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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応予備自衛官
でもあります。
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こんにちは、エンリケです。
冒頭でも触れられていますが、
市川さんの最新刊
『不思議で面白い陸戦兵器─極限を追求する特殊な世界』
の先行予約の受付をまもなくスタートします。
案内メールは間もなくお届けしますので、
どうぞお楽しみに。
では今日の記事をさっそくどうぞ
エンリケ
ご意見・ご感想はコチラから
↓
https://okigunnji.com/url/7/
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防衛予算から読み解く日本の防衛力(3)
毎年同じ文章が使われている?
──実は重要な「年度予算の考え方」
市川文一(元武器学校長・陸将補)
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□はじめに
このたび、前回連載しました「意外と知られていない兵器技術」
を編集し、『不思議で面白い陸戦兵器─極限を追求する特殊な世
界』として近く出版することとなりました。編集を工夫するとと
もに写真とイラストを追加することで、連載に比べてさらにわか
りやすくなっていますので、是非、ご購読ください。
この「防衛予算から読み解く日本の防衛力」の連載を始めてから
直ぐに令和2年度の概算要求が出されました。「防衛省は2020年
度予算の概算要求で、過去最大となる5兆3千億円超を計上する
方針を固めた。宇宙やサイバー空間など新領域の強化、最新鋭ス
テルス戦闘機F-35を含む米国製の防衛装備品の調達などに充て
る」(gooニュース)といったような内容で各社から報道されてい
ます。
概算要求についても、年度予算についても、毎年、同じような報
道内容ですが、実は正確ではありません。5兆3千億円超には、
「宇宙やサイバー空間など新領域の強化、最新鋭ステルス戦闘機
F-35を含む米国製の防衛装備品の調達などに充てる」経費はほと
んど含まれていません。たぶん、1%以下でしょう。
普通、このような報道がされると、防衛装備品の調達のための経
費が概算要求の金額の中に含まれていると理解しますが、誤りで
す。これは、マスコミの報道が意図的であるというよりも、防衛
予算の構造が特殊であり正確に報道するのが非常に難しいという
ことに問題があります。本連載を読み進めていくと、このことが
明らかになってきます。ご期待ください。
今回から年度予算パンフレットの内容を参照しながら、年度予算
を解説していきます。1回目の今回は、パンフレットの最初に書
かれている「年度予算の考え方」を解説します。「考え方」その
ものというより、「考え方」はパンフレットを読む上でのポイン
トではないということを明らかにします。
▼年度予算の考え方
前回の解説のとおり、防衛関連の計画は大綱、中期防、年度予
算の順で策定されますから、大綱から解説するのが流れとしては
スムーズです。しかし、防衛予算の特殊な構造がわからないと大
綱、中期防を理解できません。そこで、「年度予算」から解説し
て防衛予算の構造を明らかにしたあと、大綱、中期防、年度予算
の流れで、日本の防衛力の問題を明らかにしていきます。
これからしばらくは、「我が国の防衛と予算-平成31年度予算の
概要-」(パンフレット)で防衛予算の仕組みを解説します。少
し面倒ですが、パンフレットを参照しながら読み進めていくと理
解しやすいと思います。
パンフレットの1ページ目には「平成31年度予算の考え方」が書か
れています。この表現は平成22年度から使われていますが、それ
以前のパンフレットでも最初のページには「基本方針」「重点施
策」といった表現で予算編成の考え方が示されています。
年度の予算編成の前提となる重要な部分ですが、残念ながら、
「大綱、中期防の基本方針に基づき予算編成がされている」とい
うことが書かれているだけで、年度の特性を踏まえた考え方は示
されてはいません。中期防の基本方針とほぼ同じ内容です。
したがって、中期防の2年目となる令和2年度のパンフレットの
1ページ目には平成31年度とほぼ同じ内容が書かれることとなる
でしょう。実際に、前中期防の25中期防の対象期間である、平成2
6年度から30年度の5年間のパンフレットの1ページ目はほぼ同じ
内容となっています。
「平成26年度予算の考え方」の核となる部分が2項にあります。
「各種事態における実効的な抑止及び対処並びにアジア太平洋地
域の安定化及びグローバルな安全保障環境の改善といった防衛力
の役割にシームレスかつ機動的に対応し得るよう、統合機能の更
なる充実に留意しつつ、特に、警戒監視能力、情報機能、輸送能
力及び指揮統制・情報通信能力のほか、島嶼部に対する攻撃への
対応、弾道ミサイル攻撃への対応、宇宙空間及びサイバー空間に
おける対応、大規模災害等への対応並びに国際平和協力活動等へ
の対応を重視し、 防衛力を整備」
次に「平成30年度予算の考え方」です。
「各種事態における実効的な抑止及び対処並びにアジア太平洋地
域の安定化及びグローバルな安全保障環境の改善といった防衛力
の役割にシームレスかつ機動的に対応し得るよう、統合機能の更
なる充実に留意しつつ、特に、警戒監視能力、情報機能、輸送能
力及び指揮統制・情報通信能力のほか、島嶼部に対する攻撃への
対応、弾道ミサイル攻撃への対応、宇宙空間及びサイバー空間に
おける対応、大規模災害等への対応並びに国際平和協力活動等へ
の対応を重視するとともに、技術優越の確保、防衛生産・技術基
盤の維持等を踏まえ、防衛力を整備」
どちらも防衛省のホームページをコピーしたものですが、変わっ
ているのは「技術優越の確保、防衛生産・技術基盤の維持等を踏
まえ」が追加されただけです。年度予算の考え方の基となってい
るのは25中期防ですが、25中期防の方針は以下の通りです。
「各種事態における実効的な抑止及び対処並びにアジア太平洋地
域の安定化及びグローバルな安全保障環境の改善といった防衛力
の役割にシームレスかつ機動的に対応し得るよう、統合機能の更
なる充実に留意しつつ、特に、警戒監視能力、情報機能、輸送能
力及び指揮統制・情報通信能力のほか、島嶼部に対する攻撃への
対応、弾道ミサイル攻撃への対応、宇宙空間及びサイバー空間に
おける対応、大規模災害等への対応並びに国際平和協力活動(国
連平和維持活動、人道支援・災害救援等の非伝統的安全保障問題
への対応を始め、国際的な安全保障環境を改善するために国際社
会が協力して行う活動をいう。以下同じ。)等への対応のための
機能・能力を重視」
これも、防衛省のホームページのコピーです。長々と同じ文章を
並べましたが、全く同じ文章です。違うのは国際平和協力活動の
説明があるだけです。
「平成31年度予算の考え方」の2項についても、抜き出します。
「領域横断作戦を実現するため、優先的な資源配分や我が国の優
れた科学技術の活用により、宇宙・サイバー・電磁波といった新
たな領域における能力を獲得・強化。また、領域横断作戦の中で、
新たな領域における能力と一体となって、 各種事態に効果的に対
処するため、海空領域における能力、スタンド・オフ防衛能力、
総合ミサイル防空能力、機動・展開能力を強化。さらに、平時か
ら有事までのあらゆる段階において、必要とされる各種活動を継
続的に実施できるよう、後方分野も含めた防衛力の持続性・強靭
性を強化。加えて、少子高齢化等も踏まえた人的基盤の強化、軍
事技術の進展を踏まえた技術基盤の強化等に優先的に取り組むと
ともに、安全保障環境の変化を踏まえ、日米同盟・諸外国との安
全保障協力を強化」
30中期防の方針の1項です。
「領域横断作戦を実現するため、優先的な資源配分や我が国の優
れた科学技術の活用により、宇宙・サイバー・電磁波といった新
たな領域における能力を獲得・強化するとともに、新たな領域を
含む全ての領域における能力を効果的に連接する指揮統制・情報
通信能力の強化・防護を図る。また、領域横断作戦の中で、宇宙・
サイバー・電磁波の領域における能力と一体となって、航空機、
艦艇、ミサイル等による攻撃に効果的に対処するため、海空領域
における能力、スタンド・オフ防衛能力、総合ミサイル防空能力、
機動・展開能力を強化する。さらに、平時から有事までのあらゆ
る段階において、必要とされる各種活動を継続的に実施できるよ
う、後方分野も含めた防衛力の持続性・強靭性を強化する」
年度予算の考え方では「少子高齢化等も踏まえた人的基盤の強
化、軍事技術の進展を踏まえた技術基盤の強化等に優先的に取り
組むとともに、安全保障環境の変化を踏まえ、日米同盟・諸外国
との安全保障協力を強化」の部分が追加されていますが、同じ内
容が、30中期防の方針の2項、3項、4項で書かれており、それ
を簡略化しているだけです。要するに、25中期防と年度予算の関
係と同じく、年度予算の考え方は中期防の方針と全く同じもので
す。
自分も同じ組織にいましたので、批判めいたことはあまり言え
ませんが、5年間の計画の方針とその中の1年分の計画の方針が
全く同じであるというのには疑問を感じます。今回は、同じ文章
が何度も登場して、退屈な内容だったかもしれませんが、パンフ
レットの最も重要と思われる箇所に、毎年、全く同じ文章が毎回
使われているということが、日本の安全保障政策の一端を語って
います。
前回の「大綱、中期防、年度予算の関係」の解説で、大綱と中
期防のポイントとなる部分を明らかにしましたが、一般的に重要
と思われる部分ではなく、あまり目に付かない部分がポイントで
した。次回以降、年度予算のポイントとなる部分、核心に入りま
すが、年度予算も大綱や中期防と同様に今回取りあげた「考え方」
のような、通常はポイントと思われる部分ではなく普通は読み飛
ばしてしまう部分が重要なポイントとなります。
情報を読み解くときに、何が重要でポイントとなるのかがわから
ないと、全く間違った結論となってしまいます。防衛予算につい
ては、その特殊な構造を解説したものが少なく、何がポイントと
なるか知る術もなかったというのが事実でしょう。本連載では、
そのポイントを説き明かしていきます。
(つづく)
(いちかわ・ふみかず)
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【著者紹介】
市川文一(いちかわ・ふみかず)
1961年生まれ。長野県出身。防衛大学校27期生。1983年、陸上自
衛隊に入隊。
2002年に1等陸佐に昇任後、第13後方支援隊長、統合幕僚監部
人事室長、装備施設本部武器課長、陸上幕僚監部武器・化学課
長、東北方面後方支援隊長、愛知地方協力本部長として勤務、
2015年陸将補に昇任後、陸上自衛隊武器学校長の勤務を最後に
2017年8月に退官。退官後の9月にはYouTube「桜林美佐の
国防ニュース最前線」に出演。
2019年9月に新刊『不思議で面白い陸戦兵器』を刊行予定。
2017/9 YouTube「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演。
https://youtu.be/6hPY3vgpidw
2017/10/21「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
https://youtu.be/jESYh1lIeSE
2018/2/10「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
https://youtu.be/D_md0ZSJNds
2018/6/9「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
https://youtu.be/eHnT9jvqQjk
2018/10/6「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
https://youtu.be/aEOhNJ3twN0
著書に『猫でもわかる防衛論』(大陽出版)がある。
https://amzn.to/2qBGuNJ
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