配信日時 2019/09/18 20:00

【防衛予算から読み解く日本の防衛力(4)】防衛関係費(その1) 市川文一(元武器学校長・陸将補)

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応予備自衛官
でもあります。
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E-mail hirafuji@mbr.nifty.com
WEB http://wos.cool.coocan.jp
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こんにちは、エンリケです。

来年度以降に支払うことが決まっている
「ツケ払いのお金(買掛金)」
がもたらす防衛予算の長期的な硬直化は
国民にとって想像以上に厳しい現実と思います。

防衛予算拡大必須の所以です。

さっそくどうぞ

エンリケ



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防衛予算から読み解く日本の防衛力(4)

防衛関係費その1

市川文一(元武器学校長・陸将補)
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□はじめに

 新刊「不思議で面白い陸戦兵器」に多くの予約をいただき、あ
りがとうございました。読まれた感想やご意見もお寄せください。
よろしくお願いします。

前回は、同じ文章の繰り返しで退屈な内容となってしまいました
が、今回から防衛予算の本質に入ります。今回からの数回の連載
は最も重要なポイントとなります。誰が読んでもわかるように工
夫しますが、専門用語を使ってしまうことがあると思いますので、
遠慮なく質問してください。

 特殊な世界に長くいると、特殊なことが常識になってしまいま
す。自衛隊から離れてみて、自衛隊がいかに特殊な世界であった
か、一般の人が持っている防衛、安全保障、軍事関連の知識がい
かに限定的であるかということを痛感しています。国家予算も一
般には知られていないという点で、防衛や軍事と同様、非常に特
殊な世界です。

 自衛官であっても、防衛予算を理解しているのは、実際に予算
関連の仕事に携わったごく一部です。拙著『不思議で面白い陸戦
兵器』の内容をすべて理解している自衛官は非常に少ないという
話は何度かしていますが、兵器の概要レベルであれば、多くの幹
部自衛官は知っているでしょうが、防衛予算に関しては概要のレ
ベルでさえも少数です。

 自分が常識として理解している内容の中から、一般には常識と
して知られていない事柄を仕分ける作業は非常に困難な作業です。
読者の皆さんから指摘していただくのが一番です。自分も指摘さ
れて、なるほどと気がつきますので勉強になります。お手数です
が、ご協力、よろしくお願いします。


▼「歳出予算と新規後年度負担の違い」(1)

 パンフレットの2ページ目には31年度の防衛予算と30年度の防
衛予算が比較して書かれています。本連載において重要なポイン
トとなる内容で、ここに書かれている数字がわからないと防衛予
算の特殊な構造は理解できません。したがって、同じ内容を繰り
返し丁寧に解説します。

 まず、このページの表の下の説明(SACO関係経費、米軍再編関
係経費等の説明)は無視してください。防衛予算の構造を理解す
るのに必要ありません。この説明は、表の中の( )の数字の説
明ですから、表中の( )の中の数字も無視してください。また、
表が2つあり、下の【新規後年度負担】に「従来分」と「長期契
約」の2つの区分がありますが、この数字も無視してください。
「合計」の数字だけで問題ありません。

 政府から発表される数字は、正確さを期すために関係するもの
を全て記載する場合があります。この表の( )の数字や長期契
約もその類です。SACOといわれてすぐに理解できるのは防衛省の
中でも一部です。しかも、これらの経費がどのようなものかを解
説するだけでもメルマガの連載ができてしまうほどです。これか
ら解説する防衛予算の構造には影響ありませんので、気にしない
でください。

このページには防衛関係費全般として「歳出予算(3分類)」と
「新規後年度負担」の2つの表があります。一般に報道などで目
にするのは「歳出予算(3分類)」です。ほとんど知られていま
せんが、防衛関係費には2つの顔、「歳出予算」と「新規後年度
負担」があります。この2つの予算は、まったく別のものです。
 国会では2つの予算が審議され、承認されます。

 2つの違いをクレジットカードで物を買ったときの支払いを例
にするならば、歳出予算が「一括払い」で、新規後年度負担は
「分割払い又はボーナス払い」です。ただし、クレジットカード
の場合は買ったものがすぐに手に入って、支払いはその後となる
のが通常ですが、新規後年度負担は、買った物(買うと約束した
物)が手に入るのも次年度以降となり、物が手に入る年度に支払
いをします。詳しい説明は後述します。

31年度内に支払いをするのが歳出予算で、支払いが次年度、令和
2年度以降になるのが新規後年度負担です。歳出予算が5兆70億
円で、新規後年度負担が2兆4,013億円です。歳出予算の5兆70
億円には、過去に新規後年度負担で買ったもののツケ払いの金額
が含まれています。

 まずは、歳出予算の解説です。歳出予算は31年度内に支払う金
額の総額、5兆70億円です。31年4月から令和2年3月の期間で
す。31年度の歳出予算は令和2年3月までに使わなければなりま
せん。原則として、次の年度に繰り越すことはできません。通常、
報道などで取りあげられる数字は歳出予算の5兆70億円です。新
規後年度負担の2兆4,013億円の数字が取りあげられることは、
まず、ありません。

 国の予算で買い物などをする場合(調達と呼ぶ)の順序は、入
札、契約、納品、支払いとなります。入札とは、1つの物を買う
のに複数の業者が値段を提示していちばん安い値段を提示した業
者から物を買う方法です。たとえば、パソコンを買う場合、同じ
性能でもいくつかの製品があり、いくつかの販売店があります。
同じ性能ならばできるだけ安い方がいいわけです。

個人で買う場合は、ネットで検索したり、販売店を訪れたりして
安い物を選びます。国の場合は、調達するパソコンの性能と台数、
納品日を、ホームページに掲載したり、掲示板へ貼り出した(公
告という)あと、複数の業者が同一日に販売金額を提示します。
以前は、1つの部屋に一同が会してそれぞれの業者が値段を書い
た紙を箱に入れていたため、入札と呼ばれています。現在では、
特定の時間帯にネットを介して金額を入力する電子入札が主体と
なっています。

入札後は、当然、最も安い価格を提示した業者が選ばれます。入
札の結果は直ちに公表され、その後、契約となります。個人の場
合は、現金かクレジットカードで決済してパソコンを買うわけで
すが、国の場合は、まず契約から行ないます。契約書(契約金額
が150万円以下は省略できます)を取り交わしたあと、納期ま
でにパソコンが届けられます。契約どおりパソコンが届けられた
ことを確認したあと、支払いがされます。国の場合は、ほとんど
すべての契約について支払いはあとになります。物品を購入する
場合でも、建物を建設する場合でも、調査・研究をする場合でも、
特別な場合を除き、先にお金が支払われることはありません。

国が歳出予算を使う場合には、入札から支払いのうち納品までを
当該年度中に済まさなければなりません。支払いについては、次
の年度に繰り越すことができます。31年度歳出予算であれば、令
和2年3月末までに納品が行なわれなければなりません。もし、
この手続きが間に合わず予算が残った場合でも、次の年度には繰
り越されることはありません。

なお、調達する機関は、防衛省内に多数あります。中央から地方
の部隊まで、調達する機関があります。通常、基地や駐屯地には
調達機関があります。どの機関で何を調達するかは、金額や物ご
とに細かく規定されています。たとえば、戦車や戦闘機、護衛艦
は市ヶ谷にある防衛省の装備庁でしか調達することができません。

一般的には契約額の大小で規定されますが、物によって調達機関
が規定される物も多数あります。弾薬については金額が少額でも
すべて装備庁の調達となります。部隊で使用する小銃弾や拳銃弾
などは、1発は少額でも数量が多いため契約額は大きくなります
が、競技用拳銃(オリンピック種目など)に使用する弾薬は数量
も少ないため契約額も少額となります。あり得ない話ですが、た
とえ1発の調達でも装備庁での調達となります。



(つづく)


(いちかわ・ふみかず)


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【著者紹介】
市川文一(いちかわ・ふみかず)
1961年生まれ。長野県出身。防衛大学校27期生。1983年、陸上自
衛隊に入隊。
2002年に1等陸佐に昇任後、第13後方支援隊長、統合幕僚監部
人事室長、装備施設本部武器課長、陸上幕僚監部武器・化学課
長、東北方面後方支援隊長、愛知地方協力本部長として勤務、
2015年陸将補に昇任後、陸上自衛隊武器学校長の勤務を最後に
2017年8月に退官。退官後の9月にはYouTube「桜林美佐の
国防ニュース最前線」に出演。
2019年9月に新刊『不思議で面白い陸戦兵器』を刊行予定。

2017/9 YouTube「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演。
 https://youtu.be/6hPY3vgpidw
2017/10/21「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
 https://youtu.be/jESYh1lIeSE
2018/2/10「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
  https://youtu.be/D_md0ZSJNds
2018/6/9「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
 https://youtu.be/eHnT9jvqQjk
2018/10/6「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
  https://youtu.be/aEOhNJ3twN0

著書に『猫でもわかる防衛論』(大陽出版)がある。
 https://amzn.to/2qBGuNJ

 
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