装備施設本部武器課長、陸上幕僚監部武器・化学課
長、東北方面後方支援隊長、愛知地方協力本部長として勤務、
2015年陸将補に昇任後、陸上自衛隊武器学校長の勤務を最後に
2017年8月に退官。退官後の9月にはYouTube「桜林美佐の
国防ニュース最前線」に出演。
2019年9月に新刊『不思議で面白い陸戦兵器』を刊行。

2017/9 YouTube「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演。
 https://youtu.be/6hPY3vgpidw
2017/10/21「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
 https://youtu.be/jESYh1lIeSE
2018/2/10「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
  https://youtu.be/D_md0ZSJNds
2018/6/9「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
 https://youtu.be/eHnT9jvqQjk
2018/10/6「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
  https://youtu.be/aEOhNJ3twN0

著書に『猫でもわかる防衛論』(大陽出版)がある。
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