配信日時 2019/09/26 08:00

【我が国の歴史を振り返る ─日本史と世界史に“横串”を入れる─(56)】昭和陸軍の台頭 宗像久男(元陸将)

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応予備自衛官
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こんにちは、エンリケです。

「我が国の歴史を振り返る
 ―日本史と世界史に“横串”を入れる―」
は、今回で56回目です。

「統帥権の独立」は、軍人の政治介入を防ぐために
設けられたものであることをあらためて認識して
おきたいですね。

わが国は、この種のきまりごとを明確にしない方
が良い国かもしれない、とも思いました。

冒頭の一文もぜひ熟読ください。

さっそくどうぞ


エンリケ


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我が国の歴史を振り返る
─日本史と世界史に“横串”を入れる─(56)

 昭和陸軍の台頭

宗像久男(元陸将)
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□はじめに(“反日ばかりでない”韓国事情)

 今回のテーマとは全く関係ないのですが、先日、「韓国人観光
客激変!」の記事を目にしました。本メルマガでもしばしば韓国
事情に触れていますが、今回は、“韓国は反日ばかりでない”こ
とを示す話題を3点、取り上げてみましょう。

 いちばん古いものは、昨年末です。元徴用工ら約1100人が
韓国政府を提訴した問題です。原告側は、1965年の「日韓請
求権協定」によって日本が負担した経済援助をもとに、「韓国政
府が支払うべき」として1人あたり日本円で1000万円、総額
110億円の支払いを韓国政府に求めるとしています。

「日韓請求権協定」には、日本が韓国政府に5億ドル(現在の相
場で約540億円)の経済支援を行なうのと引き換えに、補償問
題は「完全かつ最終的に解決された」と明記されています。韓国
政府は、5億ドルの一部を元徴用工らに支給したものの、その大
部分をインフラ事業に使ってしまったのです。

その国交正常化交渉においては、韓国側は「補償は、国内措置と
して私たちの手で支給する。日本側が支給する必要はない」と主
張していたことも判明しております。また、2005年、廬武鉉
(ノ・ムヒョン)政権は、「強制動員犠牲者の救済問題は韓国政
府に道義的責任がある」として、死傷者に追加支援を決めたとい
う事実もあります。しかも、この政府見解をまとめたのが、当時、
民情首席秘書官の職にあった文大統領や首相であったイ・ヘチャ
ン氏(現在、与党代表)だったというから驚きです。

昨年10月、その陣容からして公正・公平な司法権を行使してい
るか疑わしい最高裁は、日本企業に賠償を命じる判決を下しまし
た。それに対して、安倍政権が「韓国は約束を守るべき」と一歩
も譲歩する姿勢を示していないのはこのような事実を踏まえてい
るからだと考えます。

文大統領にとって、元徴用工らの訴えは想定外だったといわれて
いますが、この秋にも判決が出るといわれます。最近、さまざま
な疑惑の中で就任したチョ・グク法相人事と何か関係があるので
はないか、と“うがった見方”をしてしまいますが、検察は今な
お、新法相本人を“容疑者”とみて捜査しているとのことです。
これら一連の“構図”、我が国の常識ではとても理解することは
できないようです。

次に、韓国で現在、ベストセラーになっている『反日種族主義』
という書籍に関する話題です。本書は、元ソウル大学教授6人が
執筆者した書籍で、植民地時代の朝鮮半島で「日本による土地や
コメの収奪はなかった」「従軍慰安婦の強制連行はなかった」と
ほぼ“史実”を主張し、韓国で物議を醸しているようです。反日
一辺倒のように見える韓国で、このような“勇気ある良識派”が
存在し、しかも書籍がベストセラーになっているのは救いです。

最近、話題になっているのは、本書に対する韓国内の批判だけな
く、北朝鮮が食ってかかって批判していることです。日朝の正常
化に向けて、過去の“清算”をテーマにしようとする北朝鮮にと
って、現時点で“史実”を暴露されると“価値”を損ねてしまう
との危機感からだとの記事は解説しています。いろいろな見方が
あるものです。

 最後に、“韓国政府高官の覚悟の告発”として「文政権では韓
国が地球上から消える」との記事が『文芸春秋10月号』に掲載
されている話題です。詳しい内容は省略しますが、未来志向のな
い文大統領に未来志向の日韓関係を築く意志はないとして、「来
年春の総選挙で再び与党(共に民主党、国民党)が勝利すれば、
韓国は地球上から消える」と警告しています。文大統領がめざす
南北統一が実現すると、韓国が北朝鮮に同化されてしまい、やが
ては韓国そのものが消え去ることを懸念しているのです。

総じて、反日を貫き北朝鮮との統一を標榜する文政権の“横暴”
に対して、これまで大人しくいた“良識派”の人たちが勇気をし
ぼって声を上げ始めたようです。まさに“韓国は反日ばかりでは
ない”のは明白なので、今後の展開を注目したいと思っています。

しかし、冷静に考えますと、このような批判の声が上がるだけで
も“韓国はまだまとも”と考えなければならないのかも知れませ
ん。北朝鮮においては、金正恩批判などが判明すれば、即、処刑
されるのは明らかです。そのような北朝鮮と統一したら、どのよ
うな統一国家になるのか、それを文大統領がどのようにイメージ
しているのか、一度じっくり聞いてみたい衝動に駆られます。

万が一、統一した暁に、文大統領が処刑者第1号にならないこと
を祈るばかりです。それよりも可能性が高いのは、これまでの大
統領のような“悲惨な末路”でしょうか。他人事ながら心配にな
ります。今回も「はじめに」が長くなりました。本題を急ぎます。

▼軍人の興隆

我が国の戦前の歴史を語る時、どうしても軍人たちの“暴走”を
抜きにしては語れないと誰もが考えます。「ポツダム宣言」にお
いても「本戦争は、無分別な打算をもったわがままな軍国主義者
たちが日本国民を騙して世界征服の意図をもって行ったもの」と
定義され、「その勢力を永久に除去する」旨の宣言を我が国は受
け入れのでした。

必ずしも軍国主義者イコール軍人ではないですが、昭和時代の軍
人の台頭の実態はどうだったのでしょうか。軍人、特に陸軍が歴
史の表舞台に登場するのは「満州事変」の頃からです。「満州事
変」勃発後の展開を振り返る前に昭和陸軍について少し触れてお
こうと思います。

軍人の台頭は、大日本帝国憲法の「統帥権の独立」にその根源が
あることは明白ですが、本来、「統帥権の独立」は、“軍の政治
的独立を確保し、政治関与を防ぐためにつくられた制度”であり
ました。しかし、時を経るごとに軍の政治関与・介入を容認する
制度へと変貌していったのはなぜだったのでしょうか。

ただ、ここに至る“道行き”は長く、かつ複雑でさまざまな要因
があります。詳細は『逆説の軍隊』(戸部良一著)や『昭和陸軍
の軌跡』(川田稔著)などに任せることにしますが、概要は次の
とおりと考えます。

すでに触れましたように、明治時代後期から大正時代においては、
政治の主導権をめぐって政党政治と藩閥政治が激しく対立し、藩
閥政治は長州出身の山県有朋が強い影響力を保持してきました。

やがてその山県も死去し、「大正デモクラシー」による政党政治
が興隆しますが、党利党略の抗争や相次ぐ不祥事などから国民の
信頼を失います。一方、第1次世界大戦後の陸海軍の軍縮の結果、
軍人たちは不安のドン底に陥り、軍人に対する国民の目も憎悪か
ら侮辱に大きく変わっていったといわれます。同時に、「世界恐
慌」などの“あおり”を受け、国民生活もますます疲弊していき
ました。

▼陸軍の派閥結成

こうした状況を踏まえ、危機意識から血気にはやる中堅将校らが
主導権の確保をめざして派閥を作り始めます。まず、山県有朋が
贔屓した長州派閥の打破と人事刷新、総動員態勢の確立を目指し、
大正12年、陸士16期を中心に「二葉会」が結成されます。
「二葉会」は徹底して長州系を排除します。事実、大正11年か
ら13年まで山口県出身の陸軍大学入校者は1人もおりませんで
した。

昭和2年には、陸士22期の若手を中心に「木曜会」が組織され
ますが、会の議論の中で、「統帥権の独立だけでは消極的だ」と
して「国家的に活動する公正なる新閥を作り、それを通じて政治
に影響力を行使すべき」との結論を得ます。永田鉄山、岡村泰次、
東條英機らもこの議論に加わっており、この時点で、軍の政治関
与・介入を容認する方向に歩みはじめたものと考えられます。

やがて、「二葉会」と「木曜会」が合流して「一夕会」が結成さ
れます(昭和4年)。主要メンバーは、永田、岡村、東條に加え、
小畑?四郎、河本大作、板垣征四郎、山下奉文、石原莞爾、牟田
口廉也、武藤章などでした。こうして、「満州事変」前には、陸
軍中央の主要ポストは一夕会員がほぼ掌握、中国に対して「軍事
行動やむなし」として関東軍の計画を支持したのでした。

▼朝鮮軍越境問題

「満州事変」勃発後の展開を追ってみますと、事変の翌日の19
31(昭和6)年9月19日午前、陸軍中央部に報が届き、陸軍
省・参謀本部合同の省部首脳会議では「一同異議なし」で承諾し、
その後の閣議では“事態不拡大”の方針が議決されます。参謀本
部の一部は、関東軍の現状維持と満蒙問題の全面解決が認められ
なければクーデターの断行まで決意したといわれます。

やがて、朝鮮軍越境に対する軍と政府の対応が問題になります。
参謀本部は、朝鮮軍に対して、当初は「奉勅命令」下達まで見合
わせるよう指示します。天皇の勅裁を受けていない軍隊の国外派
兵は統帥権千犯とみなされていたのです(当時は、朝鮮半島まで
は国内でした)。しかし、張学良軍の総兵力に比して関東軍があ
まりに劣勢であったため、「情勢が変化し、状況暇なき場合には
閣議に諮らずして適宜善処する」ことを議決します。この時点で、
参謀本部は統帥権千犯を容認した格好になります。

その後、林銑十郎朝鮮軍司令官は天皇の大命を待たず、独断で混
成旅団を越境させ、関東軍の指揮下に入れました。これにより、
「柳条湖事件」は“国際的な事変”へ拡大したのでした。林銑十
郎はのちに首相にもなる人ですが、何とも不思議な性格の持ち主
です。“下克上”といわれた昭和初期に下位の参謀たちから好ま
れた司令官の典型のような人で、石原莞爾などは「林なら猫にで
も虎にでもなる。自由自在にできる」と評していたのでした。

越境後の閣議では、「すでに出動した以上はしかたがない」と出
兵に異論を唱える閣僚はなく、朝鮮軍の満州出兵に関する経費の
支出を決定、その後、天皇に奏上されて朝鮮軍の独断出兵は「事
後承認」によって正式の派兵となりました。後戻りできない“悪
弊”が出来上がった瞬間でした。



(以下次号)


(むなかた・ひさお)


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【著者紹介】

宗像久男(むなかた ひさお)
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸
上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士
課程卒。
陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1
高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副
長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。
2018年4月より至誠館大学非常勤講師。『正論』などに投稿
多数。


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